照京編32話 最強中隊長決定トーナメント



権藤は御門グループのアドバイザーを引き受けてくれた。知謀に長けた権藤の助力があれば御門グループの組織改革は強力に推し進められるはずだ。めでたしめでたしのはずなのに……なんでオレの気分はこんなに沈んでるんだろう?


……理由はすぐにわかった。権藤には妻子がいる。……権藤は親父じゃなかったんだ。


あの親父が全てを投げ打ち、オレを追ってこの世界にくるなんてありえないとわかっていたのに……


可能性として捨てていたつもりでも、オレは心のどこかで期待していたんだろう。


人格的にありえないという点をさっ引けば、権藤=親父が一番濃厚な可能性だったから。


……だけど現実はこんなもんだ。出世にしか興味のない親父が子持ちの女性と再婚する訳もない。


性格も違いすぎる。権藤は難病に罹患した妻子を救う為に、時空を越えてまで戦乱の星へとやってきた家族思いの……いい父親なんだ。オレの親父とは違う。


いいさ。オレにはミコト様って心の姉がいる。家族同然、いや、家族以上の仲間もいる。


オレの全てを賭けられる人達に巡り逢えた。だからオレは戦える。


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いつも賑やかな大食堂だが、今日は一段と賑やかだな。なにかあったのかね?


シオンの要望でガーデンに登場した半殺し定食をオーダーし、トレイを持って受け取り口で料理を待つオレの肩をキッドさんが叩いた。


「よお剣狼、俺はオメエに賭けるつもりなんだからよ。しっかり頼むぜ?」


「なにに賭けるってんです?」


「これよ、これ!」


キッドさんに手渡されたチラシを見てみると……


「最強中隊長決定トーナメント!? なんですか、これ?」


「そりゃあ最強の中隊長を決めるトーナメントに決まってらあな。」


「ロックタウンコロシアムで近日開催!? 誰だよ、こんな碌でもないイベントを考えたのは!」


「司令に決まってンだろ? オメエのオッズは低そうだが、俺はカーチスみてえな穴馬狙いはやらん主義でな。どんな的でも百発百中、がモットーだ。」


リボルバー回転拳銃・キッド」の異名を持つヘッジホッグの副隊長は、フォークとナイフを両手のひらでクルクル回して、格好をつける。


「キッドさんは出ないんですか?」


「出ようにも副隊長兼任の中隊長は出られないルールらしいからな。」


……ああ、なるほど。副隊長が出ていいなら、部隊長級の実力者であるラセンさんが優勝するに決まってるもんな。賭けにならねえわ。


「オレも出ませんよ。司令の気まぐれに付き合うのは任務だけで十分だ。」


「そうもいかないんだよ。カナタの出場は決定してる。」


オレの後ろにはトレイを持った第一番隊クリスタルウィドウの幹部達が揃い踏み。しかも全員でニヤニヤと笑ってる。


「マリカさん、勘弁してくださいよ。出たいヤツらでやればいい。」


「イスカからのお達しでな。各隊から一人は出さなきゃならんらしい。」


シュリの芸は1対1ワンオンワンなら必殺だが見世物には出来ないし、ホタルは索敵要員。だったら……


「ゲンさんならいけるでしょう?」


「ここんとこ腰がいとうてのう。年寄りに無理はさせんでくれ。カナタにはいい修行になるじゃろ?」


ゲンさんって都合のいい時に、耳が遠くなったり腰が痛んだりするんだよね。困ったもんだ。


「そういう訳だから頑張ってね、カナタ。」


ホタル、他人事だからって気楽に言ってくれんなよ。ガーデンの中隊長ってヤバイヤツばっかなんだぞ?


「言うまでもないけど、第一番隊の名誉が懸かってる。カナタには絶対に優勝してもらわないと!」


シュリ、プレッシャーかけんな。


「俺が出られればいいんだが、ルールはルール。皆で応援には行くからな。」


しれっと顔で心にもない事を言うラセンさん。絶対、面白がってやがる。


しかし参ったな。各隊から一人は出てくるってんなら羅候からも誰かは出てくるんだろ?


副長のウロコさんは出れないにせよ、サンピンさんかキング兄弟のどっちか……ヤバイ相手だぜ。


凜誠からは間違いなくサクヤが出てくる。調子ノリで目立ちたがり屋の神難女はこういうイベントには超張り切るに違いない。


サクヤに負けたら、あの女は後々まで持ちネタにしやがるだろう。タコ焼き女にだけは負けられねえぞ。


逆に言えばサクヤ以外には負けてもいいや。一番隊の名誉が云々ってシュリのお小言を聞けば済む話なんだし。


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「司令、よく次から次へ碌でもないイベントを起こしてくれますね?」


司令室を訪ねたオレは、咥え煙草で書類と向き合う司令に苦言をぶつけてみる。


ヒョイと首を捻った司令は苦言砲を躱したつもりなのだろう、しれっと顔ですっとぼけた。


「何の話だ?」


「最強中隊長決定トーナメントとやらの話です!戦場に駆り出すだけじゃなく、見世物までやれってんですか!」


「ああ、その話か。仕方ないだろう。見てみたいのだからな。」


……でたよ、オレ様イスカ様が……


「お陰でとんだとばっちりです。」


別机で執務を手伝う金髪縦ロールの後ろ姿。00番隊からはマリー・ロール・デメル少尉が出てくるらしい。


「黄金銃」マリーが異名兵士録ソルジャーブックに載ってる異名だが、ガーデンじゃ「金髪自走砲」って呼び名のがメジャーだ。狙撃銃の名手でもあるが、金髪縦ロールを振り乱しながら馬鹿デカいガトリングガンぶっ放す姿のがはるかにインパクトがあるからだろう。


普段の物腰が優雅なだけに、スゲえギャップがあんだよね。噂じゃ没落貴族のご令嬢って話なんだが……


「マリーさん、そう思うなら、たまには司令の無茶振りを止めてくださいよ。」


「止められるなら止めてます。カナタさん、トーナメントで当たったら容赦しません事よ? 私、勝負に負けるのは大嫌いですの。」


うわー、戦いたくねえー。サクヤと同じでこういうイベントにムキになるタイプかよぉ。


「それでカナタ。文句を言いに司令室に来たのか?」


「ンな訳ないでしょ。司令の定めた領地法をコピーしにきたんです。」


現状では25区はロックタウンの法が施行されてるが、おいおい変えていかにゃならん。領地法の叩き台が欲しいんだよね。


「コピーはいいが、ライセンス料を取るぞ?」


「無理矢理、爵位を押し付けといてライセンス料金までガメるんですか?」


「神難の防衛に来たザラゾフに爵位授与の話をつけるのは面倒だった。私に感謝するべきじゃないか?」


……そうか。そういう意味もあったんだ。オレはテレパス通信で司令に確認してみた。


(オレに爵位を与えたのは、立場保全の意味があったんですね?)


(そうだ。同盟軍はおまえを正式な侯爵として認めた。ザラゾフも、もうカナタを人間として扱わねばならん。あの計画を知っている者には厳重な箝口令を敷き、全ての資料は消去される。)


(じゃあクローン兵士培養計画は……)


(中止だ。あの計画はなかった事になる。あんな計画は存在しなかった、だからおまえもクローン体であった事は忘れろ。人間として生きるんだ。)


(ありがとうございます、司令。)


(カナタ、おまえは裏読みが得意で先読みも出来る。ならな。それは美点ではあるが、欠点でもある。……もっと大切にしろ。これは命令だ。)


(オレは自分を大事にしてますって。)


(いいや。おまえの納豆菌なら爵位授与は己の立場保全の策だと気付かないといけなかった。気付かなかったのは、おまえが自分の事には無頓着だからだ。)


単に読みが浅かっただけですよ。爵位なんて迷惑だって気持ちが先にきてたな。


(ザラゾフ元帥がクローン兵士培養計画を中止する気になったのは、代替計画の目途がついたからですかね?)


(だろうよ。超人兵士作成計画とやらの成功が裏にある。)


異名兵士5人を相手に無傷で完勝した超人兵士Kか。培養ではなく作成ってコトは、ベースは人間らしいな。


「司令にカナタさん、何を見つめ合ってるんです?」


おっと。テレパス通信で長話が過ぎたな。


「いやー、司令は絶世の美女だな~って思いまして。」


「当たり前の事を言ってもなにも出ないぞ。私の愛人候補に名乗りを上げる気か?」


この自信こそ、司令の司令たる由縁だよなぁ。


「侯爵同士で身分は釣り合ってますね。どうぞお幸せに。」


呆れ顔のマリーさんはため息をつきながら祝福してくれた。


「カナタ、私の愛人候補としてトーナメントで無様は許さんぞ。負けたらどうなるかわかってるな?」




わかりたくないし、司令の愛人は御免です!陰謀、戦闘、裏のある会話で、気の休まる間もないわ!



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