第18話 大切な貴方へ贈る言葉

(この事は、出来れば私は話したくは無いですが。和樹へ)


その一文から始まった言葉。

俺は目線を下にして、必死に読む。

何が綴られているのか、非常に気になる。

それも本当に、だ。


(私は多分、今現在、何らかの悪性の病に侵されています。.....でもきっと治る。自然に治ってくれると信じて生きています。.....でも残念ながら、近頃思いました。多分、この病は.....あまり良く無いという事を。ここまで進んだのは2日です。あまりに急速でした。何故なら、突然目の前が歪んで見えたり、物覚えが悪くなったり、吐き気がしたり。症状としてはもう滅茶苦茶です。でも、どうしても周りに言えなかったんです。一番に恐れていました。それは、貴方が悲しむ姿をです)


「.....このクソッタレめ!!!」


俺は頭に手を添えて、堪えていた涙をジワッと浮かべた。

何がクソッて.....俺に言えよ!!!

どうにか出来たかも知れないのに、何も.....酷くなったから.....何も!!!出来なかったじゃ無いか!お前の為に!


(その為、私は何もかもが絶望に達する前に全てをこの手紙に託す事にしました。私がもし死んだ時に、です。じゃないとすべてを後悔する気がしたのです。和樹、私は貴方の告白、本当に嬉しくそして悲しく受けました。だけど、本当に私は嬉しかったんです。病に侵されているその時、告白してくれた事で私は勇気を持てました。本当に有難うね、和樹)


「.....何だ.....ってんだよ.....好」


「.....勇気.....勇気って.....」


谷も悔しそうに俯いた。

瑠衣は涙を流しながら、必死に堪えるが、声が漏れる。

そこだけ.....上手になるなよ、好!!!


(今まで私は和樹の為にと思って動いていました。だけど、世の中は広い。とてもちっぽけな私に全てを和樹は教えてくれました。人を愛す事、愛される事、モノを愛す事、愛される事。勇気を持って一歩を踏み出す勇気は大切だって.....和樹と一緒で過ごしやすい日々で、私は本当に.....楽しかったです。その、谷へも謝っておいて下さい。私の性格故に迷惑を掛けてしまった事、そして貴方にも謝ります。出来れば私に知り合いに謝っておいて下さい。私は.....謝るという力が無いですから.....性格もこんな感じですから。.....恐らくですが、私には.....もう残された時間は無いと思います。なので、貴方に必要事項を話します)


「.....」


(私は.....貴方の事は大好きです。心の底から愛しています。でも、将来、私と貴方が例えば結婚して、子供が産まれるとします。その時、子供はきっとこの症状の遺伝をするでしょう。それから、私は死んで、貴方と子供は残ると思います。こんな私は幸せには向いてないと思うんです。だから私は貴方の告白は受理出来ません。でも、貴方の事は.....好きでした。それだけは話します)


「.....クソッタレ.....」


谷が吐き捨てて木に手を添えた。

そして涙を流しながら、膝を折り曲げる。

俺はその様子を見て、涙で滲む手紙を読み続ける。


(もし、私に何かあったとしても、私は.....貴方の側にずっと居ます。だから安心して付き合った瑠衣ちゃんを大切にしてあげて下さい。こんな私の愛は忘れて下さい。でも、それでも私の事が忘れられない時。和樹ならきっと私の為に動くでしょう。そんな必死の和樹を放って置くわけにもいきません。.....私は周辺の大切なモノを全て破棄しようと思いました。私が死んだ時の為に、です。でも、和樹ならきっと亡くなった後も私を大切にしてくれる。その様に思いました。私が人生で二番目に大切な宝物を貴方に残します。とある桜の木の下にそれは埋めました)


.....とある桜の木?

どの桜だ?ちょっと待ってくれ。

その事は詳しく書かれてない様な感じだ。

俺は青ざめたのだが次の行に


(その桜は私が.....和樹と同じ様に愛した桜です。この辺りの丘に有る、秘密の場所.....樹齢は千年とされている桜です)


と書かれてあった。

まさか、あの潮風を浴びている桜か!

俺はその様に思いながら、その方角を見た。


「まさか.....まさか!」


「今すぐに行こう!何か手掛かりが!?」


俺達は直ぐに駆け出す。

そして、驚く、りん、を見ながら袖を捲って必死に土を掘り起こす。

そこには、銀色の少しだけ錆びた缶箱が眠っていた。


俺達は泥だらけの顔で頷き合い、その缶箱を直ぐに開ける。

その缶箱に入っていたモノ。

それは、大きなアルバムだった。


表紙に(和樹と私と.....)

と書かれていた。

俺は泥を拭って開き、そして見開く。


「.....好.....お前.....!」


俺の幼い頃の写真が綴られて。

谷の写真、瑠衣の写真、りん、の写真、家族写真、と色々な全てが綴られていた。

そして短いが、その写真全てに3行ほどの説明文が書いてある。

全てで1000枚近く写真が有るのに、だ。


まるで感想の様に書かれてあったり。

その日の気分が書いてあったり。

全てに必死に愛を注ごうととした姿が有った。


俺は遂にページに涙を落とし、号泣した。

なんで神様というヤツはと思いながら、だ。

すると、真横のモニターから好が心配そうに声を上げた。

しまったモニターを切って無い.....!


「.....どうしたの?和樹.....みんな.....」


「.....」


だが、これで何もかもが分かった。

命を懸けてここまでやってくれた、好のおかげだ。

俺は決断して、前を見据える。


「好。俺はお前の事が好きだ。.....でも、俺はみんなも大切に思っている。出来ればみんなを愛しながら、俺を愛してほしいんだが.....出来るか?」


その一言を言って好を見た。

ポロポロ涙を零しながら、好は俺を見据えている。

大きく頷く、好。

その姿は.....子供の様に無垢だった。

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