21. 大姫の約束
唐糸を責めるのは、横に立った
さらに二人は枝を叩きつけようとして… 突然動きを止めました。なぜか、腕が動かなくなったのです。
唐糸「…どうした、なぜ止めなさる。存分に打ちなさればよかろう。ほら打て」
そして彼は立ち上がり、手近な刀を拾うと、その鯉口をゆるめながらズカズカと唐糸のもとに近づこうとしました。これを
こう言い残すと、
少しの間だけ、この部屋には
唐糸は何が起こったのかよく分かりませんが、ともかく自由になった手足を動かして縁側に駆け寄り、涙ながらに、義高に話しかけます。「
ここで、人の足音がしましたので、二人はすばやく会話をとめて、義高は部屋の真ん中へ戻り、そして唐糸は建物の陰に隠れました。
明かりをもった
義高と大姫は、ここで静かに三三九度の盃を交わし、これで公式に夫婦となったのです。女房たちは、千秋万歳を唱えました。儀式の間、大姫は、はじめて会う夫の顔をまともに見ることさえできずに、恥ずかしさにうつむいたままでした。やっと勇気を出して
刻を告げる鐘が鳴り、
薄明るい灯火の中、部屋に残された
こう冷たく言い捨てて立ち上がりかけた
唐糸が、身を隠していた物陰から現れました。「そのことなら心配はいらない、私もついていくからね。…おや、驚いているね。義高さまは、私のクサリを断ち切ることくらい、たやすくやってのけるのですよ。さあ、私が一緒に行くからには安心だ。お前が危ない目に会わないようにもできるし、お前が裏切らないように見張ることもできる… そうそう、あなたの上着を一枚、私に頂戴。屋敷を歩いてても不自然でないように」
大姫は、もうどんな言い逃れもできないことを悟りました。黙って、上着を脱いで唐糸に渡すと、ゆらりと立ち上がり、歩き始めます。
大姫「…着きました。この
義高「よし。オレはこちらから侵入する。唐糸は、大姫を連れて、部屋の向こうの廊下に行け。頼朝が万一逃げた場合は、そちらで片づけるのだ」
唐糸「おまかせください。では大姫よ、連れていっておくれ」
大姫は、唐糸を連れて廊下を曲がる直前に、義高を振り返りました。自分も、彼も、風の前に今にも消えようとしている
義高はすこし待ち、もう準備は大丈夫だろうと見当をつけてから、いよいよ几帳の中に走り入ろうとしました。そこにぼんやりとした人影が、二体あらわれました。
「いけません…」
義高が驚いてよく見ると、これは、いつか出会った、
義高は激怒しました。「今すぐ、復讐はかなうのだ。どけ。どけ! お前らにとってのカタキでもある頼朝だぞ。どうしてあいつの肩を持つ!」
義高「うるせえ!!!」
義高は絶叫して刀を抜くと、この亡霊たちを横殴りに消し飛ばしました。そうしてその勢いで几帳に突入し、フトンに刀を突きつけました。「起きろ。起きろ!」
フトンには誰も寝ていません。
そして、ハンガーにかかった麻衣に、一首の句が書かれた紙が貼ってあります。
夏くればふせやが下にやすらひて しみづの里にすみつきぬべし
この句は、義高がはじめて
義高「もう深入りしすぎている、逃げる道はない… いや、それがどうした! オレの妖術をもってすれば、何も怖れるものはない。これしきで、オレは止まらんぞ」
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