第十五話 討伐完了と次の街へ
前方に見える商隊を眺めつつ、左手の木々の間へ身を潜めて行くスイール。いつもの杖を左手に、腰に差した
まだ、散発的に矢が射られているがエゼルバルド達が参戦し、不利になった戦局を数体の
トルニア王国では人に危害を加えなければ居住を認めるなどをしているが、他国では盗賊などと同じ様に小鬼は駆除の対象だ。それ故に時折ワークギルドに討伐の依頼が貼られることもある。集団で行動する小鬼の依頼は時に返り討ちにあい、依頼を受けたパーティーが全滅する事もあったりする。
これだけの小鬼が襲っている所へ奇襲気味に戦闘に参戦できた事は商隊にとって運が良かったのかもしれない。
木々の間を急いで移動するスイールの目の前、と言っても樹上にだが、すぐ前の一本の樹上と数本向こうの樹上に小鬼を発見する。商隊の方に気を取られ足元にまで気が回っていない様だ。
(さて、同時に攻撃したいのですが魔力を消費したくはありませんのでしょうがありませんね)
少しだけ近づき、手前の小鬼に向かって魔法を発動するべく精神を集中する。高い所にいるのだ、落としてしまえばそれで決着がつく、そうして出来上がった魔法を小鬼へと発動させた。
(
力を失った小鬼は、傷口から鮮血を撒き散らしながら落下し、持っていた装備ごと無残にも内臓や脳漿を撒き散らした。
スイールは発動と同時にもう一体に向けての魔法を発動させるべく精神を集中させる。
先程の小鬼が魔法で殺され、樹上から落下した大きな音が響くと、もう一体の小鬼が何事かと音の発生源を見やる。仲間のいた場所に目を向ければ、いたはずの仲間は消え、無残な格好で地面に落ち、こと切れている仲間を発見する。
そこで自分が襲撃する側から奇襲される側、--狩られる側--、へと回ってしまった事を理解する。自分達を襲う敵は何処にいる、何処からどんな手段で攻撃する、殺られる前に攻撃をしなければと焦り、周囲を警戒するがそこまでであった。
「
少し遠くから人間の声が聞こえ、小鬼が最期に耳に届いた言葉であった。
索敵は間に合わず、右腕を吹き飛ばされ、心臓に至る傷を負わされ、力を維持できぬ体は樹上から落下し、仲間と同じ醜態をさらすのであった。
「もう、ここにはいないようですね。私も一応討伐証明の耳でも切り取りますか」
めんどくさいと細身剣で耳を強引に切り落とすと、それを拾いエゼルバルド達の元へと向かって行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森の中を赤黒い肌の子供が、人以上の速度で奥へ奥へと転がるように走り抜ける。
子供と形容する程、可愛い訳ではなく、肌の丈夫さも草木で傷つく事も無いだろう。
(何故こうなった?あの位は余裕であったはずだ。獲物のくせに刃向うとは許せない)
木々の間を駆け抜けながら悔しそうに呟く。先程の
商隊を襲っていた兵隊達が劣勢になった瞬間に逃げ出、し今に至るのだ。
そして、走る事二十分、小鬼長は自らの住処となる洞窟の入り口へとたどり着いた。
(ここまで来ればもう安心だ。次はどうしてくれよう)
通常の小鬼に比べ悪知恵の働く小鬼長であるが、自らが攻める事に重きを置いていた為、この森の中で住処となる洞窟を知られるとは思ってもいなかったのであろう。もしかしたら、見張りを置いてこの洞窟に住んでいます、と悟られたくなかったのかもしれない。
そして、小鬼長が辺りをきょろきょろと見まわし、洞窟の中へと足を踏み入れようとした時である。何処からともなく飛んできた矢が小鬼長の頭に吸い寄せられるように突き刺さり、ここに外に出ていた小鬼のすべてが討伐された事になる。
洞窟の入り口で”ドサッ”と倒れ込んだ小鬼長。洞窟が深いのか中から小鬼長へ向かう影も見られない。最も、小鬼が活動する夜ではないのが理由なのだが。
その小鬼長に近づく、夕日の様な赤髪を持ち弓を携えた人間、アイリーンが倒したそれを観察する。
「どうしようかな?首でも持って帰ろうかな」
右腰のショートソードを抜き差し、首の中央に刃を立て体重をかけて突き刺す。骨の砕ける嫌な感触が、握っていた手に伝わってくる。その後は何回か首を突き刺し、何とか首を切断する事に成功した。
これがエゼルバルドやヴルフであればブロードソードを振るうだけで首を切り取る事が可能であるが、アイリーンにそこまでの技術や力が無く、仕方ないとあの方法を取っているのだ。
体はその辺の草むらに放っておけばこの周りの獣達が食い荒らしてくれるだろうと、ズルズルと足を持ち引きずって草むらに放置した。
首も討ち取った証明だと手にしたアイリーンは森の中を突っ切り商隊の方へと駆け戻るのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自分達の馬車に何本も突き刺さっている矢を見ながら商人達は追いついた旅人達にお礼を言っていた。
「助かりました。お礼を申し上げます。まさか道が塞がれ、そこに
「私からも礼を申し上げる」
商人に続いて護衛のリーダーからもお礼があった。そして、商人は【エルワン】、そして、護衛のリーダーは【オディロン】と名乗った。商人はともかく、護衛のリーダーは大きな盾を持ち、かなりの戦闘力で数々の護衛の依頼をこなしていると話を聞いた。それでも、数で押されていたら一時間後には全員が冷たい骸となっていただろうと。
「あの状況ですから助けない訳にはいきませんからね。オレはエゼルバルドです。こちらはスイールです」
スイールと共に礼をされているエゼルバルドが返答する。エゼルバルド達の向かう先で理由も無く襲われている商隊を見て見ぬふりをするなど出来ない。
それに、
「ええ、わかっています。何かお礼をお渡しできれば……」
「それなら、ワークギルドで設定されている規定の料金を払っていただければ構わない」
と、お礼の報酬が期待できるからだ。それでもあと二日の距離なのでだいぶ安くはなるのだが。
「ほんとに助かりました。あの道を塞いでいる土砂が無くなればすぐにでも出発します。それと申し訳ないのですが、貴方達の速度にあわせますので街に付くまでご一緒よろしいでしょうか?」
報酬も貰えるし速度も合わせてくれるとあれば乗りかかった船だと了承した。
それから二十分後、。土砂を撤去している最中に、アイリーンが森の中から何かを抱えて出て来た。
「お疲れさん。どうでしたか?」
アイリーンを労うと共に、戦果を聞くスイール。矢も見た目は減っていない事を見れば手中の包みの他に収穫があったと見て間違いないだろうと予測した。
「コイツの住処を見つけたわ。見張りもいなかったし、あまり兵隊はいないのかもね」
抱えていた包みを地面に置きそれを開くと、赤黒い小鬼の顔が出てきた。
目の前の商人たちはその首を見て驚く。先程まで相手にした小鬼の顔だが、その色が違う。小鬼とは言え指揮官クラスの首が目の前にあるのだ。
「
頭を貫く傷跡を見て一撃で仕留める腕を褒めるのだが、首の断面を見て手厳しいスイールの採点をする。苦手なものは苦手と頬をを”ボリボリ”とかいて話題を変える。
「それよりも、住処はどうするの?あのままにしておくと、また住み着くかもよ」
「今はこの商人達の護衛を引き受けてしまいましたから出直すとしましょう。その時は案内よろしく頼みますよ」
「しょうがないか。わかったわ」
住処の探索を後にして、商隊の護衛に注力するとアイリーン不在で決められて事に少し腹を立てるが、一人ではどうしようもないと諦めた。
一度、野営をした次の日、無事にロニウスベルグの街へ到着した。入城の確認も無事終了し、そのままロニウスベルグの街へと入っていく。
「今回は助かりました。あのまま誰も来なければ私たちは全滅し、商品も奪われてしまっていた事でしょう。私達はこの先の【イーグル亭】に泊まります。この後でよければ御食事をご一緒しませんか?宿の方はご用意できませんので、そちらの方は申し訳ないのですが……」
この商人、エルワンは助けてくれたお礼に報酬を支払っているのだが、それよりも奇襲とは言え、護衛が手こずっていた小鬼をあっという間に殲滅し、その首魁ともいえる小鬼長さえも討ち取ったこの旅人達と仲良くなっておきたかった。護衛を引き受けて貰えるとは思えないが、仲良くなる事は商人としても収支的にプラスとなると思っていた。
商人たちはヴルフの二つ名を知らなかったが、剣を振るえば確実に敵を刈り取るパーティーはさぞ有名なのだろうと思っただろう。
とはいえ、ヴルフやアイリーンの名前はトルニア王国やスフミ王国では広まっているのだが、ここベルグホルム連合公国では騎士や戦士など関係する者達の間で辛うじて広まっているだけである。活動地域が二か国であるのが理由でもある。
「宿は別に取りますのでお気になさらずに。それでは後程伺います」
城門前で一礼をして街の中へと消えていくのであった。
それから数時間後、安宿を取ったエゼルバルド達は、護衛していた商人達と夕食を楽しんでいた。エゼルバルド達が泊まっている宿と違い、イーグル亭は高級宿、もしくはホテルに分類され、泊まる料金も高い。その為、出される料理もレベルが高く、値の張る食材をふんだんに使っている。
その料理に驚き、エルワンの扱っている商品を聞くと、値の張る貴族向けの商品が多いと二度驚く。貴金属や宝石、美術品の類、飾り重視の刀剣類、他にも貴族からの委託品などさまざまであった。
今の時期は行商をしているが、普段であればルカンヌ共和国の自由商業都市ノルエガを拠点に様々な商品を店先に並べているらしい。自慢ではないがノルエガでは十指に入るのではないかと豪語している位だ。
それほどの商人であれば、商隊の護衛が少ないのではないかと疑問を口にするが、あまり多いと重要な荷物を運んでいると目を向けられるのだとか。だが、盗賊等には通用するかもしれないが、こと自由に生きている獣や小鬼等の知能の低い亜人には逆効果であると言い返す一面もあった。
「一つ、エルワンさんにお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
テーブルの食事も綺麗に無くなり、後は皿を片し食後のデザートを待つばかりとなった所でエルワンに質問を投げかけようとする。
「エゼルさんでしたかな。私に知っている事であればお答えしますよ」
エゼルバルドに向け笑顔で切り返す。手に持った足の高いワイングラスに入った透明で透き通るような真っ白なワインをグイッと飲み干す。商品が無事であっただけでも気分が良いのだが、さらにアルコールが体内に入り、気分が高揚しているのもあった。
「商人でジムゾンと言う人を知りませんか?」
エルワンとしては、何故ここでその名前が出てくるのだろうかと疑問に思った。確かに知っている。しかもここ最近は会っていないので何処にいるのかも知らないのだが。
質問したエゼルバルドは一瞬だがピクリと顔が歪んだのを見逃さなかった。
「知っているのですね。ある貴族の屋敷に出入りしてここ数か月見かけない、ジムゾンと言う商人を」
畳みかけるようにエルワンへ口を開く。エゼルバルドとしてはその人物はどうでも良く、エルザの探している杖の情報が少しでも欲しかったためだ。それなら護衛の最中に聞けばと普通は思うのだが、それが逆鱗に触れる行為だとした場合、どうなるかわからなかったので控えていたのだ。それでちょうど良いと質問をしただけなのだ。
「ええ、知っています。と言うか、ここ半年ほど見ませんね。エルムベルムへ行くと行ったきりです。彼はかなりの商才を持っていたのですが、今は何処で何をしているのか?」
エルワンとしてもそれしか情報が無く、誰かに教えてもらいたいそう思っているほどであった。彼と二人で商売をしていたなら、もっと稼いでいたであろうと残念そうに話した。
知らないのであれば仕方ないとこの話はこのくらいにして、最後に出てきたデザートへと目を向けるのであった。
その後はエルワンのノルエガでの店の場所を聞いたり、お互いの情報を交換しながらヴルフが酔っぱらうまで続いたのである。
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