再会編31話 演習後にはサプライズ
「カナタ!右翼のエマーソン隊が前進を開始、逆撃に出てきたわ!」
撞木鮫のメインスクリーンに映ったホタルからの報告に即座に対応する。
「シズル隊、前進せよ!エマーソン隊が穿つ楔から師団本隊を差し込むのがヒンクリー師団の必勝パターンだ!」
融通無碍な用兵がエマーソン少佐の持ち味、だがもっとも得意とするのは、陸の海賊らしく強引な突破戦術だ。
「シュリ隊は側面からシズル隊を援護!主目的は…」
「迎撃ではなく足止め、任せてくれ!」
オレの友は陽動戦術のスペシャリストだ。百戦錬磨のエマーソン隊といえども、これで足は止まる。
本隊がもうスライドを始めている!!……エマーソン隊が楔を穿つ前提で師団本隊は動いたんだ!この演習で初めて見せた隙らしい隙、このチャンスを逃しちゃダメだ!
「サンブレイズ本隊、前進!今なら師団本隊の横っ面を叩ける!」
撞木鮫を先頭に自軍本隊が動き始める。迎撃してきた艦隊の砲弾が着弾し、大音響が荒野に響き渡った。
「火薬量を極小にしてある模擬弾と言っても音だけはいっちょまえね。」
補助シートで足をブラつかせるリリスはバトルドレスではなく、いつものゴスロリドレスだ。
この演習のレギュレーションは"異名兵士は戦闘不可"、純粋に指揮能力だけの勝負だ。
自分で戦えないのは正直焦れったいが、これは"指揮能力を鍛える為にはその方がいい"というヒンクリー少将の親心、見事に横っ面に食いついて、やれるところを見せないとな!
「ブレイザー1、2、撞木鮫の左右で壁になってくれ!牛頭さん、馬頭さん、出番だ!白狼衆、出撃!」
「今こそ狼の牙を見せる時ぞ!」 「行くわよ、みんな!」
壁に立った戦艦2隻の合間から、純白の戦装束を身に纏った狼達は戦場に踊り出る。
ヒンクリー師団旗艦「バリアント」から陸の海賊どもがお出ましか。白狼衆VS陸の海賊、この演習の雌雄はここで決する。側面から企業傭兵達に白狼衆の包囲突破をアシストさせるんだ!
「トワイライト、サンライズ、両隊は白狼衆を援護!ここが勝負どころだ!」
思惑通り、狼と海賊の戦いは、狼に凱歌が上がった。海賊達の包囲を狼の牙が噛み破り、馬頭さんが戦艦バリアントの出撃ハッチに模擬爆弾を設置、勝利条件を達成した。撞木鮫の艦橋に歓声が上がる。
「ヒンクリー少将から通信が入りました。スクリーンに繋ぎます。」
オペレーター席に座るノゾミも歓喜の輪に加わりたいのだろうが、ぐっと堪えて任務を全うする。
通信を繋いだ直後にはマイクを捨てて万歳していたのだが……
「やられたな。これが初めての軍団指揮とは思えん。大したもんだ。」
ヒンクリー少将は短髪をガリガリと掻きながら苦笑いした。
「とは言っても、少将が加減してくださったお陰ですが。」
「加減?」
「戦法がスタンダードすぎます。オレの性格と部隊の練度を考えれば、オーソドックスな戦術ではこうなると予想出来たでしょう?」
「いつも通りの戦術に徹したのは、それでもエマーソンは楔を打ち込めると踏んでいたからだ。」
画面に仏頂面のエマーソン少佐が割り込んできた。
「無能な副官で悪うございました。言い訳をさせてもらえば空蝉少尉の陽動戦術は見事の一言、本演習のMVPですな。」
「伊達にクリスタルウィドウの中隊長はやってない、か。後で銀紙で包んだチョコレートメダルでも贈っておこう。剣狼、一つアドバイスだ。この規模の軍団の指揮を執るなら戦艦に乗り換えた方がいいぞ。」
「船を変えるのはちょっと……撞木鮫はいい船です。」
「いくらいい船でも軽巡だ。同盟高官のテンプレみたいに奥に引っ込んで隠れてるのならいいが、剣狼はそうではあるまい。最前線で指揮を執る旗艦は被弾覚悟の戦術を行使せざるを得ない場面もある。軽巡では耐久力に問題があり過ぎるぞ?」
……確かにそうだ。今回は戦艦を壁にしたが、いつもそう出来るとは限らない。そもそも麾下の戦艦を壁に使うぐらいなら自分が戦艦に搭乗した方がいいのは明白だ。搭載人員も多いしな。
「そうですね。アスラコマンドとしての任務は撞木鮫、財団軍事部門の指揮官としてはブレイザー1を旗艦に使います。リリス、そういうプランで編成表の叩き台を作成してくれ。」
「オッケー。サンブレイズ財団、理事付き秘書として最初のお仕事ね。」
御門グループと御堂財閥の合弁事業を行う新財団は「サンブレイズ財団」と命名される予定だ。発案者のミコト様が理事長でオレは理事の一人。そしてリリスは理事付きの第一秘書、第二秘書がシオン。"副官はシオンに譲ったんだから第一秘書は私!"と言い張ったリリスの意見をシオンは首肯した。末っ子ポジションが大好きなナツメはハナから第三秘書狙いだったので問題なしだ。
───────────────────────────
その日の夜、シュガーポット市内の居酒屋を借り切って、演習の慰労会を行う。演習の指揮官級はお座敷に陣取った。お座敷メンバーは三人娘にシズルさんと牛頭馬頭兄妹、侘寂兄弟、シュリ夫妻にリック隊。ロブにギャバン主従と多士済々な顔ぶれだ。
「それでは不肖、ロベール・ギャバンが乾杯の音頭を取らせてもらうよ。演習の勝利に乾杯!」
ビールジョッキが打ち鳴らすファンファーレを合図に、宴は始まった。音頭を取ったギャバン少尉が並んで座るシュリ夫妻に拍手する。
「さあみんな、少将認定の殊勲選手二人に拍手を!」
ヒンクリー少将から贈られたチョコレートメダルを胸に提げたシュリとホタルに、全員で拍手を贈る。
「シュリは分かるけど、私も殊勲選手でいいのかしら。」
「いいんだよ。ホタルのもたらす正確な戦術情報あっての勝利だ。オレだけじゃなく、少将もそう言っていた。」
ダンビラを振り回す戦いではなく、指揮に徹してみてわかった。正確な戦術情報は大きな力、情報戦を制する者が戦場では勝者となるんだって。ヒンクリー少将はオレにそれをわからせる為にあえてあんなレギュレーションを提案してきたんだ。
「お館様、勝利を確定させたのは白狼衆の馬頭丸にございますが……」
シズルさんは殊勲選手に馬頭さんが選ばれなかったコトが少々不満なようだ。
「いやあ、限りなく反則手に近い馬頭さんを殊勲選手には選べないでしょ。」
「お館様、妹が反則手とは異な事を。どこが反則なのですかな?」
妹想いの兄が抗弁してくるが、反則まがいは反則まがいだ。
「反則まがいは牛頭さんもな。
「大将の言う通りだ。サンブレイズ財団軍事部門の武名を上げる為に、最初っから花を持たせる算用だったのかもしれん。ウチの女ボスならそんぐれえやりかねねえぞ?」
演習でも地味だがいい働きをしたロブの言葉に全員が頷く。オレ達はこれから伸びてゆく若手だ。慢心すれば成長は止まる。25歳とこの面子では最年長の苦労人ロブは、いいポジションから意見してくれる。
「ロブちんはオッサン顔してるだけあって言う事に含蓄があるの。」
「オッサン顔は余計だよ!好きで老け顔してんじゃねえぞ!」
余興用に用意されたハリセンでナツメを叩こうとしたロブだったが、回避力には定評がある性悪天使はヒョイッと躱した。
「シュリ、企業傭兵の指揮を執る時、オレはブレイザー1を旗艦にする。その間、撞木鮫は任せるから明日にでも乗艦して艦の性能を把握しておいてくれ。」
「なんで僕が? 僕は財団とは無関係…」
「なに言ってんだ。シュリも理事だぞ?」
「なんだってぇ!!」
オレは懐から小筒を取り出し、シュリに手渡した。小筒から任命書を取り出したシュリのお目々がまん丸になる。
「こ、これは理事任命書……」
「推薦人の欄を見な。ミコト様と司令にシノノメ中将、それにマリカさんの名も記してある。状況はわかるな? もう外堀も内堀も埋まってるんだ。」
司令がオレに託した手紙に、この任命書も同封してあったのさ。三人の署名が記してあった任命書にシノノメ中将はその場でサインし、謀略は完成した。クックックッ、もう逃げらんねえぞ?
「……待ってくれ、僕はなにも聞いてない……」
「サンブレイズ財団にようこそ、シュリ。なか~ま♪」
「こんな理不尽があっていいのか!僕は断固抗議する!!」
「シュリ、諦めたら? 他のお三方もマズいけど、里長のマリカ様の下知に逆らう訳にはいかないでしょ?」
しかと聞いたぞ。油断したな、ホタル!
「実は理事任命書はもう一通ある。はい、ホタルもどうぞ♪」
オレは懐からもう一つの小筒を取り出し、ホタルに手渡した。
「そんな、私まで!聞いてない、聞いてないわ!!」
「里長の下知に逆らっちゃいけないよなぁ。いらっしゃい、ホタル。なか~ま♪」
任命書を手に呆気にとられる夫妻を囲んで爆笑する一同。うむうむ、最高の酒の肴ですなぁ。
いや~、これが無茶振りの醍醐味かぁ。司令がやめらんねえ訳だぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます