第37話 みかんちゃんの過去


「凄かった凄かった凄かった!」


「ハイハイありがとう」


「みかんちゃん凄かった、綺麗だし、優しいし、清楚だし、ああ、もう言葉が出てこない、ボキャブラリーが少なすぎるんだよヘボ作家!」


「ん? 良くわからないけど照れるな~~」


「これは来年こそ学園祭でメイド喫茶を開店しないと、日本一のメイドの店みかん(本物)と銘打って」


「だーーかーーらーーやめてえええ」


「ああ、もう皆に言いたい、日本一のメイド様がここにおられる、皆共控えおろ~~~~」


「やーーーめーーーてーーー」


「あ、僕も頭が高かった、ははあ~~~~~」

 ベンチの上でみかんちゃんに向かって土下座をする。


「ああーーもううう連れて行かなきゃ良かったかなあ~~」


「いや、本当凄かった、見れて良かった」


「うん、ありがとう……佐々井君には一度見てもらいたかったんだよね、ちょっと恥ずかしかったけど」


「ううん、全然恥ずかしいなんて事無い! 凄い、凄かった! さすがはみかんちゃん、全国1位だよね!」


「あれは、たまたまだから……でも佐々井君にそこまで言って貰えると自信付くな~~」


 そう言ってみかんちゃんは僕に微笑んでくれた。

 昨日とは違う、友達に向ける笑顔に僕はドキッとしてしまう。

 

 今、僕は昨日と同じ校舎裏でみかんちゃんと一緒に二人きりでお昼を食べていた。

 昨日怒らせてしまったせいで、今日も泉とは別行動……ご飯はしっかり作ってくれているのでそこまでは怒ってないのかも……やっぱりみかんちゃんの秘密に関して何らかの手を打たないと駄目なんだろうか……


「みかんちゃん! 次はいつ出勤? 僕また行くからね!」


「え? 今日も出勤するけど、駄目だよ毎日とか……うちって安くないし」


「うん、食事は無理だけど、ドリンクなら大丈夫だよ、みかんちゃんのスペシャルドリンク、みかん汁美味しいし」


「みかん汁って……佐々井君相変わらずキモいよ」


「ええええええ!」


「ええええじゃない、何よみかん汁って! 美味しそうじゃないよ~~」


「そうかなあ? 果汁たっぷりって感じがするけど」


「佐々井君ってやっぱりキモい~~、でもまあ、うーーん、ドリンク位ならいっかなぁ?」


「うん! そうそう、それくらいなら大丈夫! 本当は何も飲まずに、ただみかんちゃんを見ていたいんだけどね」


「それは迷惑だから止めてね~~」


誰もいない校舎裏の隠れたベンチ、今まで一人で昼食を食べていた僕の憩いの場所。そこに今は友達と、しかもあのみかんちゃんと二人きりで食べてるなんて、信じられない。


「そう言えば聞きたかったんだけど、みかんちゃんはどうしてメイド喫茶で働く様になったの?」

 やっぱりもって生まれた才能を発揮させたかったとか、生まれながらにしてメイドになるべく英才教育を受け育てられて来たとかかな?


「あーーやっぱり聞いちゃうか……それ」


「え? なんかまずかった? あ、いや、嫌だったら別に」


「うーーーん、まあ佐々井君にならいいか…………私ね中学迄凄く暗かったの、小学校の時に虐められてさーー、色々あったんだよね中学でも、それが嫌で、自分も周りも……だから変えたくて全部一からやり直したくて誰も知らない私立、どうせだったら有名私立を受けようって、それでここに来たんだ」


「え……」


「あはははは、びっくりした? お父さんは小さい頃に死んじゃってさ、お母さんは仕事があって……あと妹もまだ小さいから私の都合で引っ越しとかは出来なくてさ、だから実は今独り暮らしなんだ~~それで生活費はある程度自分で稼がないとって時給の良いところ探したらメイド喫茶があってさ~~」


「みかん……ちゃん」


「ごめんね夢壊れちゃったかな? メイド喫茶で働く様になったのってそんな理由なんだ……でも頑張ったんだよね、人気が上がれば給料も上がるし、お母さんに少しでも返せるし、まあそんなに貧乏って程じゃないけど、妹も来年中学だし色々物入りなのに私の都合で一人こっちの学校に行きたいとか我が儘言っちゃってって、ど、どうしたの!」


「ふぐう、ふ、ふうわあああああああああああん」


「ちょっ、ちょっと佐々井君!?」


「みかんちゃああああん」


「きゃ!」


「偉い、凄い、やっぱりみかんちゃんは……凄い人だった」

 僕は思わずみかんちゃんの手を握りしめた。だって、だってそれは……それは僕がしたかった……いや、僕なんかよりも、僕がしたかった事なんかよりも、もっともっと大変な事。


「え、ど、どうしたの?」


「僕も……僕も変わろうって、そう思ってこの学校に来たんだ……でも何も変われなくて……みかんちゃんは難関の高等部入試で入って、しかも委員長で、しかも日本一で、しかもメイドで、凄い、凄すぎるよおおお」


「最後はあまり凄く無いけど、ありがと……でも佐々井君だって変わったよ、私に声をかけて来たじゃない。何か初めて会った時から気になってたんだよね、佐々井君の事」


「そ、そうなのお」

 号泣しながら僕はみかんちゃんを見つめる、みかんちゃんは持っていたハンカチで僕の涙を拭きながら笑顔で言った。


「うん、なんか私に似てるなって、中学の時、虐められた影響で目立たない様にしていた頃の私にって」


「ううう、それって誉められてないよおおお」


「あーーうん、まあそうだけど、でも……私は逃げたの、そこには居られなかった、居たくなかった……佐々井君は違う、ここで頑張ってる、変えようって頑張ってる、きっかけはなんであれ、変わろうとした。それは凄いって思う、私には出来なかった事。だから私は佐々井君と友達になろうって思ったんだ、高校生になって初めての……ううん、多分私の人生の本当の意味での初めての友達にね」


「あ、あんな脅したみたいに友達になって貰っても?」


「自覚してたんかーーーーい! あははははは、うんまあそうだけど、でも嫌だったら形だけ友達って言うだけで、自分の働いている所に連れていったりこんな事話したりしないよ。でも佐々井君には見て貰いたかったんだ、友達として私の姿を、私の頑張った結果をね」

 そう言って笑うみかんちゃん、その笑顔に僕は心を撃たれた、僕の身体に電気が走った。


 なんだろう、この感覚は、ふわふわして、ドキドキして……不思議な感覚が襲って来る。


 そうかこれが尊敬するって事なんだ、僕は今初めて人を他人を尊敬したんだ。


 みかんちゃんはやっぱり凄い人、尊敬出来る人だったんだーー。




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