第五話 最初のプレゼント【改訂版1】

 エゼルの選択に若干の後悔の念を抱いたまま、宿を後にし、仲の良い親子の様な姿で教会のシスターの下へと向かう事にした。宿と言っても守備隊詰所や教会から近い場所を選択していたのでほどなくして教会へと到着した。

 小さな子連れともあれば、不思議な目で見られる事もあるが会話に夢中だった二人はその視線を無視していた。


 ”カラ~ン!!カラ~ン!!”

 教会の裏のシスター達の生活の場がある玄関からの呼び出しの鐘が屋敷の中に響く。


(おや?こんな朝早く、教会に何の用があるのかい?)


 敬虔な信者が極稀に訪れる事はあるが、それは教会に用があり、神父やシスターが生活するこの母屋への来訪など有りえない。いつもの”変り者”であれば大声で叫ぶはずで鐘を鳴らすなど有りえないと違和感を覚えつつ玄関のドアを開けると、予想だにしなかった男が立っており、びっくりして声を上げるのであった。


「はいは~い、って、おおぉ!!あの”変り者”が鐘を鳴らすなんて、この世の終わりでも来るのかね!」


 鐘を鳴らせと怒鳴れれ、鐘を鳴らしても驚かれる。いったいどうすればよいのかと困惑気味に苦笑するのであった。


「シスター、おはようございます。昨日は鐘を鳴らせって言われて、鳴らしたら鳴らしたでそんな言葉で返されるのも心外なんですけど。まぁ、昨日の今日でまた訪問で申し訳ないと思ったから言われた通り、鐘を鳴らしたのですけどね」


 昨日は初めてシスターと会い緊張していたが、二回目の顔合わせとなればおどおどする事も無くシスターに顔を向けていた。そして、エゼルと視線が合うと、にっこりと目じりを下げて微笑み、話を始めた。


「昨日の今日って事は、その子の事だね?」

「そうです。それでまた、お話がありまして……」

「っと、その前にだ。立ち話もなんだから、今日もこちらに入っておいで。さ、エゼル君だっけ?君も入った、入った」


 スイールが玄関先でエゼルに事について話そうとしたところで、シスターはその話に割って入る。そして、話の場を変えようと通された場所は、昨日と同じ応接室だった。


「で、話ってなんだい?」


 訪ねてきた二人が椅子に座り、一息ついたと見てからシスターが掛け声を掛けて椅子に座り、先ほどの話題を検めて聞き始める。


「エゼル君ですが、孤児院で預かって貰いたいんです」

「やっぱりそのことかい。いいよ、預かるよ。スイールの頼みだからね。それで、この子は何歳なんだ?」

「来週の二十日で四歳になるそうです」

「ほうほう、学校は一年と少し先か。ウチで預かりながら学校へ行ける準備をしといてあげるよ」

「ありがとうございます。それで、当分、何かと入用ですので、これでいろいろ買ってあげてください」


 シスターが快くエゼルの身元を引き受けてくれると聞き、深々と頭を下げた。

 頭を上げると、斜に掛けた鞄から、事前に用意してあった紙の包みを取り出し、シスターの目の前へと置いた。

 見慣れぬ大きさの包みを手に取り、包みを開け中を確認すると、時間が止まったかのようにシスターの動きが止まってしまった。数秒後、我に戻ったシスターが大声を上げた。


「な、何だこれ?なんで、こんな大金をくれるんだい?」


 包みから出て来たのはシスターに馴染みの無い金色をした大判型の貨幣、大金貨が二枚だった。当然ながらポンと無造作に出されれば、経営資金が少なく、やりくりが大変な孤児院を経営するシスターは驚くのも当然である。


 それに、街中では大金貨を扱える商店がほとんどないのも理由だろう。もし、あるとすれば、貴族御用達の高級店や両替所くらいである。


「”何だ”と言われましても、エゼル君の養育費と言いましょうか、服とか勉強道具とか、必要な物をそれで揃えて貰いたいと思いまして。その大金貨はどこかで盗んだとかではないので大丈夫ですよ。何か不都合でもありますか?」


 シスターに渡した大金貨の使い道を淡々と説明するのであった。

 大金貨を出され淡々と話すスイールに、常識は何処かへ置いて来たのかと、呆れるばかりであった。




 話の途中だが、この世界のお金の価値がどのくらいなのかをご説明します。


 今、スイールが渡した金色の大判が大金貨です。この上に白金貨(プラチナの金貨)がありますが、これは普通の人が持つものでなく、国が管理するために必要な貨幣となります。

 ですので、一般の街中に流通する貨幣の中で、大金貨が最大となります。

 貨幣で、すべて支払われますが、その貨幣の価値は以下の様になっています。


 鉄貨<銅貨<銀貨<大銀貨<金貨<大金貨<白金貨


 鉄貨が一番安く、白金貨が一番高くなります。


 日本円にすると、一個当たりの価値は以下の通りです。、


 鉄貨:十円

 銅貨:百円

 銀貨:二千円

 大銀貨:一万円

 金貨:十万円、

 大金貨:五十万円

 白金貨:五百万円


 一般の市民が普段の生活を送るうえで、財布に入れている貨幣は大銀貨の一万円まででしょう。食料品であれば銅貨か銀貨賄えます。


 スイールがここでポンとシスターに渡したのは、大金貨が二枚ですから、日本円に換算すると百万円となり、それをスッと出すのですから、彼は相当なお金持ちだと疑われるのです。

 小さい子供の孤児院の生活に百万円は普通は驚くでしょうね。


 ちなみに、紙幣が無いのは金本位制度なのと、紙幣の価値を各国が保障出来ないためです。


 ~~閑話休題~~




「それにしてもこれは貰いすぎだと思うけど。スイール、あんたってホントは何者だい?」

「シスター、何か勘繰ってませんか?ごく普通の魔術師で薬草に詳しい薬師も兼ねてるってところですよ?それだけですよ」


 あれだけの大金、しかも金貨を十枚でなく、大金貨を二枚出して来れば勘繰ってしまうのは当然であろう。


「まぁ、その言葉は信じるてやるけどね。それじゃぁ、早速……、孤児院のみんなをエゼルに紹介し・よ・う・か・ね!!」


 声に合わせて応接室のドアを開けると、”ドサドサドサッ!!”っと、聞き耳を立てていた孤児院の子供たちが耐えきれずに倒れて来た。子供達は見つかってしまったと苦笑しながら逃げようとしたが、後の祭りであった。


「好奇心旺盛な、この子達だろう……」


 シスターは腰に手を当てて、溜息を吐いた。

 いつも悪戯ばかりで迷惑を掛けて来るが、”変り者”のスイールが客人とは言え、聞き耳を立てるなど、後で説教をしなければと頭を抱えるしかなかった。


 その光景にちょうど良いと、子供達に号令を掛けて整列させると、各々の名前を言わせた。


「ポーラです」

「アルタヤです」

「マルグです」


 子供達は銘々で自分の名前を叫んだ。

 年齢順に女の子、男の子、男の子で並んでいる。子供たちは皆が仲が良く、鬼の形相をしているシスターに視線を向けられても笑顔を見せていた。


「ポーラが一つ上で来年、幼年学校だね。アルタやとマルグがエゼル君と同じで、今年四歳だ。学校に行ってるのが二人いるから帰ってきたら紹介しようかね。ほら、エゼル君も挨拶しな」

「エゼルです!よろしく」


 シスターに促され、椅子から立ち上がると大きな声で叫ぎ、ちょこんと頭を下げた。他に二人の子供がいるとシスターに紹介される。

 学校からここにいない二人が帰って来た時に紹介されるが、リイヤが男の子でリースが女の子、共に七歳である。


「みんな元気だね。スイール、どうするんだ、このまま預かっても大丈夫かい?」

「エゼル君はどうする?このままここに居るかい?」


 エゼルの顔を見ながら、彼の意思を尊重し、どうするかを尋ねた。


「うん、ここにいる。おじちゃん、またくるんでしょ?」

「そうだね、君にあげたい物とかあるから、用意したらまた来るよ」

「じゃ、だいじょうぶ」


 ”そうかそうか”と満足げなスイールは、エゼルの頭をごしごしと撫で回す。エゼルとしては少しだけ迷惑だと思うが、すぐに終わると思い、我慢をしている。

 その後、シスターはこちらで預かることを確認して、エゼルを含む六人に遊ぶように促すと、五人の子供達はエゼルの手を引っ張って、屋敷の奥へと消えて行った。


「スイール、この子の事は任せてもらうよ。そうそう、常備薬が切れそうだから、持ってきてくれるか?数日で用意できるだろ」

「それじゃ、薬を用意してにまた来ますね。今度は薬以外にエゼルにも渡す物も持ってきますから。エゼルの事、よろしくお願いします」


 シスターが”任せておきな”と、胸を叩いたのを見て、シスターと別れるのであった。




 スイールは孤児院へエゼルを預け一人になると、昨日も足を運んだ守備隊詰所に向かった。


(二日で三回も足を運ぶとは、私はどうなってしまったのか?)


 ”変り者”が本格的に”変り者”となってしまう気がした。


 守備隊詰所に到着するが、昨日と違いジムズを呼び出して貰う。そして、二人で領主館へと足を向ける。


 領主館はこの街の政治の場であるが、同時に身分証の発行や各種手続き、そして訴えなどを聞く場所である。そして、ここで登録された情報は一月に一回ほど、王都へ届けられ集中管理される。


 今回ここに来たのは、エゼルを孤児院で住まわせるための住民登録をするためである。ただし、スイールは孤児の登録の仕組みがわからず、、役人であるジムズを頼ったのだ。

 ちなみに学校へ通う子供達は入学に際して身分証が必須のため、通う前に大体の親はここで身分証の発行をしている。


「あら、守備隊の隊長さん。今日はどうされました?」


 領主館の受付で暇を持て余しているのか、その女性がジムズを見つけて話しかけて来た。


「いや、な~に。孤児院に子供を一人預ける事になってね、いろいろと登録しなくちゃいけない事があったと思ったからやってきたんだ。窓口はどちらかね?」

「それでしたら、あちらの住民登録をしている窓口に進んでください。今日はまだ人も少ないようですから、すぐ始まりますわ」

「ありがとう。スイール、行こうか」


 案内の女性に手を上げ礼を言うと、二人はそろって窓口へ顔を出す。そして、先程の言葉通りに暇を持て余している窓口の男性に声を掛ける。


「子供の登録なんだけど、この窓口でいいのかな?」

「はい、大丈夫ですよ。って、守備隊の隊長じゃないですか。どうしたんですか?」


 急に良く知る目上の人が来たので、驚いてどもってしまったようだ。

 さらに、その横にいるスイールを見て、もう一度驚く。


「街の有名人が二人して、子供の件ですか?」

「そう。まぁ、話が長くなるので割愛するが、このスイールが子供を保護してね。その子供の親が見つからないから孤児院で見てもらう事にしたんだよ。後々、学校に行くことを考えると、住民登録をして身分証を渡してあげようと思ったんだ」

「なるほど。それでは、住民登録をしますので、こちらの書類に記入してください。あ、住所は孤児院にしますので未記入でお願いします。それと、フルネームは分りますか?」


 窓口の男性は横の書類入れから未記入の用紙を取り出し、二人の前に差出し記入を求めた。だが、そこで二人は顔を見合わせて、”しまった”と思った。よく考えたら、ファーストネームはエゼルバルドだが、ラストネームが不明だった。調査の時にファーストネームはなんとか聞き出したが、ラストネームの事は完全に失念していた。

 二人は完全に失敗だと頭を抱える事になるが……


「申し訳ない。ファーストネームは分るんだが、ラストネームを本人が知らないんだけど、どうすれば良い?」

「そうですね。親御さんもいらっしゃらないようなので、お二人でプレゼントしたらいかがですか?将来に通用する、素敵なお名前を」


………

……


 それしかないかと思い、アイデアの湧かない頭をひねり、ようやく見つかった幾つかの候補の中から、一つの言葉を絞り出した。


「エゼルは賢い気がするんだ。そこで優れているって意味でメイヤーなんてどうだい?」


 ジムズは一つの提案をしてきた。


 【エゼルバルド=メイヤー】


 ファーストネームが少し長めだから、バランスが取れているか?なんか、頭良くなりそうなラストネームかな。良い感じがする。

 スイールはそのように感じたのだ。


「良し、それでいこう。メイヤー、エゼルバルド=メイヤーだ」


 スイールはこれで決まったと満面の笑みを浮かべる。

 初めてのプレゼントが素敵な名前になるなど、思ってもみなかった。


「素晴らしいお名前ですね。それでは、そのお名前で登録いたします。保護者、いや、親子にされますか、それとも後見人制度を使用されますか?」

「それなら後見人で。私、スイール=アルフレッドでお願いする」

「はい、承知しました。それでは書類はこれでお預かりします。身分証は数日で出来上がります。その後スイールさんのご自宅に、完了の封書が届きます。お手数ですが、そちらをお持ちになって、この窓口までお寄りください。その封書と引き換えにお渡しとなります」

「ありがとう、これで一つ肩の荷が下りたよ」


 ホッと胸をなでおろし、二人は受付の男性に礼をして領主館を後にした。

 その後、ジムズは当然、守備隊の詰所へ、スイールは自宅へと戻っていった。




 スイールとジムズが領主館で無い頭をひねっていた時、エゼルは孤児院の子供から質問攻めにあったり、遊んでいたりと、すでに仲良くなっていたのである。




※孤児の名前の付け方は結構いい加減です。

親も居ない、ラストネームもわからないであれば、勝手につけてもOKなのです。

そこら辺はゆるゆるです。

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