最終章11話 これが、世界を救う力なんですね
サウスキアの宮殿にある大広間。
一時は俺と魔王たちの戦場となったこの部屋で、ヒュージーンはニタリと笑う。
「壮観ではないか」
そう言って、ヒュージーンは大広間に集まった人々を見回した。
「銀河連合と同盟軍の面々、サウスキアの2人の殿下と30年前の戦争の英雄、我々ならず者集団、真のエクストリバー帝國を名乗る面々、世界を救った救世主であり真の英雄たち、そして女神を名乗る者。
豪華すぎる人々の集まりに、あのヒュージーンすらも驚きを隠せないらしい。
当たり前だ。
大広間には、サウスキアの伝承に登場するラグルエルが参加しているのだから。
ラグルエルは、ヒュージーンの言葉を聞いておかしそうに笑った。
「フードのおじさんの言う通りね。フフ~ン、魔王討伐のために、これだけの人が協力してくれるなんて、頼もしいわ」
女神様の笑みは、大広間に集まった人々を祝福するかのよう。
対して銀河連合の面々は、その合理的な思考から困惑中。
「異世界、魔王、女神……理解しがたいことばかりだ。我々は夢でも見ているのか?」
「無理もないッス。ただ、それらは全部、情報局のお墨付きの情報ッスよ。だったら、信じるしかないッスよね」
《おう! その通りだぜ! とは言っても、おいらも基盤がこんがらがりそうだがな》
銀河連合の面々は、エルデリアとHB274の言葉に一斉にうなずいた。
やはり彼らは合理的である。一見すれば信じられぬような事象も、反証不可能と知れば、彼らは受け入れるのだ。
終始一貫して冷静さを保つ銀河連合の面々。
ひるがえってサウスキアの王女と王子は、和やかな雰囲気である。
「この集まりは、歴史的な出来事ですの! この場に参加できたこと、わたくしは誇りに思いますわ!」
「チッ、この集まりをお膳立てしたのは自分だろうが、アイシア! 他人に媚びてるつもりだろうが、そこまでくると嫌味にしか思えねえんだよ! 言いたいことがあるなら、はっきりと言え!」
「では、はっきり言いますわ。お兄様のアクセサリーがうるさいですの」
「なんだと!?」
「殿下方、お2人はこの会議のホストです。兄妹喧嘩はまた別の機会に」
歴戦の勇士ドレッドに注意され、兄妹はとりあえず矛を収めた。
だが、アイシアとベニートが睨み合っていることに変わりはない。
随分とのんきな兄妹である。
ところで、ここまでは政府要人と軍人たちの集まりだが、大広間にいるのは彼らだけではない。
彼らとは対照的なガラの悪いならず者たちも、この大広間に集っているのである。
「ヒュー、さすがはサウスキアじゃねえか。王女様もベッピンだぜ」
「それに比べて、オレたちゃ随分と場違いじゃねえか?」
「いいや、ここはカネの匂いがプンプンするぜ。むしろ俺たちの方が、銀河連合の石頭ヤローどもよりこの場に相応しいかもしれねえ」
「テキトー言いやがって」
下品な笑い声と、欲にまみれた目つきが、大広間をなめまわしていた。
ヒュージーンによる恐怖の抑止がなければ、きっと彼らはとっくに問題を起こしていたことだろう。
今にも問題を起こしそうな者たちは、ならず者たち以外にも存在する。
「下等生物どもが寄り集まったところで、何ができるというのだ?」
「フン、そう言ってやるな。今回は、我ら栄えある帝國軍と、このケイ=カーラック提督が下等生物どもを導いてやるのだ。ならば、その先にあるのは、安寧に満ち溢れた、本来あるべき銀河の姿に他ならない」
「なるほど! 我ら帝國が、我ら人間が、銀河を平穏へと導くのですね!」
「エクストリバー帝國万歳!」
「裏切り者に鉄槌を! 我ら人間のあるべき姿を!」
カーラックを中心とした帝國軍の面々は、ならず者たちとは違った異様さを放っていた。
なぜ彼らは、正々堂々と銀河連合を挑発するようなことが言えるのだろう。
本来は敵同士の対面である。争いが起こっていないだけでも奇跡だ。
さて、そんな大広間で、俺たちは何をしているのか。
「あたし、ここにいる必要ある?」
「つまんな~い! ニミー、ナツちゃんとおにんぎょうあそびしてた~い!」
「あのフードをかぶったおじさんと、マントをつけたおねえさん、こわいのです」
「コターツに戻りたい……」
それがシェノとニミー、ナツ、そして俺の言葉である。
一言で言えば、俺たちはいつもと変わらないということだ。
ラグルエルはあらためて、おかしそうに笑う。
「フフ~ン、みんな頼もしいわね」
「どこがですか!?」
フユメの尖ったツッコミが炸裂した。
どこまでも合理的な銀河連合同盟軍、兄妹喧嘩中のサウスキア、危なっかしいならず者たち、ともかくうるさい帝國軍、やる気のない俺たち。
大広間に集まった人々に、統一感など微塵も感じられない。
ツッコミを入れたところで、それは変わらない。
だからか、フユメはメイティをモフモフしはじめた。
「これから魔王を倒そうとしてるのに、みなさんマイペースすぎます……」
「……ふにゃ……フユメ師匠、くすぐったい……」
「メイティちゃんのモフモフは癒されます~」
ついにフユメまでもがマイペースに足を踏み入れてしまったのである。
しかし、それでもラグルエルの表情から余裕が消えることはない。
むしろ彼女は、さらに表情を明るくするのだった。
「これよ! これこれ! この自由気ままな雰囲気! 陰気で息がつまるような魔王とは正反対の雰囲気! これさえあれば、私たちは魔王に勝てるわ!」
絶対の自信を胸に、ラグルエルは両腕を広げ、大広間に集まった人々に呼びかける。
「みんな、聞いてちょうだい!」
仮にも女神様の呼びかけだ。
大広間に詰め込まれた俺たち寄せ集め集団は、同時にラグルエルに注目する。
数百の瞳に見つめられたラグルエルは、優しく笑ったまま言葉を続けた。
「魔王は強力な存在よ。正直、簡単に勝たせてくれるような相手じゃないわ。でもね、私はあなたたちのことを信じてるの。魔王はあなたたちを贋作と呼ぶけど、そんなの嘘よ。あなたたちは、世界にたったひとつの、特別な存在。この女神様が言うんだから、間違いないわ」
世界の管理者としての言葉。
自らが管理する世界の住人を信用し、愛する女神様の言葉。
「さあ、魔王に見せてあげましょう! あなたたちが贋作なんかじゃないことを! あなたたちの自由な意思が、世界に特別な色をつけていることを!」
今、この大広間の景色こそが、ラグルエルの愛する世界そのものなのだ。
女神に愛された人々は、女神の言葉に応える。
「そうですわ! わたくしたちが、魔王の野望を打ち砕きますの! わたくしたちの世界は、わたくしたちが守りますの!」
「我々銀河連合と同盟軍は、できうる限りのことをするだけです」
「烏合の衆が世界を救う、か」
「今こそ帝國の力を、人間の力を見せつけるときだ! 魔王への勝利が、我ら人間の正しさを証明するだろう!」
様々な反応が大広間に響き渡る。
その度に、ラグルエルは嬉しそうに笑うのだった。
もはや大広間は、お祭り会場のようである。
「おお~!」
「おお~、なのです」
「まお~!」
大広間を包む熱気に、ニミーとナツ、使い魔も圧倒された様子。
まったく、どいつもこいつも好き勝手なことを言うものだ。
「なんだか盛り上がっちゃったね」
「……みんなの思い、それぞれ、違う……でも、目的地は、同じ……」
「これが、世界を救う力なんですね」
フユメの言う通りだ。
この大広間に漂う統一感のなさこそが、魔王の強大な力をも跳ね返してしまう世界の力そのものなのだ。
魔王にも勝てる力を前に、俺は思わず言葉を失っていた。
そんな俺に話しかけてきたのは、エルデリアとHB274である。
「ソラト、何ぼうっとしてるんスか?」
「え?」
「次の戦いの主役は、間違いなくソラトじゃないッスか。なら、主役が黙ってるわけにもいかないッスよ」
《ほらよ、熱い一言を頼むぜ、真の英雄さんよ》
おだてるのがうまい2人だ。
良いだろう。ここは救世主、真の英雄、伝説のマスター、哀愁漂う主人公、ならず者、魔術師として、みんなをさらに盛り上げてやろうじゃないか。
「みんな! 相手は魔王だが、その実はただの厨二病だ! 俺たちが束になって殴り掛かれば、勝てない相手じゃない! さっさと魔王を倒して、さっさと家に帰って、のんびりしよう!」
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