第6章3話 一体どんな古代兵器が……
真っ黒に焦がされた土に覆われ、蒸気すらも漂う洞窟内。
光魔法を使い先へと進む俺たちだが、体はすぐに汗だくになってしまった。
洞窟探検に心を踊らせるのはニミーである。
「どーくつ、コターツよりポカポカしてる~!」
「ポカポカっていうより、火傷しそうなくらい暑いんだけど」
「文句を言うな。魔物と戦うよりは楽だろ」
元気なニミーとは対照的に、俺やシェノ、フユメやラグルエル、使い魔は暑さにうなだれてしまう。
先ほどの炎魔法が、俺たちの不快感を大いに刺激しているのだ。
炭と化した魔物の死体と比べれば、今の俺たちはまだマシ。だが不快なものは不快である。
せめて暑さだけでも減らそうと、俺は氷魔法を使い全員の体を冷やした。
「うわ! ソ、ソラトさん! いきなりなんですか!?」
「いや、氷で体を冷やそうと思って」
「い、いきなりはやめてください! びっくりしたじゃないですか!」
驚き飛び上がったフユメも、体に密着した氷を手放そうとはしなかった。
氷の力に感謝だ。サウナのような暑さは多少なりとも弱まり、不快感は減る。
けれども、光魔法の先にあるのは、さらに奥深くまで続く土の空洞。
外での戦闘の影響か、振動し土を降らせる洞窟の中で、フユメは不安そうな顔をした。
「古代兵器はまだですか?」
「もう少しで見えてくるはずよ」
楽観的なラグルエル。
彼女の言う通り、しばらく洞窟を進むと、体育館程度の広さはある開けた空間に俺たちは立っていた。
「あったわ!」
笑みを浮かべたラグルエルが、小走りで空間の奥に向かう。俺たちも彼女を追った。
空間の奥にあったのは、大きな長方形の箱。
古代兵器が入っているにしては、なんとも地味な箱だ。
それに――
「なんか、真っ黒に焦げてるけど」
「もしかして……さっきのソラトさんの炎魔法で焼けちゃいましたか!?」
「はあ!?」
「どうするんですか!? 古代兵器が焦げちゃいましたよ!?」
「いやいやいや、古代兵器なんだから炎魔法くらい耐えてくれよ!」
神にも近い存在を殺す兵器が、たかが俺の炎魔法で失われるわけがない。
そんなヤワなものは、古代兵器ではない。俺が焦がしたのは古代兵器ではなく、ただの箱だ。
と現実逃避をする俺だったが、あながちこの主張は間違っていなかったらしい。
てくてくと箱の前に立ち、ちょこんと座ったニミーは、勝手に箱の蓋を開けて言った。
「まっくろなの、はこだけだよ~」
「あら、本当だわ」
木炭のような見た目は箱の外側のみ。
箱の中は無傷だったようだ。
「「良かったぁ」」
思わず安堵の言葉が漏れ出す俺とフユメ。
やはり古代兵器は、俺の炎魔法程度で失われるようなヤワなものではなかったのだ。
こうなると、気になるのは箱の中身である。
「一体どんな古代兵器が……」
「まお~?」
箱の中にあるのはミョルニルか、トライデントか、ロンギヌスの槍か。
期待に胸を膨らませ、俺と使い魔は箱の中を覗いた。
真っ黒な箱の中にあったのは、脚の長さほどの筒状の武器。
鉄と複合素材によって作られたその武器は、イメージする古代兵器のそれではなかった。
「これって、ただのスナイパーライフルじゃ……」
映画やゲームに出てきたスナイパーライフルと、俺の目の前にある古代兵器は同じものだ。
シェノの持つライフルと、形は大差ない。
まさかこれが、古代兵器とでも言いたいのだろうか。
「ええ、その通り。火薬と弾丸を使った武器なんて、『プリムス』では立派な古代兵器よ」
これが古代兵器であった。
俺たちからすれば現役バリバリの武器が、ラグルエルにとっては古代兵器であった。
なんだかよく分からないが、俺の夢を返してほしいものである。
だいたい、このスナイパーライフルは使い物になるのか。
「スナイパーライフルなんかで、『プリムス』の住人を殺せるんですか?」
「私たちは魔王の言う通り、神様ではなく人間よ。狙撃されて死なない人間はいないわ」
さも当然のようなラグルエルの回答に、俺もうなずくしかない。
同時に、新たな疑問も浮かぶ。
「それだったら、シェノの拳銃やライフルを借りれば良いじゃないですか」
武器など世界に溢れかえっているのだ。
むしろ、シェノが持つレーザー銃の方が威力は高いはず。
そんな俺の疑問に、ラグルエルはおかしそうに笑った。
「フフ~ン、シェノちゃん、ちょっと私のおでこを撃ってみて」
「はいはい」
言われた通り、拳銃を手に取りラグルエルの眉間を撃ったシェノ。
銃声が虚しく空間に響く中、俺は開いた口がふさがらない。
「コイツ、なんの躊躇もなく撃ちやがったぞ!」
「さすがシェノちゃんね」
「あれ? ラグルエルさんが死んでない?」
撃たれたはずのラグルエルは、傷ひとつなく、いつものように笑みを浮かべている。
これには俺も唖然とするしかない。
ラグルエルを撃ったシェノですら、今回ばかりは驚いた様子。
フユメは俺たちを横目に説明をはじめた。
「実は『プリムス』の住人は、自らが作り出した世界の存在による干渉を受けないんです。シェノさんの銃でも、ソラトさんの魔法でも、マスターを傷つけることはできません」
「つまり、魔王に人格を支配されたコンストニオを倒すには、『プリムス』製の武器が必要なの。そして、このスナイパーライフルこそが、10年以上前に発掘された『プリムス』製の武器なのよ」
2人の説明を聞いたところで、俺たちはこれといった反応を示せない。
もう分からないことばかり。2人の説明を理解するだけでも、俺たちは手一杯なのである。
一方でフユメは、じっとりとした目でラグルエルを見上げた。
「ところでマスター、どうして狙撃銃を『ムーヴ』に隠してたんですか?」
核心を突くような質問である。
まばたきが増えたラグルエルは、フユメから視線を外し、人差し指を上げて答えた。
「ほら、『プリムス』って全ての武器が厳重に管理されているでしょ。もし行政が崩壊して全ての武器が使用不可能になったら、私たちには戦う術がないわ。だから、スナイパーライフルを『ムーヴ』に隠しておいたの」
「いつも用意周到ですね、マスターは」
まったくである。
いつか『プリムス』が危機に陥る場合を考え、武器を隠しておくとは、さながら未来を予測していたかのよう。
飄々としながらも、こういうところだけは頼りになるのがラグルエルだ。
ただし、現在の彼女は白い歯をのぞかせ、軽い調子でいた。
「もっと褒めてくれて良いのよ」
「廃棄すべき武器を隠し持っていたんですから、褒められることではないと思います」
「まあ良いじゃない、おかげで助かったんだから」
「そうですけど……」
納得はできないが反論もできず、フユメの言葉は尻つぼみとなり、消えていく。
ラグルエルはスナイパーライフルの入った箱を持ち、会話の空白を埋めた。
「ほらほら、欲しいモノは確保したし、洞窟の外に戻りましょう」
「はい。早く騎士団の皆さんを助けないと」
「リヴァイアサンの討伐か。面倒だ」
洞窟へやってきた目的は達したものの、戦いは終わっていない。
外からの轟音と衝撃は、今も洞窟内を揺らしているのだ。騎士団はまだリヴァイアサンを撃退できていないのである。
一応は『ムーヴ』の救世主である俺が、リヴァイアサンを無視するわけにもいかないだろう。
重い足取りのまま、俺は洞窟の外へと向かった。
来た道を帰り、洞窟の外に出ると、俺たちは太陽の光にまぶたを閉じてしまう。
ようやく光に目が慣れると、辺りを見渡し戦況確認。
「まお~」
「おお~! うみがぐにゃぐにゃだ~!」
ド派手な光景に大興奮のニミーと使い魔だが、俺たちの表情は強ばるばかり。
海面は山の斜面のようにうねり、騎士団の艦隊は海にさらわれ転覆していたのだ。
リヴァイアサンの魔法に操られた海に、騎士団は対抗できないのである。
波の中には無数の白銀の鎧が輝き、そして沈んでいく。
陸地に立つマリーたちは、味方の惨状を目前に歯を食いしばっていた。
「想像通り、かなり苦戦してるみたいだな」
陸地を主戦場とした騎士団が、海を主戦場としたリヴァイアサンに勝てる可能性は低い。
今の状況は、ある意味では俺の想定の範囲内だ。
戦いを有利に進めるリヴァイアサンは、そり立つ波を渡りながら騎士団を嘲笑する。
「弱キ人間タチヨ、諦メヨ。モハヤ貴様ラニ勝チ目ハナイ。武器ヲ置キ降伏セヨ。サスレバ貴様ラヲ、苦シマセズニ殺シテヤロウゾ」
早くも勝利を確信したかのようなセリフ。
その余裕も今だけだ。
「苦しまずに死ぬのはお前だよ」
戦いは早く終わらせてしまおう。
俺は両腕を突き出し、土魔法を発動した。
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