第92話 とおらず
「せぇい!!」
気合と共に左袈裟の斬り上げを放つ。一閃は、
「はああぁ……」
その結果に、オルレオは気の抜けた声を漏らした。つい先ほど、鐘が五つなったことから、今は昼前。時間にして一刻半(鐘と鐘の鳴る間の時間が一刻)、徹しと透しの修練を続けているのだが、正直なところオルレオは修行の手ごたえを掴めていなかった。
特に、徹しの技術については、一番最初の試し打ちの時よりも進歩したことと言えば、二太刀もつようになったことくらいだ。しかし、肝心な威力、この場合は貫徹力は変わっていないまま。これでは使い物にならない、というのがオルレオの素直な感想だ。
では、透しの方はと言うと……ちょっとだけマシかな? とそう思えるくらいでしか進歩していない。自己評価だと五十歩百歩といったところだ。
「……ウシッ」
気合を入れなおして、オルレオは
一撃は確かに、金属兵の表面を砕いた。が、あくまでも表面のみ。師の様に金属兵を丸ごと砕くのはおろか、ヒビを入れることすらできていない。これでは、盾を全力で叩きつけているのとあまり結果が変わらない。
「はああぁ……」
オルレオから、またしても情けないため息がこぼれていく。
(こうしたときに指導して……、いや違うな。教えて……くれることはないか? 煽ってくる? ああそうだ、師匠ならこっちが出来ないのを見て煽ってくるな……。その師匠がいないってのはちょっと致命的だな)
そう、オルレオは師匠の不在をちょっとだけ不満に思っていた。いたらいたで何やかんやで腹が立ったり、ムカつくこともあるけれど、それでもちょっとしたヒントやコツみたいなものを教えてくれたりすることもあるのだ。
だが、しかし。
(そんな師匠がこっちをほっといて自主練させるってことは、繰り返しながら改良して、身体に覚えさせるしかないってことだよな……)
10年近い付き合い……というか物心ついた時から一緒に生活していたからかその辺は意外と考えていることぐらいはわかっている。わかっているからこそ、うまくいかないときに原因を押し付けてしまうのだ。
「自分が出来てないって自覚したときはなおさらだな」
まあ、師匠に苦労させられてきたことも山ほどあるのだ。こういう時くらい、心の中で不満のはけ口にするぐらいはいいだろう。
なんて、余計なことを考えている間に、目の前の鋼鉄兵の再生が終わった。
「よし! もう一度!」
立ち上がり、剣を構えた。
その後ろから。
「あれ? オルレオ? なにしてるの?」
「エリー? そっちこそなんでこんなところに?」
声で気づいたオルレオはすぐさま振り向いた。そこにいたのは、エリーだ。大きなザックを背負って、額には汗が浮かんでいた。
「私? 私は錬金術ギルドからの依頼で、ここで訓練している騎士団に
ほら、この中。とエリーが笑いながらザックを指さした。
「で? オルレオは?」
「俺は修行中。師匠の言いつけで、このゴーレム二体を相手に新技の練習中なんだ」
へ~、とエリーは目を丸くしてまじまじと二体のゴーレムを興味津々に観察していた。
「……これって、自律再生するタイプ?」
何かに気が付いたように、エリーが鋭い目でオルレオを見た。
「自律再生って……勝手に再生するってこと?」
対するオルレオは、その変化には気づいたけれども良くわからないので首を傾げて聞きなおす。
「そう。よっぽど高位の魔術師じゃないと付与することが出来ない術式を持ったゴーレムってこと」
「あ、やっぱりそうなんだ」
エリーの言葉、それも高位の魔術師、という言葉にオルレオは納得していた。
「やっぱりってアンタね……これ一個買うのにどんだけお金使ったのよ!」
「え? タダだけど?」
瞬間、エリーの顔から表情が抜け落ちた。
「……とりあえず、どういうことか教えてくれる?」
隠すほどのことでもなかったので、オルレオはこれまでの経緯について簡単に話をしていった。
「たかだか修行のために、こんな高度なゴーレムを使うって……アンタのとこの師匠ってちょっとおかしいんじゃない?」
すべてを聞いたエリーの感想が、これだった。
「そうなの?」
が、オルレオからするとコレが基準だ。まったくおかしいとは思わなかった。
その様子を見て、これ以上の追求をしたところで無駄だと思ったのかエリーは早々に諦めた。
「まあ、いいわ」
話をするために足を止めいたエリーが一歩、闘技場の東側で模擬戦をやっている騎士団の方に足を進めた。
「私はとりあえず納品しにいってくるけど、オルレオはこのあとどうするの?」
「俺は修行を続けるよ。夕方までにある程度は手ごたえを掴んでおきたいし」
それを聞いて、何かを思いついたかのようにエリーが足を止めた。
「じゃあ……お昼はどうするの? どこかに食べに行くの?」
「あ~、考えてない」
そういえばそうだ、と。もう一刻もしないうちに昼飯時だということに、気づいて頭を悩ませるオルレオ。
「なら、ならさ」
そこに声が響いた。
「私がここにお昼持ってくるから、一緒に食べましょう?」
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