第36話 究極のカレー
忙しく動き回るみかんちゃん、やはり人気ナンバーワンなのだろう、でも嫌な顔一つせず笑顔で接客している。慌てる事なく動きも優雅のまま……まさにメイドの中のメイド日本一のメイド姿だった。
僕はとりあえず、メニューの中から手作り欧風カレーのドリンクセットを選び、ベルを鳴らした。
「お待たせいたしまた、ご主人様」
にこやかにみかんちゃんが僕の所に来る。僕は大変そうだねと言う言葉を飲み込み普通にオーダーをした。
「畏まりました、ご主人様少々お待ちください」
そう言って一礼し立ち去るみかんちゃん、忙しいのはわかっている。大変そうだねと言う言葉はいらない、そして僕に出来る事は一つだけ……
「応援しよう……みかんちゃんを」
僕は感動していた、生で見るメイドっていう仕事に……まあ厳密にはメイド喫茶の仕事なんだけど……でもメイドって皆はハウスキーパー、掃除等の家事全般をする人っていうイメージがあると思うけど、メイドの仕事ってもっと細かく分業されていたんだ。その中でもパーラーメイドと言うメイドがいて、接客や給仕を行う専門のメイドがいたんだ。このパーラーメイドは主に容姿端麗な人が選ばれ従事していたらしい。
このお店のメイド様はまさにそのパーラーメイドを再現している様だった。巷の萌え萌えキュンなメイド様達とは違い本格的なメイド様達がここにいる。いや萌え萌えキュンも良いけどね……今度頑張って行ってみようかな?
暫く待つとみかんメイド様がカレーとジュースを持って来る。ジュースはスペシャルオレンジジュース。ちなみに各メイド様達のスペシャルドリンクがあって値段が少し上がるんだけど、豪華な仕様になっている。もちろん僕はみかんちゃんのスペシャルオレンジジュースを選択、これは今後略してみかん汁と呼ぼう。
「お待たせ致しましたご主人様」
そう言って運ばれてきたカレーとジュース、肉や野菜がたっぷり入ったカレーで綺麗な器に盛られており大変に食欲をそそられる。
「いただきます」
そう言って欧風カレーを口に入れた……旨い、旨すぎる……レトルトなんかが出るかと思いきや本格的な手作りカレー、色々なスパイスの味につい顔が綻んでしまう。
スペシャルドリンク、みかん汁もパックのジュースでは無い、絞りたてオレンジジュース、生のオレンジ等のフルーツもグラスの縁に飾られており、見た目もゴージャス。
値段もそれなりにして、高校生の僕には少し高いけど、まあ僕は今まで友達と出掛けたり遊んだりした事無かったし、趣味といえばメイド関連の本を買う程度だったからそれほど痛い出費とは思えなかった。寧ろこんなに丁寧でサービスも良くて豪華で……良いんですか? って思った位だ。
美味しいご飯に美味しい飲み物、居心地の良い空間に綺麗なメイド様達……えっと……ここは天国? あ、僕のお屋敷か……
てきぱきと笑顔で働くみかんちゃん……僕は心から来て良かった、連れて来て貰って良かったと思った……みかんちゃんと友達になれて良かった……そうだった僕はあのみかんちゃんと友達になったんだ。
その凄さに再認識してしまった。
本当に居心地が良いけど、当然ここは僕の本当の家じゃない、僕のお屋敷じゃないってのはちゃんと認識しているよ、皆が本当のメイドじゃないってのもわかってる。
これがロールプレイだってわかってる……だって最後にお金を払うんだから……でもメイドだって仕事だ給料を貰って働いているんだ。それは今も昔も一緒だ。だからこそ某夢の国よりも現実的で良いじゃないかって思う。
僕は十分にメイド喫茶を堪能し、テーブル会計なのでみかんちゃんを呼びお金を払う。僕がお金を渡したその時みかんちゃんの目が一瞬済まなそうな目になった。プロの顔から友達の顔になった。
ああ、みかんちゃんも普通の女の子なんだ、僕の友人でクラスメイトの女の子なんだって思った……思ってしまった。
「ありがとう、とても楽しかったよ」
僕は満面の笑みでそう言うと、みかんちゃんも笑顔でこう言った。
「ありがとうございますご主人様……またのお帰りをお待ちしております」
そう言って見送ってくれた。そうそう今回貰ったギニーとかいうチップは直接渡すのはなんだか嫌な感じがしたので、店の入口にある個人投入口に入れた。みかんちゃんと最初に出迎えてくれたシュガーちゃんに。
外に出ると既に日は沈み辺りは暗くなっていた。スマホで時間を確認して驚いた。
「3時間も経ってる……」
1時間位、いや、感覚的には30分にも満たない時間だった。まるで浦島太郎の様な気分だ。
「竜宮城?」
そんな気分だった、鯛やヒラメのメイド様が踊り、みかんちゃんというお姫様が出迎えてくれる。
そんな幸せな気分に浸りながら僕は家路についた。
「お帰りなさいませ……お兄様……」
家に着き玄関の扉を開くとメイド喫茶と同じ様に迎えられた。
僕が帰って来るのを待っていたかの様に扉の向こうで泉に出迎えられた。でもさっきのメイド様とは態度が全然違う、泉は全く笑っていない……
「あ、ただいま……」
そうだった、あまりの楽しさに僕は泉の事をすっかり失念していた。そう、僕は泉と喧嘩をしていたんだった。
「お兄様お食事の用意出来ておりますので、手を洗ってから」
「あ、ごめん僕……食べて来ちゃった」
「え?」
「あ……えっと……」
「そうですか……分かりました……」
「あ、うん、ごめん」
そうだった、泉にご飯はいらないって言うのを忘れてた。と言うよりも今までこんな事、僕が外で食べてくるなんて事無かったので想像もして無かった。
僕はせめて少し食べるって言おうと思ったが、泉はさっさと僕に背を向けてキッチンの方に行ってしまった。
「あーーまたやっちゃった……」
またやってしまった、また泉を怒らせてしまった。
でも仕方ない、一緒に暮らしていればこういう事もあるさ。
僕はそう思うことにして部屋に戻った。
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