第65話 手を取り合うは人と、邪神と
守護宗家よりの支援戦力たる
機関が最初から所有した個体を含めた四機が、揃い踏みな大格納庫。
しかし
調整次第では機関防衛時以上の戦力増が期待出来た。
それも踏まえた兵装調整のため、
「こいつぁ宗家が
「まあそりゃ分からねぇでもないが……。そもそもその操縦者がいないんじゃ話にならねぇぜ?」
「
「……って、まさか——」
残念チーフの思わせぶりな言葉に救世の当主が思考をフル回転させる。
すると申し合わせた様に、その候補となる操縦者が揃って格納庫へと足を運んでいた。
ただ人類より長きを生きたであろう長命組たるそれらは、視線の先の機動兵装にもさしたる驚きも宿ってはいなかった。
「なるほど、これが我らの協力を力とする兵装。整備員の腕次第で
「ふん……
「シャルージェにシューディゲル、か……まあそれぐらいしか頼れる人材は存在しないわな。」
嘆息する救世の当主。
確かに機動兵装自体の性能は対邪神勢力には程遠く……しかしそれを補って余りある生身戦力保持者の搭乗で、戦力不足分を補う算段としていた。
しかしそれでも——
あの
そんな候補者登場を見計らい、残念チーフが追加の報告を口にする。
救世の当主にとってはそれこそが、残念と呼ばれたチーフに求めた物だった。
「ああ、
「マ……マジかっ!すまねぇ、チーフ……恩にきる!って事は後はノーデンスだけだな。」
「まあ心配しなさんな。あの御仁は少々霊的な桁が尋常でなくてな?
「それ相応の時間を要する事になるが……何、月宙域へ向かうまでには何とかする。」
その言葉を最後に、残念チーフは残る作業を進めるため意識をモニターへと向け——当主も視線に感謝を込めつつ足早に場を後にした。
足を向ける先は当然……二柱の邪神の元である。
そんな救世の当主を見定める者がふと零す。
悠久の時の中でさえ見る事も無くなった久しい感覚に、僅かな羨望を宿す様に。
「草薙家裏門当主
「そうではありませんよ?高貴なる真相よ。甘さとは、その後に己へ降りかかる試練にまで理知が及ばぬ事を言うものですが——」
「彼はその先に訪れるであろう事を全てを知り得た上で、己の行動を御しているのです。今はそう動くべきと……いかな試練すらも乗り越える覚悟で。」
「ふん……それは面白い。なれば我が主たる魔王も、一目置くであろうな。」
違いに視線は交わさず、しかし言葉の応酬にて救世の当主を見定める。
共に人ならざる者であり……人類の真の闇を見続けた故の重き言葉を。
そう——
救世の当主が取る行動は、元来敵対していたはずの二人にさえも奇妙な感覚を産み始めていたのだ。
蒼き星に住まう……共に生きる生命としての絆とも言える感覚を——
§ § §
胸を撫で下ろしたと言うのは今の様な状況を表すのだろう。
決して地球の危機が好転した訳ではない——が、眼前で背中から襲撃されたあいつらが助かったと聞いただけでも心からの安堵を覚えた。
チーフらがいる場所から離れたそこへ鎮座する、物々しい研究設備に早速陣取るカタパルトからすぐに向かったライトニングにマグニア。
さらには何らかの意見交換などのために同席したであろう、ファイアボルトにエクリス——そしてウィスパニアと言う
「ああ、マスター
「そうか!じゃあ……ここに話しかければいいのか?」
俺の姿を視界に捉えたライトニングの手招きに合わせ、俺も待ち詫びたと幼き人型が内包される物々しいシリンダー設備へと足を運んだのだが——
『お前、
『そうだね。このカス当主はボク達をこんな無様に生き長らえさせて、一体どの様な仕打ちを与えんとしているのか。こちらとしても説明を要求するよ……あぁ?』
聞き慣れた狂気をぶち撒ける二柱の邪神が、慣れぬ体躯で暴言に
今の彼女らの状態は何とか保てた
「ガイノイドそのものは、ヒュペルボレオスに既存する私達のスペアボディとも言える物ですが——彼女達を繋ぎ止めたのは紛れもなく……あの貝殻の旗艦から得た別世界の技術ですわ。」
「ちょうど彼女達は、あたし達とも相性が良かったからね!クトゥグアにはあたしのを——」
「そして~~ハスターにはエクリスのボディをあげたのだ~~!」
『憤慨かな、憤慨かな!私はこんなチンチクリンに非ず!』
『ボクはこんなフワフワでは、断じてないぞ!このカスドールズ!』
マグニアからの説明の後、仮の身体を譲った形のファイアボルトとエクリスが説明を追加するが……それこそが不満の種であっただろう二人がキーキー騒ぎ出した。
けれど——視界に捉えた邪神娘。
先に感じた消滅の不安をようやく払拭出来た俺は、苦笑のままに二人のドールズへ謝意を示す。
そんな噴出する不満解消と、邪神娘にマグニアが注釈を追加した。
「チンチクリンは兎も角、私達と違って貴女方は高位霊格相当ですわ。故に霊格を収める器たる私達の移し身を用いれば、その雰囲気ぐらいは自在でしょう。」
「そう……チンチクリン以外は。」
「あたしはチンチクリンじゃないぞっ!?」
『否、断じて否!どう見てもチンチクリン!よく拝むが良い!』
「『グヌヌヌッ!』」
と追加したら、まさかのファイアボルトとクトゥグアが一触即発。
だがよくよく考えれば……厨二的お子様思考なクトゥグアとイケイケなファイアボルトは、同じ炎を冠する事も含めて案外仲もよさそうだ。
フワフワと見つめるエクリスの視線を受けるハスターも、以外にまんざらでも無い様だし。
そこまでを視界に捉えた俺の服を掴むのはアイリス。
視線で邪神と言葉を交わすは今と訴えて来た。
それに首肯で応じた俺は——
二柱の邪神娘へと切り出したんだ。
「少し落ち着けクトゥグア。ハスターもよく聞いてくれ。俺達が君らを救ったのは他でもない——」
「そこに言葉なんてない。ただ君らを救わなければと思ったら、皆行動していた――それだけなんだ。」
『そ、その様な理由で——』
『言い訳はあると思っていたが、そんな——』
彼女らは口まで出かかった言葉を切る。
俺が送った視線で、これから放つは偽りなき信を以って伝えんとする言葉と悟ったから。
「そんな君らに俺達マスターテリオン機関——いや、人類から頼みがある。」
「俺達がこれより臨む、残る邪神群との絶望的な戦力差となる戦いに……どうか力を貸してくれないか。この通りだ……。」
ならば俺は己の誠心誠意を以って頼み込むまでだ。
相手が元敵対存在だろうが、人ならざる存在だろうが関係ない。
ありったけの願いを込めて……
僅かの沈黙。
そうして響いたのは呆れと——少しだけ照れを隠す様な二人の了承の言葉だった。
『……
『その下等なカス人類——いや……下等やカスとの言葉は撤回だ。その人類が臨むのなら……まあ助けてやらんでも、ない事もない。』
「ああ!恩に着るよ、クトゥグア!ハスター!」
あの狂気を振り撒いていた存在は、その時より——
俺達と因果に立ち向かう、救世の志士となったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます