6-3顛末①
「はい。それではご説明いたします。事の起こりは二ヶ月程前の五月二十九日に
香子の睨みに
「祖父が遺した土地のうちこの山を相続することになった私は、今朝みなさんをお迎えに上がったあの車を兄に運転してもらってこの山を見て回ったんです。その時にこの洞窟を見つけたのは一週間にお伝えした通りです」
あぁ、そうだったな。それで中に入ってみたら壁があったって話だったよな。
「しかし、お伝えしたことには事実と違うところがありまして。まず、最初に見つけたのは今日入ったあの入り口側と聞こえるようにお伝えした点です。本当に最初に見つけたのはこちら側、つまり出口側だったんです」
お、おいおい……。それじゃ随分話が違うじゃねぇか。洞窟のドアを抜けた先に何があるかわからない、公にできない隠し財産があったら困る、とか言ってたよな。ドアを抜けた先にこの広場があることがわかってたのかよ。
「さらにもう一点。これはみなさんを怒らせてしまうことになるかもしれないんですが、発見当時この洞窟にはこのような金属製のドアはおろか、照明すらありませんでした」
「えぇっ⁉︎」
ドアを抜けた先どころか、ドアすらなかっただって……? 今回の事案を根底からひっくり返すような発言に驚愕する。なんだか狭山さんには驚かされっぱなしだな。この人と関わっていると寿命が縮まりそうだ。
「じ、じゃあつまり、この仕掛けは狭山さんが……?」
絶句している香子、銀、歩美に代わり、俺が尋ねる。
「はい。私が計画し、兄が資金を出して設置しました」
「ということは、宗介氏の隠し部屋なんてものが、存在しないことを知っていたのか?」
ようやく声を取り戻した銀が核心に触れる。
「はい。わかっていました。自然にできた洞窟を私たちが鉄扉で塞いだのですから」
心なしか狭山さんの目が暗黒を浮かべたような感情の無い色をして見えて、背筋がゾッとした。
そ、そんな……。
「一体なんのためにそんなことをしたっていうの?」
まったく香子の言う通りだ。一体なんのために。友人であるはずの歩美にまで真実を告げずに騙していたのはなぜなんだ。
「実は私たちがこの山を探索した五月二十九日は満月でして、夜にはこの場所で、今日と同じくらい大きな月と星が、よく見えたのです。そこで私は思いました。ここをアトラクション施設にできないかと。最近
狭山さんは拳を握って熱弁している。先ほど暗黒を浮かべたような目をして見えたのが嘘のように、活の入った目をしている。経営学科の学生としてなのか、狭山家の者としてなのかはわからないが、彼女なりに血が騒いだのだろうか。
「ま、それで、麗華が初めてのくせに自信満々で事業提案をしてきて、しかも聞いてみるとなかなか面白そうだったから、僕がちょっと資金援助をしたってわけ」
宗麟さんは「ちょっと」なんて言っちゃいるが、おそらく数千万とかいう額が動いたのだろう……。金持ちの言う「ちょっと資金援助」なんて、絶対ちょっとじゃない。あの広い洞窟に照明を張り巡らせ、分厚い金属の壁とドア、ロックのシステムなどなど、もろもろ合わせたら目玉の飛び出るような額だろう。狭山家おそるべしだな。
「兄の援助のおかげでなんとか完成までこぎつけたので、最初のプレイヤーをご招待することにしました。そのプレイヤーには、大学で最初の友達になってくれた歩美とそのお仲間がいいと思っていたので、みなさんに来ていただきました」
ははっ……。俺たちはテストプレイヤーだったってことかよ……。
だがしかし、ようやく得心がいった。
なぜ狭山さんが第一のドアのところに残ると言ってくれたか、が。狭山さんは宗介氏の隠し部屋なんかないのを知っていたから、俺たちだけで進ませることに抵抗がなかったんだな。むしろプレイヤーの中に答えを知ってる主催者が混ざってちゃ、具合が悪いからな。願ったり叶ったりってところだったんだな。
「みなさんをご招待するにあたって、最後の問題は実際に運営する時のものとは違うものを特別にご用意しました。歩美に最近の学生相談所のことを聞いて、将棋が流行っていると聞いたので詰将棋の問題を出題したんですよ」
なるほど……。俺たちが奇跡の巡り合わせだと思っていたあの問題は、狭山さんの差し金で奇跡でもなんでもなかったってことか。
「ちなみに、あの詰将棋の問題は
はぁ、宗麟さんも余計なことをしてくれる……。宗麟さんはニッコニコしているが、俺たちはあれで一時間半近く悩まされたんだぞ……。
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