第10話 ノーテンキ冒険隊結成!
「……完壁な変装だと思ったのに、なんでバレるでござるかな?」
ダメージから回復した、シノビマスクは目出し帽を脱いだ。
覆面の下から現れたのは、ハリネズミのようなオールバックのトゲトゲ頭。
やはり、忍者マニアの服部雷也であった。
「バレるも何も、モロまんまじゃね―か」
「あれ? 雷也って、今日バイトじゃなかったっけ」
「それが、話すと長くなるでござるが……」
雷也の話だとこうだ。
一人暮らしをしている雷也は、いつもお金に困っている。
今日の朝、グラサンで白髪、黒コートの男に登校中を呼び止められ、「5月2日の放課後から5月8日の朝まで、柔剣道場前を通る者、全てを撃退してくれ」と頼まれた。
報酬は一日につき3万円。雷也が即で引き受けたのは無理もない。
そうして、やって来る猛者共をちぎっては投げしている所に、クラウドたちと遭遇したという訳である。
「うさんくせーバイトだな、そんな事して意味があんのか?」
「拙者もそう思ったでござるが、金額に釣られたでござる」
「正体も名乗らなかったんだろ? 何より、いで立ちが怪しいよなー」
わいわい論議する、クラウドたち。
「……考古学研究部が関わってるかもしれないわね」
一人離れた所で、つぶやく晴海。
「考古研? そういや、夏山さん、昨日も何か言ってなかった?」
「インディ娘ちゃんって呼んで」
「ごめんごめん。で、考古研がどうしたって?」
「……うん、考古研の連中は何かと妙な噂が付きまとっていてね。知っての通り、見た目から怪しかったでしょ」
心の底から、頷くクラウド。
「それに、あたし見ちゃったの」
今を遡る事、約3週間前。
桜の花びらが舞う4月6日。上沢高校の入学式の日。
式を終えた新入生に対し、クラブ勧誘が行われるのだが、それは生易しい物ではない。
会場を一歩出た瞬間から、すでに戦場になっており、新入生は揉みくちゃにされ、どの部に入るか、高校3年間を左右する究極の選択を迫られるが。
「とうとう、あたしも花の女子高生! 考古研に入って、インディ・ジョーンズな高校生活を送るのよ♪」
晴海は、この学校に『考古学研究部』なる物が存在するという話を聞いた時から、そのクラブに入部する事に決めていたので迷う必要は全くなかった。
「こんにちはー、新入部員いりませんかー?」
酒屋の注文取りみたいな挨拶をして部室のドアを開き、眼前の光景に驚愕した。
昼なのに薄暗い部屋の中で、まっ黄色のフードを被った者達が、筋肉隆々とした御神体らしい物に祈りを捧げていた。
天井・壁には意味の分からない文様や肖像が描かれていて、地の底から鳴り響く様な太鼓の音が、不気味さに拍車をかける。
見る物全てが、恐怖と吐き気を催す様な存在で塗り固められていた。
晴海はドアを開けたそのポーズのまま、フェードアウトして走り去った……。
「と、いうような事があったの。あれは邪教集団ね、間違いないよ」
『ヘー』
学校が根底から覆るとか、得体の知れない邪教集団? 晴海の話は何かとキナ臭い物が多い。
そんな大ゲサなと、こっそり思うクラウド。
「その考古研やら、事件やらとはどういう事でござる?」
「実はカクカクシカジカで……」
「カクカクシカジカじゃ、わからないでござる」
晴海は雷也に今までの事を、かいつまんで説明した。
「なんと、生徒会役員がそんな事になっていたとは」
「女の子のパーソナルデータはよく調べてるのに、重要な情報には疎いんだなー」
「本当にお前、忍者か?」
ブラザーズのもっともなツッコミ。
「そういう訳で、忍者服部くんにも協力してもらいたいの」
「その呼び方はやめようね」
クラウドは、版権とか著作権とかを気にしてツッコむ。
しかし、雷也は首を振る。
「駄目でござる、今月はピンチでござる、バイトを続けなければならないでござるよ」
「お前、いっつもピンチだなー」
「でもよ、その男の顔も正体も知らないんじゃ、バイト代はどうやって請求するんだよ?」
雷也はその場に崩れ落ちた。
「不覚……。気付かなかったでござる」
「気付けよ。ま、お前の依頼主も学校内にいるかも知れないし、一緒に探してやるから、お前も来いよ」
雷也は、なるほどと言いながら、晴海の前で忍者のように片ひざを折り。
「拙者も、お供するでござる」
「ありがとう! 協力してくれるのね!」
晴海と雷也はがっちりと握手を交わし、全員であっはっはと笑い合う。
クラウドは晴海の笑顔を見ながら、最初からこうなる予感がしたから、無理やりでもオレらを引っ張って来たのかなと思う。
だとしたら。
「冒険家のカンか、大したもんだ」
「どうしたの? あたしがどうかした?」
クラウドは、いつの間にか晴海の顔を見つめている事に気づき。
「え? あ? いや、何でもないよ」
恥ずかしさを隠す様に、寝癖のついた黒髪の頭をポリポリっとかいた。
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