第74話 夢ですら
『彼女』とホテルで食事をしていた。
どの『彼女』とは解らない…過去に付き合った『彼女』の集合体でも言うべきなのだろうか、その姿はハッキリとしない。
空港のラウンジだろうか、場所も定かでない。
料理の前にシャンパンが注がれる。
酒を飲めない僕は炭酸水をお願いした。
『彼女』のグラスにロゼのシャンパンが注がれる。
『彼女』は注がれたシャンパンの気泡を真珠のようだと言って愉しんでいた。
乾杯をしようと手を前に伸ばすと、『彼女』の姿は無く、空席には飲みかけのシャンパングラスだけ残されていた。
料理が運ばれるのだが、『彼女』は戻らず、料理は白い布を掛けられテーブルの下へ置かれる。
運ばれ続ける料理はテーブルの下へ…置かれ続けた…
飲みかけのシャンパンの気泡だけが音を立てている。
戻らない彼女を待ち続けて僕は、シャンパンに口を付けた…
気泡は銀色に変わり…水銀の粒がグラスの表面に溜まっていく…
無機水銀…なのか…僕はそれを躊躇なく口に含んだ…
床に横になり行き交う人の足だけを見ていた…いつまでも…いつまでも…
解っていたんだ、もう『彼女』はココには戻らない。
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