第六話 地上への帰還【改訂版1】
※ここから「仕事依頼請負ギルド」の名称を「ワークギルド」に変更します。
正式名称は仕事依頼請負ギルドですが、表記上長いので、そのための処置です。
ヴルフとエゼルバルドの活躍により
そして、ヴルフ達は
「スイール殿。モンスターの生態に詳しそうだが、こんなところに
暗闇から現れたのは、松明の光に反応して出て来たとヴルフは確信していたので、疑問に湧いた事をスイールにぶつけた。
この場所からさらに進んだ場所から
「そうですね。光が無ければ生きて行けないモンスターがこの暗がり、いえ、闇にいるのは不思議ですね。もしかしたら、住み着いたのではなく、地上から迷い込んだ、そんな気がしますね」
スイールが自分の予想を離すと、皆がうんうんと頷く。
「それに、この胴体を見てください。だいぶ痩せこけていると見えませんか?しばらく何も食べることが出来ない状態が、正しいように思います。これだけの巨体を維持するには多くの食糧が必要になるはずです」
「食糧が無いこの場所に迷い込んだ謎が、この先にあるかもしれないと言う訳か」
拾い上げた松明を通路の奥へと向けて、”行ってみるか”とヴルフが呟くと、皆が一斉に頷きゆっくりと足を進めだす。
通路は脇道は無く一本道で横道は見えない。空気穴の様な小さな穴が両壁の上に開いているが
そして、十分程、足を進めるとそれまでと全く違う光景に一行は驚きの顔を見せた。
「な、なんだここは!」
「道が終わってるね」
「わ~、広~い」
「何だい何だい、ここは!!」
「おやおや、これは珍しい」
それぞれが思い思いの感想を発して暗闇を見つめる。
その中でもスイールだけは、少し変わった感想を漏らしていたが、誰も気が付いていない様だった。
皆の視線の先には、通路が終わり光の届かぬ真っ暗で広大な空間が広がっていた。
下を覗き込めば、地の底に松明の光が届かぬほどに深かく、落ちたらひとたまりもない事もわかる。
「こんな空間見たことないぞ。スイール殿、何ですかここは?」
「ここにも、こんな空間が残ってたんですね。これはこの地下迷宮の中央部分ですね。地下迷宮の遺跡は、大部分がこのような空間が中央付近に存在し、円状にぽっかりと穴が開いたように広がっています。他の国にある地下迷宮でも同じような空間が広がっている遺跡が多数ありますが、これほど広大な空間は珍しいですね」
ヴルフが疑問を口にすると、答えを知っている分だけスイールが説明をした。
ただ、この空間が何のためにあるのかは分かっていないとスイールは語るのだが……。
「何にしろ、これ以上の調査は無理でしょう。ここから降りる装備や調査に掛かる日数の食糧、何より私達の旅行の日程が足りません」
そして、スイールが暗闇の遥か上を向き、小さく光が漏れる場所を指し示す。
「それに上を見てください、小さく光が見えますね。おそらくですが、あそこから蛇が落ちてきたのでしょう。あの高さから落ちれば即死でしょうが、
地下迷宮の安全を確保するには、まず、天井から漏れる光源を探し出して塞ぐ必要がある。その後で地下深くを探索する調査団を送り込むのが正しいと思われるが、その判断はヴルフがする事ではないので、そのままを報告する事になるだろう。
「高さは分かるが、下はどれだけ深いんだ?石でも投げ込んでみるか」
もう少し情報が欲しいヴルフが穴の深さを探ろうと石を拾おうとする。
「あんた、バカ言ってないで、止めとくれよ。さっきみたいな、でっかい蛇が来たら対応困るだろうに!!」
シスターから止めてくれと声が飛んでくる。
それに、それ以外でも沢山の獣が現れたら、蜂の巣をつついたように大騒ぎになるのは目に見えていた。
「まぁ、ここまでの報告すれば良いから、帰るとするか」
シスターに怒りを向けられビクビクとしながら松明の灯りを頼りにも来た道を同じ時間かけて歩くと、瓦礫に塞がれた場所へとたどり着く。
「あぁ~、あそこをまた登らないといけないのか~」
「めんどくさ~い」
それを見た子供二人が面倒だと呟く。
「今回は少人数での調査ですから、次の大人数での調査時は、その瓦礫の山を撤去しちゃうんでしょうね」
「「それ、ずる~い!!」」
スイールの放った言葉に子供たちは地団太を踏み、理不尽だと声を上げた。
その瓦礫の山を登る前に、横たわる
頭部がエゼルバルドの魔法で燃えてしまったと言えども、体の大部分は焼け残っていたのだ。
「
皮をナイフで剥ぎながら、嬉しそうに言葉にする。十五分くらい掛けて、ある程度の皮を剥がし終えると、大事に背嚢に仕舞う。
「アンタ、器用だな」
「本当に器用ですね」
シスターとスイールが時間を掛けて皮を剥いだヴルフに声を掛けるが、ぶっきら棒な言い方が、褒めているのかけなしているのか理解に苦しむ。
「棘がある言い方だが……、とりあえず誉め言葉と受け取るとしようか」
溜息を吐きながら、大人の模範解答で二人に返した。
残った
「さて、こっちか」
調査も終わったので、さっさと上の階層へ戻ろうと上るスロープへと足を向ける。そして、スロープの入り口付近で、自分たち以外の生物の気配を感じ取った。
松明の光を掲げると、端に寄せた白い
幸いにも松明の光に反応せず
群がる小動物に目を向ければ、その中にヌメッとした不定形生物のスライムや大型化した
「気付かれる前に帰ってしまおう」
小動物の群れから離れて、ゆっくりとスロープへと向かい、その中へと体を滑り込ませる。気付かれずに無事にスロープまでたどり着き、上の階層を目指して上がって行く。
「あの
珍しい光景が見られたのか、何処かの研究者っぽくスイールが呟いた。小動物が大型動物の死骸に群がる光景など、めったに目にする機会は無いのだ。
そして、スロープを上りきり、地下一階に到着する。その先には生き物の気配がする事は無く、安全を確保できると喜んで声に出したのだが。
「脅威となる獣類がいないのは調査するには楽だな…、おっと!」
ヴルフが一瞬で身をかがませると、突然飛来した生き物が頭上をかすめる。黒い生き物は蝙蝠の一種だと思うが、ヴルフの声と動きに反応し飛び込んで来たのだろうか?
「危なかったな。当たったら結構痛そうだったが」
「よそ見して歩いているからじゃん」
「そーそー!!」
生き物に体当たりをされそうになったヴルフを子供二人が無邪気にからかう。暗い闇の中に、明るく無邪気な態度を見せられると、微笑ましく感じ顔が緩むのだった。
地下一階を何事も無く通過し、スロープを上ると暗闇に慣れた目に突き刺さるような眩しい日の光が飛び込んできた。
「外だ~!!帰ってきた~!」
「まぶしい~!!」
暗闇から飛び出る様に跳ねる子供二人に、足元に注意する様に促しながら外へ出ると、手でひさしを作りながら久しぶりの太陽を見上げ、帰ってきた実感を確認する。
「お帰りなさい。調査はいかがでしたか?」
地下への門を守る兵士達が、安堵の表情を見せながらヴルフへ声を掛ける。兵士達の経験上、比較的安全と言われる地下迷宮であっても、時折、危険な獣類と遭遇して怪我をする事が少なくないと知っているのだ。
その為に、怪我も無く無事に出て来たヴルフ達に安堵したのである。
その兵士達にヴルフは
「腹も減ったし、食事でもして報告に行くか。まだ行く場所があるなら、ここで解散でもいいが?」
旅の途中の四人に目を向けると、その申し出に皆が首を横に振りもう少し付き合うと言ってきた。ヴルフが食べる食事にも興味があったが、丁度、昼の時間になったので一緒に食べようと考えたのが理由だったのだが。
「それじゃ、昼は簡単に済まそうか。確か、こっちの方に屋台村があったはずだが……」
地下迷宮の入り口からゆっくりとヴルフは歩き出すのだが、自信無さげに歩く姿は何処となく頼りなかった。地下迷宮での頼もしさは何処へ行ったという様に。
しかも、その屋台村に到着するまでに同じ場所を三回も通った気がしたのである。
(もしかしてヴルフさんって方向音痴?)
(無事に着いたんだから、言ったら可哀そうよ)
エゼルバルドとヒルダがお互いの耳元で小さく失礼な事を呟く。二人はそれがわかっているから大きな声で話をしていないのだが……。
「ん?何か言っただろ!」
「「何にも言ってないよ~!」」
ヴルフには聞こえないと思っていたので、恐ろしい程の地獄耳に震え上がる子供二人であった。
屋台村にはサンドイッチから甘味のフルーツ、飲み物からアルコール飲料まで揃って道行く人々が思い思いの屋台で買って楽しんでる。
そして、五人は好きな食べ物を選んで購入し、屋台村の中央にある備え付けてのテーブルで食事を楽しんだ。
食事が終わり、一息吐くとスイールがどうするのかと尋ねる。
「ほれはら、いはいのほうほふにひひまふ」
「口に物を入れてしゃべるんじゃないよ!子供がマネするだろ」
他の人より二倍もお昼を買っていたヴルフは、いまだに咀嚼を続けながら聞き取れない言葉を発するが、それを母親が注意する様に、シスターが目を向ける。
さすがのスイールも、”あれじゃ聞き取れないな”と、怪訝そうな表情を向ける。
そして、食べ物を”ごくん”と飲み込んでから、話を再開する。
「申し訳ない。食事が終わったら、依頼の報告に向かう。ワークギルドはこの裏だからすぐだな。ついでに
「あの皮がどれだけの値が付くのか、気になりますね」
「それじゃ、食べ終わったらギルドに行くするか」
ワークギルドの場所を”クイクイ”と手を振って示すと、残りの昼食を口に運び急いで食べるのであった。
食事をした屋台街の裏手、海の街アニパレのワークギルドに到着した。ブールの街とは違い、人口に比例するような大きな建物が目に入ってくる。
入り口を潜ると、ロビーには依頼を確認した報告をしようと、沢山の人が出たり入ったりしている。
探検家や戦士だけでなく、貴族なども見えるが、その中でも特徴的なのは漁師の格好をしている人達だ。遠くへ漁に出る船乗りの募集でもするのかと気になってしまう。
「こんにちは」
ヴルフがカウンターで依頼書の処理をしている女性に声を掛ける。
「あ、ヴルフさん。もう帰ってきたんですか」
パッと顔を上げると、感じの良い美人の女性が声を返してきた。ブールの街の受付のキャロも美人であったが、彼女とはタイプが違うようだ。
白いシャツに黒いズボンはギルドの制服でこの国共通なのだが、シャツがぴちぴちとしており、胸元のボタンが今にもはじけそうであった。ボタンが弾けそうな胸元に目が向くのは何も大きさだけでなく、左胸に名札が付いている為でもある。
名札には【エッタ=ノーブル】、その様に書かれていた。
「知り合いに手伝って貰ったからな。おかげで時間も短縮できたし、良い物が手に入ったからついでに換金をお願いしたい」
「お知り合いですか?それに良い物とは?」
「ああ、知り合いだ。ブールの街で知り合った魔術師とそのお連れ。そして良い物ってのは、これだ。
スイールたちを紹介しながら、背嚢から地下で剥ぎ取った
暗がりで見たときはわからなかったが、きめ細かく綺麗な、そして傷の無い鱗が輝きを放っていた。十分な大きさがありかなりの価値がありそうだった。
「地下迷宮に
チラッと一瞥しただけで、どれだけの価値がありそうかと見極める辺り、常日頃から見慣れているのだとよくわかる対応であった。
「それじゃ、頼む」
「それと、地下迷宮の報告でしたら、依頼主の方がいらしてますから、直接お話ししていただくと手間が省けるはずですよ」
「それなら、そちらに話すとしよう」
「依頼主の方をお呼びしますので、少しお待ちくださいね」
エッタは
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