第17話 備える


「晩御飯は、神父さんにお願いしてっと。私達は外ね。」

「はい。」

 今までふざけていた雰囲気が一瞬で変わる。


「そうそう。三人分用意してね。」

「三人分ですか?」

「食事は大勢で食べた方が美味しいでしょ。」

「解りました。」


 その間にペーターが荷物を漁り準備した。


 二人で外へ。



 食事の用意をしていると、外から聞こえてくる声と音が気になった。

(何をしているのだろう? 外は片付けは無かったはずだが…。)



「戻り〜。」

 ペーターが元気よく扉から入って来る。

「ちょうど、用意が出来たところですよ。」

「おーっ。良い匂い。」

 ホッかむりを取りながら白頭巾も入って来た。

「良い匂いね。」

「早く。食べよう。」

 ペーターが急かす。


 食卓に付く三人。

「では…。」

 神父が手を合わせ、目を閉じる。食事の前の祈りを上げようとしたところに、

「いただきま〜す。」

「いただきます。」

 二人の声。


 驚き目を開くと、食事を始めている二人の姿が目に入った。そして、恐る恐る、

「あの…。お祈りは…。」

 聞いた。


「私達は神は信じない。信じるのは自分の腕と技だけ。」

 その答えに、二人の生き方を直に感じ、返す言葉を失う神父。


 その後、小さく祈りを捧げると遅れて食事を始める。


「美味しい!」

 ペーターが声を上げた。

「あなたは何でも美味しいんでしょ。」

 少し呆れ気味。

「何でもって訳じゃ…。」

 ちら見し、話が蒸し返すと思われたところへ、

「お二人は、外で何を?」

 絶妙な間で話を変える神父。


「仕掛けをしてたのよ。」

「仕掛けですか…。」

「夜、襲われた時の用心…。」

 その言葉に驚く神父。

「今朝の仲間が襲って来ないなんて保証は無いでしょ。」


 ピンときた神父。

「だから、町外れの一軒家を選び、他の人の安全を考えて巻き込まないようにしてるんですね。」

「半分正解。」

「半分ですか…。」

「巻き込まないは正解だけど…。」

 含みのある言い方で続け、

「安全は違うわ。」

「えっ。では…。」

「ほら、戦う敵が増えると面倒じゃない。感染して増える怪物は厄介なのよ。」

 笑顔で返す内容では無いと神父は心の底で思い、

「そうですか…。」

 だけ返した。



 帰り際。

「明日の朝の分も作っておきましたから。」

「やったー!」

 喜ぶペーター。

「ありがとう御座います。」


「で、明日はどうされますか? 何かお手伝いできる事があれば…。」

 少し考え、

「そうですね。何か、穴を掘る物をお借りできれば…。」

「はぁ。たぶん、教会の倉庫にあると思いますから…。」

「では、明日伺いますね。」

 二人の笑顔で送り出された。



 教会までの帰り道。見上げる星空の美しさは変わらない。

 例え、この世界の片隅で何が起きても。

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