第二十一話 新装備披露

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 エゼルバルド達がダニエルを鍛冶師として復活させ、仕事を依頼してから七日余り後、ルカンヌ共和国の国境にほど近いアーラス神聖教国内のとある拠点で黒ずくめの男が一人、毒づいてい自らの部屋で暴れていた。


(クソがぁ!!)


 自らが座る椅子を力の限り蹴飛ばし、壁まで飛ばしていた。壁に激突した椅子は頑丈で破壊されなかったが、激突した壁は逆に壁紙が剥がれ、下の壁の木が割れ大きな穴を開けていた。

 自らの行為に後悔した後、椅子を拾い上げ、テーブルの前にどっかりと座り、頭を冷やすのであった。


(それにしてもオレの部下は役に立たん。何とかならんのか?)


 たった今、その報告を聞いた限りでは決して手を出さずに監視だけしろと命令した対象の逆鱗に触れ、命を落としたのだった。

 この黒ずくめの男達は暗殺の技術をとことんまで叩き込まれるが、考える事に関しては得意でない部下ばかりであったようだ。報告をしてきた男は多少学があったが、組織に在籍する他の仲間は頭を使う下地が出来ておらずに苦労をしていた。

 特にトルニア王国やスフミ王国出身者は十五歳まで国の施策として学校に入れられるために考える力を養われやすい。だが、ディスポラ帝国やベルグホルム連合公国の出身者は奴隷などから身を起こしたり、極貧の中から出て来た者ばかりで、思考力は悪知恵の方向にしか発揮しない。

 そこからも、部下にはトルニア王国やスフミ王国出身者を部下に持ちたいと思っていた。


(今さら悔やんでも仕方がない。これからどうするかだが……)


 今の手持ちの戦力を考えれば、付き人の彼女らを投入する必要がある。彼女等なら男達よりもよっぽど優秀で、頭も回る。だが、そこまでして監視が必要なのかも迷うところであろう。

 それならば一人が監視、もう一人が連絡役にして交代をさせなければ良いのではと考える。


(一人減ったがそれなら回る……か?)


 そう思いながら顔を上げれば、いつの間にか部屋に入りテーブルの上でカップに琥珀色に輝く水色で魅せる紅茶を入れている付き人の一人の姿があった。このくらい気を回せられれば、男達ももっと使えるのだがと紅茶をゆっくりと口に運びながら悩むのであった。




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 ダニエルが麻薬の効果により催眠誘導された事が発覚してから一か月と少しが経った。

 その間には、エルワンに預けていた鎧を回収し、ダニエルやクルトが分解し、その鎧の秘密を設計図に書き上げたり、その思想を街の警吏官へ教えたりと忙しかった。

 その合間にノルエガのワークギルドで討伐依頼やその他の依頼を受けたりとエゼルバルド達は精力的に動いていた。


 そして、とうとうエゼルバルド達の倒した三つ首ヒュドラとアシッドバイパーの素材を使用した防具一式や武器が完成したのである。


「ダニエル師にはお世話になりっぱなしで申し訳なかった」

「なぁに、いいって事よ。あの時は儂がおかしかった原因を明らかにしてくれたしな。それにだ、一生に一度、有るか無いかのこんな素晴らしい素材を扱えたんだ、こちらこそ感謝するよ」


 ダニエル子弟からはお礼を言われていたが、それなりの加工代金を請求された。だが、加工しにくいヒュドラの素材を使ったにしてはとても格安であった。

 珍しい素材を使わせて貰うんだ、こちらから払うくらいだと口に出していたダニエルだが、生活はどうすると聞いた時に黙ってしまった。

 その為、規定の料金から少し値引いて請求されていた。


 その他には、ここに襲撃があるかもしれないと、二人ずつクルトの工房に泊まり護衛をしていたが、そちらは護衛と宿泊で料金を相殺して貰った。


 胸当てなどの防具は、実はすんなりと作成できたのだ。一番時間がかかったのはアイリーンの主武器である弓であった。もともと持っていたアイリーンの弓は高級素材がふんだんに使われており、それを改造する事は出来ず、一からの新作になってしまった。近隣の山に鉱石の採掘や獣を狩って素材を手に入れたりと大変であった。そのおかげで新機構を備えた小型で強力な力を備えた弓が出来上がった。


 それに伴い、矢も木製から矢羽以外を金属製にして、破壊力を今までの二倍近くになった矢を使用できるようになった。

 これはエゼルバルド達が鹵獲した紺色の全身鎧フルプレートの頭部なら五十メートルの距離からも貫通する程の威力を持つのだ。これからは、牽制しかできなかった敵に対しても、攻撃が通用するので、先制攻撃の手段として活用できるだろう。


 ただ、弱点が一つあるのだ。矢がすべて金属製になった事で重量が増し、今まで通りの本数を持ち歩くことが出来なくなったのだ。そこはダニエルではなくクルトが考えた機構を弓に搭載したおかげで、木の矢を放てるほどに力を押さえることが出来、矢筒に入れる本数を調整する事で攻撃回数の低減を補った。

 木の矢に比べて金属の矢は三倍ほどの重さになってしまうが、重量低減になったと喜んでもいた。


 ついでにではないが、ヴルフが欲しがってた棒状戦斧ポールアックスも新造し、今までと同じ形状にしたが、先端の斧は鋼に砕いたヒュドラの牙を混ぜ込むことで頑丈さを増し、柄も鍛造した棒状のインゴットを特別製の旋盤で削り出しを行い棒状武器ポールウェポン史上、最硬度を持つまでに至った。もちろん、焼き戻しを行い、粘性も与えてるのである程度の歪みにも強くなっている。


 作成された鎧は三着。エゼルバルドとヒルダ、そしてヴルフの分である。三人とも腰部は無く、胸当てと肩当のみとなっている。デザインは個人の意匠が採用され三者三様のスタイルが出来上がっている。


 一番、楽に作り上げたのはヴルフのデザインで、無骨でその赤黒い鱗を随所に見せており、いかにも強いと思わせる見た目であった。


 エゼルバルドとヒルダは似た様な体を動かしやすいデザインを希望しており、見た目は細い体にフィットするような胸当てとなった。半円をいくつも合わせた様なデザインで見た目はそれほど強く思えないだろう。

 ヒルダに至っては女性らしさのほっそり感を出している。胸当てのデザインは女性特有のふっくら感は嫌いでそこは控えめに作られているが、窮屈ではない。


 三着に共通するのは心臓に当たる胸当て中央を守るようにヒュドラの革が二重に張られている事と鳩尾にあたる部分にショックを吸収する機構が少し取り入られている事だろう。

 それにより、細身剣レイピアの突きを跳ね返し逸らすだけの剛性を手に入れている。


 腰部の防具は無いが、籠手とブーツに付ける脚甲は魔術師のスイールとエルザ以外は揃いを整えた。手袋を付けた状態で第二関節から手の甲、そして腕、肘までを守れる籠手だ。

 第二関節までを籠手に入れたのは殴り合いの状態になった時を考慮してである。手の甲の部分に金属を埋め込み攻撃と防御の質を上げてあるのだ。


 脚甲も同じ考えであるが、こちらは基本的に守りのみを考えてある。足の甲から脛、膝を守るように作られ、ブロードソードの斬撃であれば軽くで防げるほどだ。


 そして専用品として、エゼルバルドが使うバックラー、ヒルダの円形盾ラウンドシールド、アイリーンの左胸を保護する特殊な胸当てや、スイールとエルザの魔術師用に控えめな籠手と脚甲が作られた。


「デザインもそうですけど、赤黒い鱗が主張しなくていいですね」


 自らに装備一式を身に付けながらエゼルバルドが嬉しそうに声を出す。オーガーやヒュドラに潰された鎧に代わる新装備ができた事が内心嬉しくて、飛び上がって喜びを体で表現したい程であった。飛び跳ねるのはこの後の動作確認で、ヒルダやヴルフと剣を合わせる事で出来るのでこの場は抑えていた。


「よく見れば凶悪ね、この装備」


 出来上がった弓を引き鳴らしながら、空打ちをするアイリーン。作りながら散々調整して、威力も確かめてもこの感想だ。今更、使うのが怖いとは思っていないだろうが、威力を増した弓にご満悦の様だ。


「それで、補修用以外は好きにしていいって話だったがよ、オークションに出してみる気は無いか?高く売れるはずだぞ」


 ダニエルが出してきたのはブロードソードと八十センチほどの三角盾カイトシールドであった。ブロードソードにはヴルフの棒状戦斧ポールアックスを作った時に余った、砕いた牙を刀身に混ぜ込んであり、魔法剣ほどではないが攻撃力や摩耗性に優れる。

 それよりも目につくのは三角盾カイトシールドであろう。盾の枠は金属製だが、そのわずかに湾曲した表面に張られているヒュドラの赤黒い鱗は、生きているヒュドラを連想させ、威圧感を放っている。


「ほう、これは立派なもんじゃのぉ。一揃えのヒュドラ装備か。幾らするかわからんな」


 その装備を見てヴルフが唸りを上げる。彼が見ても見事な装備であった。

 攻撃よりも防御に重きを置いたその装備は、攻撃を主とする傭兵などよりも民を守る騎士にこそふさわしいと思うほどだ。


「実際はそれよりも、お前達が身に付けている鎧の方が幾らするかわからんぞ。儂にも見当がつかん」


 高笑いしながらダニエルが笑顔を見せて語る。エゼルバルド達が装備している鎧はただヒュドラの革を張ってあるだけでなく、様々な工夫がしてある。

 一番わかりやすいのがヒルダの円形盾ラウンドシールドで、中央から外に向かって鱗が貼られていて、高い防御力を誇る。対して三角盾カイトシールドは上から下へただ鱗を張っただけで工夫が殆どされていなかった。これだけ見ても、価値はまったく違うのだ。


「オークションに出すのは良いとして、誰それ構わず買われてしまってはこちらとしても困る。”黒の霧殺士”に渡るのも、あの歪な鎧を運用している奴に渡るのも避けたい」


 スイールの言い分は尤もであった。特に暗殺者集団の”黒の霧殺士”に渡れば戦力の増強になりかねないし、逃走時の生還率も上がってしまう事も考えられる。それにダニエルに接触してきた者達も気になるところである。


「それなら大丈夫だ。裏の組織とつながりがありそうな奴は初めから入札さえできない。まぁ、何かを隠れ蓑にしているのは無理だがな。入札条件はこちらでも少しは決められるから帝国に流れる事も無いだろう」


 入札するためにはその身分が証明できる人物でなければならないらしい。身分証を偽造したり、本名を偽っても駄目だ。それにルカンヌ共和国をたびたび脅しているディスポラ帝国は嫌われており、オークション会場に入る事さえ出来ない。

 ある程度のセキュリティが確定しているのならば、オークションに出しても良いかなと思い始めるエゼルバルド達。


 そうなるともう一つの問題があった。


「オークションが開催されるのは何時なのでしょう?」


 普通の鍛冶師すら触った事の無いヒュドラの素材を使った剣と盾、オークションに出品するとなれば大陸中から、いや、海を越えて異なる大陸から来る事も考えられる。

 そうなれば通知に二か月、移動に二か月、ついでに開催まで数か月かかり、最低でも五か月はかかるらしい。それまで行動が束縛されるとなれば宿代や食料、その他いろいろと資金が必要になるかもしれないし、冬までにトルニア王国に帰りたいとも思っていた。


 それをダニエルに相談すると、オークションにはダニエルの名前で出品すれば、その心配はないだろうと告げられた。簡単に言うと、オークションで入手した売上金はダニエルが預かると言うのだ。ただ、それだけの手数料は取るからなと真顔で言われてしまった。

 入札金額は最低でも白金貨からスタートするだろうから、手数料はじゃと真顔で言われれば、苦笑するしかなかった。




 誰の名前で出品するかや入札金額がある程度予想できたので、ダニエルが早速オークションに出してしまおうと言い出した。

 オークション会場であるが、ノルエガの街の中央付近にある、商業ギルドが所持する広めの建物で行われるので、そこにオークションの出品受付が設けられている。鍛冶師も商売をするので当然ながら商業ギルドに登録する人が多く、ダニエルやクルトも登録している。


 ここノルエガの商業ギルドは他の国にある商業ギルドと違い、質素と倹約を旨としているため建物自体は華美ではなく、住んでいる人々からは評判が良い。


 それを予見していたのか、剣と鎧を立て掛ける台座をダニエル子弟があらかじめ作り上げており、ついでに収める箱も作っていた。

 これで床にじかに置く事も無く、綺麗に並べる事も出来るだろうと二人は満足気であった。


 それをリヤカーの様な台車に乗せ、クルトの工房を出発する。ダニエルとクルトが台車を操作し、付き添いはエゼルバルドとヴルフ、そしてスイールの男三人であった。

 ちなみに、女三人は、クルトの奥さんであるローゼとお茶をしていると留守番をする事になった。


「オークションの建物までどの位かかるかな?」


 ダニエルが弟子のクルトが言うには、三十分はかからないと思うと答える。距離で言えばおおよそ二キロ程だった。

 その三十分を台車を引きながら、とことこと歩くと大きな建物が見えて来る。商業ギルドの所有する建物のイメージで言えば、ギラギラした派手で悪趣味な外観を持つとのだが、ここ、ノルエガの建物はイメージにそぐわぬシンプルなデザインで、華美な外観が全く無かったのである。


 商業ギルドをあまり好まないエゼルバルド達であったが、この外観には好意を抱くのであった。

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