第2章22話 自分が宇宙を飛ぶ姿を想像してみろ
人生初の無重力空間。
吹き飛ばされた勢いは、そのまま俺をどこかへ運んでいく。
廊下は分断されており、俺の体はすぐに宇宙空間を漂いはじめた。
人生初の宇宙浮遊。
辺りを見渡すと、俺と同じく宇宙を漂うメイティの姿、そしてデスプラネットの残骸を縫うようにして飛び抜ける帝國軍の無人戦闘機が目に入る。
それほど離れていない距離を戦闘機が飛び抜けるのは、強烈な恐怖体験だ。
加えて、その戦闘機がこちらを狙うとなれば、生きた心地がしない。
「待て待て、こっちを向くな、こっちに来るな、こっちを撃つな!」
よりにもよって俺にブラスターを向けてきた無人戦闘機。
赤い一本線がよく映える黒の機体が、デスプラネットの残骸を退け、闇の中から近づいてくるのだ。
俺は魔法で反撃することも忘れ、思わず目を瞑る。
次に目を開けるとき、俺はフユメの蘇生魔法の世話になっているのだろう、と思っていた。
ところが俺は、まだ生きていた。むしろ俺を狙った無人戦闘機は炎上し、制御不能となり、近場の残骸にぶつかり四散する。
――助かった……。
これまでの人生を振り返ると、ここで死ななかったのは奇跡だ。
しかし、どうして無人戦闘機は炎上したのだろうか。
その答えを知るのに長い時間はかからなかった。
「グラットン!?」
四散した無人戦闘機の破片を振り払い、俺のすぐ目の前を飛び抜けていった無骨な輸送船。
シェノはまだ宇宙を漂っているだろうに、なぜグラットンが俺の目の前に? しばし頭が混乱し、別の無人機に襲いかかる輸送船を俺は眺めるだけ。
輸送船を眺めた結果、俺は気がついた。俺の目の前を通り過ぎた輸送船は、グラットンと違い追加装甲を装備していたのだ。
つまり、あの輸送船はグラットンの同型船ということ。
真相が分かると、輸送船に対する感謝の念が湧いてくる。あの輸送船のおかげで俺の命は助かり、またあの輸送船が帝國の無人戦闘機を引きつけてくれたのだから。
――さて、フユメたちと合流しないと。
宇宙服を着ているとはいえ、彼女らは俺と同じく宇宙を漂っている。
この状況から脱するためにも、彼女らとの合流は必要不可欠だ。
まずは近くにいるメイティと合流すべきだろう。
問題は、どのようにして彼女らと合流するかである。
スーパーヒーローのように自由に宇宙を飛び回れれば良かったのだが。
――それだ。
俺の五感には無重力と宇宙を漂う感覚が叩き込まれている。
そして自分がスーパーヒーローとなり飛び回る想像――妄想は幼少の頃からの得意技。
もしかすれば。
俺は両腕を伸ばし、メイティが漂う方向へ移動する自分の姿を想像した。
まだ経験したばかりの宇宙浮遊の感覚を思い浮かべ、幼少の頃から幾度となく繰り返してきた妄想を爆発させた。
すると、さすがは女神から与えられた救世主の力。俺の体はゆっくりと宇宙空間を進み、漂うメイティのもとへ徐々に近づいていく。
まさしくスーパーヒーロー。
重力魔法によって宇宙を飛んだ俺は、メイティの肩を掴む。
「おい、メイティ! 大丈夫か!?」
宇宙服の技術力によって、俺の言葉はメイティに伝わったらしい。
彼女は少しだけ目を丸くしながら、ぺこりとうなずく。
「大丈夫そうだな。もしかしたら、お前も重力魔法が使えるかもしれない。宇宙浮遊と無重力空間の経験を思い起こして、自分が宇宙を飛ぶ姿を想像してみろ」
メイティは目を瞑り、重力魔法を使おうと想像力をフル稼働させた。
しばらくして、やはりメイティも重力魔法が使えたらしい。彼女も滑るように宇宙を移動しはじめた。ただし、思った方向とは逆に体が動くようで、表情は必死な感があるが。
何はともあれ、俺もメイティも重力魔法が使えるようだ。
まさかこのような場所、状況すらも魔法修行になるとは驚きである。
「……ソラト師匠、わたし、みんなを助ける……」
「ああ、頼んだぞ。俺も手伝うから、救出が終わったらグラットンに集合だ。グラットンの場所は分かるな?」
「……うん……」
「よし、行くぞ!」
まずはフユメの捜索。
どうせシェノは無事だろう。それよりも、治癒・蘇生魔法持ちのフユメ捜索が優先だ。
フユメを探すため、俺は宇宙を飛びながら、全周を見渡す。
力なく漂うデスプラネットの残骸。息絶えた帝國軍兵士。ドッグファイトを繰り広げる輸送船と無人戦闘機。残骸を押し退けならず者たちを援護する軍艦ヤーウッド。手足をバタバタとさせる、宇宙服姿の人影。
――きっとあれがフユメだ。
レーザー飛び交う戦場を飛び、ヤーウッドの主砲に爆破された残骸を突き抜け、フユメと思わしき人物のもとへ。
いつもはフユメに救われっぱなしの俺だが、今日は俺がフユメを救う番だ。
「大丈夫か!? 怪我はないか!?」
「ソ、ソラトさん!? 良かった! ソラトさんだ!」
かなり焦っていたのだろう。フユメは俺の顔を見るなり、俺の体に抱きついてきた。
仕方のないことだ。戦場にて自由に体を動かせない恐怖は、まさしく死に直結する恐怖なのだから。
宇宙服越しに感じる体の暖かさは、フユメが無事な証拠。
安心感に涙を浮かばせたフユメを見て、俺もほっと胸をなでおろす。
「さっき重力魔法を覚えたんだ。これでグラットンに戻れる。俺に掴まってろ」
「はい!」
フユメは俺の体から離れ、代わりに俺の手をぎゅっと握りしめた。
俺は周囲を確認し、自分のおおよその居場所を把握、グラットンの位置に目星をつける。
向かうべき場所さえ決めてしまえば、あとはそこにひとっ飛びだ。
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