第43話 調べる


 翌日。


 神父が家に到着した時には、戦いが始まっていた。


「おはよう御座います。」

 扉を開くと、室内を満たしていた異様な雰囲気が流れ出してくる。


「神父さん。おはよー。」

 ペーターが少し小さな声で挨拶しながら近付く。


「神父さん。おはよう御座います。」

 座ったまま、手を止め神父に挨拶する白頭巾。


 挨拶を終えると、また手を動かす。

 本の文字を指でなぞり確かめながら、ブツブツと口に出し読んでいた。

 時折、なぞる指を止めるとアノ素焼きの板を手に取る。


 神父はしばらくその様子を見た後に、異様な雰囲気の出処は白頭巾だと確信した。


 そう、白頭巾と素焼きの板との攻防戦が繰り広げられていたのだ。

 近寄り難い空気を漂わせながら。


「近寄ったら駄目だからね。」

 神父の耳元にペーターが囁く。

 状況が掴めた神父は、無言で頷いた。



 ほとんど、身動きしない二人…。


「ねえ。神父さん、良かったら料理教えてよ。」

 耐えられなくなったペーターが小声で。

「構いませんが…。」

 神父はちらりと白頭巾を見る。

「竈(かまど)は中だけど、用意を外ですれば…。」

 ペーターは、扉をちらりと見る。

「なるほど。そうしましょう。」


 二人は外で料理をするための準備を音を立てない様に始めた。


 外でもなるべく静かに下準備。


「昨日使った道具の手入れをしてた時は、まだ良かったんだけど…。」

 ペーターは手を止めず。

「終わっちゃって、どうしようかと思ってたんだ。」


『ガーッ』

 中から響いた木の擦れる音。


『ビクッ!』

 間髪入れず、飛び上がる程に驚いた外の二人。


『カッ』

『カッ』

 どうやら、白頭巾が椅子から立ち歩き始めたようだ。

 足音は時折止まるので、考え事をしなから歩いているのだろう。


 顔を見合わせ、

「ふーっ。」

 同時に息を吐く。そして、安堵。


「にしても、今日は暑いね。」

 ペーターが暑がり、いつもは一番上まで閉めているボタンを二つ外した。


 不意にペーターの首元が太陽を反射。

 それが目に入る神父。

「ペーターさん。ネックレスですか?」

 言った本人は、ちょっと気になったから聞いた感じで。

「あっ。これね。」

 首元に手をやり、指で摘んで見せた。

「『御守り』なんだって。ご主人様から絶対に外しちゃ駄目って言われてる。」

 それ見た神父は、ペーターの『御守り』と言った事に、違和感を覚えた。

(『御守り』と言うよりは『首輪』に見えるが…。)

と、思ったが、

「『御守り』なんですね。」

 相づちを打った。

 


 今だ、近寄るなの空気を醸(かも)し出している白頭巾。


 その空気を避けながら進められる二人の作業は終了に近付く。



 匂いそれが引き金。

「あーっ! もう、解らない!!!」

 勢い良く立ち上がり椅子をひっくり返した。


 今度は本当に飛び上がった二人。


「何処にも、手がかりは無いし!」

 恐怖は、脳の回転を良くする起爆剤。

「白頭巾さん。落ち着いて…。」

 ちらり…、では無く。ジロリと神父を見る白頭巾。

「私は冷静よ…。」

「食事にしましょう。」

 直様、

「そ、そうだよ。ご飯にしよう。」

 ペーターが続いた。

「お腹がいっぱいになれば、良い考えが出る。って、昔から言うじゃないか。」

 その言葉で、白頭巾は自分が空腹なのだと気が付いた。

「そうね。さっきから良い匂いしてるし。」

 一気にあどけない笑顔になった。


「ふーっ。」

 二人は顔を見合わせ、互いに目で、

『よくやった。』

 称え合う二人。



 食事を終え、一段落。


「教会へ行きましょ。」

 白頭巾が唐突に切り出した。

「何か手掛かりがあるとすれば、もう教会だろうし。」


 午後の予定が決まった。

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