2018年 クリスマスSS

※本編とは全く関係ありません。



「なぁ、なんでオレ達が山に登っているんだっけ?」


 エゼルバルドは吹雪の中背負子を担ぎ、息も絶え絶えで山道を登っている。階段状に整備されているとは言え二千メートル付近を三十キロ程の荷物を背負っているのだ、疲れない訳がない。


 それに、寒さ対策で厚着や風よけの外套を羽織っている為、汗が噴き出してくるのだ。


「しょうがないじゃない。道具の整備で寄ったら頼まれちゃったんだから」


 エゼルバルドよりも少し軽い荷物とは言え、ヒルダもかなり疲れてきている様だ。


 くたびれた装備を直してもらおうと、ブールの街からリブティヒに来たのが運のつきであった。スイールと三人でラドムの工房に顔を出した途端、手を貸せと拉致られたのだ。報酬に色を付けるとは言われたが、こんな吹雪になるとわかっていたら、断っていただろう。


「これも人助けと思って我慢しましょう。それに、次はただで整備してくれるかもしれませんよ」


 ヒルダよりもさらに軽い荷物で列の最後を上るスイールが吹雪の中で言葉を吐く。皆、防寒具を身に付けているが、吹雪が体を痛めつけ、風と寒さで体の体温を奪われて仕舞いそうだ。

 温かい飲み物を飲もうにも、腰にぶら下げている水袋の中身はすでに凍り付き、袋から出てこない。それぞれが小さな木の樽にアルコール度数の高い蒸留酒を入れているが、少しばかり飲んでも変わらないのだ。


「すまんな、ワシもこんなに吹雪くとは思いもよらなんだ。下山したら何か奢っちゃるから勘弁してくれ」


 三人を連れだしたラドムが、さすがに申し訳なさそうにする。


 本来なら、百キロ程の荷物を山にあるロッヂに運び入れるだけの簡単な仕事だった。出がけも登り始めも真っ青な空が広がっており、こんなにも天気が崩れるなど誰が思ったであろうか。


 さらに昇る事三十分、吹雪がシャレにならない程に強くなり、仕方なく途中でやり過ごす事にした。


「この辺に丁度良い洞窟があるんだよ」


 ラドムはその洞窟に三人を案内してかまどを作り薪に火を着ける。とは言え、背負っていた荷物の上に無造作に積んであった為、水分を吸い込みなかなか安定した火を起こせないでいた。

 その一方で少ない荷物を積む代わりに、防寒具を四人分乗せていたスイールはそれを皆に配り体温低下に気を付けるようにと促す。


 外套の上から防寒具を羽織り、汗を拭いた所でラドムが起こした火が安定し、弱いながらも洞窟を暖めはじめる。

 ヤカンに雪を目いっぱい入れ、火の上に置き雪が解けてお湯になるのを待つ。その間に樽に入った蒸留酒を小さなコップに入れ、ちびちびと煽る。


「そう言えば、西方の大陸にこの季節に現れる聖人の伝説を聞いた事があるのだけど、知ってますか?」


 スイールがかまどに向かって手をかざして暖を取りながら呟く。


「そんなの聞いた事無いな~」

「わたしも聞いた事無いよ」

「ワシも初めて聞いたぞ」


 聞いたことが無いのは仕方が無かった。その伝説は文章に残されている訳でもなく、口伝のみで伝えられているとスイールは説明した。


「私が若かった頃、西方の大陸に旅行で立ち寄った時の話です」


 西方の大陸に突き出た半島と数多くの島で構成された国で語られた話はこうだった。


 夏から年末にかけての夜にその男はある仕事をする。

 派手な服装に身を包んだ男は屋根の上を駆け回っていた。今日の獲物はどの商人かなと。その男の目指す場所はあくどい商売や他人をおとしめる貴族などを懲らしめるために警備が厳重な屋敷に乗り込み、お宝や金を盗み出す事であった。


 半年かけて街々の商人や貴族、はたまた大地主を調べ、不正やあくどい商売をしていないかを徹底的に洗い出す。そして、過剰に出した儲けや、不正で得た宝などを夏から年末にかけて盗み出すのだ。


 しかも盗み出す時は予告状を事前にだし、厳重な警備の目を盗み、実施するのであるから始末に負えない。それも百パーセントの成功率を誇ったのだ。


 盗んだ宝や金はどうしたかと言うと、貧しい家々や孤児院、病人などに配りまくり、富の再分配を図るのだが。


 だが、この配る先は選択ミスが多く、ロスが発生してしまっていた様で、貧しい人々だけに配られる事は少なかった。


 この男はある時、一つのミスを犯して、捕まってしまうのだ。屋根を失踪中に靴ひもが切れ屋根から落下してしまった。そこを警備していた兵士につかまり、牢に繋がれてしまったのだ。


「そして、その男が斬首刑に処された日が今日、だったのだよ」


 なるほどと聞きいる三人である。四人の中央にくべてあるヤカンからシューシューと湯気を吹きだし始めると、それぞれのコップに茶葉を入れお茶を入れ始める。


「その事を忘れないようにと、斬首された日の事を”苦しんだ人を助けます”がなまってクリスマス、そしてプレゼントを渡す人を”選択ロスが多い人”がなまってサンタクロースと呼ばれるようになり、誰かがプレゼントを渡すのでなく、お互いがプレゼントを渡すようになったのだ」


 と、お茶をすすりながらスイールが説明を終えた。


「ふ~ん、そんな話があったのか。知らなかったなぁ」

「プレゼント交換位ならみんなで出来るんじゃない?」


 エゼルバルドもヒルダもスイールの話を肯定的に受け止めていた。だが、ラドムだけは違う考えであったらしく……。


「で、何処までが本当なんだ?」


 と、スイールに疑問をぶつけてみる。


「はい、すべて嘘です。百パーセント、作り話です」


 さらにコップを傾けながらスイールは真顔で話す。


 ”なんじゃそりゃ~”とエゼルバルドとヒルダが声を合わせてスイールをに睨むが、そんな事は耳を抜けるのだと涼しい顔をする。


「とすれば、ワシ等はクリスマスじゃなく、吹雪の中を歩き回って、”苦しみます”って所かの」


 ”カッカッカ”を笑うラドムだが、納得がいかないエゼルバルドとヒルダ。だが、”時間つぶしにはなったでしょう”と、洞窟に入り口を指してみれば、あんなに吹雪いていた山の天気急速に回復し、青い空が見え始めていた。


 四人は急いでコップのお茶を飲み干し、かまどの火を消すと、晴れた空の下へ踊り出て目的地のロッヂを目指すのであった。

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