第十七話 竜襲来!!【改訂版1】
遥か空のかなた。
それは見ていた、新たに使命を帯びた者の戦いを。
力を使うだけの実力を備えていなければ、向かわせた意味が無い。
これは、ある種の試練なのだ。
よくよく見ていれば、扱う事は出来るがまだ力を引き出せていないらしい。
しかし、目の前に現れた脅威を打倒するだけの力を持っていた。
”合格”だ。しかし、
今は手に取っただけだが、その使命の先を示すことは出来るだろう。それまで生き残っていれば、であるが。
「さて、顔を見に行くか」
そう呟くと、黄金に輝く羽をはためかせ、一直線に上空より降りていく。
三百メートルまで降下し、上空で二回、大きな円を描いて旋回し、地上を眺める。
どの者が、使命を帯びた者なのか、どんな風貌をしているのか、一瞬で見極めると、打倒した獲物の前に強烈な風と音と共に舞い降りる。
黄金に輝く
(さて、どんな面をしているのか?)
目の前の男、いや、まだ幼い顔をしてる少年に視線を集める。
顔が引きつり恐怖を内包しているようだ。だが、倒した強大な敵のおかげか、自信があるのか、まっすぐに黄金の羽を持つ来訪者の我をじっと睨んでいる。
(ほうほう、なかなかの面構えだ。このまま帰っても良いが、少し稽古をつけてやろうか?)
少年は剣を抜き、我に向かい、”ギラリ”と光を鈍く反射させながら、その剣で迫ってくる。黄金の羽を持つ我を倒すために、だ。
我は右手の指を一本前に出すと、その指のみで剣を受け止める。
(うむ、なかなか鋭い剣さばきだ。技はそこそこだが、まだまだじゃ!)
指を少しひねり、剣を押し戻す。
撃ち込まれれば指で弾き返す、そんな状況が数十合続いた頃であろうか。
何やら長い棒を持った男が乱入して来た。
どうやらこの少年の仲間らしい。そのまま武器を振り回し襲い掛かってくる。
しかし、少年以外を相手にするのは面倒だと、一瞬だけ顔を向けると息を吐いた。
強烈な
(無粋な!我は稽古を付けているというのに。水が入ったからこの辺で終わりにしよう。まだまだ粗削りだが、将来が楽しみだ。いろいろと面白いものを持っているようだしな)
そう考えるや否や、少年が
そこから下へ視線を向けると、少年の他に遥か昔からの知り合いがその場に見えた。
(ほう、まだ生きていたのか。しぶとい奴だな。まぁ、奴なら意図がわかるだろう)
一瞬だけ上空に留まったが、再び羽ばたいて強烈な風を生み出すと、遥か彼方へと飛び去って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
黒い影が通り抜けた気がした。
エゼルバルドは
それでも一瞬通り抜けた黒い影に、頭が警鐘を鳴らしていた。
(気のせいか?いや、何かが来る!)
足を少し広げ、鞘に戻したブロードソードの柄に手をかけ、警戒態勢を取り危機に備える。そして、何かを強く感じた時、黄金に輝く羽を羽ばたかせた生物が姿を現した。
四肢を地に付けているが、首までの高さは五メートルもあるだろう。
(何処から来た?本でしか知らない、恐怖の存在……竜種……か!?)
黄金に輝く羽毛を体中に生やし、前足と脇の間に生み出された翼で空を駆ける。後ろの足は太く、太い木の幹もつかみ取れる鋭い鉤爪を生やしている。
それに加え、人を一撃で数十メートルも吹き飛ばせそうな太い尻尾が”ビタンビタン”と地面を叩きつけている。
細長い顔に見える、燃える様な真っ赤な目を向けられ、エゼルバルドはこんな怪物に目を付けられたら勝てるはずもないと、圧倒的な存在に恐怖を覚え、体の内から震えだす。先ほど打倒した緑の巨体など比較にならないだろう。
だが、視線を外せば殺られると、こめかみから冷や汗を流しながらも、決して視線を外さない。
黄金の竜を見ているが、殺気を放出している訳でもなく、目玉だけを”ギョロリ”と動かしてエゼルバルドやその他の人達を観察しているようだった。
その観察が終わったのか、エゼルバルドに視線を戻し、何かを待っているようだった。
何を待っているのかわかる訳も無く、エゼルバルドは黄金の竜から皆を逃がすためにも戦わなければとブロードソードを引き抜き、銀色に鈍く光る刀身を黄金の竜に向ける。
そして、意を決して竜に向かい剣を振るい出す。
地を蹴って、瞬く間に持てる最高の速度で黄金の竜との距離を詰め、その勢いのまま剣を振り抜く。彼のその一撃は
だが、彼の渾身の一撃を黄金の竜は前足の指一本だけで何事も無かったかの様に受け止めた。
「クッ!」
すぐさま剣を戻し、その指を切り落とそうと横に一閃する。
だが、その一撃も初撃と同様に指の先端で簡単に弾かれてしまった。
(竜の体は硬いと書いてあったが、これほどとはね……)
さらに斬撃を重ねて黄金の竜を切りつけるが、目の前の竜は攻撃の全てを指一本で受け切ってしまう。
「強い!いや、強すぎる!!」
もう、何十合と打ち込んだのだろうか?
それすらもわからなくなり絶望を覚え始めた時である、
だが、ヴルフの攻撃は無謀と言わざるを得ない。
それを考えれば魔法を帯びていない武器など役に立つはずもないだろう。
だが、武器を問題視する暇もなく、事は起こる。
黄金の竜がヴルフへと顔を向けると”ふうっ”と軽く
その乱入者の存在が気に入らなかったのか、攻撃を受けるのを止め、竜は腕を大きく広げて翼を羽ばたかせると、エゼルバルド達が打倒した
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれは何だったのか、呆然と黄金の竜が消えていった空を見上げるエゼルバルド。
竜を切りつけた剣を見るも刃毀れも無く、輝きも失われていなかった。
鈍く光る剣に感謝し、その身を休ませようと鞘に収めた。
「いててて、参った参った。なんだあれは。
地面をゴロゴロと転がり、土まみれになったヴルフがエゼルバルドの下へと歩いてきた。土で体が汚れていたが怪我は無さそうだった。
「これから大変ですよ。有名人ですからね」
二人の下にゆっくりと近寄ってきたスイールがとんでもない言葉を告げて来た。
何の事かと首を傾げるエゼルバルドだったが、”ポン”と肩を叩いて来たヴルフが彼に言葉を掛けて来た。
「竜と打ち合ったとなれば、伝説の始まりだな。物語にもなりそうだなぁ」
「え、有名になるの、やったじゃん」
それを聞いたエゼルバルドはこの世の終わりのような表情をして、頭を抱えた。
それを見ながら、スイールの背中の陰から顔を出したヒルダは、無邪気に喜んで見せる。
だが、ヒルダの何も考えていない様にエゼルバルドは呆れた顔をして言葉を返す。
「その物語が出来たら、ヒルダも出てくるんだぞ。
エゼルバルドの言葉を聞き、有名人になってしまうと顔を真っ赤にして恥ずかしがった。顔が火照ったのがわかったのか、一番赤いと感じた耳を両手で隠し、うつむき加減で顔色を胡麻化そうとする。
エゼルバルドがヒルダに告げたように竜と打ち合えば主人公として有名になるが、それを横で支えたり、一緒に戦ったとすれば、物語に登場し当然ながら有名になるだろう。
ここで戦ったすべての人達が物語に登場し、組み込まれるのである。
ちなみにであるが、この後、この事件が公になると竜と戦った事が物語となるのである。書籍にもなり、劇にもなり、ブールの街は一躍有名になってしまうのであるが、それは別の話である。
「それはともかく……皆さん、帰りましょうか。私も疲れましたよ」
魔力の枯渇状態になり、精神的にも肉体的にも疲労困憊のスイールが話題を変え、帰ろうと言い出す。驚異が目に見えて無くなっていた事もあり、笑顔を見せていた。
スイールの笑顔を見て周囲に視線を向ければ、兵士達が戦いの後片付けを始めていた。倒れている同僚の救護や命を落とした兵士達に祈りを捧げていたり、そして、命を絶たれた獣達を集めたりと忙しそうに動き回っている。
よくよく見れば、戦場の様に惨憺たる状況であった。
運よく生き残ってても腕を失っていたり、足があらぬ方向に曲がっていたりしている。
ただ、少数は残念な事に、首があらぬ方向を向いていたり、体を食い破られ血液を流し過ぎたりと、命を失った者達の姿も見受けられた。
「もう、帰ろうよ。さすがに疲れた。ヒルダ~!いつまで下向いてんだ~。置いてっちまうぞ~」
「え、うそ!待ってよ~!!」
顔を真っ赤にしてその場で硬直していたヒルダが、置いて行かれるのは嫌だと小走りに追い掛けてくる。
(たまに女の子っぽい仕草するから侮れないんだよ)
エゼルバルドが珍しく、ヒルダを女の子と感じた瞬間であった。
街への門を潜る人々の表情は、戦いが終わったが、疲れて地面を見つめ弱々しかった。
全てを退けられ街を守ったが、人の手で対処が不可能な強大な力を目にしたのだ。人々が弱気になるのも仕方がないだろう。
その強大な力を持った黄金の竜が被害を与えるでも無く、大きな獲物を横取りし飛び去った。たった一人、向かっていったが仕留める事も出来ず、遊ばれてしまった相手に無力と感じるは当然だろう。
だが、今は生きている事実に感謝の祈りを捧げるしかないのだ。
スイール達が街の中へと帰り着いた時には、落ち着きを取り戻しつつある時で、酒場などが営業を再開しようと鎧戸を開け放っていた。
とは言え、街の中に籠っていた人達はすでに外出を控えて、歩いているのは専ら戦いに赴いていた兵士や戦士達ばかりであった。
暗い雰囲気の中を通り抜け、疲れた体を休めようと孤児院への道を急ぐ。
そして、孤児院にたどり着いて空を見上げれば、太陽は地平線の向こうへと姿を隠し、夜の帳が辺りを包んでいたのである。
「ただいま~」
「疲れたよ~」
「ただいま戻りました」
「お世話になりま~す」
”パンパン”と体に付いた埃を叩いて落とし玄関を潜ると、般若の如き形相で仁王立ちで塞がるシスターがいた。
「お帰りよ、こんなに汚れまくって!風呂に入ってサッサと着替える。誰に似たのやらね、全く……」
返り血や土汚れで汚い格好の子供二人は、自分達の部屋に戻り着替えを持つと風呂場へ急ぐ。二人を見送ると、シスターは残った大人二人に顔を向けた。
「スイールは二人の面倒を見て貰って済まなかったね」
「いえ、二人共もう私よりずっと強いですよ。面倒見て貰ったのは私の方かもしれませんね」
エゼルバルドとヒルダの戦いを見たスイールは、武器を持って戦ったら、もう勝てないと白旗を上げている。ただ、魔法に関してはスイールに一日の長があり、埋められない溝があるのも確かだ。特にエゼルバルドはスイールをある意味、神格化して見ていたりする。
「疲れてるところ悪いが今日の話を聞かせて貰うからね。っと、その前にそこのドワーフ!アンタは着替えをしてきな!!」
スイールも地面を転がっていたが、外套を少し汚した程度だったので着替える程汚れは見えない。それに比べてヴルフは竜に
居候させて貰うヴルフは”ハイハイ”と首をすくませて当てがわれた部屋へと戻り、汚れた衣服を着替える。
シスターとスイールは子供二人とヴルフの着替えを待つ前に、夕食が整っているリビングへと入って行った。
そこにはエゼルバルドの同級生達やすでに働きに出て、まだ部屋を借りている子供達が席に着いていたが、すでに食事が終ろうとしており、皿の上はすでに空になっていた。皿に夕食が載せられているのはシスターと出かけていた二人の子供とヴルフ、そしてスイールの分であった。
「全員揃うまでまだかかるけど、報告を始めて貰おうかね」
椅子に深く腰を下ろし、スイールを見据えて報告を促す。食事をしていた面々も興味津々で耳を傾けている。警報の鐘を聞いたブールの街にいる全ての人達が、その日に起こった事を知りたがっていたのだ。そして、どこからともなく、”ゴクリ”と唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「そうですね、何から話しましょうか……。まず鐘が鳴って街の外に出た時ですね……」
少し冷めた夕食を口にしながら、スイールは報告のためにと口を開いた。
話し始めてから、着替えを終えたヴルフがリビングへと入ってくる。幾分か綺麗ではあるが、使い古した古着の部類であり、シスターから”身だしなみに気を付けるように”と、注意される場面もあった。
その後、時間をおいてエゼルバルド、最後にヒルダと入ってきて、報告とそして雑談と話が進む。
全ての報告が終わり、雑談に花が咲き始めワイワイと騒ぎ出したその時である。
”カラ~ン!!カラ~ン!!”
呼び出しの鐘が孤児院の中に響き渡ったのである。
「こんな夜更けに誰かいね?」
夜も更け窓の外はすでに街灯の明かりがなければ真っ暗になる時間の来客である。こんな時間に誰が訪問してきたのかと不思議そうにシスターが玄関へ出迎えに向かう。
耳を澄ませば小さく話し声が聞こえてくるが、畏まった話し方を聞けば予想もしえなかった来客だとスイールは予想していた。
短い話も終わり、”パタパタ”とシスターが戻ってくるとスイール達に向かう。
「お前さんがた四人にお客さんだよ。出ておやり」
お客など来る訳も無いのにと首を傾げながら四人は玄関へと向かう。
玄関に出ると、着飾った兵士か、はたまた貴族か、姿勢正しく正装した紳士がそこに立っていた。
「えっと、私達に用ですか?」
四人を代表して、スイールがその紳士へ問いかける。
「はい、領主の館より参りました。本日の郊外における戦闘でのお話を伺いたいと、領主様から直々にお呼びするようにとの事でございます。大変恐縮でございますが、今よりお越し願いたいとこんな夜更けに失礼と思いながらも伺いました。表に馬車をご用意してございますので、なにとぞ、お願い致します」
紳士は話を終えると、何処の馬の骨とも思えぬスイール達に深々と頭を下げた。
普通なら一市民に深々と頭を下げるなどありえない。それに、この街の領主が呼び出すとすれば、もっと兵士然とした伝令を差し向けるのが普通だった。
だが、紳士はどう見ても一介の兵士などではなく貴族やそれに準じる地位を得ていると見られた。そうまでして、スイール達を呼ぶには何かの理由があっての事だとスイールとヴルフは感じ取った。
もう少し遅ければエゼルバルドもヒルダもベッドに入って寝入ってる時間だ。それを考慮しても、今の時間がギリギリと言ってもいいだろう。
スイールは子供達にどうするか目くばせすると、二人はにこやかに笑って頷き返したのであった。
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