14. モンスター
重忠「わかりました」
こういうわけで、重忠と妻・
頼朝「まあ、今回の失敗をすでに
さて、鎌倉を逃亡した
夜中にドンドンと石田の宿舎の門を叩いた、編み笠を深くかぶったその男は、出てきた門番に「オレは昔、石田さまに命を助けられた者だ。火急の一大事をお伝えしに参った、すぐに取り次いでくれ」と、慌てた表情で伝えました。
石田の家来、
男「わけあって名は言えませんが、オレは昔の恩返しをしに来たんです。
男はこれだけを伝えると、自分自身も、大急ぎで走り去ってしまいました。
このことを伝えられた石田は真っ青になりました。「
石田「ここは、ほとぼりが冷めるまで、逃げるしかない。いつかは名誉挽回のチャンスも訪れるかもしれんが、今はだめだ。大勢ではすぐにバレるし、フットワークも重くなる。
こうして、石田と堀江はたった二騎で裏門から飛び出し、箱根の方向に猛スピードで逃げ去りました。門番たちは何が起こったのかを大体知っていますから、このことは家の者全員がすぐに知るところとなりました。部下たちで、石田に心から従っているものは一人もいませんから、みな、家の財産を盗めるだけ盗んで、全員が
それはともかく、二騎の主従は、猛スピードで馬を駆り、やがて箱根路に分け入りました。馬は乗り潰してしまったので、そこからは徒歩です。風にゆれる
しかし、いくらなんでも疲れ果てましたので、ある地蔵堂のあたりで、二人は切り株に腰を下ろしました。
石田「かつてこの手で
石田「そうだといいがな。しかし腹が減った。さしあたり、メシを食わねばいかんが」
そう言いながら地蔵堂に近づいた堀江の
石田は、これを見て驚き、自分自身は手近な松の木の後ろに体をかくそうとします。しかしもう一発撃ち出された手裏剣が、今度は石田の右手首を貫き、それは松の木に刺さって彼をそこに縫い止めました。
石田「うああっ」
激しい痛みにうめきつつ、彼はもがいて、これを松から外そうととしますが… さらに間髪を入れず打ち込まれた手裏剣が、今度は彼の左手を松の木に縫い付けました。
十字の形に固定されてしまい、石田は「許せ、許してくれ」と叫びました。
そこに、扉をあけてぬっと出てきた男は、
男「われこそは、
石田「ひ、ひいっ」
義高「お前の手下が
義高「唐糸は、今夜のチャンスを生かせず、惜しくも頼朝の暗殺には失敗してしまった。このままでは、お前もまた、唐糸の共謀者として殺されてしまうのみ。それは避けねばいけなかった。お前は、オレが殺すのでなければならんからだ」
義高「そのために、オレはお前をあえてここにおびき寄せた。さっきお前に逃亡をそそのかしたのは、他ならぬこのオレだ。覚悟せよ石田、わが父のカタキ。オレは今やみな知っているのだ、お前が間者として木曾の軍に潜入したことから、
石田「お、オレがお前の父のカタキとは、とんだ見当違いだ」
ギラリと刀を抜いて殺気満々の義高を前に、石田は身をもがきながら必死に弁解します。
石田「
義高「恥ずかしくないか、だと? ではお前はどうやって父を殺した。仮にも
義高は刀を振り上げて、まず石田の左足を打ち落としました。そして、存分に彼に泣き叫ばせてから、つづいて右足を打ち落としました。
義高「
石田の胴が次の一太刀で切り離されました。両手を松に縫い付けられてぶら下がりながら、彼は絶命しました。義高はさらに彼の両手首を切り放って石田の死体を地面に落とし、さらに何度も切り刻んでから、最後に首をとりました。松に縫い付けられたままの石田の両手は、奇妙なキノコのようにそこに残りました。
義高はこの首を拾い上げると地蔵像の前に安置し、ヒザをついて手をあわせました。「亡き父に、この奸賊・石田の首級をたてまつる。どうかこれを慰めとし、御霊よ、安らぎたまえ… 遠からず、宿敵・
義高は、ふと、自分以外の声が一緒に「ナムアミダブツ」と唱えているような気がしました。怪しんで一歩飛び退き、左右をすばやく見てみると…
義高「お前らは…
義高「どうした… お主ら、まだ成仏できぬのか」
義高「何か、伝えにきたのか」
義高「なんだと」
義高「何を言う、頼朝こそが、父とオレにとっての、
義高「武士が、やりもせぬうちから、諦めてたまるか!」
義高は、「うるさい、もうお前達のたわごとを聞きたくない」と言い放って、彼らをそこに残して立ち去ろうとしました。それでもなお、小太郎と
義高「消えろ!」
義高の怒りは沸点に達し、彼は刀を抜くと二人の体を横殴りに一閃しました。手応えはなく、二人の姿は煙のように消えてしまいました。
そして、夜がほのぼのと明け、山の端に明け方の光が当たり始めました。
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