15. 残された人々
さて、復讐の鬼となった
京の、と書きましたが実際はすこし違います。領地をすっかり召し上げられて貧しくなった
これと反対に、
母「見よ、ワシは自分のことくらい自分でできる。ワシにかまうヒマがあったら、
正忠「わかった、わかったから…」
こんなギリギリの暮らしを続けていましたが、ある日、手元の金はついにすっかり尽きてしまいました。もう、
正忠「金だ、金がなければ… 人間、どんなに頭が切れようと、腕がたとうと、貧乏には勝てん…」
正忠は、こちらのアイデアはアリだと思いました。「うん、千江松はそろそろ乳離れさせることも可能だ。だから、乳母に出られるな。すまぬ、それだけが頼みの綱のようだ…」
正忠「…と、こういうワケなのだ。乳母の仕事があれば、ぜひ紹介してくれ」
婆「うむ、多少の心当たりはあるから、いったん帰って、ちと待っておれ」
ところで、夫婦がこう決めたころから、たまたま
正忠「おお、少しだけ未来が明るくなった。仏の助けだ。さっそく
正忠が出ている間、
八重垣「いつもありがとう。あら、表で、千江松が泣いているわよ。私の世話なんてほどほどにして、あの子にお乳をあげておいでなさい」
庭を横切った向こうのあたりに橋があり、そこをたまたま、伴人を多く連れたカゴが通って行きました。カゴがすこし開いて中の人がこちらを眺めたようにも見えますが、定かではありません。
やがてカゴは見えなくなりました。
婆「あんたか、
婆「由緒ある武家の奥方じゃ。鎌倉から来たが、つい最近まで京に留まっておった。そして、これから東に帰るところなんじゃ。すぐにお主を雇いたいという」
婆「そんな猶予はないぞ。今を逃せば、もう機会はない。さっき、その奥方は、カゴの隙間からお主を見た。そして、一発で気に入ったらしい。おぬしも、すぐに決断しないと」
あまりの急展開に
武士「
10両の小判が、花びらのようにビラリと並べられました。予想外の大金です。
武士「そのくらいの時間はある。しかし、急がれよ」
そうして悲しみを振り切るように家を出ました。庭には正忠の母もいますから、彼女の耳に口を近づけて、一言、お別れを言います。ただし、本当のことは言いません。目が見えないのですから、何が起こっているかはよく分からないのです。
母「あい、あい、気をつけて」
母「あい、あい」
これで、皆への別れはすべて済ませたことになります。
この物音で起きてしまった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。