第十一話 行動予定を決めよう

 スイールとアイリーンがヴルフの屋敷に戻ってきた時はすでに日付が変わっていた。さすがに他の仲間はベッドに入り、夢の中をさまよっている時間であった。

 起きてる者がいない屋敷に入り込むとアイリーンは体のケアもそこそこにベッドに潜り込み、一瞬で寝息を立て始めた。

 スイールも今日の出来事を少しだけ振り返り、ベッドに潜り込み夢の中へと意識をゆだねて行った。




 翌朝、鼻をくすぐる匂いに誘われて目を覚ますスイール。窓の外を見ると七月の日差しが照り付け、部屋を南国に連れて行く様な気分にさせる。

 汗ばむ寝間着をサッと剥ぎ取り、普段着に着替える。さすがにメッシュの入ったシャツは空気が流れ涼しくできているなと感心する。


 ダイニングに入るとすでに朝食が出来て各人の椅子の前に配られて、湯気が立ち上っている。だが、その量は朝食と呼ぶには多い気がした。


「あ、スイールおはよう」

「おはよう。遅かったけど大丈夫だった?」


 エプロンを付けたエゼルバルドとヒルダが台所から出来たがった最後の料理を運んでくる。二人がスイールに気づき、朝の挨拶をしたのだ。


「二人とも、おはよう。今朝は二人が当番かい?それにしても作りすぎじゃないか」


 朝から食べきれない量を作るのは何事なのかと疑問に思った。食べきれない量は再度温めて昼食用にすべきなのだろうが、配られている量が多いので不安に思うのだ。


「今朝はスイールの情報を聞こうと思ってね。食べながらだから量があった方がいいでしょ」


 なるほどと手を打ち鳴らし感心する。

 よく見れば温かいうちがおいしい料理と、冷めても大丈夫な料理が混在している。また、もう一度温めれば良かったり、冷たいうちに食べる料理もあるので、考えているのだなとさらに感心する。


「席についてて、ヴルフとアイリーンを呼んでくるから」


 エゼルバルドとヒルダはヴルフとアイリーンを呼びにそれぞれの部屋へと向かった。

 ヴルフはともかく、アイリーンを起こすのはちとキツイのではないかと思った。昨日は上機嫌になるほど呑んでいた事を考えてだ。もし、起きないのであれば、昨日の恥ずかしい出来事を耳元で囁いてやれば、ヒルダの援軍になるのではとも考える。

 それは杞憂に終わり、ヴルフもアイリーンも起きており、一分も経たないうちに全員がダイニングに揃った。


「おはよう、ヴルフ、アイリーン」

「おう、おはよう」

「う~、おはよ~」


 ヴルフは起きて剣を振っていたらしく、少し汗ばんでいた。いつもの事だが体を鍛える事が好きなのだ。寝不足の様に目をこするのは呑みすぎではないかとアイリーンを見るが、どうも違う理由らしい。


 テーブルに全員が着くと食事の祈りもそこそこに目の前にある食事を口に運び出した。

 テーブルの上の料理が半分ほど消費されたのを見計らい、スイールが昨日の情報を話し出す。思っていた以上の情報に皆が驚くのが頭に浮かび、楽しそうに微笑むのだ。


「昨日は良い情報が得られた。アイリーンが楽しむ一面も見ることが出来たしね」


 アイリーンの行儀の悪い行動に釘を刺すために、軽く皆にわからない程度だがそれを口にする。別に話さなくてもいいのだが、昨日の行為をを謹ませる為だと心を鬼にする。

 とは言っても、性癖をばらす事は無く、秘密を握っているぞと暗に示すだけなのだが。


「ちょ、ちょっと、それは無いんじゃニャい?ここで、はニャす事じゃニャいでしょ」


 アイリーンの声が上擦ったり、焦ったりと噛み噛みになり面白い。これを見れただけで良しとしようと脱線した話を戻すのだ。


「まぁ、それはどうでも良い事だが」

「え、どうでも良いの?」


 アイリーンが面白い。他の三人が見事に笑い、口の中から物を吹き出しそうになっている。ヒルダが興味あるみたいで、後で根掘り葉掘り聞こうと、ニヤリと意地悪な顔をしていた。


「どれから話そうかと考えたのですが、流行りこれからでしょう」


 懐から短剣を取り出し、テーブルの上に乗せる。エゼルバルドとヒルダ、アイリーンが手に入れた短剣の二振りの内の一振りだ。鞘に綺麗な細工を施されていて、持っているだけで貴族気分を味わえる一品である。


「結論から言いますと、テルフォード公爵家の家臣とマクドネル商会の裏組織が持っているようです。

 おそらくですが、この二振りの短剣を持っていたのはマクドネル商会が有力の様ですね。裏で暗躍する担当がマクドネル商会だと聞いたのですが、その情報の裏は取っていないので今のところ憶測だけです。ですが、情報屋から嘘を言っているとは思えませんでしたので正しいと考えます。」


 これから相手にするのはテルフォード公爵家とマクドネル商会の二つの組織だと全員に認識して貰おうと、報告の初めに宣言したのだ。厳しい戦いが始まると。


「となると、あの時襲ったのはマクドネル商会って事か。商人が商人を襲うって世も末だなぁ。ん、マクドネル商会?何処かで聞いた覚えがあるんだけど……」


 エゼルバルドが何やら頭をひねり出す。首をぐるぐる回したり、あっちこっちを見たり、精神的にも肉体的にもひねりを入れる。


「何処かで聞いたんだよな。結婚がどうこう言って無かったかなぁ……」

「それって、船着き場がある宿場町で受けた護衛の依頼じゃない?馬車に乗って行った先で依頼人が結婚をやめたって」


 エゼルバルドは思い出した様で、そうそうと続ける。


「依頼主がマクドネルって言ってたし、付き人が強かったんだよな。思い出した」

「付き人がニコラスって人だったわね。そっち方面は私とエゼルで行った方がいいかな。ニコラスさんが覚えていたら相当な情報源になってくれると思う」


 エゼルバルドと共にヒルダも依頼主と付き人を思い出した。依頼主はヒルダを襲い、返り討ちにあうなど性格そのものに欠陥があると思われたが、付き人は素晴らしく誠実で尊敬が出来る程の仕事ぶりだった。

 と、記憶から探し出した。


「もしかして、結婚を止めてくれって依頼が、何もしないで達成されたヤツか?」

「なんじゃそりゃ。ワシ等は知らんぞ」


 アイリーンも依頼を思い出し、違う事を話し出す。ヴルフが知らないのであれば他の誰も知らないのだが、何処で受けた事か、疑問に思う。


「それは何処で受けた依頼ですか?」

「王都で受けた依頼だね。って、話しちゃいけなかった。もう遅いか。たくさんの女性が依頼主で、”商人の結婚を阻止してください”ってのが依頼だった。行ったら結婚取りやめ、対象相手は沈みっぱなしで労なく依頼達成でほくほくしたっけ」


 バツが悪そうに頭をかきながら説明をした。


「王都で依頼達成の報告をしてからパーティーと別れて、前々から気になっていた迷宮に潜って居た所をヴルフ達に助けられたのよ。あの時はもう死ぬかと思ったね。短い人生だったな~って、今までの人生が走馬灯の様に浮かんだっけ」


 アハハと笑いながら話していくが、一歩間違えば命を落としていた事を考えれば、運が良かったと言うしかないだろう。その恩を返したいのも分かる気がする。

 それにあの結婚がダメになった元凶がヒルダであったとは思わなかったとアイリーン。


「それともう一つ」


 スイールがその話は終わりだと、続きを語りだす。


「麻薬が流行っているらしいです」


 麻薬、それは医療で使われる痛み止めである。終末療法など、助かる見込みのない病人に投与される第一種に分類される劇物である。数種類ある医療用麻薬には病人に合わせて国から許可を受けた資格持ちの薬師が販売できる。

 国が認めた医療用麻薬意外と、資格を持たない者から販売される麻薬の所持、使用は国家重犯罪として処罰の対象となっている。


 基本的に医療用麻薬は国家が管理しており、栽培、製造、販路、販売資格のすべて監視下に置かれている。そのため、勝手に麻薬が出回ることがなく大事になっていなかった。


 それなのに、どこからともなく栽培、製造し、


「その麻薬をさばいているのがマクドネル商会との事です。末端価格で言えば相当な金が動いている事でしょう」


 聞いている皆が、そんなお金があったら遊んで暮らせるし、自分たちの装備がすごいものになりそうだな、など茶々を入れ始める。そこで、


「ここから私が疑問に思ったことなのですが、そのお金はどうなってしまったのでしょう?商人が貯め込んでいるのでしょか?それとも何かに使っているのか?

 貯め込んでいるだけならいいのですが、それが流出している場合、何処へ流れるのでしょうか。たとえば、繋がりのあるテルフォード公爵家へとか。

 そして、依頼の大元、カルロ将軍からあったように、テルフォード公爵家は金遣いが荒い。使ってしまって本当に持っていないとすれば、何に使ったのでしょう。

 国庫からの横領金、そして麻薬での回収したお金はちょっとした財産、いや、国家予算の軍事費の半分ほどになるかもしれません。そうなれば、私兵を用意する位なんとでもできるでしょう」


 探偵よろしく持論を展開する。予想の範囲ではあるが、国内で行われる最悪の事態を想定するものであった。


「テルフォード公爵の狙いが、王家乗っ取りやクーデターを画策しているのであれば止めねばなりません」


 多少正義とはなんぞやとの出てきそうだが、”これはあくまでも私の想像です”と何の根拠もないと話を締めくくった。


「スイール殿の想像は一理あるが、無理があるな。それだけ金を持っている組織なら危険を冒して商人の馬車を襲うか?短剣を持ってた奴等がそうだろう。ワシだったら馬鹿な真似してまで襲ったりはしないし、襲うにしてももっとタイミングを見計らう。金を集めているのは事実だとしても、最後が無理があるってもんだ」


 朝っぱらからワインの瓶を口に持っていき飲みだすヴルフが異議を唱える。一貴族と一商人が手を握ったとはいえ、国民から人気のある王を引き摺り下ろせばどうなるか、一目瞭然であろう。


「あ~、無理無理無理!!考えたってわかんないわよ!!どうせ調べてみない事にはわからないんだから、さっさと予定決めちゃってよ」


 痺れを切らしたアイリーンが話を強引に終わらせ、予定を組むように促す。このような事が苦手なアイリーンには拷問を受けているような感覚なのだそうだ。


「そうですね、話しているだけ無駄かもしれません。それでは、まず……、アイリーンには麻薬の出所を掴んで貰いましょうか。一人で問題ありませんね」

「ええ、平気。エゼルに付き合ってたから剣の扱いも上手くなったんだから」


 腕を前に突出し、ビシッと了解のポーズをとる。大船に乗った気で任せてね、と言えば、泥舟の間違いじゃろうと言い返すのが約一名。売り言葉に買い言葉で喧嘩になりそうなのだが上手く話を中断させる。


「それよりも、マクドネル商会の方はエゼルとヒルダですね。何とかって人に会って話を聞いてきて下さい」

「「ニコラスさんね」」


 エゼルバルドとヒルダの声がハモる。


「基本的に良い人だったから、下衆なあんな男の下で働いて欲しくないんだからね!!」


 ヒルダが話を続けて、良い人認定でニコラスの株をあげる。一度会っているエゼルバルドも同様に良い人認定をあげたいなと同様に頷く。


「それで、私とヴルフさんで短剣の作成元を探りに鍛冶屋回りをしたいのですがどうでしょう」

「ワシはそれで良いが」

「じゃ、それで……」


 エゼルバルドが話をそこで遮り、口をはさむ。


「でもさぁ、マグドネル商会に出入りの鍛冶屋を聞くか調べてからの方が早いんじゃない?鍛冶屋だったら武器と防具だけじゃなく生活用品も扱ってるんじゃない」


 スイールもヴルフもハッと気が付いた。闇雲に一軒一軒調べるのでは時間が足りない。一軒目で見つかれば良いが、何百件も調べるのであれば無理がある。


「そうでした。調べる対象があるのですから、そこから逆にたどって行けば良いのです。私とした事が失念していました。うむ、反省です。それではエゼルとヒルダの帰りを待ってから行動を起こすことにしましょう」


 方針が決まり、解散しましょうとなったとき、


「アイリーンは昨日みたいな事で情報を得ない事。これは肝に銘じてください」


 と、釘を刺した。


「はぁ~い」


 なんとも気の抜けた返事を返す。


「昨日みたいな事って何したんですか?」


 興味を持ったヒルダがアイリーンに詰め寄るが、


「そんな事はどうでも良いの!!」


 当然ながら知られたくないので怒り気味に突き放す。

 そこでスイールがちょいちょいと手を振りヒルダを呼ぶ。

 ヒルダの耳元で何やらゴニョゴニョと昨日の顛末を話すのだが、アイリーンとしては聞かれたくない事柄か、ワーワー叫んでいる。


「ふ~ん、そうだったの。へ~、良いこと聞いちゃった~」


 何かを企んでいるような変な笑い顔になる。エゼルバルドが思うに、絶対に何かしでかす顔だとわかった所で、ヒルダは素早くアイリーンの席の後ろに回り込み、


「これか、これがそうなのかぁ~」


 アイリーンの豊満なその胸を鷲掴みにすると勢いよく揉みしだく。アイリーンは気にしてはいないのだが、街に出ていればその胸を見る男の視線が突き刺さっているのがヒルダには良くわかっていた。

 ヒルダの攻撃は数分にわたって繰り広げられ、汗まみれなったアイリーンが椅子から落ち床に横たわっている姿が残されていた。


「勝利!!」


 ヒルダが勝ったと胸を張って自室へ引き上げるが、男たちはその後数分間、目の前の食事かお茶を口へ運ぶしか出来ない状況に置かれてしまったのは女性には秘密であった。

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