第七話 狙われた魔法剣

 エゼルバルド達は暗い闇の中を杖に灯した生活魔法のライトの光を頼りに地上へと向かい進んでいる。ぼやっと光る壁が行く先を少しだけ照らしているが、あくまでも補助的と表現すべきであろう。


「二本でも付与する時間が変わらないとは驚きです。こんなに良くして貰ってありがとうございます」


 背中に担いだ両手剣の柄を触りながらエゼルバルドが嬉しそうに言う。テオドールは命令されたことをしただけの事でお礼を言われるなど思ってもみなかった。

 そのお礼はエゼルバルドだからこそ言ったのだろう。


「コッチの剣も同じだってんだからすげぇなぁ。あっという間に魔法剣だ」


 漆塗りの木箱を担ぐヴルフも装置の能力には驚いていた。

 ヴルフの持つブロードソードも同じ魔法剣であり同じ能力を備えているが、それをここで言ってもただの自慢話か何かに取られてしまうと思い、吐き出し掛けた言葉を飲み込んだ。


「皆様、内密にお願いしますね」


 一応、テオドールが定型文として発言する。国家機密を喋るだけでも後ろ手に縛られるほどの事なのだ。それは救国の英雄であっても変わらない。


「それで、体の方はどうなの?」


 ヒルダがエゼルバルドの体を心配して調子を聞く。出来上がったばかりの両手剣を軽く振り回していたのでそこそこに戻ってはいるはずだ。怪我をした左胸の筋肉の突っ張りや体の切れなど見ていてもある程度は戻っているのはわかっているのだが。


「そうだなぁ、まだ七割ってところかなぁ?左腕を振り回す時に少しだけ引っ張られる感じがする。痛みはもうないからあと少しかな。体力ももう少しだね」


 七割くらいの戻りであれば一人で十分に剣を振れるだろう。特に片手剣としてブロードソードを使うのであれば十分戦力足るだろう。


 住み着いた獣もいない地下迷宮は、暗い事を除けば快適である。気温も一定で暑くも無く、涼しくも無く、そして、湿度もなぜか高くない。ここを拠点に立てこもる事も十分出来そうだ。




 色々な話をしているうちに第一層に到着する。そして、第一層も半分まで来た時にスフミ王国の鎧を着た兵士が行く手を塞いでいる。その数は十人。その鎧も金属でできた鎧ではなく、革の鎧でお揃いの物だ。


「お前達、何をしている。それぞれの持ち場を離れて何を考えているのだ」


 一行を案内していたテオドールが一歩前に出て道を塞ぐ兵士に向かって叫ぶ。それと同時に後ろを歩いていた兵士は、テオドールの横へ駆け出し槍を構える。あくまでも威嚇を行う目的で槍を構えたのだが、、目の前の兵士達はそれを意に介さず言葉を放つ。


「お前たちが持っている武器をすべて置いてこの場から消えて貰おう。逆らえば皆殺しだ。さぁ、どうする?」


 先頭に位置する兵士、--おそらくリーダーだろう--が叫ぶ。だが、あまりにも頭が悪いと言わざるを得ない。十人いれば勝てると思ったのだろうか?エゼルバルド達が五人とテオドールとお供の兵士が二人、合計八人。だが、テオドールは剣を持っておらず、杖のみで戦力と見ることは出来ず、こちらは七人と見える。


「お前、この入り口を守っていた兵士だな。それがこんな事をしてタダで済むと思うのか?」

「いや、思ってねぇよ。お前たちが死んで武器が手に入る。そして依頼主に渡せば褒美をくれる。こんなちょろい商売ねぇぜ、へへへ」


 嫌味な笑いを浮かべ腰の剣を引き抜く。それを見た相手の兵士全員が腰の剣を抜き放ち殺る気に満ちている。どうやら武器を置いて行っても後ろから切りかかるつもりらしい。

 頭が悪そうな相手が言いそうな事だ。


 すっとエゼルバルドがテオドールの横から前に出て、ギミック満載の鞘から魔法を付与されたばかりの両手剣を抜き放つ。


コイツ両手剣の試運転と体の切れを確認したいから運動させてもらうけどいいよね」


 刀身からは魔力をまとったときに出る特徴ある輝きがうっすらと見える。体の調子は七割程戻ったとは全体的な平均であり、完全に調子が戻った場所もある。特に脚力は十分に戻ったと言ってもいいだろう。


「スイールとアイリーンは援護お願い。劣勢になったらヒルダも参戦してね。あ、ヴルフさんは見学で。テオドールさん、あいつらは切り捨てても良いですか?」


 矢継ぎ早に皆に指示を出し、戦闘態勢を取る。援護があるとは言え十人もいる敵に一人で対峙するなど正気の沙汰ではない。だが、自信満々で前に出てきて、しかも仲間が何も言わない事を考えればその通りにした方が良いかもしれない、とテオドールは考え、


「はい、裏切り者として処理するのであればそれでもかまいません」

「ありがとうございます」


 と、エゼルバルドが言うと一番左の兵士に向かって駆け出した。


「ちょ、おま、まて」


 敵兵士が何か言うのも待たずにエゼルバルドは両手剣を横に一振り。いつもの七割の程の力、スピードであるが魔法を付与された両手剣である、質量とスピードに斬撃魔法を乗せられ、さらに不破壊属性を与えられた両手剣は兵士の胴体を革の鎧ごと、易々と切り裂き体を二つに分かたれた、しかも二人同時に。


「なかなかやるのう」


 見学と言われたヴルフがエゼルバルドの動きを見て感心している。怪我の前にヒルダと打ち合っていた程の動きを見せている。もし、全快になればこれ以上の動きを見せるとわかると頼もしい。


「少し重いけど、扱いやすくはなったかな。切れ味が段違いだな」


 二人を切り捨てたエゼルバルドは一瞬で有利な位置に移動した。一対十を相手にするより、一対一で相手にすれば負ける心配はない。

 初めの不意打ち気味の一撃で二人も仕留める事ができたのは功業であろう。あっという間に人数比を八対八にしてしまった。

 それよりも一撃で葬った事で敵兵士の士気は一気に下がったのだ、勝ち目がないと。


「何やってんだ。こいつらを殺っちまえ!」


 リーダー格の男が仲間を叱咤する。

 その男は叫ぶだけで前に出てくるのは他の七人。エゼルバルドに一瞬で二人を切られた事を考えてもその全てがエゼルバルドへ剣を振れるわけでもない。そして、先ほどの言葉に援護とあった事を忘れている様だ。


 向かってくる兵士に何か違和感を感じるエゼルバルド。恐らく弓を構えるアイリーンも魔法をいつでも撃てるスイールも感じているはずだ。明らかに訓練された熟練の兵士の反応ではないと。それならば何か?

 テオドールが何回も口から出したように、この場所は第一級秘匿事項に指定される国家機密だ。人が入りにくいとは言え、訓練も真面目に受けていない兵士がこのような場所を守っているはずがない。

 トルニア王国の騎士達の訓練風景を見ていたら良くわかる。かなりの腕前が無ければ騎士に成りえない。それはスフミ王国でも同じで、ある一定の腕前が無ければ国家機密のこの場を守りえる兵士とはなりえないはずだ。

 なぜこの場に入ることが出来たのかをこの男達に聞く必要が出てきた。

 体の慣らしは必要だが、相手を制圧する必要がある、と。


「ヒルダ、こっちはいいから向こうに加勢に行って!」


 エゼルバルドには二人の敵兵士が向かって剣を振るっているが、剣筋も剣速も酷く、二人合わせても”黒の霧殺士”には程遠い。相手の技量がそれほどでも無いとは言え油断することなく、エゼルバルドはしばらく守りに徹する事にした。


 残りの敵兵士六人は、一人が指揮を執り五人でテオドールの部下二人と打ち合って互角でいる。槍を持っていたが、二人並ぶことになり槍を捨て去り腰に刺していた剣を抜き対応している。ちらっと見れば剣筋、剣速共にテオドールの部下が勝っている。そこへヒルダが加勢すればおのずと勝敗は決するはずだ。


 まず視界の外から現れたヒルダの攻撃により一人が頭を軽棍ライトメイスで殴られ白目を剥いた。脳を揺さぶられる前に鈍器による衝撃が頭を貫き、帰らぬ人となる。

 それを見てしまった一人が一瞬動きを止める。その隙を見逃さないテオドールの部下が敵兵士の一人の首を切り付ける。剣の入りが浅かったのか、切り口から鮮血を撒き散らしながら絶命していく、首がつながったまま。

 三対三となれば敵兵士の勝ち目は無く、剣を振るう内に追い詰められて行く。




「やはり何か変だ」

「何がですか?」

「いや、エゼルは七割と言ってたがそれ程出してない。あまりにも弱すぎる」

「そう言えばエゼルの動きは余裕で見えますね」

「何者だ、奴らは?」

「話してないで援護の用意してよ、あの敵、逃げそうよ」


 見学組のヴルフ、スイール、そしてアイリーンは少し遠めに戦いの様子を眺めている。あまりにも弱い敵にエゼルバルドだけでなく、スフミ王国の兵士も押し始め決着はすぐにでも付きそうであった。

 戦いに参加していないリーダー格の敵兵士が及び腰で今にも逃げ出しそうであったため、アイリーンが二人に注意をしていた。




 エゼルバルドはそれを見てこちらの決着を早めに付けるべく、守りを解き攻撃に移る。

 両手で持っていた両手剣を左手だけに持ち、盾の役目とする。そう、”黒の霧殺士”との戦闘で使ったスタイルだ。

 左手に持った両手剣で敵兵士の剣を受け流し始める。幾度か受け流していると敵の兵士がバランスを崩す時が来た。待ってましたとばかりに掌底を敵兵士の顔面へと打ち付ける。もし、拳骨状で顔面を殴ってしまったら指の骨が折れてしまうかもしれない。それよりも確実にダメージを与え、そして指を骨折しない掌底を使うのだ。

 顔面の中央部、鼻を掌底で打たれれば脳を揺さぶられ三半規管も無事ではいられない。再度体勢が崩れ、もう一発顎に掌底を打ち付け敵兵士に衝撃を与え気を失わせ戦闘不能にする。


 もう一人はと言うと、手持ちの武器を持ち合わせていなくても、圧倒出来る程に剣筋は酷く、それを制圧するには簡単だ。だが、第一級秘匿事項の場所に現れたのであれば捕まっても有無を言わさず首を刎ねられる事は確かだろう。それはスフミ王国の管理に任せればいいと素早い動きで敵兵士の懐に潜り込むと両手剣の柄を突き出し強烈な一撃を鳩尾に叩き込みあっさりと戦闘を終わらせた。




「何でだ?十人だぞ。十人いて、残ったのはこれだけなのか?」


 既に戦意を無くした敵のリーダー格の男は泣きそうな顔をしながら、いつ逃げ出そうかと考えていた。残った三人も押され、いつ負けてもおかしくない。

 この地下迷宮に入る使いの者は剣の使い方も知らない文官だけじゃないのか?そう言われたからこそ請け負った仕事なのに。何故十人で四人を、しかも一人は女が混ざっているにもかかわらず倒せないのか。


(チクショウ!チクショウ!チクショウ!チクショウ!)


 計算通りに事が運ばない事に腹を立て地団駄を踏む。そう考えても状況が好転する事もあり得ず、如何すれば逃げられるかを無い頭で考える。

 前衛の四人は言うまでも無いが、後ろで弓を番える女も何を狙っているかもわからない。その隣で杖を持つ不気味な男も怖い。


 摘んだ!


 そう思った瞬間体が動き出していた。武器を放り投げ、敵に背を向け一目散に逃げ出した。


(死ぬのは嫌だ!嫌だ!嫌だ!)


 考えているのは如何に生き残るかだけだ。だが、それもかなわぬ夢となった。男の耳に”ビュン”と風を切る音が耳に届いた瞬間、右足に痛みを感じ顔面から固い石畳へと倒れこんだ。当然ながら顔面を強打したので鼻血を垂れ流している。

 右足の痛みはあの女が矢を撃ってきた、頭の中ではそれしかないと結論を付け、鼻血を垂れ流し、痛みに悶えながら冷たい石畳を転げまわった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「さて、何故こんな事をしたのか吐いてもらおうか」


 テオドールの前には生き残った敵の兵士が後ろ手に縛られて壁際に並べられている。

 四人が命を絶たれ、二人が気絶、三人が降伏し、逃げようとしたリーダーの男は弓を射られ負傷した所を捕えられた。

 第一級秘匿事項になっているこの場所での無許可侵入、そして戦闘行為、この二つからでも死罪を言い渡す事は必須だろう。その前に、侵入した目的、依頼人が誰かを拷問をしてでも吐かせるなど、死人を羨ましく思う程の後悔となる事だろう。


「どうせ死罪になるのだ。話しても死罪になるなら話す訳が無いだろう。ここで殺すがいいさ!!」


 敵のリーダーは自らの名前も語らず、ただ黙秘するだけであった。国家機密を知りえた者達に弁護の機会など与えられるわけも無く、命を消されるのを待つだけなのだ。強力者や依頼主も聞けなければ、ここを抜け地上へ戻ったとしてもここに来た十名のみで終わってしまう。


「中々、強情だな!!」


 テオドールのお供の兵士が槍の柄を敵の腹に力強く打ち付けるが一向に話す気配はない。殴られても蹴られてもそれは変わることは無かった。

 情報を吐いても殺されるとあれば、喋る事は無いのは確かだった。




「さて、どうするか」


 殴られ気絶した敵を見ながらテオドールが呟く。何かアイデアは無いものかと……。そういえばと思い出したのが地下迷宮の緊急時対処マニュアルだ。

 テオドールが鞄から取り出したマニュアル、--と言っても数ページの少ない物--を取り出し中身を確認する。


「なるほどなるほど、こうすれば良いのか」


 手順を確認したテオドールはエゼルバルド達の方へ向き直り協力を要請する。


「申し訳ないが少し協力をお願いしたいのだが、よろしいか……」


 敵と対峙した事もあり、乗り掛かった舟だと協力をする事になった。

 そして……。




「開門!開門!」


 地下迷宮のドアを叩く音が響く。朝方に地下へと向かった者達が帰って来たのだ。

 地下へと続くドアを開けると体を包帯でぐるぐる巻きにされた兵士がそこに立っていた。

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