出張編32話 明日の敵は今日の友
「まったく、おまえは行く先々でトラブルを起こすな。」
ハンディコムから聞こえる司令の呆れた声。ハンディコムの向こうの顔も呆れてるんだろうな。
「文句はテロ屋に言ってください。司令、リグリット市警察の練度ってどのぐらいです。」
「
やっぱ警察に期待すんのは望み薄か。
「司令、自慢の剛腕を一振りしてください。オレがやってみます。」
「別に自慢してはいないがな。やれるか?」
「案山子よりはマシです。お願いします!」
「よかろう。少し待て。」
「マリカさんにも連絡を。」
「もうやってる。だがおまえ達以外は船で半日の距離にある離島でバカンス中だ。今からヘリを飛ばしても行って帰ってで4時間はかかる。」
ここ何日か姿を見ないと思ったら、離島に行ってたのか。
マリカさんだけじゃなくナツメも同志もいないとなると厳しいな。
「了解、状況が変わったら連絡します。」
「私がそっちに行くまでは動くな。通信終わり。」
早く来てくださいよ、司令。
悟空を待ってるクリリンの気持ちがよ~く分かったぜ。
野次馬に混じったオレは指向性聴覚機能を使って、警察官のやりとりを聞いてみた。
「テロリスト共の要求はなんだ?」
「この街の刑務所で服役中のエバーグリーン幹部全員の解放です。」
「そんな要求に応じられる訳がない!」
「し、しかし2時間後に幹部の釈放が確認されない場合は、人質を5人殺すと。その後、30分経過ごとに1人づつ殺していくと言っています。」
無茶苦茶言ってやがるな。
「ネゴシエーターは何をしてる!とにかく時間を稼がせろ!」
「それが………一方的に要求を言い捨てた後は一切の通信に応じません。」
話の通じる相手じゃないのは分かってたが、交渉そのものを拒否してきたか。
………リリスは念真強度600万nを誇る超人体質だ。
ザイルの手錠もいざとなれば単分子鞭で切断可能だし、無抵抗で殺されるようなコトはない。
だがこの世に絶対はない。リリスの体そのものはバイオメタルの中では華奢な部類だ。
大口径の銃でも食らえば危ない。
!! 司令やマリカさんにはよく背後を取られるオレだが、同格の相手にそうそう不覚は取らないぜ。
「………無言でオレの背後に立つな。」
ゴルゴ13に同じコトやったら問答無用で殴られるって知ってるか?
「なかなか面倒な状況みたいね。考え事に夢中みたいだけど、まさか首を突っ込むつもり?」
大食い女はオレの抗議を意に介さず質問してくる。
「厄介事は嫌いなんだがな、厄介事はオレが好きらしい。」
「難儀な片想いをされてるわね。」
まったくだ。行く先々で殺人事件が起きる金田一少年レベルのトラブルメーカーらしいよ、オレは。
「野次馬は邪魔だ、サッサとどっかに行ってくれ。憎まれ口の相手をする気分じゃないんでな。」
「気が立ってるみたいね。手を貸してもいいかと思ったんだけど?」
「断る。興味本位で首を突っ込まれたら迷惑だ。」
懸かってるのはリリスの命だ。真剣さを欠いた奴なんて邪魔でしかない。
「………本気にならなきゃいけない理由があるみたいね。貴方の大事な人が人質になってるってところかしら?」
「同じコトを言わせるな。………消えろ、邪魔だ。」
シオンはオレの横に回って囁く。真剣な声だ。
「オーケー、真剣なのは理解した。だから私も真剣に手を貸すわ。」
「本気か?」
「ええ、私は使えるわよ、知ってるでしょ?」
コイツの本職は
だったら手を借りるべきだ。意地を張ってる場合じゃない。
「頼む。もうじき指揮権がこっちに回るはずだ。」
「パニャートナ。(了解よ。)」
オレのハンディコムからおどろおどろしい着信音が響く。
この世界の人気ゲームのラスボスのメロディ、司令からだ!
「司令、どうなりました。」
「話はついた。先に警察の指揮車両に行って作戦検討を開始しろ。私もすぐ合流する。」
「了解!」
まずオレとシオンはテレパス通信のチャンネル登録を済ませた。
それからオレ達は警戒線を跨いで中に入ったのだが、当然ながら制服警官に制止される。
「アスラ部隊の天掛曹長だ。指揮権はアスラ部隊に移譲されたはず、直ぐに確かめろ!」
オレが身分証を見せながらそう言うと制服警官が一人、指揮車両に走っていってすぐ戻ってきた。
「天掛曹長、こちらへどうぞ!」
オレとシオンは居並ぶ車両の中でも一廻り大きい指揮車両の中に乗り込んだ。
中には私服刑事らしいオッサン達が、ホログラフの建物見取り図を前に話しあっていた。
その中のトドみたいな顔をした刑事に厳しい顔付きで嫌味を言われる。
「油揚げをさらったトンビってのはアンタらかい?」
「油揚げをさらわれた間抜けって貴方達かしら?」
冷血女、余計なところで喧嘩を売るなよ。
「見たところ小僧と小娘みたいだが、幼稚園に行くならアッチだぜ?」
「オシメのとれてない保育園児に言われたんじゃ世話ないわ。」
口では敵わないと思ったトド刑事は
後ろ手に腕を捻り上げられ、トド刑事の顔が苦痛に歪む。
「そこまでにしろ!おまえさんらは喧嘩を売りにここへきたのか!」
場を仕切っていたらしい初老の刑事に咎められた。
「売ってきたのはソッチだろ? シオン、離してやれ、時間が惜しい。」
シオンは手を離して、トド刑事の背中を押した。
自由になったトド刑事は痛む腕を擦りながら不平を言う。
「ジャスパー警部、こんな奴らに指揮権を渡すなんて俺は納得できませんぜ!」
「ボイル、おまえが納得するしないの問題じゃない。上からの命令なんだ。俺はジャック・ジャスパー警部、ここの責任者だ。アンタは?」
「天掛カナタ曹長、こっちはシオン・イグナチェフ曹長だ。指揮をとる御堂大佐が到着するまでに現状を分析しておきたい。協力を頼む。」
初老の刑事はやむを得んと言わんばかりに答えた。
「わかったわかった。好きにすればいいだろう。相手はエバーグリーンの………」
「そのあたりはいい。もう分かってる。」
「なんだと!? 一体どうして知ってる?」
コイツらに全部話すのは危険だな。
「軍事機密だ。相手の正体、人数、装備以外でわかったコトはないか? スワットチームが来てるってコトは強行突入のプランニングをしてたんだろ?」
ジャスパー警部が苦々しげに教えてくれる。
「ああ、安全な場所にいる上司は強行突入する気だったんだが、人質の中に市議会議員の奥方がいると分かって大わらわ。失敗して議員さんに恨まれたら出世に響くだろうからな。だからアンタのボスからの指揮権移譲要請は渡りに船って訳さ。」
「なるほど、そうすりゃ責任も丸投げ出来るからな。立派な公僕だね、アンタのボスは。話を戻すがテロリストの人数的に全部の出入り口をカバーは出来ないだろう。ヤツらはどう警戒してるんだ?」
「カメラだ。3階に至る通路のいたる所にカメラを仕掛けてやがる。鑑識の話じゃ赤外線カメラも兼ねた高性能な代物らしい。テロ屋の世界は随分景気がいいようだな。」
「環境保護団体にスポンサーはつきものさ。薄給の公僕の意地を見せてやろうぜ、兄弟。」
アスラ部隊は薄給どころか同盟軍一の金満部隊だけど。
「兄弟? アンタはオレの息子より若そうじゃないか。意地を見せるもなにも、説明が終わったら俺達はお役御免だろうが。」
「警部が降りたいならな。オレは最初に言ったろ。協力して欲しいって。どうなんだ? やる気はあるのか?」
ジャスパー警部は同僚達に宣言した。
「バッジを賭けるつもりのある奴だけ残れ!」
………8人もいた刑事のうち、残ったのはボイル刑事ただ一人だった。
ジャスパー警部はヒュウと口笛を吹いてから、
「ふん、やっぱり残ったのはボイルだけか。」
「警部にだけいいカッコさせるのは癪ですから。」
なんだ、ボイルさんは本物の刑事さんなんじゃん。見た目で判断しちゃダメだな。
オレ達が見取り図を見ながら作戦検討を始めて10分ほど経った頃、制服警官が指揮車両に入ってくる。
「御堂大佐が到着されました!」
よっし!頼りになるボスの到着だぜ!
「出迎えはオレが。作戦検討を続けてください。」
オレはそう言ってから指揮車両を出た。
スーツ姿がバッチリ決まってる司令と、執事服のクランド中佐がこっちに歩いてくるのが見える。
これで役者は揃った。いよいよショーダウンだ。
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