第三十話 コルセットとは拷問具のようである?

※停電で一週間もパソコンを開けず、やっとのことで更新再開できました。

 それにしても、電気が来ていないと何もすることが無く、大変でした。

 ノートパソコンも数時間で電池は切れるし、何時復旧するかわからないとスマホの充電に使いたいから使えないと、電化製品は全滅でした。

 唯一、ラジオが単三電池で動き、それだけが頼りでした。

 暗い中で食事して、風呂もシャワーも浴びれず、まさに中世のヨーロッパを舞台にしたようなファンタジーの体を拭く生活。

 一週間はこりごりです……。




 春らしい色彩の綺麗なドレスに着替えさせられたアマベル達三人は、夜の帳が下りた頃にその部屋から案内され、別の豪華な部屋へと通された。

 まだ冷える四月だからか、暖炉に薪がくべられ部屋を暖めている。

 天井にはシャンデリアが吊られ、煌々と光を放っている。


 そして一番、目に入るのは部屋の中央に鎮座している大きなテーブルであろう。とは言え、長さは五メートル程で王城に置いてあるテーブルの中では小さい部類であるが。

 奥のホスト席はもちろんの事、その他に五人分、合わせて六人分の席が用意されている。


 三人はホスト席のすぐ横の席に座るように案内されしばらく待つようにと言われた。


「えっと、これってビックリさせようとしてるだけ?」

「それは無いと思うけど……」


 王城に招待され、いつの間にか体を洗われ、綺麗なドレスに着替えさせられ、そして、白いテーブルクロスが広がるテーブルに案内された。もしかしたら、何かの詐欺にでもあうのかとアマベルは疑心暗鬼に陥っていた。

 だが、カーラは王城に招待してまでだますなどありえないだろうと思っていた。先日のパティパトリシア姫の言動を思い起こせば、それは無いだろうと……。


 そんな二人とは対象に、アンジュは黙って二人のやり取りを生暖かく見守っていた。より多くの情報を持ち合わせ、--とは言え、情報の元は所長のミシェール=モンクティエだが--、次に起こるべき事が予想できているだけに落ち着いていたのだ。


「待たせたな!」


 遠くから”コツコツ”と廊下を足音が聞こえ、足音がハッキリと耳に届くとドアが開かれ三人の男女がアマベル達が待つ部屋へと入ってきた。


 先頭を行くのは身長百九十センチの大柄な軍服を着た男でギルバルドと名乗っていた。

 次にはがいたが、アマベル達の知るショートカットの髪型、パンツ姿ではなく、長髪の縦ロールで煌びやかな胸元が大胆に開いたドレスと真っ白なハイヒールを身に着けていた。

 最後は、この日の迎えを担当していたアンブローズであったが、ギルバルドと同じように軍服に身を包み、見慣れた姿からは程遠く見間違えたかと思うのであった。


 パティパトリシア姫がホスト席に腰を下ろし、ギルバルドとアンブローズが一番離れた席へ着いた。


「三人とも待たせたな」

「待たせたなって、それは良いけど、これはいったい……」


 ”何のつもりなのか”とアマベルが言葉を続けようとした所で、パティパトリシア姫が右手を上げて言葉を遮った。


「昨日の襲撃に協力してくれたお礼、とでもまずは申しておこう。これ!」


 パティパトリシア姫がドア近くの侍女へと指示を出すと、小さな車の付いたワゴンがアマベル、カーラ、そして、アンジュの脇へと運ばれて来た。その上には小さな皮の袋が乗せられており、袋の口から金色と銀色の硬貨が見え隠れしているのが気になったのだが……。


 驚きを隠せぬアマベルとカーラの二人は、”これは何だ?”との表情をパティパトリシア姫へ向けた。


「パティ、これって何だ?」

「何と言われても、報酬だが?きちんと国庫から出てるから大丈夫だぞ」

「「国庫!?」」


 貰えるものは貰うのは当然だが、小さい袋ながらかなりの金貨と銀貨が入っていると見れば、たったあれだけの手伝いでこれだけの報酬を貰えるなどあり得ないのだ。それに、パトリシアの口から国庫と聞かされれば、思考も停止するのも当然であろう。


「そうそう、申し忘れておった。パティはお忍びなどで外出する時に仮で名乗っている。妾はトルニア王国第一王女、パトリシア=トルニアだ」

「え、王女?」


 アンブローズ達からはお嬢様と呼ばれ続けていれば、貴族のお嬢様だと理解できるが、目の前でキリリと背筋を伸ばして座っている女性が、王族の一人で僅か一メートル先の手の届く場所に座っているとは思いもよらなかった。


「本当に王女様なの?」

「そうじゃ。国を治めている国王の居城に招いて嘘を伝えると思うか?」


 確かに、こんな場所まで用意して嘘を吐くなどあり得ないだろう。同席しているギルバルドとアンブローズを見ても澄ました顔をしていて、びっくりさせようとしていないのは理解できた。


「妾には、お前達の様な友人もいるからあまり気負わんで欲しいのじゃが……と言っても急には無理か?」

「そ、そりゃそうですよ。いきなり王女様が現れて、気負わないでくれと言われても……」


 パトリシア姫の申し出は嬉しく感じるのだが、雲の上の存在である王女様とわかったばかりで肩の力を抜いて欲しいと言われて”はい、そうですか”とすぐに態度を変えられる程に柔軟ではない。


「まぁ、その辺は追々って事で、今日は詫びと礼を兼ねての晩餐会じゃ。楽しんでくれ……とはとても出来ないかもしれんが、食事を堪能してくれ」

「「は、はぁ……」」


 アマベルとカーラが締まらない返事をした所で、何処からか侍女達がお皿を持って現れ、晩餐会が始まったのである。


 晩餐会が始まったばかりの時は、アンジュを含めた三人共が緊張していて、パトリシア姫からの言葉に”はぁ”とか、”えぇ”とか、上の空での返事だったが、晩餐会が中盤まで進むと緊張がほぐれたのか、まともな答えが三人から出るようになった。


 晩餐会の中で、アマベル達が驚きの声を上げた事があった。それは長身の大男のギルバルドがまさかの騎士団団長だった事だ。

 王城には最低限の戦力が集まっているとは知っていたが、その中でも最高戦力となる騎士団の長たる男がここで優雅に晩餐会を楽しんでいるなど夢にも思わないだろう。


 優雅にと言うが、この場で優雅ではないのはアマベルとカーラの二人である。最低限のマナーは中等学校で学ぶのだが、貴族と接点のない二人にとっては何年ぶりとなるマナーが必要となる食事に、思い出すのを苦労していた。




「ところで、あの薬はもう飲ませたのか?」


 最後の食事が乗せられていたお皿が下げられ、後はデザートを待つのみとなった時、パトリシア姫がカーラに石化症の薬の事を尋ねて来た。


「あ、おかげ様で無事に叔母に渡す事が出来ました。まず一個目の薬を飲ませましたが、症状が進んでいますので、これからでございますが」


 たどたどしく礼をして、現状の報告を行った。パトリシア姫のおかげで石化症の薬が手元に戻ってきたので、食事後にでも報告するつもりであった。


「そうか、それは良かったな」


 ”うんうん”とパトリシア姫が頷いている所へ、最後のデザートが運ばれて来た。

 そして、全員がデザートを食べ終わり、食後の紅茶が運ばれて来たところで重要な話があるとパトリシア姫が告げて来た。


「実はな、アマベルとカーラの二人にお願いと言うか、考えて欲しい事があってな」

「おれとカーラにですか?」

「私達に出来る事でしょうか?」


 相変わらず、こんな晩餐会で春らしいドレスを見に纏っていても自らを呼ぶアマベルを見て、クスクスとパトリシア姫が笑いながら続けて口を開く。


「その、に頼みだ」


 パトリシア姫の子供の悪戯が成功したような笑顔を向けられ、アマベルは顔を紅潮させて、ついうっかり、いつもの一人称を出してしまったと恥ずかしそうに下を向いた。


「実は妾の騎士団を結成する事になってな。今、各地の騎士養成学校などを回っているのだ」

「それと、おれ、じゃなくって、私達と何の関係があるのですか?」


 騎士養成学校の卒業生から騎士団を結成するのであれば自分達は全く関係ないのではないかと首を傾げる。まさか……って事は無いだろうと、考えを脳裏から消し去り、パトリシア姫へと視線を戻すのだが……。


「全く鈍いな。お主たちに妾の下で働かないかと申しているのだ」

「「!!」」


 脳裏から捨てた考えを言葉に出され、飛び上がる程に二人は驚いた。そして折角セットした頭から滝のような汗が流れ出し、緊張で手が震えだす。


 騎士と言えば剣を扱う者達の憧れの的であり、敬愛すべき人達だ。その中に自分達が入っていいのだろうかとアマベルもカーラも感じていた。

 それともう一つ、騎士団の結成であるとパトリシア姫が告げていたが、何故魔術師のカーラが騎士団の中に入っているのかと疑問も感じた。


「何故、おれ、じゃなく、私とカーラを誘うのですか?」

「そうです。騎士団には魔術師はいないはずですが」


 すぐさまアマベルとカーラは疑問を口にしてパトリシア姫に尋ねた。

 パトリシア姫は二人に向かって胸の内を語り出した。


 初めてアマベルを見た時の出来事であった。

 壁際に隠れてアマベルと男達三人と剣で殺り合った時、一対三の圧倒的に劣勢でありながら傷を負う事なく、全ての剣戟を捌いていた光景をパトリシア姫はその目で見ていた。

 その後、パトリシア姫達が助けに入り優勢になった時に敵の一矢が彼女目掛けて放たれたのをアマベルが体を挺して守ってくれた。


「それを見ていてな、騎士団に欲しいと思ったのだ」

「まさか、あの時の怪我をあんなに高く買ってくださっていたとは……」


 怪我を負い、愚痴を言い合っていたアマベル達にとって寝耳に水であった。


「それとな、騎士団に魔術師を数名入れる予定なのだ。それもあるのだ」

「わ、私って、ついでですか?」


 騎士団に魔術師が配属されるなど聞いた事が無かったが、アマベルのついでみたいに言われて、カーラは憤慨するのであるが……。


「とは言え、その年齢で魔術師一本で仕事を請け負っているのだから、それなりに優秀なんだろ」

「まぁ、確かにそうですが……」


 横から口を出してきたギルバルドの言葉を肯定した。自ら優秀であるとあまり言いたくは無いが、同じ年齢で魔術師としてワークギルドに出入りしている者は皆無で、後は年上、しかも男性ばかりであった。だから、尻つぼみになりながら、肯定した。


「お前さんの場合はもっと足腰を鍛えて動かんと使えんから、もう一息ってところだがな」

「え、そうなんですか?」


 襲撃時に一発も魔法を放っていないカーラだった。何故、放つ事が出来なかったか、アンブローズはチラチラと横目で気にしていたのだ。アンジュがパトリシアを投げナイフを使って援護敷いたのだが、その真後ろに突っ立っていた所をしっかりと覚えていた。それが今の発言なのである。


 あの時、カーラは射線上にアンジュがいて、魔法を放つ事が出来なかった。それはアンジュがわざとカーラの射線上に乗ったのではなく、パトリシア姫を避けて敵にナイフを飛ばせる場所がそこが最適だったのだ。

 だから、カーラは足を使って移動して、パトリシア姫を援護すべきであった。


「それが出来ないから、足腰を鍛えねばならんって事だ」

「尤も、アマベルも剣の腕前を上げるのはもちろんの事、マナーや言葉遣いもある程度は直す必要があるがな」


 言い難い事をズバズバと言われ二人は落ち込んで行く。


「まぁ、いろいろと言われるのは、まだまだ成長限界が来ていないと思ってくれてもいいぞ。上昇志向があるのなら、ぜひ姫様の下で働いてくれると助かるぞ」


 騎士団団長のギルバルドからエールと思える発言が飛び出した。二人の事はパトリシア姫やアンブローズから耳に入れられているので、彼も期待をしていた。

 ギルバルド自身が口が悪いから、その位は何とでもなると教えても良いなとも思っていた様だ。


「すこし、考える時間がいるだろうから、今すぐに返事をして欲しいとは言わん。とりあえずは今日の晩餐はこれにて終わりにするから、三人はゆっくりと休んでくれ。必要なら自宅へ伝令を走らせても良いぞ」


 パトリシア姫が晩餐の終了を宣言し、その場から退出していった。そして、アマベル達三人は侍女達に案内され、四人部屋の客室へと通された。




 着付けで一時間、そして晩餐で二時間、きついコルセットを巻いていた三人はそれから解放され、溜息を吐きながら湯浴みを行っていた。

 美女三人は頬を桃色に染めながら、怒涛の一日を思い出していた。


「それにしても今日は驚きの連続だったわ」

「ホントね。アンジュは余り驚いてなかったみたいだけど」

「ええ、私はパティがお姫様って知ってたから」


 ”ばしゃん”とお湯を顔に掛けながらアンジュは答える。何故知っていたかは話す事は出来ないが。

 それを二人は”ずる~い!”と言いながら、アンジュに迫って行った。


「教えてくれても良かったじゃない」

「それは情報を持っている者の強みだから」

「確かにそうだけどさぁ……」


 二人から逃げる様に湯浴みを終え、そこから出て行く。

 それからすぐにアマベルとカーラも湯浴みを終え、客室に戻るとゆったりとした寝間着を着て、ベッドに潜り込むのであった。

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