第48話 vsサバイバル同好会・ムラサメ小隊

「敵が来ました、5人です」


 ここは、サバイバル同好会・ムラサメ小隊のベースキャンプ。

 隊員たちが覗き込むモニターに、クラウドたちの姿が映る。


「副隊長、どうしますか?」

「そうだなあ、試しにいくつかトラップを発動してみるかな。お前らは、迎撃の準備をしといてよ」

了解ヒャッハー!」



「いんでぃこ殿、どうしたでござる?」

「うん。なんか、嫌な予感が……」


 晴海は棒で地面の先をつついてみると、ボコッと地面が抜け、落とし穴が開いた。


「うーわ、竹槍が埋まってるー」


 晴海たちが落とし穴に気をとられていた時、ロープで吊り下げられた丸太が、前方から振り子の要領で突っ込んでくる。

 とっさに避ける晴海たち。

 だが、一番最後尾にいたクラウドは、丸太の存在に気づいておらず、反応が遅れる。


「うっ!」

「クラウドくん、危ない!」


 晴海はパチンコでクラウドを撃ち、額に命中。倒れるクラウドの上を丸太が通り過ぎる。


「クラウドくん! 敵よ、気を付けて!」


 晴海の声に、意識を取り戻すクラウド。

 しっかりしろ、オレ。今はウジウジ悩んでるヒマねーだろ!

 と、メガ正宗を抜くと、気合を入れ、神経を研ぎ澄ます。


「よし、みんな行くぞ!」



「さすがだな、あいつら……」


 繰り出される罠を次々クリアーして行くクラウドたちに、感嘆の声をあげるニワカ軍曹。


「やるねぇ、こりゃ俺様まで出番が回って来っかもなぁ……」


 ムラサメ隊長は愉しげな様子でモニターを見つめる。


「副隊長! 迎撃部隊、準備完了しました!」

「よし、散開して包囲しろ。索敵殲滅サーチ・アンド・デストロイ!」

了解ヒャッハー!」



「ふう……、攻撃が止まったか?」

「まだでござる、数人の足音が聞こえるでござる」


 地面に耳をつけ、音を聞く雷也。

 その時、電動マシンガンの音と共に、BB弾がクラウドたちを襲う。

 ビニール傘を広げるクラウド。

 ブラザーズは両腕で顔面をガード。

 BB弾が弾け、中に詰まった液体が腕を染める。

 サバイバルゲームで、着弾した事がすぐに分かる様に開発されたが、銃の手入れと保存性、コスト面や命中率などで問題があるため、一般にはあまり使われていない、ペイントボール。

 さらに足元に引かれたロープに払われ、倒れるブラザーズ。立ち上がろうとするが。


「うわ、地面からはがれないー?」


 ねばついて、ゴキブリホイホイの様になるブラザーズ。かなりの粘着力だ。


「インディコ! 雷也! あの弾に当たったらやばいぞ!」


 雷也は手近な木を蹴り、跳躍する。

 自称忍者は伊達じゃない。パパパパッと木から木へ飛び移り、枝の上にいた狙撃兵の1人を蹴り落とした。

 地面に着地、だが。


「うわあでござる!」


 網に捕らえられ、木の枝にぶら下げられる雷也。

 これは、サバイバル同好会がバレー部から奪い取ったネットを利用したもの。

 残るは、クラウドと晴海の2人だけ。クラウドはビニール傘を晴海に手渡す。


「インディコ、これ持ってろ」

「クラウドくんは?」

「あの弾は面倒だ。オレが囮になって、弾切れを誘う」


 敵の射程に飛び込むクラウドに弾幕が襲う。

 反射神経を利して、被弾から逃れる。

 ペイントボールの集中砲火の嵐が過ぎたと思ったら、続けて野球ボールが機関銃の様に飛んで来る。

 驚きながらも、避け続けるクラウド。

 そして、突然砲撃が止んだ。


「……終わったのか?」


 クラウドの読みは甘かった。

 8機のピッチングマシーンから放たれた弾丸が、同時に360度からクラウドを襲う!

 さしものクラウドとは言え、これはかわせないと悟る。

 だが、その時、クラウドの脳裏に、幼い時の記憶が蘇った。



 *



 ヒュンヒュンヒュンと飛来するピンポン玉。

 それを、小学生くらいの少年、幼き日のクラウドがひらりひらりと避けている。


「よし、次はこいつだ」


 クラウドの父、三雲みくも入道にゅうどうは、先端にボクシンググローブがついた棒で、クラウドに向けて突きを放つ。

 クラウドは、それもほとんどフットワークを使わずに、上半身だけでかわしまくる。


「よーし、だいぶ避けるのが巧くなったじゃねーか、蔵人」

「ねえ、父ちゃん。ぼくはいったい何の練習をしてるの?」


 クラウドは父に素朴な疑問を投げかける。


「じゃあ、逆に聞こう! お前は何のつもりで練習してたんだ?」

「ボクシング?」

「違う! 10年後に開催される、『ざっいちどうかい』に出場するためだ!」

「なに、そのドラボンゴールみたいな大会」

「回避は最大の防御! 攻撃を喰らわなければ、死ぬ事もない。それは、お前も肌身に染みて実感したはずだ!」

「まあ、あんなめんどうくさい思いをするのは、もうこりごりだけど……」

「というわけで、今日は特別メニューを用意してみたぜ」


 入道は、天井から吊り下げた怪しげな器械を指差す。

 そこには、包丁25本が5×5の枠にセットされているもので、入道の手元の紐を引くことで、1本1本落下する仕組みになっている。


「これは、三雲雑貨店特製『よけよけマッシーン』! お前はこれの真下に立って……、そうそう、そこらへんだな。今からこれを1本ずつ落とすから、それを避けるんだ」

「まあ、1本ずつなら楽勝だね」

「包丁だから、甘くみんなよ。一歩間違えたら死ぬぜ」

「はいはい、分かったよ」

「あ、手がすべった」


 1本ずつ落ちてくる予定の包丁が、25本まとめて落ちてくる。

 クラウドの頭上に、包丁の雨が降りかかる。


「うわあああああっ!」


 その時、クラウドは死んだと思った。

 だが、その瞬間、包丁の動きが緩やかに、さらには止まって見えた。

 クラウドは1本1本を、すり抜ける様に避ける。

 再び、包丁はスピードを取り戻し、床にドスドスと突き刺さった。


 息子の無事を確認した入道は、悪びれもせず。


「はっはっは、悪りー、悪りー。でもこれを避けれるくらいなら、次は100本くらい同時にいっとくか? 痛い! 無言で父の尻を蹴るんじゃない。痛い痛い! 分かった、ごめん、もうしません……」



 *



「止まって……、見えるぜ一っ!」


 クラウドは8個のボールを、軟体動物のようにすり抜けてかわす!

 最後に飛来して来た物体を、ガッチリ歯で受け止めた。


「ひんひほ、ほはへはー!(インディコ、お前なー!)」


 クルミをくわえたまま、文句を言うクラウド。


「ごめーん! 1個ぐらいは援護しようかなって思ったんだけど……」

「おい! そこのおめぇ、なかなかやるじゃねぇか!」


 2人は声のする方に顔を向けると、数人の部下を引き連れて、迷彩服に黄色いバンダナ、眉毛が太い濃い顔の男が、戦闘服の上着をはだけ、筋肉隆々のタンクトップ姿で現れた。


「誰だ、お前?」


 クラウドは、不信感モロ出しに問う。


「俺様は部隊長をやってる、サバイバル同好会の『タイガーシャーク』こと、ムラサメってもんだ。よろしくな」


 敵とは思えない気安さで話しかけて来るムラサメ。

 どうやら戦闘の意思はなさそうだが。


「あたしは夏山晴海、冒険家でノーテンキ冒険隊の隊長よ。こっちがクラウドくん。で、そっちの隊長さんは何の用?」

「いやな、おめぇらの戦い振りを見て、体がうずいっちまってしょうがねんだ。どうでぇ、俺様と戦わねぇか?」


 シュッシュッとシャドーボクシングをするムラサメ。

 クラウドと晴海はキョトンとして、顔を見合わせる。こんなスポーティーに喧嘩をふっかける奴は初めてだ。


「おめぇの危機回避能力、実に大したもんだ。おめぇみてえな野郎と戦ってこそ、サバイバル同好会の腕も名も上がるってモンだ。タイマン勝負ろうぜ?」


 拳を突き付けて、答えを待つムラサメに対し。


「そういう事なら他を当たってくれ。オレは好きこのんでケンカやってる訳じゃねえ」

「あん? 俺様が頭下げて頼んでんのに、おめぇは腰抜けチキン野郎か?」


 下げてない下げてないと、ムラサメの背後で首と手を振る、ムラサメ小隊の隊員たち。


「挑発しても答えは変わらねーよ。オレらは急いでるんだ、先に行かせてもらうぜ」


 立ち去ろうとするクラウドに、ムラサメが殴り掛かる。クラウドはとっさにかわしながら。


「何すんだよ!」

「どうだ、これでも戦わねぇって言いやがんのか?」


 ストレートパンチを顔面に叩き込もうとするムラサメ。だが、クラウドはスウェーで避けるだけで反撃する様子を見せない。


「なぜ、やり返さねぇ?」

「お前は強そうだし、まともにやりあったら面倒そうだからな」

「なんでぇ? 強えぇのか、腰抜けなのか良くわからん奴だな。そんなら、そっちのインディ・ジョーンズみてぇな嬢ちゃんにくとするか」


 ムラサメが左腕を構え、シュパッとワイヤーアームを晴海に絡み付けて、くるくるくるっと引き寄せる!


「あ~れ~!」

「おいっ! インディコに手を出すな!」


 すぐに、ムラサメは晴海を解放したが、その体には時限爆弾が設置されていた。


「解除する4ケタのキーナンバーは、俺様だけが知っている。制限時間は10分。俺様に勝って吐かせねぇと、この嬢ちゃんはドッカンだ。どうよ?」

「ク、クラウドくん……」

「ふざけんじゃねーぞ……」

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