第38話 洞窟探険行
異世界の入口という祠に入った冒険隊。
中は四畳半程度の広さで、木の板壁の上の方に神棚を祭ってある。
だが、それはあくまで体裁のためで、本尊と言うべきものは足元の赤く塗られた鉄扉だと思われる。
「たぶん、この赤いのが入口だよね。あたしが開けてみようっと」
うんしょ、と取手を引っ張る晴海。だが、ピクリとも動かない。
「あたしじゃダメみたいね。雷也くん、お願い」
雷也が力を込めると、ガコッと音を立てて、扉が開いた。
「下に降りる階段になってるみたいだなー」
「さすがに、いきなり異世界に突入って感じじゃねーな」
扉に吸い込まれ、目が覚めたら異世界転移でした。的な展開を期待していた訳ではないが、ちょっとガッカリするクラウド。
「よし、早速入ってみましょ。最後の人は扉を閉めて来てね」
「扉を閉めたら、真っ暗でござるな」
「懐中電灯なら持ってるぜ」
クラウドはリュックから、頭に装着するタイプのヘッドライトを人数分取り出す。
「気分が出るから、
「待って、こういう洞窟には腐敗物から毒ガスが出てる事があるから、松明は引火する危険があるよ。ヘッドライトにしときましょ」
洞窟にある腐敗物。死体でもあるのか?
クラウドは身震いしながら、全員にライトを渡す。
LED電球なので5人で照らせば、洞窟の中も昼のように明るくなった。
先頭に立って歩く晴海。後に続くクラウドたち。
洞窟は木の枠組みが天井と壁を支えてあり、時代劇とかでよく見る金鉱のような風情である。
「ここ掘ったのって江戸時代とか戦国時代とかじゃないだろうな。崩れてこねーかな?」
晴海は壁と木の枠を触ってみる。
「たぶん大丈夫よ。地盤もしっかりしてるし、わりと最近のものみたいね」
幾分の不安もあるが、とりあえず冒険隊は歩き続ける。
基本的には一本道、道が脇に逸れている所もあったが、クラウドたちは大きな道を選んで歩く。
ガンガン歩く。けっこう歩く。同じような景色が続くので距離感が薄れてくるが、我慢して歩く。
しばらくすると、いかにもRPGのダンジョンっぽい感じになって来た。
赤茶けた岩がゴツゴツしていて足場が悪く、つまずきそうになる。
少しずつ湿った空気が濃くなって来ているように感じ、だんだん涼しくなって来た。
そして、広い場所に行き当たる。
「わあ……」
「何だ、ここは………」
いうならば、恐竜の
天井から、なめらかな白い岩が、ツララのように吊り下がっており、下からはトゲが突き出ていた。
「これが、鍾乳洞って奴か……」
「すごいなー」
「拙者、初めて実物を見るでござる」
「へえ……。上沢市はむかし海だったって聞いてたけど、これを見たら納得だね」
「ん? どういう事だ?」
ちんぷんかんぷんのクラウドたちに、えっへんと言いながら晴海は説明する。
「うん。鍾乳洞は石灰岩の地層から、地下水が染み出てできるんだけど、鍾乳石の材料があるって事は、貝殻とかが積もった地層。つまり、上沢市が海だった時代があるって証明になるんだよ。わかった?」
「なるほど、分かりやすいなあ。インディコは先生とか向いてるんじゃないか?」
「なんなら『博士』と呼んでくれても良いよ。あと、ブラザーズくんたち、鍾乳石は保護されてるから、ツララを折ったりしちゃダメよ」
お土産に持って帰ろうと、今まさにへし折ろうとしていたブラザーズを止める。
「でも、こういうトコに来ると、なんか冒険って雰囲気でドキドキするね」
まさしく、気分は探検隊。
晴海は意気揚々と進んで行く。気持ちお肌がテカテカしているようにも見える。
こういう場所はきっと大好物なんだろうな、とクラウドは思う。
鍾乳洞が終わり、普通の洞窟の外観に戻った。
「ん? 何か聞こえない声が、聞こえるでござる」
「超音波か? んなもん、聞こえる訳ねーだろ」
「いや、何かいるよ!」
晴海はライトを前方に照らすと、無数に飛来して来る小動物が!
「コウモリだ!」
ぶわーっと、一斉にたかって来るコウモリの群れ。
「みんな、突っ切るよ!」
コウモリの嵐に立ち向かうクラウドたち、急に目の前に壁と扉が現れる。
慌てて飛び込み、扉を閉めてコウモリをシャットアウト。
「ふう、やれやれ……って、なに、この部屋?」
六畳ほどの、洞窟の壁や天井が不自然に正方形に切り取られた、何も無い部屋に入ってしまった。
入口の真向かいにある、出口に向かう晴海。だが、扉が開かない。
「しまった! みんな、戻って!」
さらに入口の扉も開かない。
そして、お約束というか、ゴゴゴゴゴっと天井が降りて来た。
「吊り天井!」
潰されまいと、天井を支えようとするクラウドたち。
だが、ベキベキッと悲惨な音を立てて、天井は地面に到達した。
しかし、クラウドたちは潰された訳ではなく、岩壁を模したハリボテを突き破って呆然と立ちすくむ。
すると、キィーと軋む音を立てて、出口の扉が自動的に開く。
「あ、開いた」
「なめてんのか、この部屋」
パッパラーという効果音と共に、ドッキリ大成功の看板を持った人が現れる訳でもなく、扉の先にはまた暗い一本道が続いていた。
「いつまで歩かせるつもりだよ、一体……」
クラウドたちはどこまで続くとも知れない、長い道をひたすら歩き続ける。
*
「何で、こんなトコにこんなもんがあるんだ?」
クラウドたちは洞窟の行き止まりにぶち当たった。
そこには、ミロのビーナスの様な石膏像がぽつんと鎮座していた。
「台に何か書いてあるね、えーと……」
台の石板に『このビーナスを押せ』とあった。
「謎を解き明かさないと先に進めないって事かな? なんかトレジャーハンターって感じがするね」
ワクワクが止まらない様子の晴海。
だが、上半身裸のビーナス像を見て、ちらっとクラウドの様子を伺う。
「あれ? いつもと反応が違うね」
「くらうど、いつもの発作はどうしたでござる?」
見ると、クラウドは気恥ずかしさから、ビーナス像から目を背けている。
「いや、そんなに胸大きくねーし。つーか、オレは別に巨乳が好きって訳じゃないんだからね!」
ツンデレヒロインのような台詞を言うクラウド。
確かに、ビーナス像の胸の大きさは、Bカップ程度でCまではないように思われる。
古代ローマでは、女性の魅力は胸よりもお尻の大きさが重要視されており、その時代の女性像は胸を小さく造形されているものが多い。
「あれで小さいなら、クラウドくんはどれだけあったら満足するの……?」
こっそり、晴海は自分の胸を触ってサイズを確めてみる。
「じゃあじゃあじゃーあ、オレからやるー」
謎解き1番手に立候補する、ブラザーズ北斗。ビーナス像に近寄って。
「ビーナスを押せって事だろ? じゃあ、これしかないよなー」
北斗が押したのはビーナスの右胸、しかも乳首。
ゴゴゴゴゴと地響きが鳴り渡る。
「なに、何、なにが起きるの?」
「よっしゃ! 当たりみたいだなー」
突然地響きが収まり、上からタライが降って来た。
くわーん、と金属音が洞窟内に響き渡った。
「うおおおおおー」
頭を押さえてうずくまる北斗。お約束と言えばお約束。
「今の、どこから降ってきたのかな?」
「やましい事考えてるから、そうなるんだよー」
次は南斗がビーナスの謎に立ち向かう。
「ポチっとな」
ビーナス像の左胸の乳首を押す。また一人、タライの犠牲者が。
「おおおおおおー」
「ブラザーズくん達のエッチ!」
「双子だけに同れべるでござるなあ」
同じポーズでうずくまるブラザーズを押しのけ、次に雷也がチャレンジする。
「ちょっと考えたら分かるでござる、さみんぐでござる!」
ビーナス像に目潰しを食らわす雷也。直立のままタライを食らう。
「違うでござるか? 次は人中! 水月! ればーぶろー!」
思いつく限りの急所を突く雷也。次から次へと衝突するタライ。
「これだけやって、なんで当たらないでござるか?」
「はい、次。クラウドくんお願い」
晴海は次の刺客にクラウドを指名する。
「いや、オレはいいよ」
「お願い、一応やってみて」
「分かったよ。しょーがねえな……」
あんまりオレはやりたくないけどな、と言いつつニコニコしながらビーナスに近づくクラウド。
隊長の命令だもんな、と言いつつビーナスのセミヌードを堪能する。
その様子を見て、小さくても興味がないわけじゃないのねと安心する晴海。
でも、ちょっとシャクなので。
「クラウドくん、おっぱい触っちゃダメだかんね」
「……」
晴海に釘を刺され、クラウドはうーんと唸って、一つの答えを導き出す。
「へそ」
くわーん。
「もう! みんな頼りないなあ。やっばり、隊長のあたしじゃないとダメかな?」
晴海はビーナス像の前で腕組みをする。
ビーナスを押せ、押せ。ビーナスを押せ……?
晴海はやおらにしゃがみ込むと、土台ごとビーナス像を前に押す。
ズズズっと像が動き、いつの間にか前方にできた四角い穴にビーナスが吸い込まれて行く。
ドガガガガガガと、地面が揺れる。
「みんな、あれを見て!」
晴海が指さす方向、行き止まりだった壁が左右に真っ二つに裂け、新しい道ができる。
揺れが収まり、前方に視界が広がった。
「どう? 謎解きってのはこうやってやるのよ」
フェルトの帽子のつばを人差し指で弾き、さっそく新たな道に向かう晴海。
「結局、今のは謎解きってレベルだったか?」
「何か言った?」
「い、いや、別に……」
「なんか、オレらいいとこ無しだったなー」
「男性向きの問題じゃなかったでござる」
なにはともあれ、謎解きで食った遅れを取り戻すべく、冒険隊は先を急ぐ。
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