第50話 泣き叫ぶ、好

間も無く6月になると言える様な翌日。

俺は未知瑠さんの手によって着替えている好の病室の前で落ち着かない様子で居た。

友蔵さんと好の着替えが終わるまで待つ。


俺はただひたすらに落ち着かなかった。

何故なら分かるかも知れないが、デート前ってこんな感じだろう。

と思っていると、好の病室のドアが開いた。


「.....お待たせ!和樹.....」


「.....!」


比較的カジュアルコーデに頭にちょっと着け方を変えた赤いカチューシャ。

俺はその姿にボッと赤面しながら見る。

好も何か落ち着かない感じで恥ずかしい様だ。

その背後から未知瑠さんが出て来る。


「青春ねぇ.....」


「えっと.....お母さん。このコーデ.....ちょっと恥ずかしんだけど.....」


「こんなコーデで恥ずかしがったら私も恥ずかしいわよ。それに.....私は10代の女の子のコーデに詳しく無いんだから.....感謝してほしい感じだから」


「.....う.....」


何も言い出せないよう、と言うような感じで俯く、好。

俺をただ横目でチラチラ見てくる。

どうやら意見を求めている様だ。

にしても良く似合う。


「.....好。俺のコーデの方が恥ずかしいよ。ジーパンに.....選んでもらったけど.....あまりにも在り来たりだしな.....綺麗だ」


「.....うん?.....でもとっても格好良いと思うよ。和樹」


その様にラブラブ.....とも言える感じで話していると、未知瑠さんがため息を吐いて苦笑して友蔵さんが笑んだ

友蔵さんは俺達にそれなりに涙ぐんで、見つめて来た。

好の手を握る。


「.....本当にここまでよく頑張ったね.....好」


「.....うん。お父さん.....」


「まあ、何だか好を花嫁として送り出すかの気分だな」


「も、もうお父さん!?」


林檎の様に真っ赤になった果実は自分の父親をポカポカ叩いていた。

俺はその光景を見ながら口角を上げる。

するとそんな感じの俺達の背後から誰かがやって来た。


「.....綺麗ですね」


「好さん。随分とお綺麗です」


専属の看護師と医者。

その様な感じを見せる白い服を纏っている二人。

好は直ぐに友蔵さんから離れ、その人達に頭を下げて。

そして涙声で話した。


「.....本当にこの様な日を設けて下さり、有難う御座います.....!」


「.....いや、我々は手助けしただけです。全ては好さんが.....頑張ったからですよ」


「.....はい.....」


好は手を口元に当てて俯いた。

そして顔を上げて笑顔を見せる。

俺はその姿を見つつ、ただ柔和な笑みが出た。

医者と看護師は口角を上げる。


「行ってらっしゃい」


「行って来て下さいね。無理はせずに楽しんで下さい」


その様に話して医者と看護師は会釈して去って行った。

友蔵さんと未知瑠さんが頭を下げる。

俺達もその背中に頭を下げた。


「.....感謝しかないね.....」


「.....そうだな」


笑顔を向けてくる好。

でも.....な.....。

幼い頃の記憶の全て。

それについてまだ戻って来てない部分も有る。


本当の戦闘はここからだと俺は思うんだ。

俺は覚悟を決めながら、前を見据える。

すると、友蔵さんが言って来た。


「.....和樹くん」


「どうしたんですか?」


「.....好を頼む。楽しませてやってくれ」


「.....当たり前です」


彼女の手を握る。

驚きながら好は俺の顔を見て、赤面した。

それから、友蔵さんと未知瑠さんに向いて頭を下げる。


「.....本当に有難う。お父さん、お母さん」


「好。謝らないの。.....子供は親に頼って良いんだから。でも今回は貴方の頑張りのおかげよ。こちらが頭を下げるべきだと思うわ」


「.....うん。お母さん」


でも感謝の心は忘れたくない。

その様な感じだった。

でもこの好は.....成長してきた記憶が無いんだよな。

強いな好は。


「.....行こう?和樹」


「そうだな。好」


そしてもう一度、友蔵さんと未知瑠さんに会釈して。

手を振られながら俺たちのデートが始まった。

俺は好を守り、みんなを守りたいんだ。


その一心で、歩き出す。

病院の出口までやって来た。


「.....外だ!!!」


「.....そうだな」


「.....和樹.....風の匂い、自然の匂いがする.....」


「.....泣くなよ。俺も泣いてしまいそうだ」


涙を流しながら号泣する好。

俺はただひたすらに我慢した。

男が泣く訳にはいかない。


「ハンカチ」


「.....有難う.....和樹」


「.....良いって事だよ。好。嬉しいんだよな」


「.....本当に嬉しい.....こうして、一緒に居られる事が.....その.....本当に涙が止まらない.....」


好はうわあああんと泣き噦る。

俺はそんな好の肩を抱き寄せた。

その叫び声に病院を利用する人の目がかなり気にはなったが、そんな事より好の事が気になって仕方が無い。


だから問題は無かった。

本当に.....心の底から頑張ったな好と思いながら。

俺はゆっくり涙を拭いてあげた。


「.....好。これから先も頑張ろうな」


「.....当然.....涙が出るけど.....頑張るから.....!絶対に.....!」


「俺も.....お前を助けるから.....な?絶対に頑張ろうな?」


「.....うん!」


この先、まだまだ戦いは続く。

だが俺は好と一緒なら乗り越えられそうな気がした。

だから.....好。

絶対に俺を置いていかないでくれ、と願う。


「.....好。俺を置いていかないでくれよ」


「.....何を言っているの?死なないよ。私は。和樹が、みんなが待っているんだから!!!」


俺はその事に涙を流して。

そして好を抱き締める。

まさかの事に好が慌て、首を傾げた野次馬が集まり始めたが。

全然、気にしない。


「.....マジで.....良かった.....」


今現在、その一言だけしか。

出なかった。






























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