出張編18話 お姫様でもアニメぐらい見るよね



オレの爺ちゃん、天掛翔平は惑星テラから魂を転移させた八熾レイゲンだった。


驚愕の事実が明らかになったんだけど、爺ちゃんめ、余計なコトをミコト様に吹き込んでくれやがって!


おかげでシリアスな空気がぶっ飛んだぞ。


「レイゲン様がおっしゃるには、ゴーダンナーを見せたのが失敗だったとのコトなのですが………」


「失敗ではありません!ゴーダンナーは神!神アニメなのです!」


神魂合体ゴーダンナーはオレの神認定アニメだ。ロボットアニメとしても秀逸だが、ラブコメとしても素晴らしい。


しかも意味もなく胸が揺れまくり、ローアングルカットも満載というお色気要素が素敵に濃い作品でもある。


そんな神アニメであるゴーダンナーを見せたのが失敗とか爺ちゃんに言われたくないぞ、だいたいDVDボックス持ってたの爺ちゃんじゃないか!


オレはBlu-rayボックスを買ったけどな。


「か、神アニメなのですか。私も筋肉重装甲アニキングは大好きな作品なのですが、カナタさんにとってはゴーダンナーがそうである、と。」


………ミコト様もアニキングを見てるんですか。急に親近感が湧いてきました。


「オレはアニキングも好きですよ。悪の組織シボーンを潰しちゃって終わりかと心配したんですが………」


「新たなる秘密結社メタボーンが登場するとは驚きでしたわ。この先の展開はどうなるのでしょう?」


そのあたりでオレもミコト様も、話が激しくズレているコトに気が付いた。


「と、とりあえず話を戻しましょうか。」


「そ、そうですわね。私ったらつい………」


お姫様にアニメ談義をする友達がいるとは思えないから、ついつい乗っちゃったんだろうなぁ。


「爺ちゃんとは天心通で話をされていたそうですけど、テレパス通信みたいなものですか?」


「と言うより私の天心通をベースにテレパス通信が開発されたのだと思います。私がトワ様に協力いたしましたので。」


前後が逆だったか。叢雲トワはバイオメタル技術の開発者で、御三家の人間になっていたんだったな。


「なるほど。天心通がテレパス通信のオリジナルでしたか。でも時空を超えてまで通話出来るってコトは相当に強力な通信能力ですよね。テレパス通信とは比較にもならないな。」


「私の心龍眼の真価は天心通にこそあるのです。心を読む能力は余技に過ぎません。ですがレイゲン様と時空を超えて会話するには私の力だけでは不可能でした。龍石りゅうせきの助けが必要なのです。」


「龍石? パワーストーンみたいなものですか?」


「はい、龍石は御門一族の至宝、不思議な力を秘めた聖石と考えて頂ければ良いかと。心憑依の術も龍石の力を借りて行います。」


「心憑依の術にも必要? 爺ちゃんは心憑依の術の上位版の心転移の術を、龍石の補助ナシで成功させたんですか?」


「レイゲン様は龍石と同等の力を持つ勾玉をお持ちでした。八熾一族に伝わる至宝である勾玉を。」


勾玉………オレも元の世界でずっと身につけていた。爺ちゃんから貰った勾玉を!


「オレが爺ちゃんから貰った勾玉ってひょっとしたら………」


ミコト様は軽く首を振って、


「いえ、カナタさんが元の世界で持っていた勾玉は違います。八熾一族の至宝であった勾玉は、レイゲン様のお体と共に焼失したようです。ですがカナタさんの転移には関係しています。」


「?」


どういうコトなんだろう?


「順を追って話しますね。レイゲン様は地球の病室で目覚めた時に、勾玉を身につけておいでだったそうです。後から分かった事なのですが、その勾玉は翔平さんのご快癒を願って翔平さんのお母様が身につけさせていた勾玉で、天掛神社の御神体でした。」


交通事故で植物人間になってしまった息子の回復を願ったひい婆ちゃんが、御神体の勾玉を身につけさせていた、か。


「レイゲン様は、その勾玉が八熾一族の至宝である勾玉と同じ力を秘めていると気付かれました。そして天掛翔平さんがその勾玉を身につけて眠っていたが故に、自分が翔平さんの肉体に転移したのだろうと推測された。と言いますのが翔平さんのお母様は毎日、病室に見えられて「どんな形でもいいから目覚めて欲しい。」と強く祈られていたそうで、その祈りと勾玉の力が心転移の術を使った自分の魂を地球へと呼び寄せたのだろうと。」


そういや、ひい婆ちゃんは本物の力を持った巫女だったって爺ちゃんが言ってたな。


オカルトに興味がなかったオレは話半分で聞いていたけど………


「最初は惑星テラへの再転移を考えておられたレイゲン様でしたがカナタさんのお婆様と出会われ、天掛翔平として生きる事を決意されました。ですが宮司を務める傍ら、興味本位で天掛神社の事は色々とお調べになられた。天掛神社は室町時代から存在する由緒ある神社だったそうです。」


「え? そんな由緒ある神社だったんですか? 立川の外れにあるちっこい神社ですよ。」


ちっこいだけじゃなく古びてもいる。神社としての格式も低かったはずだ。


「元は京の都にあったそうですよ。ふふっ、カナタさんの世界でも都は京の名がついているのですね。本当によく似た世界です。」


「へえ、ウチの神社って元は京都にあったんだ。」


「はい、天掛神社の宮司や巫女には不思議な力があって、為政者から利用されないよう都を離れ移り住んだ。そして目立たぬよう神社としての格も求めなかった、レイゲン様はそこまでお調べになったそうです。一番知りたかった御神体の勾玉の出所は分からなかったそうですが。」


「地球にもコッチの世界みたいな超能力者がいたかもしれない、か。爺ちゃんは御神体の勾玉の力を借りて、天心通でミコト様と話をしてたってコトですか。」


「私が龍石を崇める儀式を執り行った時に、レイゲン様からの呼びかけが聞こえたのです。お亡くなりになったはずのレイゲン様だと分かった時には本当に驚きましたわ。そしてお互いの状況を話し合う間柄になりました。父上は龍石に関心がありませんので、私が龍石の力を利用するのは容易い事なのです。」


「そりゃまたなんでです? 日本と違ってコッチじゃ超能力は一般的だ。権力者なら力を秘めた龍石に関心を持ちそうなもんだけど。」


「父上は龍眼を持っていないのです。それは別に珍しい事ではないのですが、祖父左龍は左目に、大叔父の右龍様は右目に龍眼をお持ちでした。右龍様の息子儀龍様も、自分の娘である私も龍眼を持っているというのに父上だけが……」


ああ、そりゃコンプレックスになりますね。ガリュウ総帥は超能力嫌いなのか。


「自分が使えないなら龍石への興味は薄いですよね。」


「ええ、ですので龍石の事は私に任されています。その龍石を使った天心通でカナタさんの事を聞かされていたのです。レイゲン様はカナタさんの事をとても心配されていました。」


「そりゃ親父と違って出来の悪い孫でしたからね。心配でしょうとも。」


「レイゲン様の心配は出来不出来ではありません。それにカナタさん、自分の事を不出来とか仰らないで。謙遜されているのなら良いのですが、どうも本気でイジけていますね? そういうイジけた考えは私は嫌いです。」


「すいません、ネガティブで。」


なんでオレは説教されているのだろう?


「素直なところはポイント高いですよ。」


わーい、ポイントアップしたぞ、じゃなくて!


「オレの出来不出来じゃないなら、爺ちゃんは何を心配してたんです?」


「カナタさんのお父様である光平さんはとても優秀な方だそうですが、完璧主義者にありがちな気風をお持ちだったそうですね?」


「その心配なら大当たりですよ。受験に失敗してあっさり親父に見限られました。あんな冷酷な人間に育てた爺ちゃんが悪いって文句を言ってやりたいです。ミコト様は爺ちゃんと話せるんですよね、是非オレがそう言っていたと伝えて、いや、オレが直接文句を言いたいので………」


ミコト様の顔が悲しみに包まれていくのを見て言葉が続かなくなった。


………そうか………もう爺ちゃんは…………


「………ミコト様、爺ちゃんは………もういないんですね?」


ミコト様は沈痛な面持ちで頷いた。




そっか。行方不明だから、どこかで生きてるって思ってたけど………もう爺ちゃんはいないんだな。




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