第98話 昇進の基準
「え~と、まず知ってのとおり冒険者ギルドには5段階の等級が設定されています。5等が一番下で1等が一番上、これは世間一般の人にも良く知られていて冒険者徽章の色で判断されています。」
クリスが持っていたメモ帳のページをパラパラと開くと、あるページで手を止めた。クリスが自分自身で描いた徽章の見分け方の絵だ。
「以前にオルレオさんにお話ししたように、1等が金、2等が銀、3等が銅で、4等が鉄、それぞれ金属の光沢と質感で分かるようにしてありますのでギルドでのクエスト受付の時なんかにこちらで磨かせてもらっています」
知らなかった、とばかりにモニカとオルレオは自分の徽章を手に取った。確かに、オルレオの首から下げられた2枚の
モニカの手元にある銅の徽章も同様に錆一つなく輝きをその身に纏っていた。
「結構経つのに綺麗なまんまだと思ったら……サンキュな」
徽章を持った手を軽く挙げて、モニカはグレイスの目を見てニカッとした笑みを浮かべた。それにスッとお辞儀を返してグレイスも薄く微笑む。
「で、5等は石、
「へぇ~」、と感心の声を漏らしたオルレオだったが次の瞬間には、「もったいないことをした」と小さくこぼしていた。そんな面白そうな石だと知っていたらもっとまじまじとあらゆる方向から眺めていたのに、とそう思ったからだ。
「で、この等級を上がるためには3つの位階を登らないといけません」
そのクリスの言葉に、オルレオは意識を切り替えて話を聞く身構えをとった。白黎石についてはまた今度頼んで見せてもらおうと決意して、今後の自分の為になりそうなことは聞かねばならない。
「各等級の3位は、その等級としての実力が備わっていることが示されます。つまり1等3位なら1等級の、2等3位なら、2等級の実力があるとみなされるのです。例外として、5等3位は何の実力も備わっていないとみなされます。なので、オルレオさんの様に実力がある方は
なるほど、とオルレオは頷いた。
「そして3位から2位に上がるのに必要なのが《
話を聞きながら、クリスは胸元の2枚の徽章を指でもてあそんでいた。ニーナとクリスは3等2位、そしてオルレオは4等2位、つまりそれぞれの等級で
「最後、2位から1位に上がるのに必要なのは《
「つまりは、一発で位階が上がったりはしないってこと?」
オルレオの問いかけに、クリスが頷いた。
「そうですね……過去に何件か例はあるのですが、一つの仕事で位階がポンポンとあがることは非常に
それを聞いたうえで、オルレオは背もたれに背中を預けた。
「じゃあ、次の依頼で何か難しそうなのを選んで4等1位に、ってのは無理なわけだ」
残念そうにため息を吐いたオルレオに、モニカが楽し気に笑いかける。
「だったら、一気に難しそうなやつを同時進行すればいいじゃねーか、ガンガン行けよ、ガンガン」
「馬鹿なことを言ってはいけませんよ。一つ、一つ、着実に進めていけばいいのです。無理をしたところでいずれはボロが出るんですから」
ニーナが横目で鋭くモニカを射抜くように言い放ち、さらに小さな声で「この間の様に」と追撃を食らわせる。その一言で、モニカは「うっ……」と言葉を詰まらせて、やがて小さく。
「ま、まあ、そうだな…… 焦ってもしょうがねーし…… コツコツとやってくのもいいかもな」
そのモニカの言葉に驚いた表情をみせたのがグレイスだ。今の今までどれだけグレイスが言って聞かせても無茶無謀を繰り返そうとしてきたあのモニカが、まさかこんなことを言うだなんて……と驚きとも感動ともとれぬ何かこう感慨深い思いがグレイスの中で生まれていた。
「急に雨とか降らなければいいのですけど……」
思わず漏れたグレイスの言葉に、「な!?」とモニカが不機嫌そうに声を挙げ、「そう言われても仕方がないでしょう?」とニーナが
クリスがムスっとむくれて不貞腐れるようにそっぽを向いたところで、クリスが一つ咳ばらいをして自らに注目を集める。
「ええと話を戻しますね……、1位から次の等級に上がるためには相応しい《
「と、まあ、以上が昇進の基準となります。クリス、良く説明できました」
クリスが説明を終えて、ほっとしているところで、グレイスが優し気に後進を
「ま、なんにせよ、今日のところはコレで終わりってことか?」
そんな二人に向かって、モニカが言葉を投げかけた。
「
代表してグレイスが答えたことで、モニカの視線がオルレオへと向いた。
「お、俺? 俺も特にはないけど?」
困惑しつつオルレオがそう答えたところで、モニカが口角を上げた。
「んじゃあ、ちょっと頼みたいことがあるんだよ…… オルレオはこれから3日空いてるか?」
唐突な質問に、オルレオはわずかに戸惑った。
「特に予定はないけど…… なんで?」
答えたうえでその意図を聞き返す。
「少しばかり、3人で連携の訓練を行おうかと思いまして」
オルレオの疑問にニーナが答えた。二人の間では既に話がついていたのだろう。
「そ、闘技場や外で連携の確認を3日かけてやっていきたいわけよ」
言って、モニカがクリスへと向き直った。
「んでもって、その成果をぶつけられるような仕事が欲しい。できれば群れた敵を相手に出来るようなのがいい」
その注文に、クリスはおたおたとどうすればいいのか分からず、縋るようにグレイスの方を窺った。が、グレイスはにっこりとクリスを見つめ返しただけ。それだけで、クリスはもう、グレイスが助けてくれないことを悟った。
一度、スッと息を吐いて、吸った。
そのうえで、クリスはオルレオを見て、そこからクリスとニーナ、これから担当する冒険者全員の顔を見据えて。
「ええと、今、手持ちでコレと言って紹介できるものはありませんので、また後日、4日後にギルドに来ていただいた時に、ぴったりの
はっきりと、はきはきと言い切った。
「おう! 頼むぜクリス!」
「これからよろしくね、クリスさん」
モニカとニーナがその姿を見て改めて挨拶をして。
「これからもまたよろしくお願いします」
オルレオがいつかの様に頭を下げる。
「はい、よろしくお願いします!」
それを見たクリスも元気に嬉しそうな声で深々と頭を下げた。
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