第80話 悪夢の世界
『ひゃはははははっ、ゴミクズカスどもが、
悪魔の哄笑が天空に響き渡り、ブロッケン・ルシフェルの胸部のハッチが開くと、次々とミサイルが打ち出される。
爆撃から逃れようと、地上の人間たちは慌ただしく逃げ惑う。
『お前ら、僕の事をいつもバカにしやがって! お前らにこんな凄い物を造れるのか? 造れないだろ? 僕は凄いだろ?
ブロッケンの右腕から機銃が掃射され、地面に無数の点を穿ったラインを描く。
『お前らのようなバカどもに、僕を理解できる訳ないだろうが! 見た目で判断するな! 才能を肌で感じろ! 男も女も、僕を汚い虫を見るような目で見るなっ! 僕を気持ち悪いとか言うなーっ!』
ブロッケンは、低空飛行をしながら、左の腕から火炎放射を繰り出し、飛行ルートにある物体を全て焼き付くそうとする。
『なんで、僕が科学部部長になった途端に、部員が全員辞めるんだ! 6月までに部員が入らないと同好会に格下げって何だ!? ふざけるなーーーっ!』
ブロッケンのお尻のハッチから、機雷を排出し、辺り一面にじゅうたん爆撃を敢行する。
『ひゃあっはっはっはっ! 僕を殴った奴ら、僕をカツアゲした奴ら、僕の弁当を食った奴ら、僕を虐めた奴ら、虐められてるのに無視した奴ら、上沢高校の奴らに悪夢を見せてやる! 全員まとめて死んで死んで死んで死んで死んでしまえーーーーーっ!』
狂気に満ち、狂気に狂った、敵味方お構い無しの無差別攻撃。
殺戮こそが
「投石機、準備ーっ!」
ゴロゴロゴロと、三国志や古代ギリシャの戦争に使われていそうな、巨大な木製のカタパルトが押し出される。
サバイバル同好会、守備部隊隊長シグレ少佐は、クラウドたちに二度敗北したものの
アフロヘヤーに、ほぼ裸に近い戦闘服を身に纏い、残ったサバイバル同好会の兵隊をかき集めて、投石部隊を組織した。
「撃てーっ!」
木材や竹の弾力とテコの原理で、石や土のうを打ち上げるが、はるか上空を舞うブロッケンに届きもせずに失速する。
そこへ、忍者装束の雷也が現れて。
「拙者にまかせるでござる!」
「うわっ、忍者が来た!」
「いやー、そんなに誉められたら照れるでござる」
「いや、見たまんま言っただけで、ほめてはいないけど」
忍者の登場にどよめく投石部隊に、雷也はおかまいなしに。
「拙者を投石機で飛ばすでござる。拙者の跳躍力と投石機の力が合わされば、きっと奴に届くはずでござる!」
「おおっ! キャプテン
投石部隊が打ち上げの準備をし、投石器の上に飛び乗る雷也。
「そういや、飛んだ後はどうするんだ? あの高さから落ちたら、貴様もただじゃ済まないぞ?」
「大丈夫でござる。着地の瞬間、受身を取るでござる!」
「さすが忍者だ。後はよろしく頼んだぞ! スカイッ!」
「らぶらぶはりけーんっ!」
雷也は腰だめに拳を構え、ジャンプカと投石器のパワーを相乗し、ロケットの様に跳躍する。
「超必殺技、雷切でござる!」
対空兵器と化した雷也は拳を放つが、ブロッケンに素早く旋回してかわされ、そのまま墜落して行く。
「ぬかったでござるううぅぅ……」
『忍者ぁーっ!?』
セスナ機とヘリコプターの利点を組み合わせた、いわゆる『ヘリプレーン』と呼ばれる形態のブロッケン・ルシフェル。
ローターを止め、器用に滑空すると、忍者を失った悲しみにくれる投石隊に接近してマシンガンを打ち込む。
投石機は無残に破壊され、対空攻撃の手段を失った。
「まだだ! まだ諦めるな、守備部隊のタフガイども! 今こそ、奮い起て! 上沢高校の運命は、我々の双肩にかかっている事を胆に命じろ!」
『イエッサー!』
シグレ少佐は、残り少ないサバイバル部員に、大いなる檄を飛ばし、自らが持つグレネードランチャーを天に掲げる。
守備部隊長・シグレ少佐。
何度倒れても立ち上がる、
彼が放つ暴徒鎮圧弾は、数々の敵の進軍を食い止めており、サバイバル同好会の不動の守護神として、彼の名は界隈で語られているが。
チュドーン!
ブロッケンが放ったミサイルが飛来し、爆風でシグレ少佐は吹っ飛んだ。
『隊長ーっ!』
「隊長の死を無駄にするな! 防御壁展開! 一般生徒の逃げる時間と、隊長がまた復活するまでの時間を稼ぐぞ!」
『イエッサー!』
「ちょっと待ったー! 次は、オレらにまかせてくれ!」
そこに現れたのは白黒キノコの双子コンビ、雨森ブラザーズ。
「む! 貴様らも、ムラサメ少尉と一緒にいた奴らだな」
「何か、策があるのか?」
「今から、ここにロボットを召喚する!」
「目には目を、ロボットにはロボットだ!」
「おおーっ! それは頼もしいな。よろしく頼む!」
さらに旋回し、迫り来るブロッケン。
対するブラザーズは、ポテトチップスのオシリプリングルズの容器を両腕に装着し。
『雨森、ハゲッターロボ&オジンガー
チュドーン!
『後はよろしくー!』
『貴様らは、いったい何をしに来たんだっ!?』
吹っ飛んで行くブラザーズにツッコミを浴びせるシグレ部隊の兵士たち。
さらに、ミサイルとマシンガンを撃ち込まれ、防御壁もあえなく全壊。
散り散りになってサバイバル同好会は潰走した。
「歩ける人は地下通路から森まで逃げて下さーい! ケガ人は俺が手当てをしますんで、ひとまずベースキャンプまで来て下さいねー!」
サバイバル同好会のベースキャンプ付近で、避難をする人達の誘導をしているグリーンベレー姿の男。ムラサメ小隊・副隊長のニワカ軍曹。
「ヤバいな……、ケガ人が異常に増えてきた。これじゃ人手が足りないぞ……」
傷つき、うめく傷病兵たちが列を成し、空には我が物顔で飛行する黄色い悪魔の姿が見える。
「隊長は今どこにいるんすかね? あれに対抗できるのは、隊長の爆弾ぐらいしか無いってのに……」
ギッと歯を噛みながら、空を見上げるニワカ。
そこへ、そっと後ろから近寄る黒い影が。
「ニーワカくん♪」
「な、夏山はん……」
関西弁ではない。
発音がおかしいのは、ニワカが自分を呼ぶ声に振り向いたら、頬に晴海の指がぶにっと刺さったためである。
「何でこんなところに?」
「話せば長くなるから、説明するヒマはないんだけど、とりあえずアレ、貸してくんない?」
晴海が指さすアレとは、救護用テントの横に転がっている、暴徒鎮圧用のグレネードランチャー。
「ああ、シグレ少佐の武器っすね。しばらくは復活しそうにないから別に良いと思うんすけど、あんなもん借りてどうするんすか?」
それに対する答えとして、晴海はニイッといたずらっ子の笑みを浮かべた。
*
「う……、うーん……。ぐあっ! 痛ててててっ!」
クラウドは意識を取り戻す。
傷の痛みと自分がまだ戦いの渦中にあることを思い出し、一気に覚醒する。
「ん? うわっ、白!」
目を開けると、眼前が白いもので覆われて何も見えない状況に陥っていた。
「うわっ、何だこりゃ!? 何も見えねーぞ!」
クラウドは、慌てて目の前の物を掴む。
「ひゃん!」
突然、上から聞こえる甘い艶声。
「何だこれ? なんか、ぷにぷにぽよぽよしてるぞ?」
「あの……、三雲くん……。それは、わたしのお胸です……」
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