第87話 gf#(

「この幸せな日々が、いつまでも続きますように」


 僕は毎日、夕暮れの空に向かいそう祈っている。

 ミトセさんと再会したあの日、焼け焦げた屋敷の前で、同じ夕暮れの空を見上げ、絶望で命を絶とうとさえ思った。

 それが、今では生きたいと祈っているなんて、人生は不思議なものだ。

 


 あれから数年経った。

 その間も大変だけど楽しい毎日が続き、僕はとても幸せだった。

 一期生が卒業する時なんか、周りが引くほど号泣してしまい式の進行が滞る自体を巻き起こしてしまい、あとからミトセさんに怒られてしまったよ。


 そうそう、学園の周りが開発特区に指定され、県主導による開発が進み住宅が建ちだしたんだ。

 切り開かれていく山を見ると少し寂しくなったけど、僕達の出会ったこの街が、どんどん生き返っていくようで嬉しかった。

 それに僕達の思い出の木はちゃんと学園内に立っているからね。


 そう言えば、生徒達が自主的に地域住人を招いての炊き出し会を行いたいと言って来てくれたのは嬉しかったなぁ。

 戦争が終わって数年が経ち、街は活気を取り戻して来たとは言え、まだまだその傷跡は人々の生活に色濃く残っている。

 この学園の生徒達はその現状を見て、一年に一回で良いから皆に寄付を募り、この街の住人がお腹いっぱい食べて明日から頑張ろうと決意する場を設けたいと考えての申し出だった。


 勿論僕は直ぐに許可をしたよ。

 ミトセさんも了解してくれた。

 またその際に、僕達で御芝居や楽器演奏を披露してはどうかと提案したら、生徒達は喜んでその案に乗ってくれたんだ。

 次の年からはその行事を文化祭として、毎年九月に行うようになった。



「やぁ、私の親友。元気にしてたかい? 私はとっても元気だよぉ」


 そんな幸せな日々のある日の事、僕はミトセさんに内緒で親友である光善寺君の製薬会社にやって来た。


「ハハッ、酷いな~。光善寺君は知っているだろう?」


 僕は苦笑する。


「あぁ。でもね、私は君が笑ってくれると言うのなら、何度でも言うっちゃうよ。『元気にしてたかい?』 ってね」


 光善寺君なりの励ましなのだろう。

 その気持ちは嬉しく思う。


「単刀直入に言うよ。……僕の命は 、あとどれくらい持つんだい?」


 僕のこの問いに光善寺君の顔から笑みが消える。

 医師でもある彼のこの所作で、僕の残り時間が短い事が分かった。


「あとどれくらい時間が欲しいんだい?」


 光善寺君は僕の質問に質問で返してきた。

 本当に人が悪いな光善寺君は、そりゃミトセさんと同じだけ生きたいさ。

 でもその言葉は言ってはいけないのは分かっている。

 それに彼は僕の残り時間を言うのが辛いのだろう。

 そうだな、やっと軌道に乗ってきた学園の経営が安定するにはあと三年。

 丁度『十鬼乃坂学園』が創立十周年を迎えるその年までは……。


「あと三年と言ったらどうかな?」


 僕は諦め半分におどけて言ってみた。

 その言葉に光善寺君は腕を組んで悩みこむ。


「う~ん、正直な所、今君がこうして生きてるのが奇跡みたいなものなんだよ? あと三年か……、ふむ。よし、その願い聞き届けよう! ……え~と、つきましては我が社の新薬の被験者となって頂く事になりますけどよろしいかな?」


「って最初からそれが目的かよ!」


 これはツッコミと言うらしい。

 光善寺君のボケに僕がこんなツッコミを入れるこれが僕達の定番だ。

 でも最近、僕がツッコミを入れると、ちょっと気持ち悪い感じに笑うのには引いてしまうな。


「でも改めてお願いするよ。もう少しだけ僕の我侭に付き合って欲しい」


「他でもない、君の頼みだ。途中で死んだとしても死なせないよ。安心して欲しい」


「って、安心出来るかーー」


「ふっふ~」プルプル。


 僕のツッコミに目をうっとりさせてプルプルする光善寺君。

 う~ん、本当に大丈夫なのだろうか?



 ―――― さすがあの人・・・の血筋だ。はそう思いながら、またもや目まぐるしく移り行く風景を見ながらそう思った。

 最近はの意識からが離れる事が多くなってきた。

 刻一刻とその時が近付いてきているのだろう。



 あれから2年が過ぎた。

 光善寺君の会社の新薬による人体実験? は上手くいっているようだ。



「なによこれ!」


 ある日、ミトセさんが市から送られてきた書類に目を通した途端、素っ頓狂な声を上げた。


「どうしたんだい? 変な声を上げて」


「見てよこれ! この辺りの都市開発で『十鬼乃坂』って地名が物騒だからって言う住人達の苦情で名前を変えるって言うのよ!」


 ミトセさんから渡された、その市からの地域開発に関する報告書には、住人達から要請においてこの地域の名称を『十鬼乃坂ときのさか』から『刻乃坂ときのさか』に変更する旨が書かれていた。

 これはお伺いではなく決定事項であるらしい。

 その時期は奇しくも来年、そう丁度この学園が十周年を向かえる年に変更との事だ。

 元地主とは言え、既にこの学園の敷地より下の土地は売り払っている。

 それにそもそも地主だからと言って、地域名に関しての権利は持っていないらしいので仕方が無いな。


「う~ん、これはどうしようもないね。これは決定事項みたいだよ」


 十鬼ときとき……、ときか、僕は『とき』と言う言葉と縁が有るようだ。

 僕はいつの頃からか自分に残されたときを意識して過ごして来た。

 それに十人の鬼と十年の時、……ミトセさんは匹と言っていたが置いておこう。


 十人の鬼が住むこの土地で出会い、そして十年ぶりに再会して、十周年の年にときに変る。

 そして、僕の寿命も……。


「あなたはそれでいいの? 私達の思い出が詰まった土地の名前よ? あぁこんな事なら開発計画に乗って土地を売らなかったら良かったわ!」


 ミトセさんはプリプリと怒っている。

 気持ちは分かるんだけどね。


「この際、この学園の名前も変えちゃおうか? 丁度十周年だし」


「ええぇ~何を言い出すのよ! 私達の思い出の場所よ? それが変っちゃうのよ? あなたがこの名前にしようって言ったんじゃない。大切な宝物が無くなっちゃうのよ?」


 僕のこの発言に食って掛かってくるミトセさん。

 さすがにこれはいつもの様に『いい考えね』とは言ってくれないか。


「名前が変るのは寂しいけど、それでも僕は思うんだ。想いは変らないってね」


「想い……?」


 ミトセさんが首を傾げて聞き返してきた。

 出会った時同様の愛くるしいその仕草に僕の心は震える。


「あぁ、そうさ。見てご覧よ、この街の活気。僕達が出会った頃のように、いやもっと熱く、人々の生きると言う活気で溢れている。時代は変り続けるんだよ。それは素晴らしい事なんだと思う。でもね? 人々の想いは変らない。そりゃ時代と共に移ろうだろうけど本質は変らないんだよ。大切なのは古い事を守る事じゃない、移り変わる時代と共に想いを新しい世代に伝えて行く事なんだ」


 僕がそう言うと、ミトセさんはやれやれと言う顔でため息を付いた。

 僕の言わんとする事を分かってくれたようだ。


「分かりました。あなたが良いなら私はそれに従います。じゃあ来年十周年の式典は新生『刻乃坂学園』誕生を祝う豪華なものにしましょうね!」


 ハハッ、さすがミトセさんだ。

 その太陽のような笑顔が僕の本当の宝物なんだよ。



 ―――― ノイズ交じりの早送りは静かに止まり、そして運命の日がやって来た。



 あれから一年が過ぎた。

 その日は丁度、十周年の式典で、この学園の改名式が執り行われる事になっている。

 朝からバタバタと忙しく式典の最終準備に追われていた。

 ここ最近、さすがの光善寺君特製の薬も効果無くなって来た様で、たまに意識が遠くなる事が多くなってきた。

 でも、こっそり薬を飲んで誤魔化しているお陰で、運良くミトセさんにはバレていない。

 本当に三年間の時を僕にくれて、光前寺君には感謝の気持ちでいっぱいだ。

 こんな事ならもっと沢山お礼を言っとけば良かったよ。


 式典自体の進行は代表であるミトセさんが取り仕切ってくれた。

 いつもの素敵な笑顔で壇上に立っている。


 あぁ…壇上で演説するミトセさん……、出会った時と変らない……、太陽のように……まぶし……。


 僕は遠のく意識の中、僕の名前を呼ぶミトセさんの声を聞いた気がした。



 …………。

 …………。

 …………。



 誰かが呼ぶ声が聞こえる。

 僕は重い瞼をゆっくり開け周りを見渡す。


「あなた! 目が覚めたの?」


「おとーさま!」


「私の親友よ! 倒れてしまうとは情けない」


「「「「先生!」」」」


 瞼を開けたそこには愛する妻のミトセさんに娘のミコト、そして親友の光善寺君、そして保険医さんや他の先生方に僕の可愛いい生徒達。

 部屋に入りきらず外にも居る様で僕の名を必死に呼んでくれている。

 どうやらここは学園の保健室の様だ。

 あぁ、良かった、死ぬならこの愛する学園で死にたかったんだ。

 多分神様が少しの時間を僕に与えてくれたらしい。


「光善寺君、ありがとう。君の薬のお陰で僕はこの記念すべき日まで生きる事が出来たよ」


 あぁ、良かった、死ぬ前にこの親友にありがとうを言いたかったんだ。


「あ~、それなんだけど、君が飲んでた薬ってただのビタミン剤・・・・・だったんだよ」


「え? 何を言っているんだ? このお笑い芸人?」


 僕は彼のあまりの言葉に、今まで言わなかったお笑い芸人と言う言葉が口から出てしまった。


「丁度、君があと三年くれと言ってきたあの年にね、アメリカのある学者が偽薬による暗示的治癒効果についての論文を発表したんだ。それによると暗示によって自然治癒力が上がり患者が病気を克服するという事例があったそうだ。日本でも有るだろ? 『病は気から』とか『イタイイタイの飛んでけ』とかね。それを君に試したんだよ。ハハハ」


 なんと言う事だ、僕はすっかり騙されていたのか。

 でも怒る気には不思議とならないな。


「……本当にすまない。正直三年前に言った通り、君が生きている事は奇跡だったんだよ。どんな薬でも治す事は出来なかっただろう。だから君の生きる気力を少しでも持ってもらおうと……、……すまん」


 彼が僕にいつも『元気かい?』と聞いてきていたのも、僕がそう言う事によって生きる気力を持たせようと言う優しさだったんだろう。


「いや、こちらこそもう一度お礼を言うよ。本当にありがとう。ただそれだったらあと十年って言えばよかったかな? ハハハ」


「ハハハ、違いないな。ハハハ…ハハ、ぐッ、ヒック、ヒック。すまん! すまん!」


 泣き顔を見られるのが嫌だったのか、最後に謝って光善寺君はこの部屋から走って去ってしまった。


「御父様……、死んじゃうの? そんなのいや……」


「ミコト、ごめんね。今まで忙しくてあまり構ってあげれなかった」


 僕はすがり付いて泣いているミトセさんと同じくらい愛している娘の頭を撫でた。


「ううんそんなこと無いよ? 私は御父様の娘で良かったと思ってる。だってこんなにいっぱい御父様を慕ってくれている人達が居るんだもん」


 あぁ愛しいミコト、君が大きくなっていく姿を見れないのが心残りだ。


「先生!! まだ教えて頂きたい事が沢山有るんです! 生きて下さい!」


 今期の生徒会長である、郡津 郡衙こうづ ぐんがくんだ。

 彼は十周年の式典の為に、まだ副会長であった去年から色々と頑張ってくれていた。

 時には家に来て、夜遅くまであれやこれやと計画について話し合ったっけ。

 とても頼りになる自慢の生徒だ。


「ごめんね。僕はここまでの様だ。出来れば、残る学生生活。どうか生徒達皆を君の力で導いて行って欲しい。僕の分までよろしく頼むよ」


「くっ、くぅ……。はいっ! 分かりました! 任せて下さい。不肖、この郡津 郡衙! 学生生活だけと言わず、この命尽きるまで先生の意思を守り通す所存です!」


 ははっ、大袈裟だな。

 でも、そこが君のいい所なんだろうね。

 どこか息子の様に感じていた所は有ったんだよ。

 君がそう言ってくれるなら安心だ。


「頼んだよ。でも、無理はしないでね」


「はい! はい! うっ、うぐぐ……」


 周りを見渡すと、他にも僕の事を心配して泣いてくれている先生方や生徒達、それに式典に参加してくれたOB達。


 僕はなんと幸せ者なのだろうか。


「ありがとう皆。僕なんかの為に泣いてくれて。でも僕は皆の笑っている顔が好きなんだよ。お願いだ、泣かないでくれ、皆で笑ってくれないか?」


 僕がそう言うと、皆必死に涙を堪えて笑おうとしてくれた。

 涙を流しながら笑うその顔はとても奇妙では有ったけど、とても優しい気持ちにさせてくれる。


 あぁ、良かった、死ぬ前に皆の笑顔が見れて僕は本当に幸せ者だ。



「あの皆さん、少しだけ主人と二人切りにさせて貰えないでしょうか?」


 突然、ミトセさんが皆にそう言った。

 皆は名残惜しそうにしたが、決意を込めたミトセさんの迫力に押され渋々部屋から出て行った。


「ミトセさん、ごめんね。黙っていて」


 僕は目が真っ赤になりながらも気丈に振舞っているミトセさんに謝った。


「あのね、私が本当に気付いていないと思ってたの? あなたの嘘なんて昔からお見通しよ。どれだけ毎日あなたを見てきたと思ってるの? それにポケットから出てくる薬の袋を見て気付かない訳ないじゃないの。本当にあなたは詰めが甘いわね。フフフ」


 うっ、またも言われてしまった。

 そうだな、この人に嘘なんか通じる訳なかったんだ。

 それに薬の袋は盲点だった、本当に僕は詰めが甘いな。


「ごめんね。大切な式典を潰してしまって。あんなに皆で準備したのに」


「本当よ! 今回だけじゃないわ! あなたって最初の卒業式の時も号泣して式を壊しちゃったんだから。本当に……変らないんだから」


 怒りながらも、僕の顔に手を当てて撫でてくれる。

 とても暖かい。


「ごめんね。ミトセさん。君には迷惑ばかり掛けてしまっているね。本当にごめんよ」


 鉛のように重い手を何とか持ち上げミトセさんの手に当てる。

 暖かい筈のミトセさんの手から温もりが感じられなかった。

 もう、僕の身体は、温もりを感じる事さえ出来なくなっているのか。


「ううん、そんな事無い。あなたと一緒で私は幸せでした。あなたの隣であなたの夢のお手伝いをする事が私の生き甲斐だったの。それなのに……、お願い……また私を置いてかないで」


 気丈に振舞っていたミトセさんだが、とうとう堪えられなくなったのか、かすれた声で本音を零した。


「本当にごめんよ。もし学園を経営していく事が嫌になったら、いつでも光善寺君に売り付けて君はのんびり過ごしたら良い。彼なら君が一生楽しく過ごせる価格で買い取ってくれるだろう」


 これに関しては、既に光善寺君には相談してある。

 僕に何か有って、ミトセさんが学園経営で心を痛める様な事態になったら面倒を見て欲しいと言うお願いに、彼は快諾してくれていた。


「む~! あなた、私の性格を知ってる癖に。私は諦めが悪い女よ? そんな言い方されたら、尚更この学園を手放せられる訳ないじゃない! 見てなさい! あなたが羨むほどこの学園を大きくしてみせるんだから! ……だからずっと側に……」


 あぁ愛しいミトセさん、どうか泣かないで……。

 神様がくれた時間も残り少なくなって来たようだ。

 もう目が霞んでミトセさんの顔もハッキリ見えなくなって来た。


「じゃあ、一つお願いをして良いかな? 胸のポケットに入っている写真を取って貰えるかい?」


 僕がそう言うとミトセさんがもう自分で取る事も出来ないのかと、嗚咽を漏らしながら写真を取ってくれた。


「僕が大好きだったこの写真。僕は自分達が創立したこの学び舎に新しい徒を迎え入れそれを励ますこの写真が好きだ。願わくばこの意志をずっと継いで行って欲しい。お願いだよ……」


 僕は最後の力を振り絞ってミトセさんに微笑みかけた。

 ミトセさんは声を上げて泣きながら頷いてくれた。


「あぁ間違わないでね。大切なのは想いなんだ。それを忘れないで……」


 ミトセさんはこう見えて頑固な所があるからなぁ……。

 僕を信じて縁談を断り続けたりね……。


「私は、あなたが居たから間違わずに来れたのよ。あなたが居てくれたから……」


「泣かないで、最後に君の太陽のように眩しい笑顔を見せて欲しい」


 僕はもう見えなくなった目で彼女の方に顔を向けた。

 でも、もう僕の瞳は何も映さない。

 もう真っ暗で何も見えない。

 あぁ、最後に君の笑顔が見たかったな……。


「わ、ヒック、わかったわよ。ヒック、最後に飛びっきりの笑顔を見せてあげるんだから」


 そう言うとミトセさんの声がする方が明るくなった……気がした?

 いや、本当に真っ暗になって何も見えない筈の僕の視界が徐々に明るくなってくる。

 神様が最後の最後にもう一つだけ願いを叶えてくれたのか。


 見えなくなった筈の僕の瞳に、僕の本当に大切な宝物である太陽笑顔がはっきりと映った。


 本当に僕は幸せだ。

 最後にこの笑顔を見る事が出来て……。


美都勢ミトセさん……、あの木陰の……下で…、また、一緒……」


 また、一緒に夢の話を……。


 ここでの意識はの意識から弾き飛ばされた。


こういち・・・・さぁーーん!」


 な!?

 弾き飛ばされる最中、美都勢さんが俺の名前を呼んだのを聞いた気がした。


 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。



「ハッ!!」


 俺は目を開けた。

 ここは……? あぁ、俺の部屋のベッドの上だ。

 激しい動悸でまだ少し混乱している。

 なんだったんだあの夢は?

 まさか本当に創始者の旦那さんの記憶だったのか?

 そんな馬鹿な……。


「牧野くん大丈夫~。うなされてたわよ?」


 涼子さんが心配そうに俺に声を掛けて来た。


「ええ、大丈夫ですよって、えぇぇぇ! 何で俺の部屋に居るんですか!」


 思い出した!

 確か昨日の夜、涼子さんを含め漫画家さん達が俺の部屋で寝ようとしたもんだから、さすがにまずいと思って『涼子さんの部屋に行けーーー』って追い出したんだ!

 その時にちゃんと合鍵を回収したはずなのに!

 それなのに何で俺の部屋に居て、しかもベッドの周りでニヤニヤと俺を覗き込んでるんだ?


「なんか、桂の気持ちが分かった気がするぜ。泣きながらうなされる少年を見てたらなんか……」


 咲さん、顔を赤らめてモジモジするの止めて下さい。

 モジモジ動作な癖に胸がブルンブルンしててとってもエロ過ぎます。


「バァ゛~どっでも゛ずでぎだわ゛~。ダニ゛ーズJrぐら゛い゛の゛子がも゛だえ゛でる゛どごろ゛~」


 祥子さん、両鼻にティッシュ入れて喋るの止めて下さい。

 発言内容もグレーどころか完全にアウトパーフェクトダークですよ?


「先輩、離して下さい。まだ間に合います。既成事実のチャンスですよ!」


 ……。


 鈴さん怖ぇぇぇぇーーー!


 涼子さんが鈴さんを羽交い絞めして抑えてくれてるけど、なんか興奮して変な事を口走ってる!

 あと少し起きるのが遅かったらやばかった!


「フフフ、とってもいいもの見せてもろたわ。忍び込んだ甲斐が有ったわ」


 桂さんは舌をチロチロと蛇みたいに舌なめずりをして俺を見て来る。

 え? 今って言った?


「ど、どうやってです?」


 俺は恐る恐る聞く。

 合い鍵作られてたのだろうか?


「うちの漫画って探偵物なんよ。普段は浮気調査って展開が多いんやけど、たまに殺人事件とかの回があったりするんよ。だからそう言う系の知識とか色々と持ってたりしてね、この部屋に侵入するのは簡単やったで」



 な、な、な、


「犯罪だーーー!」


 俺は急いでスマホを探す。

 有った! 俺の思惑に気付いた皆がスマホを先に奪おうとしたけど間一髪俺の手の方が早かった。


 110番! 110番! ポリスメンに電話しなきゃ!


「落ち着くんだ光一! あたし達は何も君を取って食おうというわけでは」


 いや若干一名取って食おうとしてましたし、あなたも結構ギリギリでしたよ?


 110番をかけようとする俺と、俺から電話を奪おうとしている皆とのバトルは暫く続いたのだが、その最中色々とプニやムニュの応酬に会い、寝起きと言う事で色々と大変になりながら、もう通報するのは諦めようかなと思い始めた時に、突然スマホが鳴り出した。


 ピロロン、ピロロン


 あぁこれはSNSメッセージだな。

 急に鳴ったスマホの音に、ハトが豆鉄砲を食らったかの様に皆の動きが止まる。


 誰からだろう?

 そう思いながらSNSアプリを開いた。

 どうやら生徒会グループメッセージのようだ。

 何か有ったんだろうか?

 それともギャプ娘先輩? それとも乙女先輩かな? 昨日来てくれなかったしね。



「えっ? 何だこれ?」


 開いたメッセージを見て俺は、首を傾げる。

 表示されていたメッセージは乙女先輩からだった。

 でもその書かれていた内容は……。


◇――――――――――――――――――――


 橙子ちゃん:gf#(


――――――――――――――――――――◇


「本当に何なんだこれ?」


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