第57話 瑠衣が恋した人

熱中してゲームをしている目の前の聖良、そして瑠衣、莉緒を見ながら。

今までの事をふと、思っていた。

これまで俺はずっとずっと頑張ってきて。

果たして、コイツらに満足に接してやれているだろうか?


もう失う事は無いだろうか。

その全てを、だ。

あの日、母さんを失った日、ガンで失った日。


そのように額に手を添えて考え込んでいると。

いつの間にか瑠衣がゲームから外れていた。

俺は瑠衣を見る。

覗き込む様な感じで見てくる、瑠衣。


「.....お兄。大丈夫?」


「.....!.....ああ、大丈夫だ」


「.....何か有ったら直ぐに言ってね。私はお兄の妹なんだから」


「.....勿論だ。頼るよ」


その様に話しながら、目の前に勝負をしている二人を見る。

ただ、今、この時が楽しいなって。

思いながら。


「.....瑠衣。お前、今は俺の事を何とも思ってないのか」


「.....え?.....あ、それを言うなら勿論、お零れを狙ってるかも」


「.....そのお零れが狙えなかったら.....どうなるんだ」


「.....だったら私、火矢くんかな。狙っているの」


目を思いっきりパチクリした。

予想外の言葉だ。

俺はテレビ画面を見ている瑠衣を見つめる。


「.....火矢くんとはメッセージを取り続けているんだよ。そうしていたら何だか段々.....火矢くんの事が気になり始めた感じ。だって優しいし、一途だから」


「そうか。あの野郎。ボコボコにしてやる」


「なんでえ!?」


俺に断りも無く瑠衣とメッセージなどとは。

良い度胸じゃねーか。

俺は眉を顰めながら、そう思ったが。


「.....でも確かにアイツは良い奴だよな」


「.....そう。だから気になってる」


「.....そうか」


お互いに見つめ合って笑みを浮かべていると。

聖良が汗だくで話し出した。

見るとテレビ画面に1位2位3位と表示されて。

瑠衣が最下位だった。


「.....じゃあ、罰ゲームをしましょう」


「.....は!?」


「ちょっと待って下さい!ば、罰ゲームって何ですか!?」


いや、本当にそうだ。

そんなもん聞いてないんだが。


俺はその様に思いながら、聖良を見つめる。

すると、聖良はフフフと悪な感じで笑みを浮かべ。

瑠衣を指差した。


「.....罰ゲーム!貴方が好きな人を公表する!」


「アホ!無茶苦茶な!」


「.....せ、聖良.....流石にそれは.....」


「やります」


冗談で言った様だが。

予想外の回答に俺達は顔を見合わせる。

そして瑠衣は息を吸い込んで。

真剣な顔で話し出した。


「.....私は同級生の火矢くんが好きです!」


次の瞬間、ドサッと音がした。

見れば、火矢が立っている。

そして俺を見ていた。

また勝手に玄関を開けたなコイツ!


何ちゅうタイミングだ!

俺達はその様に思いながら、火矢を見つめる。

買い物をしてきた様だが床に全て落とし。

呆然と俺を見てきていた。


「.....お、おい。どういう事だ?俺はずっと.....」


「ひ.....や.....くん?」


まさかの事に真っ赤に赤面する、瑠衣。

そして恥じらった。

その途端に俺の胸ぐらを火矢が掴んでくる。


「お前!!!見捨てたのか!?瑠衣を!殺すぞマジで!!!」


「いや、違う!話を聞け!」


「お、俺を好きってどういう事だ!」


そういや、コイツには俺達の関係を解説して無かったな!

胸ぐらを掴まれて揺さぶられつつ俺は火矢に解説を始める。

とにかく今はコイツに説明しないと!


「良いか火矢。騙してすまん。俺は.....瑠衣とは付き合ってない。瑠衣は確かに俺を好いていた。だが、今はお前の事が気になるそうだ!」


「そ.....そんな馬鹿な!?」


「.....本当だよ」


俺と火矢の喧嘩に割り込む様にして。

瑠衣が火矢の手を握った。

そしてニコッと笑む。


「.....火矢くん、優しいから」


「.....そ、そ、そ!?」


「私は好きだから」


瑠衣の言葉に火矢は目を丸くする。

すると、聖良が俺に向いてきた。


「.....これは予想外ですぞ」


「.....俺も予想外だ」


「.....後で説明して貰いますぞ旦那」


何処の百姓だお前は。

俺はその様に思いながら、聖良を見る。

莉緒は真っ赤になっていた。


「.....オイ。俺は.....」


「.....火矢くん」


「.....し、しかし.....」


困惑に困惑する、火矢。

それから唐突に俺の手を握って、そして歩き出す火矢。

な、何だ!?


「.....おま!?どうした!」


「えっと、と、取り敢えずお前と話がしたい!」


その様に火矢は言いながら。

ダダダと俺と共に俺の部屋に駆け込んで。

そして俺を座らせ、俺を見てきた。

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