第63話 待つもの
「じゃあ、入るわよ!」
扉の取手に手を描ける白頭巾。
「はい!」
神父の力強い返事は覚悟の現れ。
そこは、見慣れた場所…。否、見慣れた建物。
もう少し砕けた言い方なら神父の住んでいる家。
そこは【教会】と呼ばれていた。
扉を開くと中は静寂で満たされている。静過ぎ、音が聞こえるほどに。
「神父さん。閂(かんぬき)掛けて。」
「は、はい。」
本来、閂とは外部からの浸入を防ぐ為のもの。
「逃げられたら面倒だからね。」
白頭巾の使い方は逆だった。
『ガコッ!』
響いた音は閂が掛けられた扉が、外と中を隔てた証。
その音が消えるのと同時に、右足を踏み出しす白頭巾。
床に足の裏が触れるか触れないかで引き戻した。
顔だけ神父に向け、
「何か居る。安全な場所へ。」
指示を出す。
神父が選択したのは壁際。直ぐに移動し、身を屈めた。
奥側にある祭壇の前。
天井付近にある高窓から差し込む光の帯。
そして、生まれる影。
そいつは、そこに居た。
片膝を付き、一心不乱に祈っていた。
「誰?」
白頭巾の問い掛けに、ゆっくりと立ち上がり向き直る。
一歩前に。
そこは、光の帯の中。顔が照らされる。
白頭巾には見覚えの無い男。
「貴方は!?」
驚き、半立ちになったのは神父。
「あぁ。レイモンド神父様ですか、お久しぶりです。」
にこやかに挨拶し、
「確か、私の葬式以来ですよね。」
普通ならとんでも無い事をさらりと言った。
「二番目に殺された人です。」
白頭巾に伝えた。
「へー。そうなんだ。」
観察し、
「元気そうね。」
こちらも、とんでも無い返し。
「ええ、お陰さまで…。」
作り笑い。
「じゃあ、家に遊びに来たのは最初に殺された人かな?」
右足を前に躙(にじ)り出し、右構えに移行する。
「その人、元気?」
同時に、大きなバスケットを床へと下ろす。
「いえ。貴女にご馳走になってから、元気無くて伏せがちです。」
肩を竦めた。
「折角、泊まっていってねって言ったのに帰るから。」
両手を後ろに回し、腰のモノに手を掛ける。
「そう言っておきますよ。」
そう言う口の両の口角が上がる。
「それは無~理。」
可愛く言う。
「何故。」
今度は伸びる口角。
「だって、私は狩る側で、貴方は狩られる側でしょ。」
微笑みかける。
豹変。
「言わせておけば、小娘がぁぁぁぁぁ!」
伸びた口角のせいなのか、最後は人の発する声では無かった。
「言う事は、いっつも一緒ね。」
うんざりといった口調。
盛り上がる筋肉が服を引き裂く。擬音なら『ムキムキ』だろう。
併せ、伸びる口先から鼻。
「ねえ、神父さん。」
前を見据えたまま、声を掛ける。
「は、はい!」
まさか、声が掛かるとは…。慌て、上擦(うわず)る声。
「ちょっと壊れるわよ。」
アノ短剣を抜き、構える。
「あっ…。」
一瞬の戸惑い、
「今度、改修工事するので問題ないです!」
神父の返答に、答えたのは笑顔。
「では、遠慮無く。」
「ガルルルルルル!」
人狼に変身を終え、巨大な躯体へと変貌し、その高ぶりから唸りが漏れる。
「さあ、行くわよ。」
爪先に溜めた力は、白頭巾を前へと駆け出させる。
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