第82話 インディ娘vs幻影の堕天使

「ひゃーっはっはっは! 逃げろ、逃げろ、逃げろ、クズ共がーっ!」


 高みから慌てふためく人々を見下ろし、優越に浸る霧崎。

 生まれてこの方、見下され続けて生きてきた、恨みつらみを吐き出す様にわらい続ける。


「どうだ! 僕は凄い! 僕は強い! 僕は天才だ! 世界よ滅べっ! 僕は神だーっ!」


 自分の力を誇示するかの如く、地上に向かって高らかに宣言する霧崎。

 だが、X型のスラグ弾がフロントガラスのギリギリ横を、ゴウッとかすめ飛ぶ。

 霧崎が弾の飛来してきた方向を凝視すると、城に重なるあお白い満月をバックに、フェルトの帽子の少女がグレネードランチャーを構えている。

 少女は、かかっておいでと挑発的に手招きすると、堂々たる立ち姿で、堕天使に向けてランチャーを突きつけた。


「……あの、クソ女ーっ!」


 激高した霧崎はブロッケンを旋回させ、マシンガンの砲身を晴海に向けた。


 ブロッケンから機銃が掃射され、晴海は慌ててその場から回避する。


「うわっとっとっと!」


 晴海は、屋上の縁の壁に背中を寄りかけて座ると、ランチャーのリボルバーを確認する。

 装弾数は最大6発。先ほど打ち出した1発を除き、残り5発分全てが装填されている。


「さっすが、ニワカくん。きっちりしてるよ。できる男は違うねー♪」


 晴海は、壁の上から敵の様子を覗き見ながら。


「今回の冒険で分かった事は、あたしの射撃が命中するのは、5発に1発。つまり、5回に1回は百発百中ってこと! だから、あたしはその1発に全てをかける!」


 謎の理論を唱えながら、壁の上から晴海は再び弾丸を放つが、描く軌道は大きく逸れる。


「これ、けっこう反動があるから、案外狙い撃つのは難しいね」


 さらに、バゴン! とスラグ弾を射出するが、やはりブロッケンを捉える事は出来ない。

 霧崎はヘリコプター形態から、セスナ機形態にシフトチェンジし、ぐおーんと大きく旋回して晴海の背後に回り込もうとする。


 『ブロッケン・スペクトル・ルシフェルモード』はヘリコプターに、飛行機と同様の主翼がついた、ヘリプレーンと呼ばれる複合機で、水平飛行時には主翼の揚力を用い、エンジンで前進する機能を有している。


 ヘリプレーンは1980年代に開発されていた、現在アメリカ軍で採用されているオスプレイのプロトタイプで、航空能力の不足のため、すでに廃れていたものだったが、霧崎はそれを現代に甦らせ、実用に向けて研究をしていた。


 陸上戦と『プラズマ』による電撃攻撃が可能な『悪魔モード』と、墜落する恐れがあるため、プラズマは使用出来なくなるものの、銃爆撃などによる空中戦を得意とする『堕天使モード』が切り替え可能な、造った本人の性格はともかく、ブロッケン・スペクトルは高度な機能を誇る戦闘メカなのである!


「おーっとっとっ! 次はこっち!?」


 晴海は急いで、屋上の反対側の縁に向かってダッシュする。

 とにかく遮蔽物がないため、裏を取られたら狙い撃ちにされてしまう。

 晴海は機銃の嵐をスライディングでかわしつつ、再び壁に隠れると、ランチャーの4発目をゴパンと発射する。

 今度はかなりいい線を行っていたが、やはり目標から外れて、彼方へと飛んで行った。

 だが、ここまでは全て晴海の計算どおり。


「ふっふっふ、次が5発目。撃ちさえすれば、必中の弾よ! さーて、どこを狙い撃とうかなー♪」


 信じるものは救われる。どこからその自信が来るのか分からないが、晴海はじっくりとブロッケンに狙いを定める。


「くそがっ! もう、ミサイルが1発しか残ってない!」


 霧崎は派手に大盤振る舞いしすぎた事を後悔するが、すぐに気を取り直し、晴海に照準を合わせる。


「これがトドメだ! 肉塊に成り果てろーっ!」


 晴海がランチャーを撃つよりも、一瞬早く、自らの持つ最後のミサイルを晴海に向けて射出した!


「……っ、やばっ!」


 晴海は飛来するミサイルに、とっさにランチャーの引き金を引くと、スラグ弾はミサイルに命中し、軌道が逸れて城への直撃を避ける事ができた。

 だが。


「どうしよう……、とっておきの弾を使っちゃった……」


 落胆する晴海を嘲笑うかのように、尻からアレのように機雷の雨を降らせるブロッケン・ルシフェル。

 ドカンドカンドカンッと、繰り返される小爆破に吹き飛ばされ、倒れる晴海。


「きゃあっ! ……なんの、まだまだっ!」


 ゴロゴロゴロと、革ジャンを翻して回転受け身を取りながら、すぐさま体勢を立て直し、晴海は空を仰ぎ見る。

 グレネードランチャーの残弾はあと1発。

 外せば敗北が確定し、待ち受けるのは死のみの状況だが、それでも晴海はへこたれない!


「という事は、この弾は20%の確率で百発百中って事ね!」


 前向きな理論を振りかざし、少しでも命中率を上げるために、ブロッケンに向かって走る晴海。

 少しでも確実に息を止めるために、晴海に向かって接近する霧崎。

 2人の距離が臨界点に達した瞬間、霧崎は機銃を、晴海はランチャーを撃ち放つ!

 弾丸が革ジャンを、皮膚を、髪の毛を掠め飛び、寸でのギリギリのスレッスレでマシンガンが掃討するラインを避ける晴海。


「お願い、当たってっ!」


 晴海が放った最後の弾丸は、空を切り裂いてX型に花開き、ブロッケン・ルシフェルのテールローターに直撃。

 ブレードが、バチュンと弾け飛ぶ!


 ヘリコプターはメインローターが回転し、揚力を生み出すことで浮遊する。

 このとき、メインローターの回転の反作用として、機体を逆回転させる『反トルク』という力が生じるため、尾部にテールローターを設置し、それを打ち消す必要がある。

 その重要なローターを失った、ブロッケンがどうなるかというと。


「くそっ! 何だっ!? コントロールが効かない!?」


 グルングルンと回転し、制御を失う堕天使。

 機体を傾がせながら、そのまま墜落していくように見えた……。

 が。


「やった! ……え?」


 バランスを崩したブロッケンは斜めに落下し、城の屋上をめがけ、晴海に向かって突っ込んで来た!


「きゃあああああっ!」

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