第三章 王都への旅路

第一話 旅の初めは空からの刺客【改訂版1】

「ねぇ~、何処に行くのよ~!」


 旅の初めからヒルダが叫ぶ。

 まだ歩き始めたばかりなのに、こんな事で文句を言われても困る。

 王都まで行くと伝えてあるのだが、方向が違うと駄々をこねているだけなのだ。


「何処じゃないよ。装備を作って貰うって、言ってるだろ。スイールの知り合いの凄腕の鍛冶師の所だって。昨日打ち合わせしたじゃんか~」


 そう、まずは装備を作ってもらうのである。

 今までは練習用だったり、貸してもらったりと不都合があった。サイズが合わないのも不満であった。例えば、肩幅が合わずに腕が上がらなかったり、ヒルダに至ってはシスターの私物を借りていたが胸が締め付けられて痛いといつも嘆いていた。


 そこで、エゼルバルドが中等学校を卒業し一年間、色々な手伝いで得た資金を持って向かっているのだ。資金を稼ぐ手伝いはヒルダもしているので、当然の事ながらヒルダの装備も作って貰う事になっているのだが……。


「それは分かってるけど、山に向かっても街なんかあるの?」

「それには心配はいらない。街じゃなく、村だけどね。鉱山から採掘された鉱物の加工などで活気のあるリブティヒに向かっている。歩いて三日くらいは掛かるけどね。向こうには手紙を出しておいてあるから、行けばすぐにでも作ってくれるはずだ」


 知り合いがいるだけあってスイールはその村や鍛冶師に詳しいようだ。

 それに手回しのいい事に、すでに手紙を送っていたらしい。いつの間にとエゼルバルドとヒルダは驚いていた。


「え~、三日もかかるの?馬車に乗ろうよ~」

「こら、何考えとるんじゃ。お前が卒業して三か月、旅の訓練をしただろ。重いバックパックを背負って歩く訓練は何の為だと思ってるんだ。それにお金だって有限だ。旅は歩きが基本だ。それとも、今からブールに戻るか?ワシはそれでも一向に構わないが……」


 旅のコツなどを丁寧に教えてくれたヴルフが、文句を言う我儘娘に喝を入れる。

 さすがのヴルフも文句の言いように”ムッ”と来たようだ。


「分かってます~。ただ言ってみただけ。わかったからもう言わないでよ。ぶ~~!!」


 頬を膨らませて怒っているそぶりを見せいいるが、本人は反省していないようだった。だが、文句を言わずに大人しくなってくれればそれでいいと目を瞑ることにした。


 ただ、無言で歩いているのも飽きてしまうので、体力を消耗しない程度に雑談をするのは良いとヴルフは告げる。まぁ、話し好きの女の子が一人いれば、話のネタは尽きないであろう、と。


「それはともかく、オレもヒルダも、ちゃんとした装備を作るのは初めてだろう?楽しみにしてたんじゃないのか?」

「確かに楽しみは楽しみよ。シスターの私物の胸当て着けてると苦しいんだもん。今は着けてないから胸は楽だけど、胸当てがないとちょっと不安なのよね」


 両手で胸を押さえながら苦しそうなそぶりで、成長しているのだと主張する。

 傍らから見ていると自慢している様だが、実際それほどの大きさまで育ってはいないのだ。。


「なぁ、もう少し女らしくした方がいいんじゃないか?今は誰も見てないけど、もうちょっと他人の目を気にした方がいいぞ」

「いぃ~も~~~ん!」


 エゼルバルドの嫌味をそれとなく躱す。余計な話を聞き流すスキルを徐々に覚え始めた様でヒルダの表情は少しだけ楽しそうであった。


「でも、どんな装備を作るのか、スイールさんは知ってるの?」

「ああ、手紙である程度のお願いはしてある。胸当てと籠手と脛当て、そしてブーツ……だな。軽量で耐久性の高いものと難しい注文を出してみた。どこまで出来るか分からないけどね」


 いつ頃に向かうと手紙を出した時に、どのような防具が欲しいかと伝える辺り抜け目がない。


「それとエゼルの盾とヒルダの武器と盾だな。今まで借り物だったから、自分専用の物が欲しいだろう」


 エゼルバルドとヒルダは向き合って、手と手を”パン”と打ち合わせて”やったね”とはしゃいでいる。自分専用の武器と防具、何と甘美な言葉であろうかと。


 ちなみに、過去には自分の装備を赤く塗り、物凄く目立つ恰好で戦場を飛び回った兵士がいたとの逸話もあるのだが、それは実力が伴っていないと出来ない。赤く塗った理由は返り血を目立たなくする為だったらしい。


 今、現在の二人の装備だが、エゼルバルドがブロードソードを持っているだけで、あとはナイフを腰に差しているだけである。

 その他には、防具代わりに厚手の服を着こみ、申し訳無い程度のブーツを履いているだけだった。


 外套やバックパック等、すでに持っている装備は省いているが、武器となる物はヒルダにいたっては持っていない事になる。さらにメイスと連携し出来る盾が無いことが致命的に攻撃力不足になっている。


「さらに、新しい武器も揃えるつもりだ。遠くかdddら攻撃できる武器は魅力的だろう。ヴルフも持つだろう?」

「そうだな、弓とかは欲しいかな。後は細々とした武器だ」

「その辺も伝えてあるから大丈夫だ」

「ほほう。さすがであるな、スイール殿!」


 これから揃える装備の話をしているだけで、初日の午前中は話題に事欠かなかった。




 ブールの街を出発して半日、太陽も真上にきてそろそろ食事でもしようかとの時間。何処からともなくいい匂いが四人に届いてきた。


「おや、私達の他にも旅人がいるようですね」


 匂いをたどって行くと、道の脇に”パチパチ”と燃える火が目に入った。その上にはスープの入った鍋が掛けられて”コポコポ”と音を出しながら湯気を上げていた。

 鍋はあるが、調理人の姿は見えず、その代わりにバックパックの荷物が散乱していた。

 バックパックの口はしっかりと閉じられていたが、バックの横から何かで強引に開けられた穴が空いていたのが荷物が散乱していた原因であろう。その散乱している荷物は無事なものは少なくなかった。


「この穴は、刃物で……は無いか。牙か爪?」


 バックパックの穴を”まじまじ”と見つめているヴルフの口から”ボソッ”と漏れ出た。その穴を見ただけで人が原因であるよりも、何らかの動物が切り裂いたと見た方が合理的だと思った。


「……何かいる!武器を取れ!」


 バックパックの大きな穴を見ていたが、ヴルフが何かを感じたらしく、他の三人に注意喚起をした。そして、咄嗟に各自の武器を手に取り、四人背中合わせで周囲の警戒を始める。円陣に近い形で外部に向けての対抗陣である。


 周りの草花の背は一部が高いだけでほとんどは低く、動物が隠れる高さまで成長していない。そして、獣達が踏み荒らした草花も目に入ってこないのだ。

 獣達の足跡に代わり、旅人の足跡が街道から続いているだけだった。


「可笑しい……。獣の痕跡も無いのに何故、この旅人は襲われたんだ?」


 周りには遮るものない一面の草原。遠くに獣の気配はあるが手出しをする気配も無く、それが原因にはなりえない。

 それではない何かが襲ったのだ、と首を傾げていると背筋に凍り付くような悪寒が走ったのである。。


「拙い!!急いでこの場から逃げろ!!」


 ヴルフが何かを感じて大声で叫んだ。その声を合図に蜘蛛の子を散らすように四人は一斉にその場から飛び退き、前方の草むらへと飛び込んだ。

 その直後、危険な気配を感じて振り向くと、四人がいた場所で岩を砕く音と共に鉤爪が地面を削り取る様子が見えた。


 ”ガキッ!!”


 視線を向けると、頭から尻尾の先まで三メートルもある、鋭い鉤爪を持った巨大な怪鳥が地面を鷲掴みしていた。広げた翼は方翼が4m近くもあり、ひと扇ぎするだけで猛烈な風が吹き荒れたのだ。

 地面を鷲掴みにした鉤爪は地面を削り取っても動きを止めず、持ち上げた岩ごと粉々に砕いていた。


「なんちゅう馬鹿力だ。よりによって【ガルーダ】か!!厄介な奴に狙われたもんだ」


 ヴルフの溜息交じりにの悲痛な叫び声が辺りに響く。

 ガルーダに視線を向けると瞬時に起き上がり、右手で握っている棒状戦斧ポールアックスをガルーダに向けて構える。

 ガルーダに警戒をしながら他の三人へと視線を向れば、すでに起き上がり、それぞれの武器をガルーダへと向けていた。

 その中でもスイールは、魔法を発動しようと魔力を溜めているようであった。


 反撃の準備は整ったと、すかさずガルーダへと数歩の距離を詰めて、上段に振り上げた棒状戦斧ポールアックスを敵に向かって振り下した。”ブンッ”と鈍く空気を切り裂くと共にガルーダに吸い込まれる……と思ったが、それは敵わなかった。


 ガルーダも攻撃されるとわかっていた様で、翼をはためかせてヴルフ達をその場所へと釘付けにしたのだ。起した風の力は強く、四人共が風に抵抗するだけがやっとで、動くことが出来ないでいた。特にヒルダは他の三人よりも軽いので、風を受けてよろめき、尻もちを着いてしまった。


 目の前で敵が怯んだ瞬間に、そのままガルーダは上空へと巨体を持ち上げ、武器も届かぬ上空へと飛んで行き悠々と旋回を始めた。まだ、諦めていないのか、虎視眈々と獲物を狙っているようであった。。


「ちょっとぉ!降りてきなさいよ、卑怯者~~!!」


 尻もちを付いていたヒルダが、起き上がって上空に向かい挑発の言葉を向けていた。握ったナイフを振り回し、”私に殴られなさいよ”と、なかなか勇ましい事を言い放っていた。


「あんな上空じゃ手も足も出ないな。魔法でどうにかできないか、スイールよ」


 棒状戦斧の柄頭を地面に突き立て、恨めしそう上空を眺める。幾度もの戦闘を共に駆け巡って来た相棒であるが、今回ばかりはその役目を果たせずにいる。


「あそこまで上空だと避けられるのが見えている。もっと近づかないと」


 首を横に振りながら、ため息交じりで告げる。さらに、


「ガルーダの速度は簡単に当てられない。一瞬でも降りてくれば風の魔法で止めをさせるんだがなぁ」


 成功率は低いらしく、上空を見上げながらガルーダへ手の平を伸ばす。そして、開いた手を閉じ、虚空を掴むような仕草をすると悔しそうな表情を浮かべる。


「雷の魔法で感電させちゃうとか、出来ないかな?」


 一緒に上空を見上げていたエゼルバルドが”ぼそっ”と呟いた。


(なるほど、広範囲の雷魔法を使って痺れさせ、動きが弱まった所を風の魔法で相手に攻撃すれば上手く行くかもしれない。だが、もう一手、欲しいんだがなぁ)


 スイールの頭の中でガルーダへの対抗策が纏まりつつあった。


「エゼル、そのアイデア貰います。もう一手あれば、ガルーダを落とせそうなんですがね……」


 いまだに、上空を優雅に旋回しているガルーダを眺めつつ、もう一手と頭を働かせるのだ。




 そんな会話を続けていると草むらから”ガサゴソ”と草をかき分ける音が聞こえ、一人の男が姿を現した。シャツが所々穴切られていたが、流血している怪我も無く、無事に逃げおおせた様だ。ただ、ズボンの股間部分が濡れていて、恐怖を味わっていたらしい。


「あぁ、旅のお方たち。びっくりしましたわ。その~、お昼を作っていたら、急に襲われまして、這う這うの体で逃げ回りまして……。何と躱せたと思ったら、あなた達が襲われているのを見てどうしようかと。眺めてましたら強そうだったので、大丈夫だと思ってました。ところで、これって使えますか?」


 ガルーダの警戒中にもかかわらず、一方的に話を進める男。そして、差し出してきた彼の手にはクロスボウが握られていたのである。


「これを構えるどころか、持ち出すのがやっとでした。それに矢もこれ一本しか持っていないのです、はぁ……」


 憔悴している彼からは、溜息しか聞こえない。

 だが、スイールにはその弩が天からの贈り物に見えこれならガルーダを打ち落とせる、内心で喜んだ。打ち落とす最後の一ピースがまさにそれだったのだ。


「そうしたら、遠慮なくお借りします」


 スイールは弩を受け取ると、矢をセットしてヒルダに渡した。


「さて、ここでガルーダを打ち落として差し上げましょう。今日の夕飯は豪華にがメニューに加わりますから、頑張っていきすよ」


 、との言葉に涎を出しそうになりながら、やる気を見せる三人。

 ただ、側にいる彼だけは”え、焼き鳥、この人たち頭おかしいんじゃない?”と夢でも見ているような感覚に陥るのであった。


「さて、作戦はこうです。エゼルの雷魔法をガルーダに当てます。当たらなくてもこちらに向かえば成功です。向かってきたら引き付けてヒルダが矢を放ちます。当たらなくてもいいですが当たってくれるとかなり楽になります。そのままガルーダが向かってきますから、地面に降りた瞬間を棒状戦斧ポールアックスで翼を切りつけてください。飛べ無くすればそれで良いです。その後に私が風の刀ウィンドカッターで首を狙い動けなくします」


 上空のガルーダを警戒しつつ、次々と作戦を伝えていった。

 その作戦を聞き、皆が首を縦に振りつつ、仲間との間合いを取り戦闘準備を整える。


「では作戦開始です。エゼル!!」

「はいっ!」


 スイールの合図と同時に剣の柄頭の魔石が青く変色し始め、エゼルの右手の前に魔力が集まる。上空のガルーダまで届かなければならぬ溜め、相当魔力が必要になる。エゼルバルドが保有する魔力の半分以上が集められると、上空に向けて魔法を発動した。


稲妻サンダーボルト!」


 集まった魔力が上空へと舞い上がり、ガルーダの周辺にプラズマ放電に似た事象が現れる。そして、一度、雲間で煌々と輝きを放つと雷がガルーダを襲った。

 適当に発動した雷鳴サンダーだが、空中に浮かぶ大きな一つの物体、--ガルーダ--、に引き寄せられ、雷が体を貫通した。


「キェーー!!」


 雷がガルーダを襲った瞬間、けたたましい鳴き声を発した。だが、空中にあっては決定的なダメージは無いが、その影響で少し神経に異常を来たしてガルーダの動きが鈍くなった。


 その攻撃は先ほど撃ち漏らした地上を這いつくばる獲物からと一瞬で理解をしたが、なぜこんな上空で攻撃を受けねばならぬのかと、混乱して冷静さを失う。

 そして、ガルーダはすぐさま、地面を這いつくばる敵を仕留めようと、鋭い爪を立てながら猛スピードで降下し始める。

 数百メートルの上空から瞬く間に数メートルへと降下すると、広げた詰めを敵に突き立てようと真っ直ぐに敵を目指した。


「ヒルダ!今です!」


 今か今かと攻撃の機会を窺っていたヒルダが弩の引き金を引くと、壊れそうな程引き絞った弦から矢は放たれた。狙った矢は行き先を間違える事無く、迫り来るガルーダへと吸い込まれて行った。


 ガルーダは魔法が使える訳もなく、自らが有する圧倒的な速度さえあれば敵を殲滅できると思っていた。直線的に向かうガルーダの目の前に解き放たれた矢が現れると降下速度と放たれた矢の速度が相まってガルーダの翼の付け根に深々と突き刺さった。


 三メートルの巨体を立った数十センチの細い棒が突き刺さる、それだけの事であったがガルーダの降下ポイントをずらす事に成功する。そして、ガルーダの爪は敵をかすりもせず、地面に深々とその爪痕を残すのみであった。


 攻撃に機会を伺っていた窺っていたヴルフは、見出した隙を逃さずに翼の半分ほどの場所に狙いを定め棒状戦斧ポールアックスを渾身の力で振り下ろした。巨体となっても空を飛ぶためにはそれなりに軽く出来ていた事もあり、翼は切断されてガルーダの体液が噴水のように噴き出るのであった。


 その横では、最後の仕上げとばかりに魔力を集めていたスイールが最後の一撃を見舞おうと準備していた。


「これで終わりです。私達の夕食となりなさい。風の刀ウィンドカッター!!」


 集まった魔力が真空の刃と化し、ガルーダの首元に命中する。そして、一瞬の時を置いて、切断面から首た”ズズズ”と滑り落ちると、そこから血飛沫となってガルーダの体液が噴出するのである。

 その後、”ズン”と音がするとガルーダはその巨体を地面に委ねるのであった。


「ふぅ、街を出てわずか半日にして初めての戦闘ですが、怪我無く上手く行きましたね。お見事でした。まぁ、強敵でも直線的に動く敵は倒し易いですね。あとは血抜きして、今日の晩御飯の用意をしておきましょう」

「その前に、ワシ達の昼飯はまだだが?」


 ガルーダをどの様に打ち倒そうかと考えていたスイールは、昼食を食べていない事を失念していた。それを腹を押さえるヴルフに指摘され、うっかりしたと頭を掻くのであった。


「それじゃ、ここでお昼にしましょう」

「おう、昼飯はワシに任せて貰おうか」

「じゃぁ、ガルーダを捌くはオレがやります」

「ん~と、わたしは見てるだけ……?あれ」

「ヒルダは辺りの警戒をお願いします。あ、解体は私も手伝いますね」


 と、昼食はヴルフが、ガルーダの解体はスイールとエゼルバルドが、そして余ったヒルダは辺りの警戒に当たることになった。


 四人の戦闘を見ていた先ほどの男であるが……。


「頭が可笑しくなったみたい」


 と、独り言を漏らすと、そのまま意識を手放しその場に倒れ込んだ。

 火に掛けてある鍋を忘れて……。



※赤い鎧でも三倍にはなりません(笑)

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