出撃編6話 「ディアボロスX」




オレはジャイアントキリングに成功した。


だが、もう左腕は使い物にならない。


オレが左腕に隊長の剣が刺さったままの状態で、マリカさんを援護するべく動こうとした時に、


「よくも父さんを!」


憤怒の形相を浮かべた若い兵士がオレに襲いかかってきた。


父さん? コイツは守備隊長の息子か?


だが剣の技量は父には遠く及ばない。片手のオレでも殺せそうなレベルだ。


そうか、隊長の焦りの原因は部下の中に息子がいたのもあるな。


「カナタ、ソイツは殺すな!」


マリカさんに命令されて防御に徹する。峰打ちとか自信ないな。どうする?


マリカさんは襲い来る敵兵の首を飛ばし、オレの隣に立つ。


そして怯えた隊長の息子を睨んだ。マリカさんの緋眼が妖しく輝く。


隊長の息子は白目を剥いて崩れ落ちる。


なんだ? 睨んだだけで気絶? 緋眼の能力か?




その後は単純作業だった。オレ達は残った兵士をあっさり始末した。


いや、ほとんどマリカさんが殺ったんだけどさ。


マリカさんが睨む度に兵士達は体が一瞬硬直したようだった。


世界最速の女であるマリカさんの前で一瞬体が硬直なんて、どうぞ殺して下さいと言ってるようなもんだ。


オレは左腕の剣を抜き止血パッチを当てながらマリカさんに聞いてみた。


「マリカさん今の技は?」


「瞬間催眠みたいなもんだ。隊長の息子みたいな念真強度の低い小僧なら気絶させられるし、そうでなくとも一瞬意識をトバせる。念真力を結構食うから乱発はしたかないが今回はやむをえん。」


マリカさんは煙草を咥えながらそう答えた。



完全適合者で希少能力パイロキネシスを持ってて、その上、瞳術まで使うのか。


オレの美しき上司は想像以上にチートなお方だった。


マリカさんは咥え煙草で隊長を尋問する。急所は外れてたみたいで隊長はまだ生きていたからだ。


この出血じゃ、じきに部下の元へいくだろうけど。


「見たとこゲートは指紋認証と網膜認証とパスワードがいるみたいだね。パスワードは?」


「………だれが………教えるか。」


「知らないじゃなくて、教えるか、ね。吐いてもらおう。カナタ、気絶してる小僧を連れてこい。」


オレは命令に従う。右手で隊長の息子の襟首を掴んでマリカさんの元へ引きずっていく。


冷酷な表情のマリカさんが瀕死の隊長にささやく。


「答えなきゃ息子を殺す。チャンスは5回、拒否する度に腕から落としていく。手足がなくなったら心臓だ。ハッタリだと思うなら試してみな。腕の一本くらいならバイオメタルなら死にゃしないさ。」


「………この……人でなしが……」


「因果応報って言葉があるだろ? ここがどんな研究してるか知らなかったなんて言わせないよ!………さて、聞こう。パスワードは?」


「………1192だ………」


鎌倉幕府かよ。アンタらが作ってるのはいい国じゃなくて悪い国だけどさ。


「カナタ、コイツの手の平をパネルの上にあてろ。アタイは目をひん剥かせる。」


そしてパスワードを打ち込むとゲートは開いた。


オレとマリカさんは専用エレベーターで6階の特別実験室に向かう。


エレベーターは研究所内に直結していた。


実験室は無人だった。


研究者達は逃げたのだろうか?


襲撃は深夜に開始したから実験室は無人だった可能性もあるか。


「さて、ディアボロスXってのはなんなのかねえ。」


オレは実験室の中央に調整用ポッドぐらいの円柱状の金属ケースを見つけた。


レバーがあるな、引いてみるか。


レバーを引くと金属ケースが降りていって中から調整用ポッドが現れた。


中には10歳くらいの銀髪の美少女が入れられている。


コンピューターを調べているマリカさんに声をかけて、こっちに来てもらう。


「マリカさん、これ。」


「お子様一人追加か、いいさ、連れていこう。その子をポッドから出してやんな。アタイはディアボロスXがなんなのか調べてるからさ。」


「この子に聞いた方が早いですよ。」


「あん?」


コンピュータの操作をやめて、マリカさんは煙草を床に捨てる。


マリカさん、ポイ捨てはよくないですよ。


オレは粘着テープを貼って刀の峰でガラスを割りながら、


「ここは生体兵器研究所の最奥の特別実験室。他の子達と違って一人で金属ケースで守られた調整用ポッドの中にいるこの子はなんなんでしょうね。」


「なるほど、そういう事か。」


調整用ポッドから銀髪美少女を救い出して覚醒パッチを顔にあてる。


ビクンと痙攣して銀髪美少女は目を覚ました。


「騒ぐな、喚くな、アタイはガキの金切り声が嫌いだ。」


銀髪美少女はため息をつきながら答えた。


「いきなりご挨拶ね。で、闖入者ちんにゅうしゃさん、私に何か御用?」


「おまえがディアボロスXか?」


「タイプXとか呼ばれてたから、そうなんじゃない?」


ビンゴかよ。研究者って人種は12号とかタイプXとか、人を記号で呼ぶのがお好きな事で。


この子は10歳とは思えない落ち着きぶりだけど、とにかく助けにきたと教えないとな。


「キミ、名前は。オレ達はキミを助けにきたんだ。」


「助けに、ねえ。私にとっては結果はそう変わんないと思うけど。ま、いいわ。リリエス・ローエングリンよ。」


ローエングリンね、確かワグナーのオペラにそんなのがあったな。って事はこの子はドイツ系かな。


こっちの世界じゃドイツはガルムって言うんだっけ。


この子、綺麗な碧眼をしてんなあ。


10年後は凄い美人になりそうだけど、いくら美少女でも10歳はね。


オレにも倫理の壁は存在する。いささか頼りない壁だが。


「リリエス・ローエングリンね。響きの綺麗ないい名前だ。オレは天掛カナタ伍長。こっちはオレの上官の火隠マリカ大尉だ。よろしくね、リリエスちゃん。今からキミを安全な場所へ連れて行くから。」


「リリスでいいわよ。よろしくする気はないけどね。」


さほど感動した様子もなくリリスはそう言った。


この子、可愛いんだけど可愛いくねー!


「私を連れてくんでしょ? さっさと行きましょ。その前に一ついい?」


「なにかな?」


リリスは実験室の壁の一角を指差しながら、


「あの壁の向こうに隠し部屋があって研究者達が隠れてるわ。爆弾ぐらい持ってんでしょ? 殺って。」


オレとマリカさんは顔を見合わせた。


おいおい、この美少女はヤバくないか。


「私みたいなの造ろうとして同い年の子達を実験に使った人でなし達よ。生かしておく価値はないわ。そうしてくれれば大人しくついていくわよ?」


「いいだろう、あの壁に仕掛ければいいんだな。」


マリカさんは手早く爆弾を壁にセットした。


「もう一つお願いがあるんだけど?」


「お願いの多いガキだね、なんだ、言ってみろ?」


「起爆ボタンは私に押させて。」


意表をつく提案にオレは思わず叫ぶ。


「リリス、キミは人を殺すって言ってるんだぞ!」


「そうよ、アイツらは私達子供の命と尊厳をコケにした。犠牲になった子達のかたきは、同じ子供である私が取るわ。復讐するは我にあり、よ。」


「………いいだろう、しかし末恐ろしいガキだねえ。」


「マリカって言ったっけ? これまで随分殺してきた顔してるわよ。私なんて可愛いものじゃない。」


………コイツはただの10歳じゃない。頭がキレて、それ以上にヤバイのはメンタルがキレてる事だ。


「じゃ、いきましょ。伍長、抱っこして。」


オレがリリスを脇に抱えようとするとリリスは首を振った。


「お姫様抱っこ!小脇に抱えられたんじゃ荷物みたいでしょ!」


「左腕を負傷して上手く上がらないんだよ。」


「男だったら根性みせなさいよ!だいたい伍長みたいな冴えない男が私みたいな美少女をお姫様抱っこ出来る機会なんてもうないわよ。私だって本当はもっとイケメンに抱っこされたいのに我慢してるんだから!」


ヤベエ、オレ様ぶりでも司令と勝負できそうだぞ、コイツ。


オレはテーピングを巻いて左腕を固定するとリリスをお姫様抱っこした。


左腕が少し痛むが、コイツに逆らうと面倒くさそうだからな、仕方ない。


「やれば出来るじゃない、さ、いきましょ。マリカ、護衛は任せたわよ。」


呆れ顔のマリカさんは起爆装置をリリスに手渡しながら、


「機構軍の新兵器ってのは口から毒ガスを吐くらしいよ、カナタ。」


「みたいですね。開発を阻止出来てよかった。」


オレ達は特別実験室を後にした。


10歳とは思えない冷酷な表情をしたリリスが、呪詛の言葉をつぶやきながら起爆ボタンを押す。


「………地獄に落ちろ、クソ虫ども。」


特別実験室は爆発の後、炎に包まれた。




とんでもない美少女もあったもんだ。



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