第81話 攻防 その二


 手応えの変化。

 それが引き金にかける力を緩めた理由。


 白頭巾も柱の陰に身を隠し、直ぐ様連射式銃の弾倉を引き抜く。

「やっぱり…。」

 見つめた先程は、弾倉の最上部。そこに、弾丸は無かった。


 手にした空の弾倉を捨て、次を装填。

「最後の一個か…。」




「厄介だ! あの銃も! あの小娘も!」

 全身に走る焼ける痛みを振り払うように、強く口に出す。


 身を軽くあずけた右手が触れた柱。

「これは…。」

 その手触りに緩んだ口元に浮ぶ邪悪な笑み。




「さてと…。」

 気持ちの切り替えに出す意味の無い言葉。


『ドオーーーン!』

 重い何かがぶつかる音と共に軽い揺れ。

「何!?」

 正体不明。

『ドオーーーン!』

 また同じ音と揺れ。


 普段なら手鏡を使い、身を隠したまま状況を確認するが、その時間さえ危険と心が叫ぶ。

 柱から『ひょい』と顔を覗かると同時にまた『ドオーーーン!』の音と揺れ。


「げっ! ちょ!」

 はしたないと怒るなら怒れ、そんな悠長な場合では無いと言いたげな驚きの顔は、上げた声と同じだった。



 銀の牙が隠れた柱が、こちらに向かって倒れている。

 直ぐに隣の柱に当たり連鎖する。そう、将棋倒しが柱で再現されていた。



 銀の牙の手が触れた時に遡る。


 この柱は石を組み上げて造っている。継ぎ目が、手に、指に、感触として伝わった。


 柱の間隔の短い距離を使い、全力の体当たり。


 繰り返す。


 何度も。


 それが、音となり、揺れとなり、白頭巾に伝わった。


 また、体当たり。

 それが、最後となり、始まりとなった。


 柱による将棋倒しが始まった。



 ここで、柱から白頭巾が顔を出した時となる。




 直ぐ様、柱の陰から出る白頭巾。


「居た!」

 銀の牙は柱を倒し崩した始まりの場所に。

 狙い引き金にかけた指に力を入れる。


「えっ!?」

 それを緩めさせたのは、振り被った銀の牙の動作。


 白頭巾の視界に大きくなる物がある。それは、こちらに迫っている物。


「そんな物投げないでよね。」

 白頭巾は、飛来する物の正体に気が付く。

 それは、柱だったものの一部。


 素直に、飛来物に今の場所を開け渡し、次の場所へ。

 連射式銃の構えと狙いを、銀の牙の次の投擲(とうてき)の振り被りが邪魔をした。

「当ったらどうするのよ。」

 苦情らしい。


 次の場所でも、同じ事に。


 また、次の場所でも、同じ事に。

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