第23話 A(仮)の力の使いみち
「あれ?清治は?」
私達がアウメを砕いているとエアリィが家から出てきて言った。
「何か用事があるとかで出て行ったぞ」
「そうなんだ、で二人は何してるの?」
「アウメを砕いてるんだ」
「へえ、砕けるとこんなになるんだ。やっぱり綺麗ね」
エアリィは破片を眺めながら言う。
「で、何しに来たの?」
「何ってもう昼だよ?二人が戻ってこないから呼びに来たの」
「もうそんな時間なのか。すまない、すぐ昼の準備するからな」
「あ、待って。ちょっと二人に聞きたいことあるんだけど。揃ってるなら丁度良いし」
「聞きたいこと?なんだ?」
「二人はさ、この世界に来てすぐ戦場に連れて行かれたんだよね?」
私はイーレと顔を見合わせる。
「そうよ。それがどうしたの?」
「チュウ・セイ侯爵って知ってる?」
「私は知らないな」
イーレはそう言った。
「私は知ってるわ。私が行く前に大敗北して軍団長の地位を失脚した人ね」
私が到着した時にはすでに前線が大きく後退していて戦場は騒然としていた。中にはチュウ・セイを非難するような声もあった覚えがある。
「ふむ。ちなみにその後は?」
「まず私のいたサン・セイ軍が攻勢に出たわ。と言っても私がA(仮)の力を使ったら相手が退いてったんだけど」
「その後は私のいたアル・キャリー軍だな。サン・セイ軍に遅れを取るなって凄かったぞ」
「イーレも魔法使ったんでしょ?」
「魔法というかまだ良く分からなかったからとにかく精霊様に祈ったんだ。そしたら相手が恐慌状態になって退いてった」
「なるほどね」
エアリィは少し考えたあと
「チュウ・セイ侯爵ってその後どうなったか分かる?」
と言った。
「知らないわ」
「そう」
「その侯爵がどうかしたのか?」
「うーん、ちょっとね」
エアリィは何か考えているようだった。私は再びイーレを顔を見合わせる。
「お、三人ともどうしたんだ?」
セイジが帰ってきた。
「あ、おかえり。どう?あった?」
「これでいいか?適当に選んできたけど」
セイジは一振りの細身の剣を持っている。レイピアと言う物らしい。
「ん。良いんじゃない?」
「で、どうするんだコレ」
「ティレット持ってみて」
「私?」
意味が分からない。が、取り敢えず手にして鞘から抜いてみる。
「お、似合うねぇ」
「持ってどうすれば良いのよ」
「ん、今からだと時間がかかるか。お昼食べてからにしましょ」
「何なのよ、一体」
「それは後のお楽しみ。イーレ、ご飯作って♪」
エアリィはそう言って屋敷の中に入っていく。私達はわけも分からずに顔を見合わせていた。
「Aの力ってさ」
「AじゃなくてA(仮)よ」
「しょうがないじゃん。私らには発音出来ないんだしさ。で、その力を使う時ティレットって手とか指の先に集中してるじゃん?」
「そうね」
「それは棒の先でも出来るの?」
「考えたこともなかったわ」
昼食を終えて一休みした後私はエアリィと裏庭に出た。エアリィは何か試したいことがあるらしい。
「あの力ってさ、とにかく凄いじゃん?それをさもっとコンパクトに出来たら便利じゃない?」
「それでこの剣なのね」
私は渡された剣を抜いてみる。この剣は切るというより突く事に特化した物なのだという。
「そうそう。その剣の先に力を集めたらどうなるのかなって」
試してみて、というのでやってみる事にする。腕を真っ直ぐ天に伸ばしその先に持った剣の切っ先も同じ様に空に向ける。いつもと同じような感覚でその剣先に意識を集中させる。
「おお!」
A(仮)の力は剣先に小さな火球を作った。
「これはどうすれば良いの?」
「その辺の木にぶつけてみて。こう先っちょから真っ直ぐ飛ぶような感じで」
私が言われたようにすると火球は木に当たり弾けその枝を折る。
「良いね。実験成功!」
「実験って。これが出来て何になるの?」
「便利でしょ?これなら街中でも力を使えるし。街中でいつものように力を使ったらエライことになるでしょ?」
言われてみればそうだ。セイジにも何度か街中では使わないようにと言われた覚えがある。
「ね、もう一度やってみてよ。今度は木を根こそぎ吹っ飛ばすくらいの力で」
「はいはい」
私は簡単に出来ると思いもう一度剣先に力を集中させるにする。今度は最初から木に剣先を向け、強めなのをイメージする。
「あ、ちょっと、なんか変だよ」
私も切っ先を見ていたのでその変化にはすぐ気付いた。今度は火球は現れず代わりに刀身が赤く焼け真ん中からパキンと折れてしまった。
「え、なんで?」
「これは色々試して見る必要があるね」
それから色々な物で同じことを試した。
まずは同じような剣、レイピアを再度試した。これは加減さえ間違わなければ最初のように火球を放つ事が出来た。少しでも強くしようと思うとやはり刀身は折れてしまった。
次に幅広の剣を試した。これは全く駄目だった。まるで火球が出来なかった。刀身が赤くなる所まではレイピアと同じだがそれだけだった。試しに木に振り下ろしてみたら一刀両断することが出来たが剣そのものは折れてしまった。見ていたセイジが「魔法剣だ!」と妙に興奮していたのが不思議だった。
今度はナイフと包丁を試してみた。火球こそ出るが非常に弱かった。イーレは焚き火を着火するのに丁度いいと喜んでいた。強くするとやはり折れてしまう。これが手元で起こるので私はびっくりして二度とやりたいとは思わなかったが。
その次は鉄パイプという物だった。セイジはこれを見てコレがあることを驚いていた。その後になにか考え始めてしまったが。これはリング状の火を放つ事が出来た。強くしても強度的には剣よりは長持ちするが結局は折れてしまった。エアリィはこれはこれで使えそうだと言う。
さらにただの木の棒や杖も試してみたがあまり好ましい結果は得られなかった。
結局最初に試したレイピアが一番良いだろうという事で何本か買って練習することになった。
「で、結局こんな事をさせて一体私に何をさせようというわけ?」
私はなかなかその理由を話さないエアリィに聞いてみる。
「うん?何ってティレットの戦闘能力の向上」
「それは分かるけどその目的を聞いてるのよ」
エアリィは頭を掻く。そして私をじっと見つめる。
「何よ」
「ティレットはここがなくなったら困るでしょ?」
「ここ?この家ってこと?」
「そう」
結局トイレ作りに協力する事にしてから私もここに住まわせて貰うことになった。だが単に住む場所というだけなら別になくても困らない。
「そうね。困る」
私がここに住んでいるのはここに近い将来出来るであろうトイレのためだ。そしてそのトイレは現在進行系で作っている最中である。
「なら防衛力は高い方が良いじゃない?」
「防衛って、誰か攻めてきたりする可能性でもあるの?」
エアリィは少し考えて言う。
「ひょっとしたら、そういう事になるかもね」
そう言う顔は珍しく真剣だった。
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