5-6無情
香子がドアを開けるとその隙間からむっとするような熱気が流れ込んできた。香子はドアを開ける手を途中で止めてしまった。
「うっ……、あっついわね。でもどうやらこの先は外みたいよ」
外はこんなに暑いのか。思ってた以上だ。感覚が麻痺していてよくわからなかったが、ここは外に比べると大分涼しいんだな。
「覚悟はいいわね……!」
「覚悟も何も、そのビミョーな隙間から熱気が流れ込んできてるんだから、もういっそ開けちまえよ……」
「土橋の言う通りだ。一思いにやってくれ」
「ふふっ、そうね。じゃあ、今度こそ」
そう言って香子は、身体を使ってドアを一気に全開にした。
そこから見える景色は、俺たちがついに外に出ることに成功したことを教えてくれた。太陽との再会を心の底でちょっとだけ楽しみにしていたが、どうやらすでに沈んでしまったようだ。
ドアを抜け、大きく伸びをして深呼吸をする。久しぶりの外の空気はうまいな。
今朝登ってきた道を含め、山の中は木々が鬱蒼と生い茂っていたが、この出口の周辺だけは木々が生えておらず、ちょっとした広場のようになっている。ふと上を見上げてみると、東京とは思えない星空が広がっていた。大きな月が
「綺麗だ……」
思わず口をついて出てしまったのは、小学生の感想みたいな呟きだった。
「ふふっ、月並みな感想ね」
「星空の感想なら月並みでもいいんじゃないか?」
茶化す香子とうまいことを言う銀。この二人も外に出られた安心感でいつも通りの調子に戻ったようだ。
「歩美や狭山さんにも見せてやりたいな。この満天の――」
ジーッ、ガチッ。
え……? 今の音はまさか……!
俺たちは一瞬顔を見合わせ、同時に振り返る。そこにあったのは、無情にもぴったりと閉まったドアがあった。
「あぁっ⁉︎」
俺は思わず絶叫した。
「ど、ドアが……!」
「桂介、なんでドアをおさえててくれなかったのよ!」
俺のせいかよ! ……いや、今は喧嘩してる場合じゃない。
俺はわずかな可能性にかけ、ドアに飛びつき引っ張る。しかし、やはり開かない。
「お、おいおい。どうすんだこれ。歩美も狭山さんもまだ中に……」
「入り口に戻りましょう」
そう言って駆け出そうとする香子の腕を銀が掴んで制止した。
「落ち着け、風岡。その入り口はどこにあるんだ」
「……そうね」
銀の言う通りだった。単純な距離の問題もそうだが、内部は上ったり下ったり曲がったりと、一本道ながらかなり難解な構造をしていた。入り口の場所なんてもうわからなくなっている。夜の山道を当てもなく駆け回ったところで、遭難するのがオチだ。
どうすればいいんだ。二人は閉じ込められたままだ。俺たちは三人で脱出してしまった。脱出することが目標となっていたのに、脱出してしまったせいで逆に
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