第25話 酒場
古今東西、仕事終わりで賑わう場所は何処も同じ酒場。
賑わう店内。
扉を開くと、
「いらっしゃい。」
見もしないのは、店主としての反射的な行動なのだろう。
新たな来客に一斉に視線が集まる。
「なんだ、ここは子供の来る所じゃねえぞ。」
白い頭巾の少女は、肩をすくめ両の手の平を天井へ向けた。
「何処に行っても、[酔っ払い]は同じ反応なのね。」
自分達を[酔っ払い]と称されたことに腹を立て、
「なんだと!」
熱(いき)り立つ酔っ払い達。
「待ちな。」
酒場の奥から、声が響く。
「ここに何の様だ。お嬢ちゃん。」
わざわざ『お嬢ちゃん』をゆっくりと言ったのは侮蔑(ぶべつ)の意図があっるからか。
「うあ。まさか、ここまでベタな展開…。」
戯(おど)け、
「お約束過ぎて、逆に寒いわね。」
「何だと、この野郎!」
奥から出てきた声の主は、これまたお約束通りの大男。
「ガキだからって容赦しねえぞ!」
恫喝(どうかつ)する髭面は、よく日に焼けていた。
少し俯いた白い頭巾の少女を、恐怖で固まったと思ったのだろう髭面は、
「さっさと帰りな。」
勝利宣言をする。
震える白い頭巾の少女を見た周りの男達はやっぱり子供だと。
だが、それが間違いだと知ったのは、聴こえてくる笑い声。
「ぎゃはははは。」
耐えられなくなり、お腹を押さえ笑う白い頭巾の少女。
「あー、おかしい。」
そのうちに、笑い声か苦しみの声かの区別がつかなくなる。
その笑い声を聴き、完全に頭に血が登り日焼けした顔が、真っ赤に染まった。
「何が、おかしいこの野郎!」
思いっ切り振りかぶった右の拳が、白い頭巾の少女へ放たれる。
笑い顔のまま、
「あんまり、お約束の通りだったからお芝居かなって。」
左足を足幅二つ分外へ、右足は足の長さ一つ分後ろへ下げ身を捻(ひね)る。
そこは、右の拳の外側。
虚しく空を切る拳。
その拳に、右手を添えた白い頭巾の少女。
そして、右の拳は放った本人の意思とは無関係な方向へ加速する。
直後。
肉が潰れる様な音と共に、
「ギャィン!」
悲鳴。
右の拳は側で飲んでいた男達の一人の顔面に深くめり込んだ。そのまま白目を向き、ゆっくりと後ろに倒れた。
「あら、可哀そう。」
そう言う顔は笑っているから、そんな事は微塵も思ってなさそうだ。
「こ、この! このぉ!」
怒りで、上手く言葉にならない。顔は日焼けの色と混ざり黒くなった。
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