出撃編12話 ファーストキスは突然に
※前回に引き続きリリス視点のお話です。
「さて、メニューはお決まりになられましたか、お嬢様?」
悪くて楽しそうな顔してるわね、伍長さん?
だけど私はワガママで意地悪な客なの。簡単にはいかなくてよ?
「そうね、ちょっと料理に注文をつけてよろしいかしら?」
「どうそどうそ、焼き加減がお気に召しませんでしたか?」
「いえ、焼き加減じゃなくて味付けが大甘よ。まず、頭脳労働ってオフィスワークの事よね? なによ、その中途半端な博愛主義。私にも戦えって言うべきじゃない?」
「戦場に出られて足を引っ張られちゃ困るって事だよ。」
「ウソね、まあいいわ。先に私をどうやって開発部からもぎ取るプランなのか聞かせて。答えはそれから決めるわ。」
伍長はプランの概要を話してくれた。
………呆れた。人道を逆手に開発部を脅迫するつもりなワケね。
でもやり口は私好みだ。伍長と私の考え方のベクトルは合ってる。
伍長が私の興味に値するかどうか、さらに探りを入れてみよう。
「あくどいけど効果的なやり口ね。偽善者ほど体裁に拘るモノだし。司令に話をつけた以上、伍長は私にここに残ってもらわないと困る訳よね?」
伍長はあっけらかんと答えた。
「いや、全然。」
「はぁ? 伍長は私にここに残って欲しいんじゃないの?」
「残って欲しいよ。でも困ったりはしない。リリスが研究所に行くって言うなら好きにすればいいさ。オレが許容出来ないのは、選択の余地なくリリスが研究所に送られるってトコだけだ。そこはもうクリアしたからね。」
「イマイチ言ってる意味が分かんないわね。」
「選択させる道を用意するまでが重要であって、答えはそうでもないって話さ。選ぶ事も出来ずに歩まされた道で悲惨な運命が待っていた。それって納得出来るか? オレは出来ないね。でもな、最善の選択肢ではないにしてもだよ? 道を自分で選んで、その先が断崖絶壁だった。それならまだ納得出来るかもな。」
「過程が重要、か。つまり伍長には、もう終わった話なワケね。」
「そう、だから遠慮なく好きな方を選んでくれ。でもな、リリス。」
伍長は椅子から立ち上がり私に顔を寄せてくる。
そして私の目を覗き込む。
「ちょっと!顔が近いわよ!」
私の抗議を意に介さず、伍長は目をそらさずに話を続ける。
「リリス、おまえは…………人生に退屈してるだろ?」
ギクリとした。確かに私は人生に退屈している。どうしようもないほどに。
「図星だろ? オレもそうだったから、なんとなく分かるんだ。同類ってのはそこも含めての話さ。退屈ってのはある種の拷問だからな。実に耐えがたいよな。」
間近で見る伍長の顔は実に楽しそうだった。唇の端だけ上げて笑っている。
少しだけ伍長の闇の部分が垣間見えた気がする。コイツは間違いなく普通じゃない。
お人好しで情に厚い人間ではあるが、狡猾で冷徹な面もある。
「だから、リリスがこの基地に残る道を選ぶってことには予感があってね。どう? そんなに外れてはいないだろ?」
そして計算高くもある、か。私の頭の中を見透かしている。
ちょっと悔しさはあるが、合格だ。
「そうね、概ねそんな感じよ。見透かされてんのはムカつくけど。伍長、ここに残るのに条件をつけてもいい?」
「ワガママ女にはもう慣れちゃってね。言ってみろよ。」
「まず、私も伍長達と一緒に戦うわ。そこは譲れない。リスクを等分に背負いたいって立派な心掛けじゃないわよ。でないと退屈しのぎにならないだけ。オフィスワークも手伝いはするけどね。」
「…………いいのか?人を殺す事になる。」
「もう研究所のクソ虫共を殺してるでしょ?今さらよ。」
「わかった。他には?」
「広報部を巻き込むなら徹底しましょ。私の顔も名前もだす。演技は得意なの。全同盟軍兵士の同情を集めてみせるわよ?」
ここで伍長は初めて難しい顔をした。
椅子に座り直して仏頂面になる。
「オレはリリスも同情されるのは嫌いな人種だと思ってたんだけどな。」
「ええ、嫌いよ。でも同情を利用するのは嫌いじゃない。私が道化になるのを心配してるんでしょうけど、トランプで一番強いカードは
「同情や憐憫の目で見られるのは辛いよ?」
「私にとってどうでもいい有象無象のモブ共にどんな目で見られようが知った事じゃないわ。」
伍長は呆れ顔で了承する。
「たいしたタマだよ、リリスは。………わかった。司令もその方が仕事がしやすいだろう。」
「じゃ、最後のお願いね。伍長を1発、思いっきり張りとばさせて。」
「はいぃ?」
「いいでしょ、そのぐらい。」
「なんでオレを張りとばす必要があんだよ!」
「だって、なんとなくムカつくんだもの。」
「なんとなくかよ!それで張りとばすってのか!どんだけワガママなんだよ!」
「イヤなら私は研究所に行くわよ。本気だからね?」
「………わかったよ、仕方がない。」
伍長の思惑通りに事は進んだ。
でも手の平で踊らされるのはいい気分じゃない。
伍長の驚く顔も見ないと私の
私は思いついた
「はい、じゃあ目を瞑る。」
「目も瞑るのかよ!見えない時に殴られるって、なおイヤなんだけど。」
「だから言ってるのよ。ブツクサ言ってないでさっさと目を瞑る。ハリアップ!」
「………どんだけ性格悪いんだよ。」
ブツクサ言いながら伍長は目を瞑る。
今だ、そ~っと近づいて、キスしてやる!
私の唇に柔らかいモノが触れる。ふ~ん、キスってこんなモノなのね。
なかなか悪くないわね。ついでに舌もいれてみよう。
「!!!!!!」
そこで肩を掴まれて離されてしまった。
う~ん、もうちょっと味わいたかったわね。舌舐めずりでもしておこう。
「おまっ!!なに考えてんだ!」
あらあら、真っ赤になっちゃって。
私の心を見透かした時の狡猾な顔からはまるで別人じゃない。本当に面白い。
「真っ赤になっちゃってカワイイわね。もしかしてファーストちゅ~だった?」
「いきなりキスとかするか普通!!しかも舌まで入れようとしただろ!」
「いいじゃない。私は病気なんか持ってないわよ?」
「そんな話じゃねーよ!」
「別にいいでしょ。伍長のビックリした顔が見たかったんだもん。」
「ああ、ビックリしたよ、ビックリしたさ!………そんな理由でキスしたのかよ。………ありえねえ。」
「良かったわね。ファーストちゅ~の相手がこんな美少女で。忘れずに日記につけるのよ?」
「いいことしたような顔してんじゃねえ!………うぅ、ファーストキスはマリカさんが良かった。」
しょんぼりと肩を落とした伍長を見てると、自然に笑いがこみ上げてくる。
もちろん我慢なんかしない。
「プッ、クスクス。アハハッ。アハハハハッ。」
「朗らかに笑ってんじゃねえよ!こっちは泣きてえわ!」
ワガママね、笑い方を変えればいいんでしょ。
「冷笑すんな!よりムカつくわ!」
「まあまあ、私もファーストちゅ~だったんだからお互い様って事で。」
「おまえもファーストちゅ~かよ!………10歳でファーストキス、しかも舌まで入れようとするとか………オレはとんでもないモンスターを仲間にしてしまったのかもしれない。」
退屈しのぎが見つかったみたい。
私はお祖父様が忌避した心の数式に挑んでみるわ。
解けないかもしれない。でも解けなくてもかまわない。
解けなかったって結果でも、それはそれで一つの答えだもの。
興味があるからやってみる。単純で明快な理由よね。
結果よりも過程が大事、今はこの楽しそうな流れに乗ってみよう。
例えこの流れが滝壺につながっていても、後悔なんかしないわ。
人生は楽しんだ者の勝ち。そういう事よね、お祖父様。
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