第13話 王子様ゲーム~ユーの場合~

 第三王子、ユー=バウアー。

 三人いる王子たちの中でも、もっとも王子様という単語がふさわしい、The 王子様である。


 温和な性格とふんわり爽やかなルックスで、女性貴族たちの歓心を集めてやまない彼は、その実、結構な策略家でもある。

 相手を立てて自分は下手に出ることで油断させ、その裏で相手を思う通りに操っている節がある。

 その性格は、どこかレーネに似ている所もあると思う。


 ユー様もロッド様と同じく、常に人に囲まれている。

 違うところはと言えば、


「ユー様、南方からいい紅茶を取り寄せましたの。どうぞ召し上がって?」

「おや、これは珍しいものだ。ユーシェの家は南部の交易地帯だったね。ありがとう」

「私はブルーメの新作菓子をお持ちしました。チョコレートというんだそうですの」

「へえ? 一つ貰うよ。……うん、美味しい。苦みと香りがとても素敵だね。ありがとう、ミル」

「ああん、ユー様。私は――」


 彼は非常に女性にモテるのである。

 いや、ロッド様もモテるのだが、前にも書いたとおりあの方は同性とつるんでいることが多い。

 プレイヤー人気ではロッド様が不動のナンバーワンなのだが、ゲーム内でのモテ度ではユー様に軍配があがる。

 セイン様?

 あの方の良さは、分かる人に分かればいいんだよ。


「チェックですわ」

「そう来ましたか」


 そんな華やかなユー様一行とは全く関係なく、私はクレア様とチェスをしていた。

 どうもロッド様との一局でクレア様の負けず嫌いに火が付いたらしく、あれ以来たびたび対局を挑まれている。

 今のところ、私が唯一教えていると言えるものがこのチェスである。


 盤面は私が攻め込まれている状況。

 ここでの一手を間違えると、一気に形勢が決まってしまう。


「ではこう指します」

「ぐぐ……」


 私のナイトの動きに、クレア様が唸った。

 形勢は五分か、いくらか私に有利くらいに変わっている。

 クレア様の指し方は明確だ。

 ひたすら攻めて押し切る――これに尽きる。

 そのため、クレア様を相手にするときに考えるのは後の先、つまりカウンターである。

 ミニゲームでクレア様の攻め方を熟知している私には、それほど難しくない作業だ。

 対戦成績は十七勝三敗。

 勝率は悪くない。


 だが、ツッコミどころはそこではない。

 ロッド様の一戦からまだ一週間と経っていないのに、二十局も指しているという事実の方がアレである。

 いかにクレア様が負けず嫌いかお分かり頂けるだろうか。


「ふーん……。クレア、Qf4だよ」

「え……? あっ!」


 考え込むクレア様の思考を遮ったのはユー様だった。

 しかも、言ってる内容がエグい。

 Qf4というのはチェスの駒の指し方のことである。

 Qはクイーン、f4は盤上の特定の場所を示している。

 こちらの守りを崩し、一気に形勢をクレア様側に傾ける強烈な一手だった。


「ありがとうございます、ユー様。でも、勝負の最中に仰らないで下さいませ。わたくし、自力で気づけましたわ」

「あはは、ごめんごめん。レイがあんまりにもクレアをいじめてるものだから」

「は?」


 きょとんとするクレア様。


「レイはわざとクレアを攻めさせているんだよ。そうやって、自分に都合のいい場所に駒を誘導してる。レイに勝とうと思ったら、もうちょっと攻め方を変えないとね」

「あなたそんな卑劣なことをしていましたの!?」

「はい。でも、何度も解説で説明していますが」


 何度説明しても攻めの姿勢を崩さず、さらに誘導にばっちり引っかかるところまで含めてクレア様なのである。


「ちょっと気分を変えないかい? みんなでポーカーでもしようよ」


 ユー様はトランプを取り出してにっこりと笑った。

 周りのご令嬢が我も我もと集まり始める。

 ちゃっかりミシャが混ざってるのが微笑ましい。


「ディード。ディーラーを頼む」

「かしこまりました」


 ユー様のお付きの一人がディーラー役をしてくれるらしい。

 黒い短髪の、なかなかに渋いイケメンである。


 ルールは単純。

 カードの交換2回で一番強い役を作った人の勝ちである。

 お金を掛けたりはしていないので、ベッドやらレイズやらコールやらのややこしいルールはなしである。


「レイはずいぶんチェスが強いんだってね。兄さんから聞いたよ」

「まあ、ロッド様には負けましたが」

「本気じゃなかったって聞いたよ?」

「えっ!?」

「それはロッド様の買いかぶりです」


 ユー様の一言にクレア様がぎょっとした顔をした。

 私はあくまで知らぬ存ぜぬを決め込む……つもりだったのだが。


「レイ。あなた、ロッド様相手に手加減したの?」


 ミシャが蒸し返した。


「ううん。ロッド様の思い込みだよ。私は全力でやった」

「ならいいけど。ロッド様は勝負事で手を抜かれるのが一番お嫌いな方だから」


 よく知っている。

 というか、実はそれを狙って手加減したのだが、どうしてあの反応だったんだろう。

 解せぬ。


「ふふ、やっぱり面白い子だね、レイは」


 ふんわり笑うユー様に、周りのご令嬢が面白くない顔をした。

 そのご令嬢の中にはミシャも含まれる。

 乙女だねぇ。


「カードは行き渡ったかい? じゃあ、一巡目と行こう。まずはレイからだね」


 配られたカードは、クラブの2、クラブの4、ハートの3、スペードのA、スペードの7だった。

 悪くない。

 というか、ストレートまであと一歩だ。


「私は一枚交換します」


 スペードの7を捨てると、ディーラーが一枚カードを配ってくれた。

 配られたカードはスペードの2。

 現状、ワンペアである。


「次はミシャだね」

「私も二枚で」


 ディーラーが二枚カードを配った。

 配られたカードを見ても、ミシャは表情を変えない。

 ユー様が絡まなければ、ミシャはクールビューティーなのである。


 それから他のご令嬢が次々に交換していった。

 どうも、身分の低い者から順に交換しているようである。

 特に意味はないんだろうけど。


「次はクレアだね」

「わたくしは一枚交換で」


 クレア様はわりと配札がよかったらしい。


「最後は僕だね。僕はこのままでいい」


 なんとユー様、まさかのそのまま宣言である。

 よっぽどいい役が出来たのか。


「二巡目行こうか。レイはどうする?」

「全部、交換します」

「おや」


 ユー様が一枚も交換しなかったということは、かなりいい役であることが予想される。

 ストレートではやや弱いかもしれない。

 私は一か八か全部交換に賭けた。

 結果は、見事なハイカード(=ブタ)である。


「ミシャ」

「私は二枚で」


 そしてまた順々に進んで、クレア様の番である。


「一枚、交換ですわ」


 配られたカードを見て、クレア様がにんまりと笑った。

 分かりやすい。


「じゃあ、オープンしようか。レイは?」

「ハイカードです」

「ふふ、運がなかったね」


 ストレートを狙った方が堅実だったんだろうけどね。


「ミシャは?」

「スリーカードです」


 悪くない役である。

 最初の交換が二枚だったことから考えて、初手でスリーカードは揃っていたんだろう。


 他のご令嬢は私と同じハイカードだったり、良くてツーペアというところだった。


「クレアは? その自信満々な表情からして、かなりいい役が来たんだと思うけど?」

「ふふ、フルハウスですわ」


 そりゃあにんまりもするはずだ。

 クレア様に勝つには、フォーカードかストレートフラッシュ、あるいはロイヤルフラッシュしかない。


「じゃあ、僕だね。フォーカードだ」


 Aのフォーカードだった。

 この狸王子め。


「おや? レイ、何か言いたそうだね?」

「いえ、別に」


 そりゃあ、言いたくもなる。

 最初に配られた私の手札に、スペードのAがあった。

 つまり、このゲーム、いかさまされているのである。

 よく考えたら、ディーラーはユー様のおつきだ。

 ディーラーとグルなのは間違いない。


「ふふ……そう。レイはそういう反応をするんだね」


 ユー様は悪びれもせずにそう言って微笑んだ。

 なにやらとてもご機嫌である。


「なんですの? レイ、あなた何かしましたの?」

「いいえ。強いて言えば、クレア様が可愛いなあと」

「毎度毎度、それで誤魔化されませんのよ!?」


 などと言いつつ、うやむやになってしまう辺りがクレア様のクレア様たる所以なのだが。


「レイ。また遊ぼうね」

「出来ればご遠慮したいですね」


 狸王子の申し出を、私はしれっとお断りした。

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