照京編16話 悲しきナンバー2



三人娘に指示を終えたオレは、奥にあるミコト様の部屋のドアをノックする。


「オレです、ミコト様。」


「入ってください。」


ミコト様は泣き疲れて眠るイナホちゃんに毛布を掛けているところだった。


「ミコト様、オレは照京兵の救出作戦に出撃するコトになりました。」


小声でそう告げると、ミコト様はそっとオレの傍に身を寄せてきて、手を握ってくれる。


「そんな……私達を守って神難に到着したばかりではありませんか……」


「これがオレの仕事です。この別館には神難軍の市長親衛隊が派遣されてきたようですから、身の危険はありません。じきにうちの司令も到着しますし、もう心配ないですよ。」


「私はカナタさんを心配しているんです。ミドウ司令もあんまりだわ。私が…」


「確かに司令の命令ですが、オレの意思でもあります。今後のコトを考えれば、御門家に忠誠を誓う兵は一人でも多い方がいい。それに敗走中の部隊の中に、オレの大師匠がいるかもしれない。孫弟子として見殺しには出来ません。」


「達人トキサダ……壬生先生ですね。」


「はい。ミコト様、そんな顔をしないでください。獅子髪、鉄腕、流星、ガーデンを代表する強者達も一緒なんです。同盟最強、いえ、世界最強のアスラ部隊に敵う者など、どこにもいません。」


「……はい。カナタさん、必ず帰ってきてください!」


「マストオーダー、了解しました。ではまた。」


オレは笑顔で敬礼し、ミコト様の部屋を後にした。


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「神難軍少佐、錦城一威きんじょういちいだ。名こそ一威だが士官学校は次席で卒業した。司令から話は聞いている。我々は剣狼の指揮下に入るので、よろしく頼む。」


敬礼した錦城少佐に続き、引き連れてきた神難兵達も敬礼してくれる。


「有難い話ですが、オレは特務少尉です。錦城少佐の方が階級が上なのですが……」


「確かに私のが階級は上だが、能力は剣狼が上だとミドウ司令は判断した。ならば従うまでだよ。軍法上は問題かもしれんが、細かい事は気にするな。」


パリッとしたエリート軍人って見た目なのに、中身はえらくぞんざいだな。コッチとしては助かるけど。


「有難うございます。錦城少佐は士官学校を次席卒業したエリートなのに、鷹揚なんですね。」


「鷹揚と言うより、自分の器を悟っているんだよ。私は永遠のナンバー2なんだ。」


悲しそうな顔で錦城少佐は被りを振った。


「永遠のナンバー2? どういうコトです?」


「私の二番手ヒストリーは士官学校だけじゃないんだよ。高校時代はパワーボーラーだったのだが、準優勝で終わった。中学の時は写生大会で二位。通っていた剣術道場でも二番手だった。それだけじゃない、マラソン大会、弁論大会、書道大会、なにをやっても二位、二位、二位だ。今度こそ一番にと思っていた士官学校を次席卒業した時に、私は自分の運命を悟り、受け入れる事にした。名前も錦城一威から錦城二位に改名しようかと思っている……」


オレとは違う意味で呪われてますね。でもなにをやっても二位ってのはスゴいコトだよな。文武両道のエリートさんですか。


「でも錦城少佐の彼女さんにとっては少佐が一番のはずです。元気を出してください。」


「……彼女なんていた事がない。」


……初対面なのに、なんだかスゴく親近感が湧いてきた。


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神難から貸与される陸上艦船を手早く整備させ、錦城少佐とオレは送られてくる敗残兵の情報を分析する。


自称、永遠のナンバー2は有能で、なんで一番になれなかったのか不思議なぐらいだ。


「現状分析はこんなところかな。「流星」トッドが合流し次第、出発しよう。おそらく進軍中に状況が変わってくるはずだ。」


「そうですね。」


「剣狼、一つ聞いてもいいか?」


固い顔付きだ。やっぱり階級無視の作戦行動に思うところがあるのだろうか?


「なんなりと。」


「竜胆左内が生きている可能性はあるか?」


錦城少佐はリンドウ中佐を知ってるのか?


「死亡を確認した訳ではありません。生存の可能性はあります。」


「私は、いや、俺は楽観論が聞きたい訳じゃない。率直な見解を聞きたいんだ。」


「……剣聖の剣は心臓を貫いていたように見えました。出血の激しさから動脈を損傷したコトは間違いないと思います。ですが手当てが早ければ、助かっているかもしれません。」


そうさ。勝手に諦めるなんてリンドウ中佐に失礼だ。生きていると信じなきゃ!


「……そうか。」


「オレも聞いていいですか?」


「俺と左内の関係か?」


「はい。」


「士官学校の同期生だ。左内が首席で俺は次席、忌まわしいナンバー2伝説を決定づけてくれた男だが、かけがえのない親友でもあった。」


そうだったのか。オレもリンドウ中佐のコトを考えると気が重いが、錦城少佐はもっとだろう。


リンドウ中佐は優秀なのに気さくで親しみやすい人だった。錦城少佐にとっては最高の戦友だったに違いない……


5機の大型軍用ヘリが司令部のヘリポートに着陸してきた。金髪先生が来援に来てくれたようだ。


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「よう、新人指揮官ルーキーコマンダー。作戦はバッチリなんだろうな?」


出迎えに出たオレに、トッドさんはウィンクしながら敬礼してくれた。


「ええ。その場任せの出たとこ勝負、いつものヤツです。」


「どこらがバッチリだよ。ま、大体の状況はヘリで聞いてる。調子こいてる叛乱軍に"世の中そうそう甘くない"という人生訓を教えてやろうじゃねえの。」


「金髪先生、それは意味がないです。」


「なんでだ?」


「人生訓は生きているからこそ活かせるんです。これから死ぬ連中には必要ない。」


金髪先生は豹みたいな笑みを浮かべ、頷いた。


「確かにな。……オメエはどこに行っても修羅場に巻き込まれる難儀な体質をしてやがるが、修羅場を糧に成長もしてるらしい。人でなしの台詞をサラッとほざいてんのに、もう違和感がねえ。怖え坊やになったもんだ。」


「休暇をぶち壊しにされた挙げ句に、この修羅場。オレもいい加減ムカついてるんです。」


この怒りは追撃部隊にぶつけるしかない。覚悟しろよ?


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神難軍はもう一つ、救援部隊を編成してくれていた。


指揮官の灰島少佐率いる部隊はオレ達とは別方向に向かい、撤退援護をしながらオレ達と合流する。錦城少佐がそう話をつけてくれた。表向きは錦城少佐がこっちの部隊の指揮を執るコトになっているからだ。


打ち合わせを終えて戻ってきた錦城少佐にオレは念を押してみた。


「錦城少佐、撤退してくる照京兵で志願する者は撤退支援に加える、という話は灰島少佐にしてくれましたか?」


「ああ。負傷状態にもよるが、戦闘可能で志願する者は撤退支援に加わるはずだ。それがそんなに大事な事なのか?」


「今回の作戦の主目的ですから。」


「主目的? どういう事だ?」


「ふるい分けですよ。戦闘可能なのに、神難へ逃げたいなんていう連中は。」


「ミコト姫の為に、使える兵を選別しておく、か。なるほど、ミドウ司令がキミに指揮を執らせていいと判断する訳だ。」


「機会は平等に与えられるべきですが、結果が平等である必要はない。全員平等は不平等、そういうコトです。じゃあ行きましょうか。」


神難軍とアスラ部隊の混成軍は陸上戦艦に分乗し、出撃態勢は整った。


「少尉、神難の兵隊もいるんだから、景気よく、行儀よく出撃の号令をかけなさいよ?」


ちびっ子参謀に忠告されたが、オレにお行儀のいい号令なんざかけられる訳がない。


オレは艦橋のど真ん中に立って、出撃の号令を下す。




「神難の半グレ部隊とアスラのゴロツキ部隊に告ぐ!尻に帆かけて逃げてくる照京兵のオムツを替えてやるのが我々の任務だ。ついでに調子こいてる叛乱部隊をチビらせてやれ!だがヤツらにオムツは必要ない。必要なのは棺桶だ!総員出撃!!」



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