第45話 ドロってる裏事情

「そう言えば、何で学園長と知り合いなのに保護者申請のお願いしたのは校長だったんですか?」


 先程まで行われていたハグ合戦も、涼子さんのチョコ玉子エネルギーが切れた所為で、再び腹ペコモンスターに変態しだしたので、一時停戦して俺は急いで料理を再開したのだが、先程の話の中で少し気になった事を尋ねてみた。

 学園長は経営者側なんだからもっと簡単だったんじゃないのか?

 お姉さんはその問いに渋い顔をしている。


「そりゃあね、美都乃ちゃんに頼めば私が誰かの保護者として入学式に出席するのは申請書も要らない電話一発OKだったと思うんだけどね。その相手がコーくんとなると話が違うってくるの」


 どう言う事だろうか?

 何で俺だと話が違うんだろう。

 ……いや考えたらそりゃそうだよね。

 さっきの話では学園長とお姉さんは親父を巡っての元恋敵と言ってたじゃないか。


「要するにお姉さんが親父の息子の保護者とか言ったら、逆に許可が下りない可能性があったって事ですね?」


 親父を諦めて他の人と結婚したとか言ってたけど、学園長室で初めて会った時のあの顔は、お姉さんが親父を語る時と同じキラキラ顔だったし、その後の言動もギャプ娘先輩のお父さんの事を思うとあまり考えたくないのだけど、どう見ても諦めてる様には見えなかった。


「まぁそう言う事も有ったし、最近ずっと会ってなくて気まずい所も有ったんで美都乃ちゃんに頼むのは止めたのよ。まぁ今日聞いたら全部バレバレだったみたいだけどね」


 乙女先輩の話だと学園長自身は入学前から俺の存在を知っていたと言っていたから俺の保護者の動向には気にかけていただろう。

 親父が来るかと期待していたかもしれないしな。

 いや本当になんか複雑な心境になるからそこら辺の事情は。

 嫌だなぁ~親のそう言うドロってる裏事情。

 でも気まずいって何でだろうか?

 学生時代は濃い付き合いをしてたって言うのに。


「なんで最近会ってなかったんですか?」


 もしかしてあれか? 学生時代の黒歴史を封印してたって奴か?

 俺の問いにお姉さんはまさに気まずいと言った顔で腕を組んで顔をしかめた。


「う~ん、美都乃ちゃんも可哀想な所が有るのよ。折角光にぃ諦めて嫌々でも結婚した相手が、結婚後すぐに事故で亡くなられてね。電話で妊娠したって私に報告してきた次の日よ。子供が出来たのは嬉しかったみたいで、凄くはしゃいでいたわ。無理してるのか旦那さんとの仲が良いアピールしてたのが、逆にいたたまれなくてね」


 ……。


「え? 今なんて?」


 ギャプ娘先輩のお父さんてギャプ娘先輩が生まれる前に亡くなっていた?

 言われてみると今までギャプ娘先輩からは父親と言う存在が希薄だった。

 あそこまで男性に対する耐性が無いのも考えたらおかしい話だ。

 父親が居れば普通嫌でも少しは耐性が付くだろう。

 そう言えば親父が憧れだったと言いながら、俺に親父の話を聞こうともせず、どちらかと言うと流されていた様に思う。

 自分には居ない父親と言う存在を俺を通して感じるのが嫌だったからだろうか?

 それに他の生徒会の皆も、あれだけ学園で有名人だった人の息子なんだからもっと親父の話を聞いて来ないのはおかしい話だったんだ。

 なんとなく、私生活を聞いて幻滅したくないから、聞いてこないのかと思っていた。

 若しくは、親父に劣等感を抱いる俺に気を使っていたのかとも思ったが、そうではなくギャプ娘先輩に対して気を使っていたと言う訳か。

 それなのに何も知らなかったとは言え、ギャプ娘先輩の前で親父への劣等感に不貞腐れて愚痴をぶちまけていたのに気付き愕然とする。


「詳しくはさすがに不憫で聞けなかったんだけど、旦那さんが海外出張中に交通事故にあったらしいわ。流石に実家から強制された結婚相手だと言っても、一度は添い遂げると誓った相手なんだから、落ち込みようは傍から見てもお腹の子供が大丈夫かと思うほど酷かったのよ。学校も辞めちゃったしね」


 そりゃあそうだ。

 最初は望まぬ結婚だとしてもあの学園長が納得しないまま結婚するとは思えない。

 お姉さんに対しても、仲が良いアピールをしていたと言う事は、真相は分からないけど自分の中で折り合いをつけたんだろう。

 それなのに、お腹に子供が居てこれから家族として幸せになろうと言う時期の突然の別れ。

 悲しくない筈が無いだろう。



「まぁそれでも美都乃ちゃんだからね。娘さんが生まれた時に会いに行ったら、元気いっぱいに娘には絶対こんな思いをさせないとか息巻いていたわ。とは言っても、普段と違ってカラ元気のやせ我慢なのは明らかだったんで、痛々しくてだんだん会い辛くなって……。その後光にぃが帰ってきたし余計にね。だから今日まで会ってなかったのよ」


「……そうだったんですか」


 あのフランクな学園長にそんな過去が有ったのか。

 その態度もそうだけど、自分の事をわざわざ普通に"お母さん"と呼ばせているのは彼女なりの実家への意趣返しなのかもしれないな。


「なのに光にぃったら、美都乃ちゃんの旦那さんが死んだってのを知って、すぐ慰めに行こうとか言い出してね。あの状態の彼女を今光にぃが慰めに行くと言う事が何を意味してるか分かってるの? って美貴さんと説得したのよ。そこは光にぃのダメな所なのよね。下手したら美都乃ちゃんの心が壊れてしまってたかもしれないし、光にぃと再婚しようと形振り構わずな手段を取る事も考えられたしね」


 親父……、気持ちは分からなくは無いけどそれが拙いのは俺でも分かるぞ。

 やっぱりどこかプライベートでは抜けてるんだよな。

 それに、もし再婚を迫られたら幾ら母さんと言う心に決めた人が居たとしても、元ライバルで苦楽を共にした相棒でもあった学園長の涙に抗えていられたとは思えない。

 まず俺なら無理だと思う。


「でも本当久し振りに会ったけど、もう昔の事は引き摺ってないみたいだったわ。まぁ性格は最後に会った時のハイテンションなままだったけどね。それに何なんだか分からないけど、今夢が有るのって凄く燃えてたのよ」


 また夢か…、今日の学園長を見ても俺が関係してるのは間違いないだろう。

 理事長と俺の対決を聞いて理事長が俺に味方したと学園長は言っていた。

 少なくとも学園長にはそう言う風に聞こえていたんだろう。

 となると、理事長の力も借りて何かをしたいと言う事か。


 ……そうかアレだ! 自分が親父と一緒でも果たせなかったあの説得を今度こそ成功させて一泡吹かせようとしてるのか。

 そう言う事なら結果的に創始者を助ける事になるし、ギャプ娘先輩や乙女先輩の願いでも有るし、学園長の夢を叶える為に俺も一生懸命頑張ろう!

 今度会ったら夢を叶えるの手伝いますって言ってみようかな?


 ぐぅぅぅぅぎゅるるるぅぅぅぅぅ~。


「わぁ~涼子さんすみません! 直ぐ作ります」


 だから心の中のハムスターを目覚めさせないでください。

 その膨らんでるほっぺは拗ねてるからですか?

 それとも頬袋ですか?


 俺は急いで料理を再開した。

 え~と玉ねぎは切っていたよな。

 あとは……。


「涼子さんにお姉さん。ピーマン食べれないって事はないですよね?」


 涼子さんはちゃんと会話出来るだろうか?

 ピーマン嫌いな人ってのも結構居るから聞いておかないと。


「コーくん? こんな立派な大人の私に対してそれは失礼よ?」


 ん~~? 立派かなぁ? まぁ立派な……かなぁ?


「そうだよね。ごめんごめん」


 取りあえず色々と言葉が溢れそうになったので適当に謝罪しておいた。

 涼子さんはと言うと……、あぁOKみたいだな。

 片手上げて指で○してる。

 そちらの手はまだ獣化してませんでしたか。


 ピーマンもみじん切りにして玉ねぎと一緒にザルに入れてボールに張った水に晒しておく。

 次は赤ウインナーを、3人だからいつもの4本位で良いかな?

 あまり多いと食感悪くなるし腹ペコモンスターズと言えども……いや10本にしておこうか。

 5mm位に輪切りにして纏めておく。

 一本だけタコ型ウィンナーを作るのを忘れない。

 と言う事で念の為、玉ねぎ半分とピーマン一個も追加してザルに入れておいた。

 今の内に水分少なめに炊いたご飯に溶き玉子と少しオリーブオイルを入れて掻き混ぜておくか。

 これからはケチャップライス完成までノンストップだからね。


 水に晒していた野菜をザルごとボールから取り出し、水切りをしっかりと行い取りあえず水分飛ばす為に油ひかないで素のまま軽く炒める。

 水が切れてないままだとケチャップライスがベチャッてなるし、それに油が弾けちゃって手とかに当たると熱いからね。

 昔弾けた雫が瞼に当たって背筋が凍った事が有ったよ。

 もう少し下だったら目に入ってた。


 これ位かな?

 水分が飛んだらオリーブオイルを薄く引いて輪切りにした赤ウィンナーとタコ型ウィンナーを投入して塩コショウをかけて暫く炒める。

 タコ型ウィンナーがいい感じに足が開いてきたら形が崩れない内に回収しておこう。

 そこでケチャップ投入!

 作るライスの量を想定してドバーっと入れる。

 そして砂糖を入れてあと醤油も少々。

 そして又もや水分が飛ぶまで炒める。

 ここで焦げたら台無しなんだよなぁ~、焦がさないように気を付けないと。

 いい感じに水分が飛んでケチャップがドロって来たらご飯を投入してケチャップと具が均等に絡むように炒める。


 う~ん、いつもよりご飯が一合以上多いので少しケチャップ足りなかったか。

 人数は一緒なんだけど親父も母さんもそんなに食べないからいつもと勝手が違うな~。

 腹ペコモンスターズの料理を作り始めてもう2週間近くになるんだけど、よく考えたら煮込み以外の俺料理って初めてだったっけ?

 昔の慣れの所為で分量のズレに結構戸惑うな。


 どうしよう? 少し足して、もうちょっと炒めるか?

 玉子絡めてるからもうパラパラなんで大丈夫……、とは思う物の念の為、隣のコンロでケチャップだけを炒めて水分飛ばしてからにしようか。


 ……。

 ま、まぁ水分飛ばすのに気を取られて少しケチャップライスが焦げたけど概ね良い感じだ。

 コゲと言っても黒炭な訳じゃないし底の方が少しだけだしね。


 綺麗な部分を皿に盛って……、ほらオムライスの土台になるケチャップライスの完成だ!

 フライパンは玉子焼くのに使うから、このおこげは取りあえずこの容器に入れておくか。

 焦げ付かない処理のフライパンだからこう言う時は楽で良いよね。


 よし! 時間との勝負だから3つの卵焼き用に器三つを用意してとき玉子を作っておこう。

 玉子はこのケチャップライス一盛りの大きさなら3ついっちゃおうか。

 それぞれの器に玉子を割って塩と砂糖入れて良く混ぜる。

 トロトロデロンな俺のオムライスはここにオリーブオイルを入れて更に泡立てる!

 シャカシャカシャカシャーー

 うん良い感じだ。

 さてフライパンを熱しておいてと。

 シュレッドチーズを冷凍庫から取り出しておこう。


 そう思い冷蔵庫に向かおうと振り向くと台所の中央に設置してある先程皿を並べてた机の傍に立って口をモグモグさせている腹ペコモンスターと目が合った。

 え?さっきまでちゃぶ台に突っ伏していましたよね。

 もしかしてつまみ食いでケチャップライス食べちゃってるとか?


「何してるんですか涼子さん!!」


 俺が声を上げると腹ペコモンスターはビクッと小動物みたいに体をすくませた。

 その様を見ると涼子さんの中の獣とはやはりハムスターかもしれない。

 怒られて涙目になっている腹ペコモンスターの手元を見ると先程おこげを入れておいた器としゃもじを持っていた。

 あぁケチャップライスに手を付けるほど理性が無くなったりはしないんですね。

 安心しましたよ。


「大声上げてごめんなさい。食べたいのなら言ってくれればちゃんと取り分けましたのに」


 そう言って食べやすいようにレンゲを渡してあげたら、腹ペコモンスターは二パ~ととても嬉しそうに笑って食べ出した。

 大分馴れてくれたよな。

 最初の出会った時は何言っても死んだような目で片言しか返さなかったけどちゃんと笑顔を返してくれるようになってる。



「ありがと~牧野くん。これでもう少し待てるわ」


 良かった何とか回復してくれた。


「じゃあもうすぐなんで待っててくださいね」


 俺は冷凍庫からシュレッドチーズを取り出して熱しているフライパンに向かう。

 本当にここからは時間との勝負で少しでもタイミングを間違うとトロトロデロンになってくれず、ただのケチャップライスオムレツ乗せにしかならないので注意が必要だ。


「さぁ~いくぞ~」


 まずフライパンにオリーブオイルを1mm程タプタプになるように入れる。

 オリーブオイルが熱せられた良い匂いが鼻をくすぐる。

 オリーブオイルの熱せられた匂い大好きだわ。

 と言うか基本オリーブオイルが好きなんだ。

 昔母さんが作ってくれたパスタにトポトポとかけて食べたら『こーちゃん! お母さんが作った料理ってそんなにオリーブオイルかけないと食べられないの?』って泣かれたっけ。

 それから直接かけるのは自重してるけどやっぱりいい匂いだよなぁ~ゴクリ。

 菜ばしに卵をちょこんと付けてフライパンに落とす。

 じゅわ~

 落とされた玉子は直ぐに熱により小さな音を立てて固まる。

 全ての準備は整った! さぁ戦闘開始だ!


 俺は菜ばしで掻き混ぜながらフライパンに卵を流し込む。

 じゅわじゅわと言う心地よいリズムと共に玉子が焼かれる匂いが辺りに漂ってくる。

 そして俺は間髪入れずにシュレッドチーズを一つまみ全体に散らばるようにフライパンに広がっている玉子に落とした。

 片手でフライパンを持ち、固まり始めた玉子の周囲を菜ばしで整えて油で滑る玉子をフライパンを振り中身がトロトロのままのオムレツを作り上げる。


 よし今だ!

 俺は素早く玉子のヴェールを今かと今かと待ち構えてるケチャップライスの下まで走り、お望み通りに今はまだオムレツとしか表現出来ない玉子の塊をドシンと乗せた。

 取りあえず一個目は俺の分だな。

 オリーブオイルをひたひたのまま入れるからケチャップライスの上にそのままかかるんだよね。

 折角パラパラになったケチャップライスがオリーブオイルでぺっちゃりするので他の人にはおススメ出来ない。

 俺は大好きだけどな!

 さ~て出来はと、ナイフでス~っと切れ目を入れ左右を開く。

 トロトロ~と中から玉子か流れ出し、固まっている表面がその勢いに負けてデロンと捲れケチャップライスを覆い隠す。

 完成だ!

 これぞトロトロデロンの真骨頂!

 シュレッドチーズも上手い具合に溶けていい感じだ!


 さて残り二人の分を作るか。

 まず涼子さんの分だな。

 一応オムレツを乗せる際にキッチンペーパーで油を吸ってから乗せてケチャップライスに油があまり掛からないように気を付けた。


「さぁ涼子さん出来ましたよ~。このナイフでオムレツを裂いてください。その後は左右に開くとデロンとなります」


 その言葉に涼子さんは飛んできた。


「おお~これよこれ!」


 涼子さんは嬉しそうにナイフを手にとって玉子を裂く。


「さっきから出てくるトロトロデロンて言葉はなんなの?」


 お姉さんがトロトロデロンの意味を知りたくて台所までやって来た。

 丁度涼子さんが開き終わり中から溢れる玉子の圧力で玉子がめくれケチャップライスを覆い隠していく。

 その様に涼子さんは嬉しそうだ。


「あぁこれの事かぁ~。へぇ~これそう言うんだ」


 お姉さんが感心したようにそう言うのだが。


「「いや多分違うと思う」」


 俺と涼子さんは綺麗にハモッてそう言った。

 正式名称知らないんだよね。

 この様子だと涼子さんも知らないんだろう。


「え~そうなの? 二人して分かってるようだったからてっきりそれが正式名称だと思ったわ」


 テレビでやってたのを見よう見まねでやり始めただけなのでこれの作り方が本当にこれで正しいのかさえも分からないんだよね。

 でもちゃんと目的の物は作れてるんからこれはこれで正しいはずだよね。


「じゃ~お姉さんのも直ぐに作りますから待っててください」


「は~い、私もそれやってみたいから呼んでね~」


 そうそうタコ型ウィンナーは後のお楽しみ。




「へぇ~実際にやってみると面白いわねこれ」


「それに凄く美味しいわ~」


 お姉さんも涼子さんも俺のオムライスを絶賛してくれた。

 ちなみにオムライス恒例のケッチャップ描くアートに関しては涼子さんに色々と書いて貰った。

 さすが漫画家、上手い事書くな~。


「あっ何これ? 凄い! たこさんウィンナーが入ってる!」


 そう実はどれか一つだけタコ型ウィンナーを入れておいたんだよね。

 目を瞑ってシャッフルしたから俺でもどれか分からない。

 その幸運を引き当てたのは涼子さんだった。


「それ当たりですよ。実は一つだけ入れて置いたんです」


「やった~」


「えぇ~ずるい~ママには無いの~?」


 ママじゃないですけどね。


「どれに入ってるのか目を瞑って自分でも分からないようにしたので完全な運ですよ」

 お姉さんは残念そうだ。


「で、牧野くん景品は何?」


 え? この困った大人は何を言ってるのかな?


「いや当たってラッキーってことですよ?」


「Boo! Boo! 当たりと言ったら景品よ~。これは世界じゃ常識よ?」


 そんな世界は捨ててください。

 当てさせてはいけない人に当てさせたのか?

 いやお姉さんなら『ママと呼ばす権利』を強要してきたな。


 口を尖らせてブーブー言っている涼子さん、その横で羨ましそうな顔をしているお姉さん。

 あぁなぜ黄檗さんは今日居ないのでしょう?


「あえて景品と言うならそのタコ型ウィンナーかな?」


「えぇ~? じゃあせめて明日の献立の指名権を頂戴!」


 いやこちらがえぇ~?だよ。

 もう買っちゃってるし。

 まぁでも他に変な事要求されるくらいならこれくらい仕方が無いか。

 材料は冷凍させとけば良いしね。


「まぁ良いでしょう、何が食べたいんです?」


「やった~」


「コーくんも甘いわねぇ~」


 お姉さんはそう言うけど、恐らく涼子さんが言ってくる要求の中でも一番マシな奴だからこれ。

 だけどあまり高級食材は嫌だなぁ~。


「え~とねぇ! 明日はハンバーグが食べたい!」


 涼子さんは凄くいい笑顔でそう言った。

 子供か!

 あまりの天真爛漫なその笑顔に思わず心で突っ込んだ。

 しかし、それを選択するとは。

 実は俺が買い込んでいた明日の食材は、ズバリその通りハンバーグ用の合い挽きミンチだった。


「分かりました。じゃあそのままが良いですか? それともゆで卵を中に入れるスコッチエッグ風が良いですか?」


 俺のハンバーグって基本中に何かを入れるんだ。

 その中でもゆで卵を入れるスコッチエッグが好きなんだよね。

 ふうなのは揚げないから。


「ほほ~スコッチエッグとはやりますな~。先程のトロトロデロンと良い、そこまであたしの好みを熟知しているとは恐れ入りました~」


 さっきの町人Aと良い、その喋り方何時代の人だよ。

 まぁ喜んでくれて良かった良かった。


「あっ、あくまでですからね? どんなのかと言うと……」


「大丈夫! 中にゆで卵が入ってるなら、あたしは大満足よ! 出来上がりを楽しみにしてるわ~」

 


「コーくん学園生活や生徒会のこと色々聞かせてよ。今日は早く帰ってDVD見かったんで、あまり美都乃ちゃんから聞けなかったし。こんな短期の指名制や朝の演説見るとそれなりに伝説作り出してるんじゃないの?」


 う~ん親父じゃないんだから伝説なんて事は無いと思うけど……。

 まぁお姉さんにはポックル先輩が遊びに来た日から暫く来ていなかったし、報告がてら今日までの事を話してみようか。

 お姉さんも生徒会写真の中央に写るレベルの伝説のOGなんだしね。

 今後の助言やもしかすると創始者の問題も第三者の目線で色々聞けるかもしれない。



「え~とどこから話すかな。まずですね~……」


 俺は始業式初日からの色々と大変な出来事をお姉さんに語り出した。

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