第四話 三日目の観光と地下迷宮へ【改訂版1】

 海の街アニパレで過ごす三日目は街の流行りもの、つまりは観光客に人気の場所へ足を運ぶことにしていた。

 今の流行りは、演劇だと神話を元にした演目が、闘技場では人と人との試合が人気を得ている。


 演劇は、他国からの侵略を撃退した将軍物や世界を滅ぼそうとする大王との戦いを神話から抜き出し演じている。

 やはり、救国の英雄は人気があり、ここ数年は同じ様な演目が続いている。


 闘技場では真剣を使うことは少ないが、人と人との一対一、もしくは複数対複数の対戦が人気だが、王国公認で賭け試合をしており、大手を振って賭け事をしているのが人気の実情である。


 また、野生の獣を捕まえてきて対戦させるなどもする場合があるので、血を見るのが好きな市民達からも支持を得ていたりする。ただ、それに反対する市民団体も多数いるので、全ての市民に受け入れられている訳では無い。


 今回の旅行では、血なまぐさい闘技場ではなく、ブールの街でなかなか見られない演劇を観劇する事になった。

 演目は神の山に挑み、竜種を討伐した英雄の物語を見る事にした。


 ホテルで演劇の案内がされていたので確認すると、その上演は午後からであったので、午前中はまったりと、昨日の続きの買い物を楽しむことにした。

 先日、買い物に乗り気でなかったエゼルバルドは、思った事があり、こっそりと女性に贈るプレゼントを購入していた。それは、綺麗な銀色の髪留でシンプルなデザインの中に、控えめに飾りや彫刻がされており、どんな服装にも合いそうだった。

 女性に贈るとしたら無難なのかもしれないが、何より手持ちの金額で買える物であった。


 そろそろお昼の時間になると、オープンテラスのレストランで珍しい海の幸の料理をいただく。この日は海の幸の中でも珍しい、深海魚が捕れたとかで、グロテスクな顔の魚がお皿の上に並んでいた。

 味の方はと言えば、淡白な味わいであったと付け加えておく。


 ちなみにこのレストランでは、テーブルの上にグロテスクな顔が並ぶ事になり、小さなお子様はそれを見て大泣きし、母親になだめられている光景が店内で多数見られた。そして、魚の顔が怖いとクレームを付けられて、平謝りしている店長の姿が市民の哀愁を誘っていたのである。


 観劇までに多少時間が余ったので、スイールが珍しく、率先して入ろうと提案されたお店があった。人気の紅茶専門店であった。

 トルニア王国では、気候や風の影響で茶ノ木が育たず、すべて輸入に頼っている。

 そして、入ったこのお店だが、王都にあるに本店で一括仕入れをしており、そのうち半分の量をここ海の街アニパレの支店へと運び込み販売しているのだ。


 スイールは最高級の紅茶を買おうと意気込んでお店に入るが、さすがに金額を見て諦めていた。最高級茶葉は百グラム当たり、大金貨一枚もしてしまうのだとか。

 なので、百グラム、銀貨一枚の高級茶葉を三百グラムと銀のメッキを施したやかんを購入していた。


 そして、支払い時に店員から、美味しい紅茶の入れ方のパンフレットを貰っていた。

 そこは抜け目が無いようである。


 余談ではあるが、現実世界のダージリン、ファーストフラッシュは値段が付かない場合もあるとか、ないとか。


 ~~閑話休題~~




 そして、ブラブラとウィンドウショッピングを楽しみつつ、目的の演劇上へと移動する。


 演劇上に到着すると大きな看板に演目の”神々からの挑戦、竜を倒した男”と書かれており、エゼルバルドとヒルダはそれを口を開けて珍しそうに眺めていた。

 実際、ブールの街に演劇上は無いので、こんな大きな看板は珍しいのである。


 その演目のストーリーであるが……。


 神から、『まもなく地上は竜により滅ぼされる。無駄なあがきはするな』と、神託があった。そこに、預言者より伝えられた勇者が現れ、三種の神器を世界を旅して探し出し、灼熱の火山で竜と対決して、その竜に打ち勝ち、その後、人々から王になってくれと崇められる。


 簡単に説明すると、そんな王道物語であった。


 この物語は、神からの神託や預言者がいたかは不明なのだが、火山に住まう竜を倒した事は事実として伝わっている。

 観劇を見終わると、すでに日が傾き、夜の帳が訪れようとしていた。


 初日、二日目と違うレストランで海の街アニパレ名物の食事を楽しみ、満足していた。

 だが、この日入ったレストランは少し味が今一で舌鼓を打つまでにはいかなかった。味は不味いまではいかないまでも今一だったが、皿に乗ってくる量は昨日までのレストランの倍ほどあり、食べ終わった時には皆が腹を押さえて”もう入らない”と苦しんでいた。


 ちなみに、その量に目を輝かせていたのは成長期の子供二人であり、大半をお腹に詰め込んで満足そうにしていた。

 スイールとシスターはと言えば、大量に食べる二人を見て胸やけを起こし、ぶつぶつと呟いていたとかいないとか……。




 腹ごなしにゆっくり歩いてホテルへ帰ると、ロビーには緑色の毛皮を持ったヴルフがロビーをきょろきょろと見回し落ち着かない様相で待っていた。

 一応、飲み物を注文したようで、カップの中身は既に空になっていた。


「お、スイール殿、今お帰りですか?早く来すぎてヒマしておりましたわい」


 ”がはは”、とヴルフの笑い声がホテルのロビーに響き、カウンターで見ていたホテルマンが渋い顔をしている。


「ずいぶん早かったのですね」

「そうそう、昼過ぎに森に入ったんだけど、いきなり緑の熊、グリーンベアと遭遇してな。そこで討伐して、血抜きとか、依頼の報告をして、この時間よ。で、これが証拠。毛皮だけもらってきた。使えない部位だからとな」


 緑色の毛皮をポンとテーブルに置いて、何処の部位だ、どうやって倒した、など、事細かに説明をしている。それをキラキラと輝いた目をして、興味深く耳を向けるエゼルバルドとヒルダ。


「そうそう、明日なんだが、地下迷宮ラビリンスに行くんだ。一応、武器は用意した方が良いけどよ、どうする?来るか」


 そして、翌日の行き先をスイール達に告げるヴルフが、子供二人に向かって来るかを聞いてみる。


「ほほう、地下迷宮ですか、今後の勉強の為に、二人には是非見せたい所ですが……」

「なんか楽しそう!」

「絶対、行きたい~~」


 飛び跳ねて喜ぶエゼルバルドとヒルダを見れば、ヴルフの申し出を受けぬ訳にはいかないだろうと、シスターは諦めて付いて行く事にする。

 当然、スイールは二人を見て嬉しそうに顔を歪めるのである。


「それじゃ、決定だな。夜明け頃に迎えに来るから、用意して待っててくれ。じゃ、オレは帰る。それじゃ」


 夜明け頃に迎えに来ると言い残し、挨拶もそこそこにヴルフは帰って行った。

 ヴルフを見送った四人であるが、そこでエゼルバルドがスイールに質問をするのである。


「あの~スイール。地下迷宮ラビリンスって何?」


 知って喜んでいると思っていたスイールは子供二人を覗き込むと、同じように首を傾げてスイールを見つめている姿を見てしまった。

 エゼルバルドだけでなく、ヒルダも良くわかっていない様だった。


「地下に何時、誰が作ったのかわからない遺跡があるんですよ。地下数メートルから数十メートルに広がる迷路のような遺跡。そこから、いろいろな武器や古代の道具が見つかっていて、それを総称して地下迷宮ラビリンスと呼んでいるんです。明日、遺跡に入ったら、いろいろとお話ししてあげますよ」


”ふ~ん”と頷くエゼルバルドとヒルダ。

 あまりピンとこないが、不思議な物だろうと思うと、その日はベッドに入ってもなかなか寝付けないでいた子供二人であった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 旅行四日目の朝は、夜が明ける一時間前に四人は目を覚ましベッドから飛び起きる。

 地下迷宮に向かうには準備がかなり重要だ。


 ある程度の暗闇に強い獣達が出る可能性もあるので、服の下に鎖帷子を着込みエゼルバルドにはスイールが念のためにと用意したショートソードを持たせる。ヒルダには杖代わりの棒を持たせる。


 傷薬や携帯食料、その他必要と思われるものを背嚢バックパックへ詰め込み、スイールが背負う。

 そして、部屋の鍵を閉め、手洗いを済ませてからロビーへ出ると、ちょうどヴルフが入ってきたところであった。彼の装備は特徴ある棒状戦斧ポールアックスを持たず、刃渡り八十センチのブロードソードと小型の手斧を腰にぶら下げていた。


「おはよう。準備は……出来ている様だな。早速、出発しよう」


 夜明け前の早い時間のために、小声で挨拶をサッと済ませる。スイール達の支度を一通り見たヴルフは、時間が惜しいのか早速向かう事にした。


 向かう先はアニパレの街の東側、武器や防具、そして鍛冶屋などが集中して集まり、探検や旅に必要な店が集まる場所だ。街の東側にその手の店が集まるのは、地下迷宮のためではなく、そこから旅立つ人達のために集まっているのだ。


 その街の東側の一角に、国軍の兵士が二人で塞いでいる入り口が見えて来る。


「今日はここから入る。許可を得た調査員と同行者のみが入れる地下迷宮なんだ」


 海の街アニパレという、観光客でごった返す観光都市に不釣り合いの様に存在する地下迷宮。むやみやたらと入られない様にと入り口を格子状の門で閉じ、兵士が四六時中見張っている。


 見張っているのは観光客に入られない為と、地下から脅威となる獣が出てこないかを見張る為であるが、今までこの入り口から脅威となる獣が上がってきた事は一度も無かったりする。


 ヴルフが今回の調査用の許可証を兵士に見せると、兵士達は格子状の門を開きヴルフ達を地下迷宮の入り口へと案内した。

 十一、二歳の子供が同行しているのに、兵士が簡単に通した事にびっくりしたのはシスターだった。調査に子供が同行して良いのかと尋ねようとしたが、兵士達は何時もの事だと取り合わずにいた。


 この地下迷宮は剣を扱える大人が二、三人同行していれば、それほど危険が無いのだと兵士達は認識していた。それ故に、剣を携えるウルフと魔石の付いた杖を握るスイール、そして、軽棍ライトメイスを握るシスターがいれば戦力として申し分ないと見ていたのだ。


「それじゃ、入るぞ。足元に気を付けろよ」


 ヴルフが松明を一本取り出し、先端に生活魔法の種火ファイアで火を点ける。暗い闇から冷たい風が吹き抜けて松明を瞬かせるが、火を吹き飛ばす程の力は持ち合わせていない。

 戦闘のヴルフが暗闇に一歩足を踏み入れる。そして、二歩、三歩とゆっくりと進み始めるとその後を付いて、エゼルバルド、ヒルダ、シスター、そしてスイールの順に入って行く。


 入り口を潜るとすぐに地下へと進むスロープとなっていて、地下へと螺旋状に伸びている。

 スイールが地下への入り口を潜ると杖の先端に生活魔法の灯火ライトを掛けて、ヴルフのオレンジ色の光を放つ松明と違い、魔法の白い光が煌々と照らし始める。


「ねぇねぇ、ヴルフさん。魔法で明かりをつけるんじゃなく、なんで松明を使うの?」


 先頭のヴルフの後ろで、首を傾げてエゼルバルドが質問をした。スイールは便利な魔法を使っているのに、何故、先頭のヴルフは松明という、物理的に燃える道具を用意したのか疑問に思ったのだ。


 それを聞き、先頭を行くヴルフは嬉しそうに顔を崩してそれに答える。


「おぉ、いい所に気が付くじゃないか。地下ってのは風向きや空気が無いところがあるんだ。松明の炎が弱くなったら空気が無くなる前兆だし、燃え過ぎるときも逆に危ない。行くか引き返すかの一つの目安になるんだ」


 それに”ほおぉぉ~~”と声を出して頷く。


「だけど、燃えやすい所には持って行けないぞ。例えば目の前に粉が舞ってるところなんかはな。その時は爆発するから気を付けるんだぞ」


 真剣にはなすヴルフにエゼルバルドはもちろん、その後ろに続いていたヒルダも”へ~”と真顔で感心していた。


「探検家なんかはそれを良く知ってる。オレもその人たちに教わったんだけどな。あとは、街中じゃなく、郊外にある地下迷宮は盗賊とか、知能を持った亜人が住んでいてる事もある。そこには自分たちの盗んできたものを箱に入れて侵入されても、それをすぐに盗まれないように罠を仕掛ける輩もいるらしい。それらを探し出す”トレジャーハンター”ってのもいるけどな。探検家とトレジャーハンターはちょっと違う職種だな」


 スロープで地下へ進む道すがら、色々な話を聞かせるヴルフ。まだ順調に松明は燃えており、安全が確保されているからこそ、聞かせているのだろう。

 その証拠に、まだ剣さえ、鞘から解き放っていないのだ。


「そろそろ地下一階にに到着だ。ここからは気を付けていくぞ。武器を出しておけ」


 ヴルフは左手に松明を持ち替え、鞘からブロードソードを引き抜くと、広くなった通路の闇をかき分けながら進み出すのであった。

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