第84話 バカップルいちゃいちゃ

 2人はそっと寄り添うと、晴海は目をつむり、身長があまり変わらないので、気持ち顔を上に向ける。

 クラウドは、今度はためらうことなく口づけをした。


 お互いに感じる、柔らかい感触。

 2人にとって、3回目のキスは、甘い甘い幸せの味。


 永遠のような一瞬のような時が過ぎ、2人はゆっくりと顔を離す。

 はあ……と、うっとりした表情で晴海はつぶやく。


「あたし、ずっとこうなりたいと思ってた。クラウドくんのおかげで、夢が1つ叶っちゃった」


 クラウドは、自分と付き合う事が夢なんて、ささやかなもんだなと思うが、それを笑う事はできないし、とてもかわいらしいと思う。


「あたし、今すっごいドキドキしてる。クラウドくんは?」

「ああ、オレもだ」


 ふふふっと、互いに見つめあって微笑む2人。


「でも、本当にあたしなんかでいいの? あたし、わがままだし、結構めんどくさいよ?」

「なにを今さら。もう慣れたし、オレは面倒くさいのが案外好きだって言っただろ?」


 この期に及んで、引っ込み思案な事を言い出す晴海に、クラウドはめんどくせーなあと思いつつも、晴海の心を解きほぐそうとする。


「あと、自分で言うのはおかしいけど、あたしは変なよ?」

「それは、分かってるけど、オレはそんなところも含めて、お前の事をかわいいなあと思ってるから」

「クラウドくんって、変な人だね」


 それ、お前が言うか? と心の中でツッコむが、一度踏み込んだアクセルは戻せないので、そのまま晴海の心に突っ込んでいく。


「オレが変で、悪いか?」

「ううん、うれしい。ありがとう」


 そして、晴海は非常にとても言いにくそうに。


「それに、あたし……、おっぱい小っちゃいし……」


 ものすごく申し訳なさそうに言う晴海を元気付けようと、思わずクラウドは力強く答えた。


「大丈夫、オレが育てるから!」

「…………え?」

「え?」


 アクセルを踏み過ぎて、踏み抜いてしまったクラウドは、しまったという表情で晴海を見るが。


(男の人に揉んでもらったら大きくなるって言うわね)

(あと、エッチなことすると、女性ホルモンが分泌されて、女らしい体つきになるとか……)


 育てるって、もしかしてあんな事やこんな事や、ましてやそんな事をしちゃうの……?


 かつて、山瀬から聞かされた、胸を大きくする方法が脳内をぐるぐる回り、頭を抱えてしゃがみこむ晴海。


「あのー……、晴海さん?」


 尋常じゃない狼狽を見せる彼女に、クラウドはあわてて前言を撤回しようとしたが、晴海はトマトのように顔を真っ赤にしながら立ち上がり。


「あ、あのっ、あたし、男の人とお付き合いするのは初めてなので、その……。色々めんどくさいかもしれないけど、よろしくお願いします」


 晴海が何を言いたいのか、なんとなく分かったが、なんと言って良いか分からなかったので。


「えーと……、はい。大事にします」


 けっきょく男は、不安がる女性には誠意を見せるしかないのである。


 2人とも無言になり、なんとなく気まずくなってしまった雰囲気を紛らわすかのように。


「そういえば、クラウドくん、キスするのは初めて?」

「う……、うん。恥ずかしながら……」


 いたずらっぽく言う晴海に、クラウドは素直に答える。

 そんなに下手だったかなと疑問に思うが。


「じゃ、じゃあ、お前はどうなんだよ?」

「あれっ? おっかしいな~。あたし、クラウドくんとは3回ぐらいチューしてるんだけどな~」

「えっ!? それは、どういう……」

「さってね♪」


 茶目っ気たっぷりにはぐらかすと、つかまえてごらんなさーいと言わんばかりに、晴海は走りだす。


「ちょっと待て! いつの間にの話だ、そりゃあ!?」


 クラウドもあわてて、晴海の後を追う。

 なんだかいきなり主導権を握られてしまい、このまま行くとずっと尻に敷かれるぞと、危険察知アンテナは警告しているが、惚れた弱みもあるので苦笑いをしながら。


「ま、しょーがねえか」


 これから始まる、トラブル続きの楽しい人生を予感しながら、クラウドは晴海と共に仲間たちの元へと向かった。



 *



 先程まで暴れ回っていたはずの黄色い悪魔、ブロッケンがとつぜん中庭に不時着し、サバイバル同好会の残党を始めとした元カリスマ教の兵隊たちが、警戒しながら周りを取り囲む。


 終わったのか……?


 人々に安堵の雰囲気が漂い始めた、その時。

 軋む音を響かせながら、再びブロッケンは、グオッと立ち上がる。


『まだだ……、このままでは終わらんぞーっ!』


 再び、悲鳴を上げて逃げ惑う人々。

 それをかばうように、紫の忍者がブロッケンの前に立ちはだかった。


「拙者たちが、相手になるでござる!」

『邪魔をするなーっ!』


 霧崎はブロッケンを操り、雷也に襲いかかろうとするが。


『あ、そーれ』


 どーんと衝撃が走り、突如バランスを崩すブロッケン。

 霧崎が見ると、背後から雨森ブラザーズが、どっかから拾ってきた角材を機体の膝裏に突き立てていた。


『ひ、ひざカックンだとーっ!?』

「拙者たち・・が相手になるって言ったでござろう?」


 ガシャッと崩れる、幻影の悪魔。

 霧崎はコクピットのレバーをガチャガチャとやるが、もうブロッケンは微動だにしない。

 ブロッケンは、ひざカックンにより完全にその機能を失った。


「オレらの完全勝利だー!」

「おいしいところを一番搾りでござる」


 イエーイとハイタッチをするブラザーズと雷也。

 わー、と歓声が上がり、敵も味方も関係なく喜び合う上沢高校の生徒たち。


「馬鹿な……。僕の最高傑作が敗れるなんて……」

「もう、悪あがきはすでござるよ」

「ざまあみろー」


 ガチャン!


 屈辱にうち震える霧崎は、コクピット中央のガラスケースに覆われた赤いボタンに、決意を込めて拳を叩き込んだ。


「今、何をしたんだー?」

「時限爆弾のスイッチを入れたのさ……」


『アト、10分、デ爆発シマス』


『なにーっ!!』

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